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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第60話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「今日はもう行くのやめておこう」


 ねーちゃんに怒られ心配され小一時間、正座店長が気を失った流れで帰って来られた。今日の予定はドラム缶と西側の一斗缶を狩る予定だったけど、正直そんなことする元氣はもう無い。


「しばらく間を置くとしよう」


 ドラム缶は枯れて来てるから間を置いた方が良いのもあるので、そっちは良いとして、西側は偶に狩っておかないとトイレなど急ぎの移動中に化物と遭遇する可能性があるのが問題である。問題はあるが、先にやっておきたいことがあるので明日はそっちを優先したい。


「深部攻略、やるか」


  缶詰めの蓄えは十分なので、そろそろ別のドロップを増やしておきたい。


 異界や化物の調査が進み色々わかって来たことで最近ドロップ品に注目が集まっているらしい。外のロボット化物なんかは未知の部品も多く、同じ化物だから頑張れば自分でも何か作れないかと最近集めているのだ。


 そんなわけで今はコレクション用のコンテナのほかに、貰って来た段ボール箱に弄っていい用のドロップを纏めて入れている。ただまだ骨と割れメタルくらいしか集まってないので、ちょっとこれで何か作れる気はしないんだけどね。





「目印発見」


 しっかり疲れをとって朝からコーヒーを飲んで気力も万全。


 途中で自分のゲロ跡を見て若干テンションは下がったけど問題はない。事前に石で作った目印の隣に自転車を停めて周囲を窺うが、やはりこの辺りが化物の変化境界なのか静かなものである。


「ここからは歩きだな」


 持って行く物はフライパンくらいでいいだろう。何が出るか分からないので竿はいらない。なるべく身軽に動ける方が良いだろうから、腰のバックにもあまり石は入れない方が良いだろうか。


 最近は体の調子も良くなって、健康だった就職前の筋力も戻ってきた気がする。だが無理は厳禁、安全第一に逃げやすく、胸のボディーアーマーのベルトを少し締め直す。こうするとなんだか気合が入る気がするのだ。


「特に変わった様子は無いな」


 ゆっくりなるべく静かに進むが特に変わらずこれまでと同じ土の床に薄暗く広い地下道、化物によっては周囲を汚染するような種類もいるらしいので、そう言った気配が無いのは助かる。


 正直、所かまわず臭い汁を撒き散らす強化型シュール缶なんかも想像していたので、それに比べたらいい兆候なのではないだろうか。


「一斗缶、シュールバッタと来てるからやっぱ強化型なのか、ドラム缶もあり得るな」


 ドラム缶だった場合は即方向転換してダッシュだ。奴の足音は覚えているので聞こえたらすぐ動ける。似たような足音でも構わず逃げよう、焦っても良い事はないからな……やっぱり焦っているのかな。


 いや、今の世の中で焦ってない人間なんてよほど裕福な奴かよほど楽観的な人間くらいだろう。


「ん?」


 足音がする。人の足音でもないしドラム缶みたいに地響きがする音じゃない、そのくせ隠す気のない無軽快な足音だ。間違いなく化物だな。


 こちらにまっすぐ近付いて来るって事は、たぶん俺の存在に気が付いてるって事だろう。もしかしたら知覚範囲が広いタイプだろうか、音の感じからしてもうすぐ見えて来ると思うんだけど。


「ちょっと大きな……なんかヤヴァイ気がする!? 交換!!」


 早すぎたかもしれないけど、あれは何か良くない化物な気がする。


 交換したのとほぼ同じタイミングで跳び上がってきた何か、薄っすらシルエットが見える程度での交換だったけど、このタイミングで飛び上がるって事はこれまでのジュース缶シリーズ違う行動パターンだ。


 そう、シルエットから分かる新たな化物は、飲み物を入れた缶のような化物でジュース缶などと呼ばれている化物。現状の江戸川大地下道でもトップクラスに嫌がられているカミカゼアタッカー、そして俺に多大な借金を負わせた天敵である。


「GU!?」


 俺の目の前まで飛んできて手を振り上げる缶ジュースが違和感に奇声を上げる。手にライターが無いからだろう。


「せいやーー!!」


「――――!?」


 俺は左手の中にあるライターを強く握って引く様に体を捻り、右手に持ったフライパンを大きく振りかぶる。その動きは学生の頃一人寂しく壁打ちしていたテニスの動きと同じで、飛び掛かってくる化物を打ち下ろす手には気持ちが乗ったのか、思った以上に強い力が籠っている様だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……これは、だい? なま?……消えた」


 強く叩いたのに手首や腕にあまり衝撃はなかった。学校の授業で受けたテニスの練習では手首を痛めたものだけど、それ以上の音と衝撃だったが俺に何の怪我も負わせなかったようだ。


 それにしても、叩き落として地面で潰れた化物、アルミ缶だと思うけど裂けた体から溢れた液体と、体に巻き付けられていた筒に描かれていた文字。


「……灯油と、ダイナマイトか」


 塵となっていく体を凝視すれば、そこには「だいなまいと」の文字に冬の匂いとして覚えてしまった灯油の臭い。ガソリン程ではないが良い匂いとは思えない臭さと導火線に背中から嫌な汗が噴き出る。


「ドロップは、一リットルの灯油缶? ……ありがたいけど」


 塵の中から現れたドロップは小さな灯油の給油缶、円筒形の給油缶にはご丁寧に「灯油」と「1リットル」の文字、とても分かりやすくこういう所は優しい異変。


「導火線付きのダイナマイトを体に巻いて、爆発すると……缶は破裂」


 それに比べてさっきの化物の何と恐ろしい事か。


 500以上はありそうな容量のアルミ缶が体に巻いていたダイナマイト。あれが本当にダイナマイトで、実際に爆発するかは分からないが、意味のない文字など書かれているわけがない。どのくらいの爆発力があるかも分からないが、至近距離で爆発したら俺なんてひとたまりもないだろう。


 西の地下道に居るアルミ缶もあれだが、こっちは輪をかけて危険すぎる。流石は強化版と……まてよ? ジュース缶は二種同時に出てくる。


「と言う事は、アルミ缶だったから……スチール缶がいる?」


 アルミ缶でこのやばさだ、スチール缶はどうなって出て来るってんだ。


「攻略法はそんなに変わらない」


 焦ってもしょうがない。腹マイト缶も基本的には変わらずカミカゼアタックだからスチールもたぶんいっしょだろう。


「重要なのは、タイミングか」


 そう、タイミング。腹マイトの行動としてはぶつかる必要がないから早めのジャンプ、そこからすぐに着火して相手の目の前で爆発。たぶんだからこそ飛び上がるタイミングが早くて空中で焦って声を上げたのだろう。


 それにしても声を出したな、強い化物は発声器官でもあるんだろうか? ドラム缶も唸っていたし、でも一斗缶は声出さないからランクアップ理論で言うとランクが上がると叫ぶと言うことだろうか。


「見極めないと」


 色々知らないことを知る事が出来て世界が広がる様な気がしてきた。でもそこにある恐怖はあまり顔を出してこない。


 そこに必ずあるはずなんだけど、恐怖より知りたいという願望。知らない未知の世界が広がっているという事実に高まる鼓動。


 はぁ、やだな。父さんと母さんの事、もう馬鹿にできなくなるじゃないか……今なら少しは分かるかな。


「……音だ」


 足音、さっきとほとんど同じ足音だ。


「腹マイトか!」


 シルエットは覚えた! そしてやるべきことも分かる。


「先に交換!」


「!?」


 左手の小石がライターに変わり、フライパンを振り上げると空中で腹マイトが慌てだす。


「死ね!!」


 もう遅い!


「―――!?」


「や、よし……これで行けるな」


 やったかなんて言ったら怪我の元だ。俺は死亡フラグなんて立てないんだから、あれは大輔の担当だから。


 地面で拉げた腹マイトの塵の中からさっきと同じ円筒状の給油缶が姿を現す。


「灯油缶だ、確定で灯油缶か」


 灯油缶が通常ドロップと言う事で良いのだろうか、アルミキューブよりマシだが、一斗缶の先で出る物としてはどうなのだろうか、微妙な感じがする。まだ暑いから、これから涼しくなって寒くなって来たらストーブ需要が期待できるかな?


「!?」


 声が聞こえた。これはたぶん化物の声だ。足音も一緒に聞こえ始めたから見つかったんだと思う。やっぱりここのジュース缶は感知範囲が広い。


「地面に振動が伝わったかな……来た、別のやつ!」


 音が聞こえる方を見るがまだ何も見えない。


「とりあえず先に交換しないと」


 とりあえず交換、とりあえず交換、最悪に場合は逃げる。小石良し、フライパンよし、見えた。


「シルエットは大きめのジュース缶だけど、交換!」


「!?……!!」


 飛ばないで叫び始めた? やばいこれは、


「早め一斗缶と同じ挙動!?」


 地面で頭を擦りながら走って来た。大きさは500のビール缶! あの大きさでも中身がガソリンなら危ない。足が動かない? いや、相手の動きが速いだけだ。


「うおおおおおおおお!!?」


 叫ぶのは不味いかもしれないけど叫ばないと走れない。体の動きが悪いし相手が速いんじゃ考える暇なんてない。


 走れ走れ走れ走れ!! ……何の音だ。


「お?」


 さっきまで地面で頭を擦っていたジュース缶が空を飛んでいた。何が起きたか分からないけど薄暗い地下道の空を飛んでいる。空と言って良いのか分からないけど、飛んでるのだけは確かだ。


「なに? 吹っ飛んだ?……臭っ!?」


 油臭い! 臭いけど何だろう、ガソリンとか灯油と似てるけどそれとも何か違うような。


 うお!? 何か落ちてきた? あ、ジュース缶が地面に落ちた。ジュース缶が飛んだ場所に向かって何かが空から降って来ている。逃げる方向が向こうだったらこの良く分からないのを頭から浴びるとこだったな。


 ヘドロ? いやこれは見たことがある。


「これ重油だ」


 ニュースとかでよく船から洩れてる奴だ。実際に見たこともあるけど、黒いドロドロで油臭い重油、確か船の燃料とか言ってたな。


「え、もしかし重油が噴き出した勢いで飛んで行ったのか?」


 周囲を見渡せばあちこちから湧き上がる黒い塵、ジュース缶が死んだからだろうけど、結構な広範囲だし、500の缶から出て来たとは思えない量と範囲である。


「どういう圧力だよ」


 パンパンに詰まってたって事? それとも中身と見た目の容量が合わないタイプの化物なのだろうか。どっちにしても危なすぎる。


「うーん、交換したライターもなんかゴツイし、あぶねぇなここ」


 左手の中からも黒い塵が出て来ているけど、今までのライターより塵の量が多いし、握っていた時の感触がいつもより大きかった。ドラム缶のライターよりは小さいけど、何かトゲトゲしてる触感だ。


 周りから音はもう聞こえない。


「早めに抜けた方が良いか?」


 感知範囲も広いし、爆発物に空飛ぶ重油散布機、出来れば余り戦いたくない相手だけど、恩恵の相性は悪くない。あとは回数を熟して倒し方を修正して行くしかない。これが俺以外にも狩っている人が居たら押し付けるとこだけど……誰も狩りたくないか。


「もう少し狩ってから帰るか」


 自分で狩って安全な中央を確保するしかないな。なんせここは中央、中央にもかかわらず歩いてるだけで簡単に化物と遭遇するんだ、安全確保はこれまで以上に時間を掛けないといけない。


 はぁ、これでもう少しおいしかったら……そう言えば何をドロップしたんだろう。





「あー疲れた」


 結局昼すぎるまで狩り続けてしまった。


 もう大丈夫かなと思う度に足音が聴こえてきて、狩りの止め時が分からなくなってしまうなんて初めての経験である。それだけ腹マイトと重油缶の感知範囲が広いと言う事だろう。


「明日は休みにするかな」


 小休止はしていたが気が休まらないし、お昼ご飯まで抜いてしまった所為か休んでも疲れが抜けた気がしない、帰って来て椅子でダラダラしてたけど未だに食欲が沸かないのは流石に重症である。


 この状態は明日まで引きずりそうだから休むのは正解だろうな。


「灯油が4ℓに黒い石が9個、あと透明な小石」


 腹マイト5匹に重油缶9匹、匹で良いのか分からないけどとりあえずそれだけ倒した結果がこれだ。テーブルの上に石、石畳の床に灯油、灯油は使い道がないので売る。


「これなんだろう? とりあえずコレクションに入れておくか」


 念のためサステナブルマーケットで鑑定してもらうけど、一個しか出なかった透明な小石はとりあえず売らずにコレクション行き。あとは黒い石だが、俺の勘が正しければ十中八九あれ。


「明日の予定はこれだけだな」


 目を瞑ると体から力が抜けていく。


 体が睡眠を欲している。





「石炭だな」


 石炭だそうです。


 起きたら朝のアラームが鳴っていた。椅子から起き上がれば体中から聞こえる悲鳴、と言うか関節がバキバキと音を鳴らして大変だった。なんだったら朝風呂で体を湯に付けたいとまで思ったほどだ。


「やっぱりそうか……買い取れる?」


「わからん、ちょっと調べてみる」


 昨日狩った重油缶のドロップは石炭で間違いないけど、こんなもの売れるのだろうか? いや売れない。今時石炭なんて売れるわけがないだろう。黒いダイヤなんてのは昔の話だろうしな。


「あんまり高くないよな?」


「それもわからん」


「……え?」


 わからない? 買い取れるかどうかじゃなくて、価格が? 二束三文か普通に買取り拒否されると思っていたけどどういうこと? なんか随分と顔が険しいね店長。



 いかがでしたでしょうか?


 新しい化物は個性的、普通に危険極まりないがそのドロップの価値とは。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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