第42話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
俺はとりあえず考える事を止めて、最近溜まってる鬱々とした気持ちを店長にぶつけておくことにした。おれはわるくないよね。
「そりゃ……悪徳不動産に摑まったな、最近増えてるんだよ」
「そうなんですか?」
増えてるのか、俺だけじゃないと思えて少しだけ心が軽く……いや軽くならんな? 結局結果は変わらいわけだから。
それにしてもなんで増えてるんだろう。
「国からの援助とか色々あってな、今住んでる奴追い出して帰還者を住まわせた方が儲けられるんだと」
「マジか……だからどこの不動産も安い部屋が無いのか」
だからあっちこっち不動産を回っても希望通りの部屋が見つからなかったのか、世の中がここまで腐ってるとは思わなかった。いや、俺が甘いだけかもしれないけど、ちょっと考えられない状況だ。
「金額上げて帰還者住まわせた方がいいからな」
「住むとこ無いとか、ホームレスコースじゃねぇか」
「あぁ最近それも急増して問題になってるんだよな」
そうか、問題になってるのか、一時期はホームレスが減ったとか言っていた気がするけど戻っちまったわけだ。
でもそうだよな、儲けようと思えば国が家賃全額補助してくれる帰還者に貸した方が安定するし儲けられる。どうせ控除とかそう言うのもあるんだろ、そりゃみんな飛びつくよな? 今みたいに明日何が起きるのかもわからない緊急時ほど人の本性が出るって言うし、俺だってその場になって見れば何をするか……いや分からん、想像もできない。
「どうしよう」
どうしよう。
「あ、いくらホームレスになるからって異界ホームレスになるんじゃねぇぞ? あぶねぇからな」
「異界ホームレス?」
なにそれ、なんとなく想像は出来るけど、てかもうホームレスになることは決定ですか? 全然否定できないんですけど。
「ああ、一部の安全な異界に住みだした奴らの事だよ。そっちも問題になって来てな、ただ取り締まる法律もねぇし、国は取り締まる気も無いんだろうな」
想像通りだった。
確かに異界の中には安全な異界と言うのも存在するとは聞くし、危険な外に農地を作るより異界の中に農地を作った方が良いという話も聞く。安全な異界には一日中明るい太陽がさんさんと降り注ぎ、綺麗な水が湧き出し流れ、熱くも寒くもない程よい気温の場所もあるとか。その上場所によっては化物も居ないという、居ても無害なスライムで実際Tでは異界農業系の動画も出て来ている。
でも俺の行ったことがある場所は……。
「江戸川大地下道は無理でしょうね」
無理だな。
スライムエリアは観光目的の人が多いし、奥は絶対に無理だ。階段の所なら安全な気もするけど、あの警備お姉さんに怒られるのが関の山だ。俺にはお姉さんに怒られてまで居座る度胸は無い。怒られなかったとしても残念な人を見るような目で見られそうで、Mの気質が無い俺にはどの道耐えられない。
「これでラストっす!」
「ありがとうございます」
「いえいえっす!」
あっという間にガソリンは下ろされてきれいに並べられている。こう見ると中々に壮観な数だ。これで少しはねーちゃんも喜ぶんじゃないかな? 喜んでくれたらいいな。
「それじゃまた」
「おう! 頑張れよ」
手を振れば店長はひらりと、店員さんはぶんぶんと勢いよく振替してくれる。それだけで俺の心は軽くなった気がした。我ながらちょろすぎる。
「異界ホームレス……なるほど?」
しかし悪い考えではない。少なくとも普通のホームレスよりも楽しそうではないだろうか、今の家を出てしまえば江戸川大地下道にこだわる理由は薄いので、新天地に安全な異界を選ぶのは割とありじゃないかと思う。
サステナブルマーケットから自転車で帰ってくる間もずっと考えていた。正直今の状態で部屋を借りられたとしても、あの価格帯では状況が改善しなければ数か月と経たずにホームレスである。ならばまだ安全な異界に引っ越すと言うのは非現実的な話ではない。
「ただいまーっと」
非現実、言っててあれだけど、現在進行形で非現実的な事のオンパレードなのだから現実もくそも無い気がする。ローテーブルの上に置かれた賃貸契約解約通知書なんて誰が予想するよ、少なくとも俺はしなかった。
だが現実である。
「片付けかぁ」
さっさと部屋を片付けて出て行かないと違約金とか強制退去だの色々脅し文句が書いてあるのだ。怖すぎである。
片付けは実家に荷物を送って適当に入れておけばいいだろうとは思っているので、その辺はあまり気にしていないが唯々面倒、とりあえずは先に解決しておかないといけない物を優先しよう。疲れているけど仕方ない。
「あったあった」
会社から持ち帰った荷物から引っ張り出した書類は物品リスト、赤で射線引いた物は大輔が持って行ったと連絡が来た物で、青い線は俺が持って行った物、圧倒的赤の多さである。
とりあえず必要なのはホームレスやっていくために必要な物、要はキャンプ用品だ。この辺は大輔がまとめて持って行ってるけどまだ残っている。元々の量が多いんだよな、接待とか社員旅行とかで使うらしいけど、俺は使った覚えがない。
「うーん、キャンプ用品はまだまだあるな、災害時用発電機、災害用IHセット、非常持ち出し袋」
結構な量があって書類の束は厚いけど、これだけ調べた高橋さん達は凄いと思う。書類に書かれたコードナンバーと名前をリストにまとめて送っておけばそれで完了、後は持って帰るだけ。しばらくした高橋さんから物品回収のメールが俺と大輔に届く、最近も大輔が持って行った物が偶にメールで届くが、大体アウトドア用品と酒が多い。
「最悪を想定しないといけないとか……いや、もう一度不動産屋に交渉してみよう。行き違いもあるはず」
何だかんだ世の中捨てたものじゃないと思うので、もう一度トライして、
「駄目でした」
あの不動産屋嫌い。目の前で化物に襲われてても助けないと心に決めた。
まぁC級なんで救助義務ないけどね! あはははは! C級でよかったなー。
「それにしても門前払いとは思わなかった。やっぱり悪徳不動産だったか……」
今までの人生で初めて門前払いと言うものをくらった。上司の代わりで怒られに客先に行ったときだって門前払いは無かったというのに、俺はもう不動産屋と言うものを信用しない。とりあえず疑ってかかる事を心に決めた。
「あってよかったリサイクルタワー」
リサイクルタワーに普通ゴミじゃ捨て辛い物をシュート! エキサイティング! ……あ、少しEマネー増えてる。
「よし、これを繰り返していこう」
本格的に片付けしないといけないことが決まったからな、バッテリーとか電池とか、まだ中身が入っている殺虫剤の缶とか、ちょっと捨てるのが面倒な物を入れて行けば片付けは結構早く進むと思う。金属系のゴミとかも捨てられる日が限られているからな、あとは粗大ごみくらいか。
「本格的に考えないとな」
片付けを早めに終わらせたらホームレス出来る場所を探さないと、とりあえずネットで野宿できそうなところを探すか、それともそう言う施設を探すか、あぁやっぱり異界は涼しい。
警備のお姉さんが何か若い子と話してる。ナンパかな? お姉さん未成年の女の子に手を出したら!? 睨まれたんですが、え、こわ……。
「お疲れ様でーす」
お、自衛隊の人に挨拶したら敬礼が返ってきた。俺も敬礼しておこう。大輔が敬礼は右手でやるんだと言っていたな。
それにしても自衛隊も大変だな、こんな危なっかしい異界の中で調査とか、気が休まらないだろうに。
「あそこを拠点に周囲を調査してるのか、何を探してんだろ」
もう見えなくなったので自転車から降りる。この辺はギリギリまだバッタが出るので注意して進む必要があるが、自衛隊の調査が始まったおかげで静かなものだ。
「む! ……ガード!」
フラグだったか、何時でも使えるようにフライパンを持っていて正解だった。軽く取り回しが良いこのフライパンは買ってよかった、受けても凹まないし、おっと!? 上に跳ね飛ばした缶バッタが落ちてきた。
すでに黒い塵が出始めている。
「暗いと何の金属かわからんな」
大体の色は分かるけど詳しくは外に出て確かめないと分からない。こういう所もガチャっぽくて面白いとも言える割れメタルだけど、本当に金とか出るんだろうか? Tでは出たとか言う人も居るが、どうにも眉唾なものが多い様だ。
金でも出てくれたら問題は一発解決なんだけどな、俺は真面目に少しづつ稼ぐとしよう。
「さて、秘密兵器を出すか……」
そんな真面目に稼ぐ俺に幸運を授ける! かもしれない秘密兵器を今日は持って来てある。自転車を停めてカーゴに突っ込んでいたブツを取り出すと、袋から取り出す。
「折り畳みつりざぁおー!」
そう釣り竿である。これで今から一斗缶を釣るのだ。この辺はもう一斗缶エリアに完全に入っているが、中央なので一斗缶も少なく、狩っているうちにさらに少なくなってきている。安全の為にも複数を相手にしないようこれで釣れば、より奥に入る時も安全に移動が可能と言う今後の事も考えたわけだが、リールの取り付け部分が少し固い。
「大輔は何を思ってお土産にこれを買って来たんだろう」
貰ったはいいが使ってなかったからネジ部分が渋くなっている釣り竿。釣りなんてしない俺にどうして釣り竿をお土産にしようと思ったのか、大輔の考えている事は分からないが、意外なところで役に立つものである。
まぁ釣り自体は昔父親とやっていたので使い方は問題ない。なぜか毒のある魚しか釣れないと言う事に恐怖を覚えて以来、自分からやろうとは思わないんだけどね。
組み立ててテグスの先に大きめの重りを付けて完成、予想が正しければ一斗缶がこの重りの引き摺られる振動に反応するはずである。
「ふって、投げる!」
伸ばした竿がしなりロックを解除したリールから糸がのびて暗闇に重りが消えて……音がしない。割と地面が柔らかい所為か音が吸収された様だ。近くなら聞こえたんだろうけど、結構奥まで飛んで行ったようだ。
流石に重りが空を飛んでいるとかは無いだろうから後はリールを巻く。
「引っ張る……お! 来た」
足音が聴こえ始めた。もっと早めに撒いてみよう。って言ってる傍から姿が見えたし向こうも気が付いた。ならあとは迎え撃つだけなので竿をその場に投げ置きその場から少し離れる。
「こい、こい! 交換!」
走る! 振り向く! 振り向いた先には、足をばたつかせながら頭からガソリンを噴き出す一斗缶。着地したらもう動くことは無いので黒い塵が出始めたらドロップ回収に近付く。
「……うんうん、良いな」
竿の方まで少しガソリンが届いたようなので、次からはも少し早めに移動を開始した方がよさそうだ。貰い物だが、何かの拍子にでも炎上したら釣り竿がもったいない、程よく小ぶりの釣り竿は使い勝手がいいので無駄にはしたくないと思えた。
大輔、聞いてるか? お前の釣り竿で一斗缶が釣れたぞ? リアルにそんなもの釣れたらブちぎれそうだけど、役に立ってるからな。聞こえてたら聞こえてたで気持ち悪いけど、これは完全にパターン化出来たな、ここからは慢心せずボーナスタイムを味わいつくそう。
「やっぱり振動か、素足だからかな?」
それにしても俺の予想も当たるものだな、これで一斗缶が地面の振動を当てにして敵を補足している事が確定したわけだ。
「今日は早めに帰って不動産巡れるな」
それからしばらく釣りを楽しんだ俺は以前より早くガソリンタンクを集めて帰路についた。しかし不動産巡りで収穫はまったくなく、ハンターであると話すと余計に賃貸契約が難しくなることだけが分かったのである。
世の中世知辛い。
いかがでしたでしょうか?
想像以上に世知辛い現状に振り回される羅糸、彼の明日はどうなるのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー