第45話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……何もない」
何もないと言ったが何もないわけでは無い。何も起きないだけで、周囲は今までの地下道とは全く違う。
先ず足下、今までと変わらず石が転がっているがどれも人工的に切り出されたような四角い石で、両手で抱える必要がありそうな大きさだったであろう石が砕かれた言った感じだ。たまに完全な直方体の石が落ちてるがこれを持って殴り掛かるのは無理がある大きさである。
そんな石が転がる床も綺麗に舗装された石畳で、よく見ると床に転がる石と同じ質感の様だ。……もしかしたら天井も同じ石材で作られていて落ちて来たのかもしれない。いや、それならもっと盛大に散らばって山済みになっていてもよさそうだが、ドローンでもないと調べようがないほどに天井は高くて暗い。
「ん? 床が……」
押すのに疲れたので自転車に乗ってまっすぐ進んでいる足元の変化に気が付く。
今まで横にほぼ真っ直ぐだった石畳が曲線を描き始めているようだ。そのまままっすぐ進めばその曲線はどんどんきついカーブを描く様になり、到頭視線を先に目を向けると円形の石畳が見え始める。ここまで結構な距離を走った様に思うが、この自転車には距離計なんてものは付いてないので良く分からない。周りも薄暗く壁も見えないので余計に今どこにいるのか分からない。
「……ここが中心」
円の中心には丸い石がはめ込まれていた。特に装飾も無く、直方体だった石畳もアーチ状に変わっている。
「暗くて見えない」
円形の石の上に立って周囲を見渡す。ずっと続く石畳は平坦で、遠くは薄暗く見通せず、壁も見えないので下手に動き回れば最悪帰れなくなるだろう。一応床の石畳が全部同じように並べてあるなら中心と壁の距離は分かるかもしれない。
「地面に目印を書いておかないと分かんなくなる」
早めに目印を作らないと本当に帰れなくなりそうだ。今なら自転車の向きで帰る方向は分かると思う。ここまで走ってくる間も、石畳の目地を見ながらなるべくまっすぐ走る様に心がけていたからな。……ダイジョブだ、問題ない。
「東向きだからこっちが西で、東で、北……南と」
大地下道はたぶん真っ直ぐ、そこから入って進むと言う事は東に進んでいると言う事なので帰り道は西、で良いと思う。実際は穴掘っても大地下道には入り口以外からは入れないそうだが、便宜上石畳の中心に石ころ並べて方角を描いて行く。
「うん」
心配なので無事帰れたら今度は油性ペンを持て来て床に直接方角を書いておこう。む? これもフラグになるのかな、ちょっと不安が増してる気がするので深呼吸しておくか、ひっひっふー。
何かで聞いた深呼吸、何とか法とか言うやつで大輔が職場でやってたら女子社員にセクハラと言われてた覚えがある。よし落ち着いて来た。
「とりあえずまっすぐ行ってみるか」
目印を壊さないように、あと何が出てくるか分からないからフライパンも手に持っておこう。
「本当に広いな」
時間感覚が狂っているのか分からないが、普通に自転車を漕いでも突き当りにたどり着かない。もしかしたら石畳の模様は中心じゃなくてただの模様だったのだろうか? でも床の石は長方形になって来ているからそろそろだと思う。
「何も出なかった」
多分このホールは円形で良いと思う。心配していたら突き当りが見えた。
突き当りがしっかり見えると少し左にずれた場所に大きな地下道への口が開いている。これは俺が抜けて来た地下道と同じ構造の様なので、このホールへの出入り口は左右対称なのではないだろうか? まっすぐ進んでいるつもりで俺が微妙にずれていたと考える方が自然だ。
むしろわりとまっすぐ走れていたことは褒められるべきだな、うん。
「作りは変わらないな」
東側地下道入り口の真ん中に立つ、西側と同じく土がむき出しの床に散らばる大小様々な石ころ。たぶん変わらない作りである。
「中間地点って事かな?」
良くゲームではセーブポイントが有ったりする場所だ。なんだったらあの丸い石畳がセーブポイントまである。ここまで来る間もホールでは石ころ以外に何も見ていない、化物の気配も特になく、地下道より見通しが良いホールでまったく化物を見なかったと言う事はそう言う事なのではないだろうか。
壁にも地下道の様な横穴は無い。ホール側から覗いた地下道の壁にも見える範囲で横穴は開いていなかった。西側も同じ作りかもしれないのであとで調べておこう。
「……念のために釣りにしよう」
自転車を停めて一歩東側地下道に足を踏み入れて踵を返す。
自転車から釣竿を取り出すと竿を伸ばしてリールの長さを調整する。重りの付いたリールが変なところに絡まってないことを確認したらホールに一歩入った場所でリールのロックを外して構えた。
臆病者だと思うなら笑うがいいさ、警戒を解いた奴から死んでいくんだ。ソースは俺だから間違いない。
「かかるかなっ!」
思いっきり飛ばす。横穴が近くに無いことを考えると、化物は結構奥にいるんじゃないかと思ったからだ。いっぱい釣れた場合は相手が何であろうと逃げる。自転車に追いつけない化物だったらいいな。
リールが止まる。巻き取り始めるとすぐに手に掛かる抵抗感、さらに回すと床を軽快に跳ねながら戻ってくる重りの感覚。重りは鉛だから使う度にちょっとづつ擦り減って来ているので、そのうち交換用の重りも用意しないとな。
「……きた!」
音がする! この音は一斗缶だ、一気にリールを巻きとると薄暗い地下道の奥から見慣れた一斗缶が走ってくる。そしてすぐに加速して真っ直ぐこっちに向かって走って来た。もう完全に重りは無視だ。
竿を投げ捨てたらこちらも走り出す。
「交換!」
これまでと同じ動き、同じタイミング、違うのはこれまでよりずっとスムーズに一斗缶との間合いを詰められ、綺麗に交換できた事だけ。
跳び上がり勢いよくガソリンを吹き出し始めた一斗缶の下を潜り抜ける。体にガソリンは降りかからない。
すぐに足を止め、地面を滑りながら後ろを振り向く。見えるのは両手両足をジタバタと振りながら頭? から地面に落ちる一斗缶。ピクリとも動かなくなる。これまでで一番きれいに倒せたような気がした。
「一斗缶だったか、まだ一斗缶エリアって事かな……おや?」
いつもと変わらない一斗缶だと思えばドロップが見当たらい。今まで確実に出ていたガソリンタンクが見当たらないので焦ってしまうが良く見ると何か落ちている。
「ガソリンじゃない」
小さな何か、床に転がる石より小さなそれにスチールキューブかと焦ったが違う。
「おお!」
それはつい先ほどまで手の中にあったライター、それと全く変わらない形の物が落ちていた。これは、所謂あれだろうか? いやいや場所が変わったのだからもしかしたらこれが普通と言う可能性も、いやでも、いやいやいや! 先ずは拾おう。
「レアドロップって事かな? あるとは聞いていたけど初めてだな」
今までと全く変わらない一斗缶のドロップがライターだった。Tでもレアなドロップの存在は囁かれていた。ただどうしても報告件数が少ないし、ドロップした瞬間の動画も少ないため噂程度である。しかしこれは、売れるか分からないけど、お金になる事より嬉しい。
この感覚はあれだガチャだな、ピックアップガチャを回している最中に超超激レアな狙って出せない恒常SSRが出た時の様な、お腹がぐっと熱くなるような嬉しさだ。
「流石レア、記念に取っておこう」
かっこいい、普段は直ぐに黒い塵になってしまうからしっかり見られない謎ライター。実際に一斗缶が火を出しているからライターだと思うけど、使い方が分からない。これは絶対に売らない、この後普通にぽろぽろ出たとしてもこの最初のライターは売らないぞ。
「んーレアドロップは無しか、こんなもんだろ」
やっぱりライターはレアドロップでした。
ライター入手後釣りを続けて西側とは比べ物にならないほど順調に一斗缶が釣れたが出てくるのはガソリンタンク。嬉しいのだけど心に物足りなさを感じるが、レアドロップであることがわかっただけでも良いとしよう。
何せもう一斗缶には恐れを感じなくなっているからな、レアドロップが出た所為だろうか? 完全に俺の中で一斗缶が敵から獲物に変わった気がする。
「次は北かな」
自転車にガソリンを載せる。もうそろそろいっぱいだが、まだ時間はある。往復は無理そうだけど、このホールはもう少し調べておきたい。
ここは化物が居ないのか、それがとても気になった。
いかがでしたでしょうか?
初レアドロップはライター、大した価値が無くても違うと言うのは嬉しいものですよね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




