第43話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ありがとうございます」
俺は男性に1万円札を渡す。これは正当な報酬であってカツアゲではない。お金を使った事に割と大きな損失を感じているが、これは必要な事なのである。
「こちらこそ急のお願いありがとうございます」
「よし」
ニコニコと笑みを浮かべるおじさんはトラックに乗り込むと周囲をよく確認して走り出す。そのトラックの荷台には山のように荷物が載せて有り、俺の部屋から運び出した家電製品や机にテーブル、買って見たもののあまり使う事が無かった謎のインテリアなんかも載せられている。
廃品回収業者である。何でもリサイクルキャンペーンとかで30分乗せ放題1万円だったので頼んでみたのだが、あれだけ大量に積み上げて崩れないのはプロの技だなと思いました。特にロープを縛るところがかっこ良く、色々縛り方にも名前があるらしい。
「何やってんだい?」
「あ、ねーちゃん」
トラックを見送っていたら後ろから声を掛けられたので振り返ってみれば、少し呆れた様子のねーちゃんである。なんで呆れてるか知らないけど、今日は何時もよりラフな格好でとげとげと硬そうな感じがしない。革じゃなくて布製の服だからだろうか、羅糸はいつもその服の方が良いと思うの。
「……引っ越し先見つかったのかい?」
「いやーそれが全く」
じっと見つめていたら余計に呆れた表情になるのだが、何故だ解せぬ。あとその話題は俺の心に深刻なダメージを与えるのでほどほどにしてほしい。思い出しただけで不動産屋を自動的に呪ってしまいそう……。
「そうか、手伝ってあげようか?」
「いやいや、そこまで頼れないよ。これでも大人だからね」
「ふぅん? 無理はするんじゃないよ」
ねーちゃんに頼るのはなるべく最終手段にしたい。ねーちゃんのこと好きだからこそ頼り過ぎは良くないきがするのだ。何と言うか、甘やかされてダメ人間になるような未来が見えてしかたがない。
「うん」
今もじーっと見て来るけど、その目は俺のことを手の掛かる子供としてしか見てない感情が透けて見える。小さい頃に手を引っ張って歩いてくれた時からまったく俺を見る目が変わってない。だからこそ今も気軽に話が出来るんだけど、もしも恋愛対象として見てしまうような関係なら俺はコミュ障を発症して真面に話す事が出来なかったであろう。
そのくらいには美人なのだ、このねーちゃん。こわいけど……そうか、こわいから大丈夫なのか。
「無理はしないよ、最悪実家もあるし……やっぱ無いな」
手を振って別れて呟くが、実家は選択肢に入れてはいけない。
「あの家に居ると体調悪くなるんだよな」
何故ならあの家では何時も変な現象が起きるのだ。高校を卒業して家を出て一人暮らしを始めた頃は自分の感覚が酷く麻痺していたことを痛感した。家で夜寝ていても何も起きないのだ。
原因は分かっていた。実家にはいたるところに両親のお土産が置いてある。それはどれも発掘作業に行った先で貰って来た土産用出土品や、発掘されて売り物になっている古代の神秘の数々、きっと全部呪われている。
あの家にいた頃は体調が良かった日なんてなかった。
「あとは細々したごみを捨てて、捨てられない物は家に置いとけばいいだろ」
それでも完全に実家と縁を切るわけにもいかないし、今回みたいな時は便利なのが実家である。父さんと母さんが帰ってくるか分からないけど、たまには掃除をした方が良いかもしれない。あと姉ちゃんとの連絡手段が実家しかないからな、荷物を置きに行ったときにでもメモを残しておこう。
日本にいるよな? うーん、ちょっと心配になってきた。
「さぁ今日は不動産寄ってから行くか」
今日は不動産の日だけど、なるべく早めに荷物を纏めて実家に置いて来よう。
「神は死んだ」
この世に神など居ない。きっと居るのは悪霊の類だけだ。でなければ賃貸価格が上がっているわけがないのだ。前回見た賃貸の価格からみんな1万円くらい上がっていたわけですが、これは本格的に賃貸契約無理になって来た。
明日は異界だ。帰りに少し離れた不動産も見ておこう。ネットの価格とは違って良心的な価格の物件もあるかもしれない
「はぁ、意外とEマネーになるなゴミリサイクル」
家からゴミをカーゴに満載してリサイクルタワーにぶち込む、するとEマネーが増える。意外と増えるので、今日のお昼ご飯はおにぎりで決まりだ。到頭近所のコンビニも閉店してしまった。
最近では、コンビニぐらいの商品ならEマネーで手に入れられる人も増えているらしく、一向に進化しない俺のEマーケットと違って品揃えが良い人たちは動くコンビニと呼ばれている。なんでもEマーケットで購入した物をすぐに他人に譲渡すると、貰った人からEマネーが貰える、と言うより移動するらしい。
動画で言ってただけなので本当のところは分からない。だって僕ボッチだもん……悲しい。
「警察いないな」
異界ゲートに足を踏み入れ階段を自転車と共に下れば規制線が解除された大地下道、とても静かである。
「代わりに自衛隊の車両が一台二台三台……」
警察の姿が見えない代わりに自衛隊の車両が地下に増えているし、その車両を見張る自衛隊員も増えている様で、俺の顔を知らない人も居るのか様子を窺っていると、怪訝な表情で見詰め返された。
「まぁいいか」
なんだか心の壁を感じる眼差しだったのでさっさと自転車で奥に進むことにする。道中でいつもの警備お姉さんを見かけたので会釈だけしておく。会釈を返されただけで何となくハッピーな気分になる辺り俺はちょろい。ちょろくは無い。
「お疲れ様でーす」
いつもの場所で今日も自衛隊の人たちがいる。声を掛けると手を上げて応えてくれるとても気さくな人達だ。特に停められることも無くなったので完全に顔を覚えられただろうか、いや自転車でここを走っているのが俺以外にいないだけだろう。
「さて、今日も稼ぐぞ。家賃が必要なくなったけど、引っ越しは金かかるからな」
荷物を実家に送るのにも運送会社に頼まないといけないから金がかかる。安い運送屋に頼めば今日の稼ぎぐらいで運んでもらえるだろうし、きっちりカーゴいっぱいにして帰るとしよう。
「気配が無いな」
少し奥まで進んで釣り竿を振っていたがガソリンタンクは4つ、確定でガソリンタンクを出してくれるけど、前回の感覚だとそろそろ10体は釣れてそうなんだけど、気配が全然ない。
「自衛隊に狩られたかな」
自衛隊の調査が進んだ結果だと思えば納得も出来るが、狩りたい俺としては困った問題である。どうにもスケルトンやスライムより追加速度が遅い様だ。空き缶や缶バッタもそんなに数が多いわけでもないし、数が多いのはスライムやスケルトンの特性なのかもしれない。
「もっと前に行こう」
何時までも一斗缶が居ない場所に居てもしょうがないし奥に進もう。流石に奥までは狩り尽くしてないだろ。
それから一時間ちょっとだろうか、カーゴがいっぱいになるまで一斗缶を狩る事が出来たのだが、中央から釣るやり方では限界がありそうだ。
「結構奥まで行ったな」
もう少し進めば新しい化物が出るかもしれないと言う場所まで進んで、目印の石積みを作った後今度は少し壁寄りを歩いて戻って来たのだが、壁寄りを歩いていなければもまだカーゴがいっぱいになっていなかったと思う。
「やっぱ自衛隊の影響だろうか」
いや考えるまでもなく自衛隊の影響だろうな、俺が歩いている近くでは見かけなかったけど、反対の壁側から複数の人が歩いている気配がしていたし、率先して狩らなくても一斗缶なら向こうから走って来るので仕方ないと言えば仕方ない。
だからと言って何も思わないわけもなく、これがゲームで高レベルに狩場を荒らされる低レベルプレイヤーの気持ちなのかもしれないと思い思わず笑えてしまう。ちょっと化物が少なすぎて気が抜けているようだ。
「お疲れさまです」
「あ、お疲れ様です……何かありました?」
向こうから話しかけてくるのは初日以来だろうか? あれは話しかけられたと言って良いのか分からないけど、話しかけて来るって事は何かあるんだよね。何もないのに話しかけてくる人間なんて居るわけがない。
と言うわけでなぁに?
「いえ、良くお見掛けするので最後に挨拶をと思いまして」
「最後?」
最後? てか特に用事が無かっただと!? この希少種め! 貴様さては陽キャだな? 陽キャなんだろ。
「はい、明日の午前中をもって撤収となりました」
なるほど理解。
「あ、そうなんですね。何かわかったんですか?」
「入り口からこの辺りまでの詳細な調査が終了しましたが、当初の報告にあった現象は再現しませんでした」
「現象?」
「ええ、突然強力な化物が出現すると言うものです。突然の出現も強力な個体も発見できませんでした」
あー……なんかそんな話をしていた様な、なんかすごく強力な化物に突然襲われたんだっけか? 俺も特に可笑しな化物は見てないな。いや、化物は総じておかしいし、俺にとってはどれも脅威でしかないんだけどさ、それでもそんな突然現れる様な化物いたかな……あ。
「あースケルトンとか発見おくれることはありますね」
「あれはスケルトンの特性の様ですね、他の異界でも確認されています」
そうなんだ! あれって俺の注意力が散漫なんじゃなくてスケルトンの持つ特性だったのか、気が付くとすぐ近くに居たりするの変だなとは思っていたけど、化物が持つ恩恵みたいなものなのかな。
となると、一斗缶とかの恩恵は何だろう? もっと強力な個体になると凄い恩恵持っていたりするのか? ……ちょっと先に進むのが怖くなってきた。
「なるほど、強力な個体ってのはどんなのです?」
「詳細は分かりませんが複数のB級ハンターが手も足も出ないほど強力とのことです」
「うーん、見たことないですね」
「無いですか……」
無いな、B級と言えば武装も出来るしある程度以上の攻撃的な恩恵もあるんだろうし、突然襲われたと言っても手も足も出ないっとなると、一斗缶もバッタも該当しないだろうし、そうなるともっと奥の方から連れて来たのか……余計に怖くなってきたんですが。
「ええ、自分はC級なんで、もしいたら死んでますね。以前事故で死にかけましたけど」
「大丈夫だったんですか?」
「特殊な薬で死にかけから復活しました。アホほど治療費が高かったですけど」
今思い出すだけでも忌々しい、必ずやかの邪知暴虐な……とはもう思っていない。殺す気満々で火の玉ぶつけたらしいから多少むかつくけど、今は生きてるし後遺症も無いからね。もう会う事もない坊やの事に心のリソースを割きたくはない。
だいたいそんなこと気にしてる暇なんて無いんだよ、借金もあるし、家も追い出されるし、実家は完全に呪われてるし、誰かに愚痴る事すら怠いと思ってしまう。それでも会社に毎日出勤していたころより心が軽いのはこれ如何に? もしかしてあの凄い薬は心の傷も治してくれるのだろうか。
「……もしかして治験治療薬ですか?」
「たぶんそれです」
治験治療薬、たぶんそれの事じゃないかな? 自衛隊が狩ってると聞いたし、この自衛隊の人が知っていても当然だろう。あれ安くなりませんかね? と言っても値段を付けてるのは自衛隊じゃないんだろうけど、大地下道も奥に進めばそんな物が狩れるのだろうか。
「ありがとうございます!」
「おん?」
びっくりした。なんで敬礼? お礼? ちょっと良く分からないんですけど、落ち着いてもらえます? ほら大声出すから離れた場所に居た同僚さんも集まって来たじゃないですか。あぁそれだけ並ぶと筋肉の壁ですね帰っていいですか? え? 詳しい話をする? いや遠慮したいなぁ……。
どうやらあの馬鹿高い治療薬品は、化物との戦闘で自衛隊でも多数出ている怪我人の命を助けているらしく、その使用には治験でとられたデータが活用されているらしい。あんまりにも怪しい薬でその正体を知っている人は誰も治験に協力しなかったらしい。
そのほか知りたくない事実を知ったわけで、なぜみんなそうやって嬉々として教えてくれるのか、僕にはわからない。
いかがでしたでしょうか?
羅糸はまたしても知りたくない事実を知った! 知識が1あがった! ストレスがたくさんたまった!
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー