第56話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「てことがあって」
「お前も話のネタに困らねぇなぁ」
「そう言われても嬉しくはないな……」
自らの意志力の脆弱性を反省しながらやって来たのはサステナブルマーケット、毎回ここに来ると冷たいお茶を貰って愚痴っている気がする。正直店長に呆れられても仕方がない生活をしている自信はあるので、その言葉も甘んじて受け止めようと思う。
決して毎回出てくる冷えた麦茶で懐柔されているわけでは無い。
「まぁ良い事じゃねぇか、それにしてもあれだな」
「あれ?」
あれってなんだ。何かあるのか? 心霊的な奴じゃないだろうな、この時期はちょっとネットに目を向けるとすぐそう言うネタにぶつかるんだ。こちとら一人寂しく異界で寝てるんだからちょっと怖いんだぞ? その手のネタなら勘弁だぜ。
「お前さんもしかしたら異界管理に目を付けられたかもな」
「え……」
おう、もっと怖い事言ってくるじゃないか、幽霊より人間の方が怖いんだぞ? こちとら利権者の暴力なんて食らった日には一瞬で消し飛ぶ枯葉ぞ。
「嫌そうな顔すんなって、良い意味でだよ」
「そうなの?」
「そうなんすか?」
あ、店員さん新しい麦茶ありがとう。それにしても良い話とな、ちょっとそこのところ詳しく、興味があるんだけど今の俺の愚痴を聞いて何でそんな風に思うんだ。
「普通悪い話で責任者が直接出てくるこたぁねぇ」
「はぁ?」
そうなの? 悪い話だと大体は上司が呼び出すだけでお偉いさんが出て来ることは無いし、いい話なんて記憶にないのでわからん。良い話なんて会社と上司にとって良い話であって、俺達には全くいい話ではないのが常だ。そういう時はニチャニチャした気持ち悪い顔の上司が後ろから話しかけてくるからすぐわかる。
「ハンターみたいなの相手に悪い話をする時はその下か、さらに下がセキュリティ付きでやって来るもんだ。一人だったんだろ?」
「そう、ですね?」
一人だったな、もしセキュリティとか警備員が一緒なら逃げてた自信がある。いつもの警備のお姉さんなら一瞬迷うかもしれないけど、睨まれたら逃げそうだな。
「なら良い話だろ。しかも新しく異動したての責任者だ、味方探しかもしれんな」
「新しい? 今までいなかったのか……」
新しい責任者? 確かにスーツはパリッとして新しい感じだったし良い匂い、げふんげふん。若そうだったし、と言うか異界の管理施設なんて出来たばかりなんだから新しくても当然か、そう言う話じゃないと思うけど……仲間探しってなに? ぼっちなのか? なら仲間だな。
「違う違う、やらかして飛ばされたんだよ、責任者と副責任者が」
「え?」
なに? そんなの初耳なんだけど、店員さん知ってた? 知らない? そっか。
「お前が前に話してたメガネのいけ好かない奴、そりゃたぶん飛ばされた副責任者だ」
「え」
飛ばされたの? 最近姿を見なくなってほっとしてたんだけど、何で飛ばされたんだろう。あの手のタイプって自分の保身の為なら汚い事でも平気でやりそうだけど、人事部とか総務部に似たのが居たし、あれ? 会社全体に生息していたタイプの様な気もする。
俺は考える事を止めた。
「たぶんだが、飛ばされた原因はお前さんじゃないかと思うぞ?」
「へ?」
ちょ、ちょっと待ってくれさい。俺はそんなあくどい事なんてしてないぞ? いくら気に喰わないからって、暗躍して後ろから刺すようなことはめんどくさいからしないよ。
ほら店長が変な事言うから、店員さんが音もなく距離を離しているじゃないか、風評被害も甚だしいのだが? ちょっと店長全く気が付いてないんだけど、なんでそんなに楽しそうなのさ。
「本気で異界ホームレス始めるとは思わなかったが、話を聞く限り江戸川大地下道で一番深く潜ってるのはお前さんだ。わかってるか?」
「う、うーん……確かに他に人は見ないけど? 人が少ないからじゃないかな」
今のところホールまで人が来ているような気配はないと思うけど、でも中にはガチのソロハンターが居て、俺がハンター始める前にもっと先に言っているかもしれないので自信はない。
きっとA級ハンターの中には物語の主人公みたいに俺最強な人間が居るに違いない。そして今頃楽しいハーレムライフ……そう言えば大輔はハーレムしてたな、また暴言送っておくか。
「人気が無いのもそうだが、聞いた話だけでも化物が厄介な割にドロップが美味しくないからな、一斗缶なんて化物狩れるのが先ずおかしいんだよお前」
「空き缶バッタは?」
厄介とは言うが空き缶バッタは比較的楽に狩れる方なのでは? それに割れメタルガチャは金も出るんだろ? すでに大半がダブってるので、ここで調べてもらった後は売るかリサイクル行きだけど、それでも金が出れば一発逆転もある。
「割れかぁ、あれはもっと楽な場所があるからな。それに正直割に合わない」
「割れメタルだけにっすか?」
「……」
おや? 急に気温が下がってきた気がするぞ? にっこにこ顔の店員さんに目を向ける店長の顔が冷え切って目から光が消えてんで。
「あれ?」
「話の腰を折るな」
「うっす! お茶っす」
「ありがとうございます」
キンキンに冷えたポットから注ぎ足される麦茶、コップぎりぎりまで入れるとそのままそそくさと姿を消す店員さん。すっかり黒く焼けた彼はまるで麦茶のような色である。
それにしても割に合わないと言うが、もっと楽に狩れると言う場所が気になるな。もし江戸川大地下道でレアが出ないようなら場所も変えてみる必要があるだろう。今はそんなことしてる余裕は無いけど、将来的にはコレクションを充実させたいと言う思いもある。
小学生の時に父親から小さな出土品のコレクションを貰ったことがあるが、俺は鉱石シリーズとか宝石シリーズのキラキラしてる方が良かった。矢尻とか壺の破片とかも貰って嬉しくなかったわけでは無いが、昔から俺の趣味と両親の趣味はズレがあるのだ。
「まぁとりあえず、江戸川大地下道でお前さんは有力な攻略者だ。その大地下道の責任者なら味方につけたいだろ」
言いたい事は分からんでもないけど、そんな責任者みたいなお偉いさんが俺みたいなのを気にするかなぁ? 今までは厄介者扱いを受けてたのに、いくら店長の言う事でも信用できない。
「でもC級ですし、貢献とか何もしてないですよ?」
なにしろ俺はC級のハンターだ。公式に使えないとハンターだと思われていると言うじゃないか、そんな相手を味方につけたって意味なくないか? いやまぁ世の中能力が全てではないと思いたいけど、でも大体の人間はそこで見るもんだ。相当信頼関係が成り立ってるならまだしも、話した事もないような良く分からない相手をいきなり信用するかな。
「あほか、貢献してるだろ。奥に人が入っていけると分かっているだけでも十分だし、さらに化物の情報が分かれば対策の幅も広がる」
「情報かぁ」
それはまぁそう、奥で何が出るか分かれば安全性が全く違う。どこを調べても全く情報が無いから毎回手探りでほんと異界は心臓に悪い。
しかし情報も特には提供してないから、やっぱり貢献度的にはB級ハンター以上の人間に比べると全くと言って良いほど少ないと思う。いくら奥に入っていると言う話が聞こえて来ているのだとしても、それは俺の功績と言えるのだろうか? 報告しているだろう人や監視カメラのおかげではないだろうか。
……あれ? もしかして俺って監視されてる。
「だいたいお前さんの行動を調べれば、ある程度の推測は出来る。あそこで毎日狩ってる姿を見せるだけでも本来十分だ。前任者は良く調べもせずに推測だけで欲張りすぎたけどな」
店長の予想を聞くに、俺はずいぶん監視されているようだ。
どこでどんな話を聞いて来ているのか知らないけど、どうやら俺の行動からC級ハンターでも攻略可能な化物しか奥には居ないと予測され、それ故に強硬調査に乗り出したのが前任の責任者と副責任者らしい。
本来ならドローンによる詳しい調査の後、攻略スケジュールを立てて二重三重の支援体制を用意して少しずつ調査するのが、今のところの異界調査セオリーの様で、どんな化物が出るかもわからない状態で後方支援も無い強硬調査は、ちゃんと国から禁止されているらしい。
禁止と言っても特に法的な罰則があるわけでは無いが、社内では罰則がしっかりある様だ。ましてや一人で奥へ奥へと入っていくハンターなんて企業には居らず、居ても一部の自営業なA級ハンターくらいなものなのだとか、それでもすでに結構な行方不明が出ているらしく、そう考えると俺はずいぶんと危ない事をしているのかもしれない。
ねーちゃんに知られたら怒られそうだ。注意しておこう。
いかがでしたでしょうか?
危険だと理解しても止めるつもりは無いようです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




