第57話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「本日は時間を作って頂きありがとうございます」
ローテブルの上に湯呑、そのテーブルを挟んだ向かいでソファーに座って頭を下げているのは新任の責任者だと言う西野涼子さん。ぱっと見はクールなお姉さんだが、時折見せる笑みは優しそうで子供とかに好かれそうだなと思います。
あと何がとは言わないが、頭を上げるとそれに合わせて良く揺れるので、俺は彼女の顔に視線を固定している。女の人はそう言う視線に敏感だと聞くので注意が必要なのだ。
ねーちゃん曰く、それも人によるらしいのだが、ねーちゃんはあまり見られてる気はしないと言う。たぶんそれは気にしてないってだけなんじゃないかなと僕は思います。
「いえ、そんな忙しいわけでもないので」
「お気遣いありがとうございます。まず最初に前任者とその部下による嫌がらせに関して謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」
「いやがらせ……」
されていたとは思うけど、面倒なだけでそんなにダメージは無かった。あれならまだ元勤め先の上司の方が悪質だったと思う。本来仲間内であるはずの上司がどうして部下を苦しめるのか、小一時間ほど問い詰めたいが、もう聞く相手は日本にいないので忘れることにしよう。
「誹謗中傷や警察への不当な通報など調べは付いています。謝罪しか出来ないのが心苦しところですが……」
謝罪しか出来ないらしい。まぁ賠償とか言う話になったら逆恨みされそうなので、俺としては干渉されないならそれで十分です。
「まぁ、面倒ではありましたけど……実害は出てないかなぁと思うのでそれで大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは本題に入らせていただきます」
「ほんだい……」
ごくり……。そんなほっとした笑みを浮かべられても俺は騙されないぞの意気込みで、重力によって下へ下へと引かれる視線に力を籠める。じっと見詰めると西野さんは少し困った様に微笑み姿勢を正す。
あれ? 俺のよこしまな視線もしかしてバレた? この女、勘が良いぞ!? 何やってんの俺。
「現在この江戸川大地下道で最も異界の奥に到達しているのは望月様です」
「……あー、そうなんですね」
おん? そうなんだ。店長が言っていたのは当たってたのか、でも俺は何も報告してないんだけど、どこから分かったのかな。やっぱり監視とかされてたのか? 飛ばされたらしい副責任者はどこからか俺が奥に入ってると知ってたみたいだけど、ん? そう言えば一回買取り所で不審な目で見られてたっけ? あれか。
「ええ、ハンターへの聞き込みや自衛隊からの情報提供により確実にそうだと思っています。ですので、そんな望月様に今後情報提供などの協力をしていただけると、我々管理側としては助かるんです」
「なるほど?」
自衛隊か、そら聞かれたら答えるか? それに聞き込みって、俺を狙い撃ちにしたわけじゃないんだろうけど、そんなことしていたのか、まてよ? もしかしてTの晒上げも把握されてたりしないよな。あれはどっちかと言うと悪評だからマイナス評価されてそうだけど、協力してくれと言うからには把握してないのかも。
「無理に聞こうと言うわけでは無く、望月様が教えても構わないと思うラインの情報で良いのでお願いできませんでしょうか?」
「俺、C級なんですけど……えらく下手じゃないです? そんな大した人間じゃないですよ俺?」
でもなぁ、あまり信用できないと言うのが正直な気持ちである。確かに奥まで入ってはいるけど、大して強くもない、偶然異界の化物と恩恵が噛み合っただけで運よく狩れているだけの俺に頭を下げるより、A級のハンターを誘致した方が確実な気がしてならない。
最近もTにA級のハンターが動画を上げていたけど、遠距離系の魔法は卑怯なほど強い。交換とか比較にすらならない圧倒的火力、あんなの見たらそりゃ俺の恩恵なんてと言う気持ちにもなっても仕方ないと俺は思うのでした。
ちょっと悲しい。
「いえいえいえ! 望月様の活躍はハンターの中でも上位に数えて良いと思います。事実この異界を探索する人の中では最前線なんですから」
「人気が無いだけで、A級に依頼したらすぐ俺より深い場所の情報出て来るんじゃないですか?」
そ、そんなに煽てたってちょっとしか喜ばないんだからね! 陰キャは煽てられるとすぐ気持ちよくなるんだから、そんな簡単に褒めてもらっては困るのだよ。今だって顔に力入れて無かったら口元緩んで広角上がりそうなんだ。
こっちは繊細な生き物なんだから、そこの所よく注意してほしいな。どうせ上げて落とされるか、もしくは勝手に落ちるんだから、煽てるのもほどほどにしてもらわないと困るよまったく。
「……以前異界の中で起きた事件はご存じですよね?」
急にそんな神妙な顔されても、事件と言えばあの焦げ跡だらけの原因だよね。異常な化物が出たとか言う話らしいので気にはなっているけど、俺も自衛隊も見てないからもう居なくなったんじゃなかろうか、もしくは脇道に戻ったのか、それとも勝手に消えるタイプの化物……怖いからそう言うのは勘弁してほしい。
もしかして、最近前にも増して人が少ないのはそう言う理由なのだろうか。陽キャ大学生コンビが巻き込まれなくてほんとによかったと思う。もし巻き込まれてたら、いくら薄情な俺でもそれなりに鬱になってたと思うだよ、大輔が被害者でもなりそうだし、ほぼ確実である。
「ええ、知り合いが巻き込まれそうになってちょっと心配になりましたね」
「あの強硬調査にはA級の方も協力していたんですが、その方も重傷を負われまして……結構な違約金を払う事に」
「あぁ……」
違約金、うぅ……お金のことを考えたら胃が痛くなってくるようだ。
それにしてもB級以上という話だったけど、A級も居たんならそりゃ自衛隊が何台も車に乗ってやってくるわけだ。警察も初動の操作だけで早々に撤退してたみたいだし、よくよく思い出してみれば自衛隊の装備もなんかごつかった気がする。地下道内に出来上がっていた簡易陣地みたいな場所に、明らかに携帯して使う用じゃない大きさの銃も置いてあったのを思い出した。
「その後の自衛隊による調査で判明しましたが、自分たちの不利益になることを嫌った前任者は居もしない化物情報をでっちあげた様で、望月様からの情報提供で調査精度も上がって不正が発覚しました」
「あー……」
あ、居なかったのか異常な化物。その情報は助かる。
「お心当たりがあると思いますが」
「自衛隊の人と雑談はしたかなぁ?」
あの時の雑談が役に立ったのなら何より、バッタや一斗缶は公になるんだろうけど、それで状況が好転したのなら話した甲斐があると言うものだ。異常な化物も結局は居なかったと言う結論に至ったようだし、少しは安心である。
と言う事は、あのバッタと一斗缶はA級も倒すってことか。状況が分からないから何とも言えないけど、状況が悪ければA級とB級の集団をやれるわけだから、今後狩る時はもっと注意が必要だろう。とりあえず一対一の状況を作る事は継続して心がけよう、あちこちに広がった焦げ跡、あの惨状は明らかに一匹や二匹の一斗缶ではなかった。
「その件や、危険を知らせて頂いた件については助かりました」
「知り合いに行かない方が良いとは言いましたけど、特にお礼を言われるような事じゃ……」
「それで助かった命もあると言う事です」
そう言われて悪い気はしない。悪い気はしないのだがなんで貴女はそんな目で見てらっしゃるのか、その妙に温かい微笑みは背筋がぞわぞわするのでやめてほしい。陰キャにあまり強い光を当ててはいけません、灰になって消し飛んでしまいます。
「……そうですか、それはまぁ良かったかな」
本当に何となく知り合ってしまった二人が怪我するのも忍びないとか思っただけで、命を救おうとかそんな考えはなかったのだ。むしろ何もアドバイスしないで彼等が大怪我したなどと聞いたら俺は罪悪感で死ぬ。
しかし、命と言う言葉を使ったって事は、死人が出てるんだな。あの日の事件はまだ詳しく報道されてない様で、何か圧力でもかかっているのか被害に遭った人数ぐらいしか分からないのだ。死人が出る事件を起こしたって事は、結構あちこちに影響しそうである。
なのでこれから話すのはそんな被害が少なくなればいいなと言うものであって、誰かを救う意思などこれっぽっちも無い。変な勘違いはしてまたキラキラ光線を目から出さないでもらえると助かる。
いかがでしたでしょうか?
羅糸はあまりポジティブな感情を一方的に向けられることが苦手なようです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




