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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第53話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





「うーん、うん」


 手を握っては広げるを繰り返す。まったく異常がない。石畳の上には極限まで小さくなったスチール缶が転がっている。これは異界のマイホームに帰る途中で買ってきたコンポタ、握力がどんなものなんだろうと思って全力出してみたらこれだ。


 ちょっとした出来心だったけど、普通に手でつぶせるレベルを超えてまるでプレス機に掛けたみたいな状態、正直自分で引いた。


「むむ?」


 もっと引いたのは掌である。両手でスチール缶を潰せば当然手の平の皮膚が圧迫されて赤くなるなり内出血を起こすなりするのが普通だろう。人間の体はそんなに頑丈ではないので血が出てもおかしくはない。しかし痛みも感じなければ赤くもなっていない綺麗な、と言うほどきれいではない男の掌がそこにあるのだ。


 これはおかしい。


 しかめっ面で立ち上がった俺はテントの近くに落ちている石ころを拾い上げて壁に投げる。放物線を描いて飛んで行った石ころは壁に当たると跳ね返って地面に落ちた。普通のことで、もう一度全力で投げても大して変わらない。肩がちょっと痛い。


「筋肉が成長したわけでは無いのか」


 腕全体がおかしいわけでは無い様で、大輔から聞いた通り恩恵に関係ある部位だけがおかしい様だ。要は手である。若干手首の辺りもおかしい気もするが、腕と大した違いは無さそうだ。


「手だけパワーアシスト付けてるみたいなもんか」


 自転車のパワーアシストみたいに手だけ力が強くなっている。しかも怪我もしない。硬いものを握っても一向に痛くならないのだ。感覚が無いと言うわけでは無く、石を握れば手の平は硬い石に合わせて柔軟に形を変えるがある程度まで行くとそれ以上は変化しない。力を籠めても籠めても変わらず、最終的に石の方が崩れ始める。


「流石にブロックみたいな石を砕けたりはしないけど、異常だよな……気が付いてる人ってどのくらいいるんだろ?」


 恩恵の副次効果と言われているが、どれだけの人間がこれに気が付いて利用してるんだろう? 身体強化系の恩恵持ちとか、とんでもないことになるんじゃないだろうか? 漫画みたいにドアノブ破壊しそう。いや、俺がしてないから、何かリミッターのようなものがあるのかもしれない。


「Tで調べても都市伝説レベルか……」


 テントの外に出て歩きながらスマホを見るが、どう検索しても都市伝説と言った感じらしく、利用方法や詳しい話は出ていない。Tでこれなのだから、これが現状での最新データと言う事になるのだろうか? 自衛隊や国なら何か知っているのだろうか? 自衛隊が居るうちに聞いておけばよかった。


 テントから少し離れた先にある壁に到着、足元にはさっき投げた石ころ。特に砕けたと言う様子もなく、顔を上げた俺は無言で腕を振り上げ壁を殴る。


 痛……くない。もう一度もっと強く殴る。やっぱり痛みを感じない様で、衝撃はあるんだけど痛くないし腕にも衝撃が伝わってこない。普通なら壁を殴れば拳は痛いし腕にも衝撃が伝わって来ていたいものだが、まったくそんな気配がないのはずいぶんと気持ち悪いものだ。


「……怪我を考えるとあまり良くないんだけど」


 良くない考えが浮かんでしまった。これならスケルトンを素手で行けるのではないかと言う良くない考えだ。


 正直スケルトンは脆い、頭を殴ればすぐに死ぬ。もう死んでるようなものなので死ぬと言うのも変な話だが、頭を砕けばすぐに黒い塵に変わってしまう。


「やるか」


 そんなスケルトンより硬いであろう壁を殴っても痛くないのだから、スケルトンを拳で狩る事が出来るのではないか、そう思ったら試さずにはいられない。


 思い立ったら即行動、準備をして自転車に乗って走り出す。異界のホールをマイホームにしてから良く通るので中央はすっかり化物の気配がなく、たまに出てくる化物はしっかり狩っているので今日も道中は静かなものである。


「人が少なくなったな、自転車……1、2匹狩って感触を確認するだけだから良いか」


 たっぷり充電されたアシストを全開にして漕げばあっと言う間に骨エリアに到着、時間が時間なので人は少ない。これならちょっとの間自転車を停めていても邪魔とは言われないだろう。


「んー……あ、居た」


 自転車を押しながら周囲を見渡していると骨の白い影が見える。


 すぐに自転車を停めると、足元から小石を一つ拾って小走りでスケルトンに向かって歩き出す。そうすると音で気が付いたのかゆっくりと振り返るスケルトン、いつも通り伽藍洞な目の奥では赤い光が一つ揺れている。


「ちょっと相手になってもらうぞ」


 手を強く握りしめると軍手の滑り止めがこすれる音がした。慣れた相手でもいつもと戦い方が違うと少し緊張してしまうのか、力を籠めすぎた右手から糸の切れる音も聞こえる。


 いつもなら交換を使っている距離からさらに踏み込み、頭まで手が届く距離まであと少し、とちょっと待てその振りかぶった刃物は切れ味が悪いとは言え危ない。今着ている作業服は防刃と言うわけじゃないから普通に切れるんだ。


「それは危ないので、交換!」


 左手の小石とガタガタの短刀が入れ替わり、左手に握った短刀を後ろに引きながら右手を赤い光に突き込む!


「ふん!」


 想定より軽い!?


「……っと!?」


 ……あぶないあぶない、勢いのまま倒れるところだった。倒せても転んで怪我したんじゃ世話無しだぜ、軍手をした右手に怪我らしい怪我は無いな、よかった。


 スケルトンは、あっと言う間に黒い塵に変わってドロップの骨キューブを出している。


「……倒せたな」


 骨キューブを拾ってようやっと実感が湧く、しっかり緊張していたようだ。いくら今まで問題なく倒していた骨とは言っても拳で倒すなんて普通じゃない。たぶん恩恵無しの人じゃスケルトンを素手で倒すのは難しいだろう。感触も想定より軽かったとは言えそれなりに硬い感触を感じた。


「怪我は無し」


 一発で倒せたのは手の痛みを気にしなかったからこそだろうな。痛いと分かっているとどうしても力を抜いてしまうのが人間だから、それに痛みを感じないだけならまだしも、軍手を外した手には一切硬いものを殴った痕跡はない。これだけ安全ならいくらでも殴れる気がする。


「もう一匹試そう」


 最初は一匹だけとも思ったけどもう一匹試してみるか、それで適切な力加減が分かるだろう。


「問題無し……いけるな」


 時間にして3分、探すのに時間が掛かっただけで狩るのに掛かった時間は一瞬だった。見つけて駆け出し殴る。今度はちょっと怖かったけど、短刀を左の手の甲で払ってその勢いのままスケルトンの米神へと右の拳を突き入れた。


 結果は一発で黒い塵に変わり、短刀を払った左拳に怪我はなく、少し軍手が解れたくらいである。今みたいな倒し方をするなら軍手ではちょっと心許ないかもしれない。


 でもまぁ、両手セットで百円もしない使い捨てだから、これはこのままでいいのかもしれないな。


「うーん、骨の新たな攻略法が生まれたけど……シュール相手には跳ね返すのが一番だな」


 うん、たぶんうまく行けば手でもシュール缶バッタを受け止められるようになるかもしれないけど、確実にあの汁を被るだろう。そんなことになったら怪我で体が大怪我する前に心とか精神とか、もっと大事な何かが先に死ぬ気がするので、今後もフライパン必須だな。


 でもこれで前よりずっと大胆にフライパンを扱えるだろうし、シュール缶バッタの攻略にも光明が見えて来た。


 ん? 何かが動いている……スライムだ。この異界で最弱の様で最弱とも言い辛い化物、果たしてあのスライムの酸も、この手は防げるのだろうか? 物理的な接触による痛みなどを感じないのだから行けるか……。


「……いや止めとこ」


 物理耐性や摩耗耐性があるからと言って薬物耐性があるとは限らない。拳を突き入れて痛くないと思ったら手が溶けてましたとか洒落にならない。それに軍手は確実に溶けそうだし、作業服まで溶けたらまた余計な出費が発生してしまう。


 安全第一、石を持って思いっきり振りかぶる。少し大きめの石が真っ直ぐスライムに突き刺さった。


「……ん?」


 その一撃でスライムが黒い塵になった。おかしい、前はもっと手数が必要だったのに、一撃……俺も少しは成長しているのか、それとも特定範囲以外にも恩恵の副次効果が出ているのだろうか? その辺は調べようがないけど、スライムも今後は一発で何とかなりそうである。


「帰るか」


 シュール缶バッタで負った心の傷が少し癒えた気がするし、帰って飯食って寝よう。


「…………」





 とあるTでの会話。


<【動画】江戸川大地下道で馬鹿を見つけた件>


<こいつスケルトン素手で倒してやがるwwww馬鹿すぎるだろwwww>


<やめてやれって、弱い化物でしか俺強え出来ない可哀そうな奴なんだから>


<何が見つけただよ自分でやったんだろ? そんなに目立ちたいのかよ、正真正銘の馬鹿じゃん>


<骨くらい俺でも素手で十分だしwww自慢にもならねえよwwww>


<どうせ恩恵だろ? 今時誰だってできるだろ>


<顔もばっちり出して俺強えええええってか? 馬鹿すぎ雑魚すぎ>


<あーだめだめ、殴り方素人丸出しの雑魚じゃん>


<だいたい刀弾いてかっこつけてるけど、身体強化系の恩恵でこれって弱すぎるだろ>


<身体強化なら粉々に吹き飛ばすくらいしろよ雑魚>


<はいはいよかったでちゅねー>





「今日もおにぎりが微妙だったな……ちょっとごろごろして寝るか、缶詰……まだ無理だ」


 多分大丈夫だと思うけど、まだこのイワシの缶詰を食べる勇気が出ない。怪しいと言えばE マーケットのおにぎりも怪しいわけだが、今のところ食べられない物は出ていないので良いとする。若干具がはみ出ていたり、少なかったり、袋に海苔の絵柄が描いてあるだけで海苔が巻かれていなかったとしても、食えるので気にしない。


「さてTに新情報は出てないかな……お! 江戸川大地下道の話題が増えて……ふえて…………おん?」


 おい、おいおい、おいおいおい!! これ俺じゃないか! こんな格好で拳振り回してスケルトン狩ってる奴なんて俺しかいねーじゃん! モザイクもついてないし、誰かが隠し撮りしたのか、最悪だ。


「なんだろう、何もしてないのに誹謗中傷を受けて辛い」


 なんで俺こんなぼろくそ言われてるの? 俺何も悪いことやってないのに、はぁぁぁぁ……辛、もう寝よう。


 いや、その前に通報しておこう。えーっと、不正な動画、肖像権の侵害で良いのかな? あ、あとプライバシーの侵害も入れておくか。


 はぁぁぁぁぁぁ……怠っ! まさかこんなことになるとは、もう骨狩るのやめよう。


「……寝よ」


 こんな時に酒でも飲めればいいんだろうけど、流石に安全な場所とは言え異界で酒飲んで寝るとかちょっと無理だな。いろいろ開き直った感がある俺もそこまで楽天家じゃない。


 明日は、狩りまくって、ストレス発散……ぐすん。



 いかがでしたでしょうか?


 誹謗中傷ダメゼッタイ。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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