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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第58話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「うーん……教えない方が良かったか」


 管理事務所で新しい責任者の西野さんに色々教えた。教えたと言っても色っぽい事などあるわけがなく、東南北三つに分かれるルートがある事と、化物がさらに強くなる事、それと南北については一応ドラム缶について説明しておいた。


 説明しておいたのだが、説明を終える頃には西野さんは真っ白に燃え尽きてしまったのだ。ただでさえA級が大怪我する異界でドロップも美味しくなく、その奥に待っているのがドラム缶、正直あの凶悪さはそれまでの化物より一個二個上の脅威である。


「めっちゃ顔蒼くなってたな」


 そんな化物がこの先に居ますよなどと言われたら誰だって顔を蒼くするだろう。ホールと交換の合わせ技で何とか狩れているだけで、一歩間違えれば俺も死んでいる。説明終わりに精魂尽きても仕方なく、社員の女性が赤い顔で不審な目を向けて来たが、絶対あの目は謂れのない不信で出来ていた。


「一斗缶でも本部で問題視されてるのにドラム缶だもんなぁ」


 ちなみにホールについては話してない。あれは今の俺にとって最重要機密である。俺の考えが正しければ似たようなホールが他にもあるんじゃないかと思っているので、次の安全地帯まで到達出来たら説明しようと思う。


 東はまだ何とかなっているのでそっちの探索を早急に進めたい。北と南は開幕ドラム缶祭りが予想されるので、選択肢は東側しか用意されて無いのが作為的でむかつく。


「俺もあれを普通に倒すの無理だし。いや、行けなくは……無理だな」


 何度も頭の中でシミュレーションするが、どうやっても勝てる未来が思い浮かばない。交換タイミングが早すぎても死、上手くいってもあの足の速さじゃ追い付かれるし、ガソリンが燃えなくても、あれだけの量を浴びればそれだけでどうなることか。


「無理は良くない。今は出来る範囲で着実に前に進もう」


 考えれば考えるほど背筋が寒くなる。俺は安全第一が大好きなので石橋をしっかり叩いて進んで行こうと思う。出来るなら俺もドローンとか使って先を詳しく調べてから進みたいところだが、残念ながら我が軍は常に資金難である。


「ドラム缶そろそろ補充されてないかな」


 缶詰めと言う食料を手に入れる手段が増えた事で大きく改善される程度には程度が低い。更なる躍進にはやはりお金、円が必要となるだろう事は明らか、その為にも安全に狩れるドラム缶は無駄にできない。


 あれだな、ソシャゲのログポとかおはガチャみたいなもんだ。


「ガソリンを補充しておいて、それから探索進めるか」


 なので色々あった昨日を思い返すのはこれで終わり、時間は7時24分か、ちょっと早いけど昨日西野さんに貰った菓子を食べてドラム缶狩りに行くとするか。





「いっぱい狩ったからか少ないな」


 北と南合わせてドラム缶は二匹、ドロップは合わせてガソリン5本、あまり運は良くない様な気がしたけど、シュールバッタの缶詰ドロップは銀色のウナギ缶詰が1個出たので悪く無い様だ。


「これならもう一つ先まで行けそうだ」


 東に進むカーゴの中には、ガソリンが数本と数日贅沢できる分の缶詰が入っている。どうやら缶詰にはレアリティがあるのか、一番多い色が銅色の缶詰でイワシやサバ、ニシンなどでたまに銀色の缶詰でマグロや鯛、ウナギが出てくるようだ。予想ではさらに上の金色缶詰めもあるんじゃないかと俺は睨んでいる。


 まんまガチャ、割れメタルと言いバッタはガチャ枠の様だ。俺はとても嬉しい。


「次はなにが出るのか」


 ここまで狩り続けていたバッタが急に居なくなったようで、それは化物の種類が変化する予兆でもある。それが大江戸大地下道の特徴、こういう風に語るとなんだかベテラン感が合ってかっこいいかもしれない。


 でも慢心ダメゼッタイ。


「……そうだな、目印だけ付けておこう」


 自分を戒めると冷静になって良い案が浮かぶもので、目印をつけるために周囲を気にしながら石集めを始める。傍から見たら石ころで遊ぶ可哀そうな人にも見えそうだが、重要な目印、そのうちスプレー缶でしっかり目印を付けて回ってもいいかもしれない。


 今後俺以外の人も通るのだろうし、毒の沼の真ん中にある看板よりマシな活躍をしてくれるだろう。それも俺がもっと先に行った後の話だけどな。


 そんな未来のことを考えていたのが悪かったのか、欲張ったのが悪かったのか。


「くそしくった。最後の最後でコントロール間違うとは……」


 銀色の缶詰がもう少し欲しいと思って狩っていたら、シュールバッタのタックルを受け損ねて割と近い場所で爆発させてしまった。直撃と言うわけでは無いが、霧状になった汁を吸ってしまったらしく、シュールの汁の匂いしかせず全く鼻が利かなくなってしまった。


 あと吐きそうになったのをこらえた所為で喉が痛い。


「今日は風呂だな」


 俺も贅沢になったものだ。これがまだ匂いが消えているから良いものの、もし匂いがとれないタイプのシュールストレミングバッタを相手にして居ようものなら、今頃どこの銭湯も出禁食らって川か桶で水を浴びる事になっていただろう。


 考えただけで鬱になりそうだ。





「あー、やっぱ気持ちいわぁ」


 足が延ばせる広いお風呂、背中を程よく圧迫してくれるジャグジー、頭に載せたひんやり貸し出しタオル。この世の楽園はここにあったんだ。


 そう思わせる癒しがここにある。鼻から消えなかったあの異臭も銭湯の湯気の所為かすっかり消えて、先ほどまで体と頭を洗っていたのでシャンプーの香りしかしてこない。


「もう今日は帰って寝るか」


 風呂から上がればチャチャっと着替えて共用スペースの椅子に座る。今日はソファーじゃなくて涼しげな籐の椅子、お洒落に言うならラタンチェアだったか、実家に置いてあって両親のお気に入りの椅子で、実際風呂上りに座ると通気性も良くて心地よい。


 冬に座ると寒いので俺にとってもは夏限定の椅子と言う印象が強いが、この銭湯には十脚ほど並べられている。正直この椅子に座って体重を背凭れに預けているとそのまま寝てしまいそうで危うい。


「牛乳か……いや、トイレが近くなったら嫌だし止めとくか」


 眠気と戦うように顔を上げると飲み物の券売機が目に入るが、すでにスポドリを飲み干してしまったしこれ以上は過剰とも言える。フルーツ牛乳の券もあるがあれは好きじゃないから贈呈用、あとはもう帰るだけだな。


「異界内は快適だけど、問題はトイレなんだよな」


 トイレ、あとついでに風呂もあればかなり住み心地が良くなると思うんだが、どっちにしろ排水できなきゃ維持が大変すぎる。同じ系統の魔法でもアイテムボックス的な魔法ならそれも出来たかもしれないと思うと口惜しい。


 正直、アイテムボックス系の能力って割と当たりだと思うんだよね。交換? 交換も当たりだと思うけど、いや思いたいだけなのかもしれない。


「協会の併設トイレは綺麗だしいつでも使えるけど、我慢しながら自転車漕ぐのも大変だしなぁ? 何とかならんかな」


 当たりと言えば協会に併設してあるトイレは当たりである。良くもまぁ急ピッチで作ったであろう管理事務所の共用トイレが、あれだけ綺麗にできたものだと感心してしまう。きったない仮設トイレなのかと見に行けば普通のトイレ、ウォシュレットも付いてるし擬音装置も完備、トイレットペーパーも自動補充してくれるし定期的に清掃も入っているので清潔。


 女子トイレは見たこと無いが、男子トイレであれなのだからもっと広くて良いトイレなのではないだろうか、あの充実具合にはこだわりを感じる。


「万が一の為にも災害時用の簡易トイレを買うか?」


 それに比べて異界のホールは広いだけで水回りも無かった。あれでは水洗トイレなんて用意できないし、災害時の緊急用トイレに猫砂完備で置いておかないといけないだろう。トイレの管理と言うのは結構大変なのだ。異変の後、誰も掃除することのない会社のトイレを掃除して回るだけでも疲れを感じたのを思い出す。


「割と良い案か、ゴミはリサイクルタワーに捨てられるし」


 猫砂はありかもしれない。リサイクルタワーは大きな生き物じゃなければなんでも入れられるらしいし、生ゴミでも何でも入るのだから排泄物も問題ないだろう。


 しかしそのゴミを持ち運ぶことを考えると、ちょっとテンションが下がった。もしリサイクルタワーに入れているところを警備のお姉さんにでも見咎められたら、恥ずかしさで引き籠るかもしれない。


 俺は繊細なのだ。


「あらお兄ちゃん」


 声を掛けられたので顔を上げればおば、


「ああ無料チケットのお、お姉さん」


「……まぁ良いでしょう。それよりあの子探してたわよ?」


 危ない危ない、選択肢をミスってバッドエンドになるところだった。あと少し方向転換が遅かったらきっと首を捩じ切られていたのではと思うほどの殺気がおば、お姉さんから吹き付けてくる。


 ん? あの子? あまりの恐怖に何を言っているのか理解が遅れたが、あの子とは誰だ。


「あの子?」


「可愛い女の子よ、ナンパしてたでしょ? もうやったの?」


「ひでぇ下ネタかましてきたな、俺はまだ捕まりたくねぇ」


 まだ下ネタタイムには早い時間だぞババア、周りには小さな子もいるんだから口を慎め、あとそのモザイク必須な手印も止めろ、もし俺がそんな事を言っていたら、その瞬間逮捕されて社会的に殺されているところだぞまったく。


「冗談よー! でも探してたのはほんとよ?」


「なんで探すんだよ」


 しかし、あの訳あり牛乳少女が俺を探していたか、それは危険だな。もしかしたらお巡りさんあの人ですとか言われるのではと恐怖しか感じない。他に何か理由があるだろうか? いやない! いやあってほしいけど、何かあるかな? もうお金は返してもらったし、何もないよな。


「ここで休んでる時もきょろきょろ周り見てたし」


「気のせいでしょ、あんま関わって通報されたくないよ」


 きょろきょろ、それじゃ俺を探してるなんて言うのはこの人の感想だな、それってあなたの感想でよね? とか言って良いレベルの話だろう。それって何か証拠とかあるんですか? なんて言ったら、おばさんの左フックからの右ストレートが飛んできそうだから言わないけど、陰キャにとってこの手の妄想を膨らませるタイプの世話焼きおばさんは天敵である。


「男は度胸だよ、見つけたら通報するけど」


「悪魔か!」


 通報すんのかよ! 最低だなこのババア。


「おほほほほ、小悪魔って呼んで」


「……ないな」


 ないな、小悪魔とかもうデビルマンだろ。


「ああ?」


 いいえ何でもありません!! 貴女様はとてもキュートな小悪魔レディです! ヒューかっこいい! とっても素敵な美魔女ですわ。そこにしびれる憧れる。





「やっぱおんなはこわい」


 いやあれは般若だったは、ぜったい牙が生えてたって、何だあの眉間の皺と目、子供が見たら引き付け起こしちゃうよ。やっぱ女は怖い生き物だよ、俺は会社の休憩室で色々見て来たから知ってるんだ。


「おばさんはもっと怖いなぁ」


 特におばさん連中は口封じに飴ちゃん握らせて威圧してくるから質が悪い。誰も上司への愚痴くらい言いふらしたりなんてしないのに、大量の飴玉をポケットに捻じ込んで来るのだ、飴玉なんてそんな消費できる物じゃないと言うのに、大輔にあげたら綿あめにするって喜んでたけど。


 恐怖を紛らわす様に思考を明後日の方向に向けて戻ってきましたマイホーム、特に荒らされた様子もなく、出て来たときのままである。


「……少し狩っておこうかな」


 変わらない光景にシュールの匂いを思い出して、まだちょっと食欲が沸かないので体を動かそうか、一斗缶くらいなら汗も流れないし、すっかり慣れて恐怖心も無いので失敗のしようもない。


「一斗缶は癒し」


 竿で釣って交換して避けること数回、ホールから近い東側地下道の一斗缶は、一掃してしまったかのように静かで、さらに奥へ入って横道を覗いても見当たらない。この横道はホールから近い所には無く、ある程度進んだ先から等間隔で開いている。その造りは異界の入り口からずっと同じである。


「集団化だけは気にしてないとな」


 たまにこの穴から一斗缶が歩いて出て来るので、やはり化物の発生源はこの穴の奥の様だが、今のところ一斉に出てくると言う事は無さそうだ。


「もっとだな、数日分貯めておこう」


 更に数十分狩り続ければ自転車のカーゴもいっぱいになる。


 まだお腹が空いたと言った感じがしないので、一度戻ってもう少し奥まで狩っておこうと思う。少しでも多く狩っておくことで、奥に入る時が格段に安全になるのだから悪い事ではない。もしもっとこの辺りにも人が居れば狩り過ぎだと怒られるかもしれないが、今のところ俺しか狩る人間が居ないので、安全の為にも多く狩りたい。


「明日は、三往復後にホームセンターだな」


 これを売ればそれなりの金になるし、ちょっと簡易トイレも見ておこうか。なんだか充実していて良い感じだな。



 いかがでしたでしょうか?


 羅糸は調子がいい様だ。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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