第50話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……なんだその最臭兵器化物」
とある戦いについて説明し終えたあと、溜めに溜めた大輔の言である。
何を説明したかと言うと、つい先ほど遭遇して未だに疲れが抜けない原因となったシュールストレミングバッタとの戦闘について。やっぱり最臭兵器だよね。
「怖かろう?」
「怖すぎだよ! てかおまえ……落ちるとこまで落ちたな」
「お? 喧嘩か? シュール投げつけんぞ」
あ? 大輔のくせに何言ってやがんだこら、シュール汁まみれになってでもバッタ捕まえてぶつけんぞ。こっちにはフライパンパイセンがついてんだ。バックステップ駆使したら何とかなるかな? いや無理だな。
「食い物粗末にするんじゃないよ」
食い物……。
「勝手に動くシュールとかもう食い物じゃねぇ」
あれは食い物じゃない。シュールストレミングは認められた食品だとしても、勝手に動いてパンパンの体ぶつけてくる缶詰なんてもう食品の範疇じゃねぇ。たとえそれがサンマのかば焼き缶詰であっても同様だ。
体から甘いタレの匂いをさせながら異界を彷徨いたくなんてない。お腹減っちゃう。
「おまえ今それ野宿だろ、家はどうした?」
「色々あってね、今は異界でホームレスだよ」
なんだそう言う事か、まぁある意味落ちるところまで落ちたと言われても過言ではない。過言なのか? いやまぁそれは良いとして、落ちるところまで落ちたらあとは全部伸びしろです。ニートで少女たちと夏を満喫していた大輔には分からんとです。
「はぁ!? おま、おま……行くとこまで行っちまいやがって、流石に相談しろよそこまでたいへんなら」
どうした大輔? テレビ電話にしてるからそんなに近付かれると暑苦しいんだが、それに相談? だと……。
「大輔に相談? ははは、面白い冗談だな」
「ひでぇ!?」
おめえに相談しても真面な結果になった試しがねえだろ、冗談は顔と性格と性癖だけにしろ。
「これが快適でさ、今のとこ俺しかいないから安全な場所が貸し切りだよ」
「ほんとかよ、うーん……俺よりしっかりしてるから大丈夫だと思うけどさ」
「まぁね」
「むかつく、しかしあの経験が役に立つとはなぁ」
あの経験とは、『シュールストレミング実食パーティー、やったね! 上司は強制出席だよ!』の会だな。上司が逃げ出し大輔が飛び上がって開封阻止した後、実際に食べようとなった会である。尚、会場は会社の屋上、警備さんから鍵を借りてゾロゾロと屋上に道具を持っていった懐かしい思い出だ。
「ほんとな、屋上は出禁になったけど」
「悲しい事件だった……」
「そうか?」
悲しくもなんともない事件だよ。
起こった事と言えば、斜めにして、ビニールに入れて、そっと開封したらいいと言って開けさせられた結果、手を突っ込んでいた穴から綺麗に噴出した汁が問題の上司である課長の顔にクリーンヒット。さらにそこへ何をしているのか気になってやってきた部長と社長、悶える課長が蹴飛ばした缶詰は二人に直撃、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
結局それ以降、屋上が使用禁止になり、危険物を持ち込んだと言う事で気絶した課長はその場で半年の減給が決定、俺と大輔は課長が食べろと強要したと言う事にして被害者ムーブでお咎め無し。それに不服を申し出た課長は、何故高い関税まで払ってシュールを会社に持ち込んだのか問い質され、何を話したのか知らないが一週間の謹慎処分まで下された。
悲しいと言うよりざまぁと言った記憶だ。臭かった以外はだけど。
「で? テレビ電話して来たって事はそれだけじゃないんだろ?」
「いや、Tのテレデン機能確認したかったから」
「そんだけかよ!」
Tにテレビ電話機能があるのをつい先ほど気付いた俺はさっそく使ってみることにしたのだ。半分くらいはそんな理由だが、半分くらいは大輔の様子も見ておきたかったからである。思ったほど不摂生で太っていたりはしない様だ。
「まぁ冗談なんだけど」
「相談ってわけじゃないんだろ?」
「分かってらっしゃる」
相談と言えば相談なのか、何かと情報通な大輔に聞けばすぐ答えかそれに近い情報が聞けると思ったから電話したので、相談なのかは悩みどころである。
「うれしかねぇな……それで?」
少し話をする姿勢になった大輔、椅子に座っているのか背凭れに全力で体重を預けていた姿勢から前傾姿勢に、真面目になる時の仕草だ。
「なんか恩恵以外に身体能力が上がる現象って起きてない?」
「ん? ……一応それっぽい話はある」
「あるんだ」
あるのか、流石情報通、会社で気になるあの子のスリーサイズを教えるの勿体ぶっていたら後ろから本人に殴られただけはある。ちなみに正解していたらしく、ドン引きされていた。大輔曰く、スリーサイズぐらいなら見ていれば解るそうで、その日から少し女性社員から睨まれる回数が増えたそうだ。
「検証動画系は今熱いからなぁ……あったあったこれだ」
「どれだ」
「これこれ、えーっとだな? 俺らは色々恩恵貰ったじゃんか」
これこれと言われても俺には何も見えないがPCで検索したようだ。
「うん」
とりあえず真面目に聞いておこう。恩恵か、恩恵が関係している異変なのだろうか。
「その恩恵にはマスクデータと言うか裏設定があるって話でな」
マスク、要約すると恩恵の利用にはトリガーとなる行動や体の部位があるそうで、そう言ったトリガーになっている行動や体の一部に、本来成長やトレーニングとは関係ない成長や能力の向上がみられると言う事らしい。
足がトリガーなら足が速く、目がトリガーなら目が良くなったりと言った変化がみられる。と言う事は、よく眠れる大輔は頭がトリガーになるのだろうか、それは……。
「となると大輔もなんかある? 頭が固くなったとか」
可哀そうに。
「やめろ、これ以上頭皮が固くなったら髪の毛様が逝ってしまう」
「……」
「やめて、そんな神妙な顔しないで! シクシク……」
会社に入ったころから少し柔らかそうな髪だなとは思っていたけど、最期に見た時は結構薄くなっていた。今も寝ぐせでどこかの金髪超戦士みたいになってるけど、天辺がゆらゆらと揺れている。
「で?」
どうやら思わず神妙な表情になっていた様なので、頑張って顔を明るくして続きを促す。
「慰めろよな」
「やだ」
嫌でござる。
「はぁ、俺の場合はたぶん全身だから効果が出るまで時間がいるんだろう」
「なるほど」
溜息を吐くと幸せが逃げると言うけど、最近はストレス解消に良いらしいと聞くのでいっぱい吐いとけ、頭の変化はストレスも関係あるらしいからな。
しかし超快適睡眠な恩恵は全身なのか、全身がリラックスするからか? 他人の恩恵はあまり深く考えても仕方ないと気にしてなかったが、トリガーか、Tを見る時はもう少し注意して見てみよう。
「羅糸の恩恵はどうなんだ? 何か特殊な条件とか付いてるなら限定タイプの可能性があるぞ」
「……手だな、俺の恩恵は手が起点になってる」
俺の恩恵はたぶん手だろうな、手で握っていると言うのと、対象も手で何か握っていると言うのが条件、トリガーと言うやつなのだろう。言葉で交換と叫んでいるが、たぶんあれもいらないんじゃないかな、声に出した方が集中出来るから声に出しているけど。
「だいぶ範囲が小さいな」
「何となく理解した。ありがとな」
しかし、何となく理解した。道理であのバッタ受け止めても怪我がないわけだ。思わぬ進化を遂げていたみたいだな。
「おう、またなんかあったら連絡しろよ」
俺の返事に大輔も何か満足したのかニコニコ笑っている。連絡か、実際気兼ねなく連絡できる知り合いなんて大輔以外居ないから断る気は無い。何だかんだあの糞みたいな会社で最後まで一緒に頑張った仲というやつである。
「気が向いたらな」
気が向いたら電話してやろう。むかついたら家電の方に掛けるか、掛けたことないけど、面白そうなことになりそうだし、試しにいつか掛けてみようと思っている。
ん? どうしたんだい大輔君そんな真剣な表情で見詰めて、なに? 俺は何も企んでなんかいないぞ? なに? 企んでいる奴はみんなそう言うんだって? はははっ……勘の良いおじは嫌いだよ。
いかがでしたでしょうか?
大輔の勘は良いようです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー