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第4話

 はじまります。楽しいで貰えたら幸いです。





「つかれた……」


 目の前に死骸が一つ、3倍くらいがんばっていたようだが、普段の仕事量からの計算であり平均値には満たないだろう。それでも普段からそのくらい働いてくれれば俺も楽なんだけどな。


「あ、はい。そうですか115の見積もり分までは足りるんですね? はい、ええ……それはあまり期待しない方が良いと思います。はいその件です」


「ちょっとコーヒー買ってくる」


 大輔は限界か、俺達が確認できる見積もりで駄目そうなのが2割、こっちは謝罪電話を入れるしかない。お客さんも馬鹿じゃないから現状を考えればわかってくれるだろう、たまに糞は居るが料金も発生してないわけで、問題は課長と部長の案件だな、そっちはどんなやり方してるかわからんので放棄。


 倉庫管理はまだ届いてない商品があるからと言ってるが、海上輸送で時間のかかってる荷物は諦めて考えた方が良いだろう。なんせ外国が見つからないんだ、そこから出発した船が都合よく日本に着くとも思えない。


「はい、こまねる雑貨輸入です。あ、お世話になってます。はい、はい、ええ、大変なことになってます」


 お得意さまからの電話だが、予想通り在庫を確保しておきたいと言う事らしい、正直お客さんの要求通りの数は難しいだろう。すでに同じような依頼が多数、断った回数は数知れず、俺の胃が悲鳴を上げている。これがクレーマー気質な糞客ならどうでも良いんだが、小売店の人にそれほど悪い人は多くない。大口は部長と課長が独占してるからな……その電話もそのうちこっちに来そうで怖い。


「はい、お茶の在庫は調べて確保できそうな数をメールしておきます」


 とりあえずお茶以外の商品は少数なので今の在庫で問題ないけど、いくつか種類のある茶葉は人気だからお得意様とは言え無い袖は振れないのだ。心苦しいがある程度調整が必要になってくるのだが、人気があるから在庫も多く確保してあるはずだけどちょっと気になるんだよな、あとで倉庫に確認要っと。


「ふぅ……大輔遅くね?」


 それにしても大輔はどこまでコーヒー買いに行ったんだ? だいぶ時間が掛かってるが……まさか部長と課長がいないことを良い事にまたパチ、いやスロットだったか? まぁどっちも変わらずサボりなんだろうが、電話するのもめんどくさいから別にいいか。


「羅糸大変だ!!」


「うるさ」


 こいつ何時も元気だよな、どこにそんな元気が有り余って……サボってるからか。


「大変なんだよ!」


「なにが?」


 コーヒーだけじゃなくて色々買って来てるが何が大変なのか、と言うかコーラの入ったレジ袋そんなに乱暴に扱ったらこの間みたいにまた机の上をコーラの池にするぞ? だいじょうぶかな。


「会社の人間が全然来てない!」


「いやいまさら」


「人事も総務も管理部も営業のどこも人が居ないんだよ!」


「……マジで? 本当に今日休みだった?」


 いやいや、スケージュールを何度確認しても休みじゃないのは確かだし、それで人が来てないって本格的に俺たちいじめられてるんか? もしかしてみんな今頃朝から宴会でも……社内の人間の性格から完全に否定できないんだけど……でも流石になぁ。



「それとさっき倉庫から携帯に電話来たんだけど、今日休んでる人と連絡が取れないらしくて」


 大輔のやつ倉庫管理部と妙に仲良いんだよな、異常があるなら直接連絡して欲しいんだけど、気になる程度だと大輔を通して来るくらいにはやり取りがある。相談程度の話しなんだろうけど、そうか倉庫管理部で連絡付かない人間が居るのか、バックレかな? でも今はバックレバイト居なくなったって聞いてるし、ふつふつと嫌な予感が沸き上がってくる。


「……課長と部長に連絡してみるか」


「おま、マジかよ……勇者だな」


「そこまで言われることじゃないだろ」


 俺だって本当は連絡なんて入れたくない。入れたくないが背に腹は代えられない。お局に女性の事務員さんに部長課長、俺らと同じく販売先の対応とかやってる社員も来てないし、何かの嫌がらせなら電話したらアクションあるだろう。連絡したくないけど、勇者と言われるほどではない。


「第一声が罵声と怒声の電話とか掛けたくねぇよ俺……」


「気持ちはわかる……」


 勇者と言われるほどではないがその気持ちは良く分かる。どんな時でも電話を掛けると必ず怒声と罵声が口から出る生物が部長と課長なのだ。その所為で極力誰も電話したがらないので必要な時は押し付け合いが始まり、最終的にお局の携帯から電話をかける事になる。お局はなぜかその罵声が飛んでこないのだが、その報酬にお菓子をみんなから徴収する彼女は最近腹回りが大きくなっていた。


「ごくり」


「いや、声にだされても……出ないな」


 そんなどうでも良い事は良いとして、唾を飲み込む音を声で表現するくらいには大輔にも余裕があるようだ。なら仕事しろと言うものだが、覚悟していないとあの怒声と罵声は精神にダメージを与えるから今回は見逃そう。


「ふぅ……」


「おまいが緊張するんかい」


 出ないなと呟くも、しばらくそのままコールを鳴らし続けるがやっぱり出ない。スマホを耳から離すと聞こえてくる溜息に思わずジト目で大輔を見てしまうが、その顔は心底ほっとしている。


「するだろ、スピーカーにしなくても外まで怒声が聞こえるんだぞ、考えただけで胃が痛くなる」


 それはそう、何だったら隣の部屋に居ても聞こえて来るくらいにはでかい声だ。どこからそんな声を出しているのか、それともうちの会社の壁が異常に薄いのか、どっちもな気がするが本当に頭おかしい怒声なのだ、そうしないと生きていけないような生物なのだと俺は最近諦めている。


「……駄目だな」


「……神隠し」


「うーん、考えたくはないが」


 しかし部長も課長も電話に出ない。社員からの電話でストレスを発散することで生を実感しているような二人が、普段の三倍コールしても出ない、これは異常事態で間違いないだろう。何だったら今すぐ会社から出る必要があるくらいには異常なんじゃないだろうか、神隠しか、大輔が蒼い顔で震えているが、もしそうだとするならこの会社呪われ過ぎだろ。


「どうする? 警察? 消防? 救急?」


「うぅん……まぁとりあえず今日はクレーム対応だな」


「いいの!?」


 すっごい驚くじゃん。てか警察はまだしも消防と救急とか迷惑だからやめような? 俺より年上なのにパニックになるとほんと斜め上の行動するんだよなこの人。この間もコピー機の紙不足のエラーで壊れたとか言って分解し始めてたからな、色々不安だ。


「今日は警察に連絡しても電話パンクしてんじゃねーか? それなら後で電話してもいいだろ、大体連絡付かない事なんて偶によくあるし、様子見だ様子見」


「あーまぁ、確かに」


 俺も平常な精神とは言えない、あの二人が同じタイミングで連絡できないと言う事がないだけで、どちらか片方が音信不通になることは偶にあるのだ。今までにあったのは女性関係とギャンブルと奥さんに監禁されていたくらいだ。


 特に問題はない。


 問題なのは警察だろうな、テレビでも行方不明者が続出とか言ってたし、交通事故も多発だとかも言っていた。今日の警察はデスマーチ中なんじゃないだろうか、そんなときに電話したところで真面に対応してもらえるとは思えない。


「それよりそっちの資料くらい終わらせてくれよな?」


「……スゥー」


 そんなことより今は俺達の仕事の方が大事だ。総務や営業が居ないだろうとクレームや問い合わせの電話は来ているはずだからな、その電話が通じなければ客は手当たり次第に電話をかけ始めるはず、そうなると全く関係ない電話も販売部に掛かってくる可能性が高い、と言うか掛かってくる。


「また総務部電話線無い無い事件が再発する、今度は営業に人事部も追加だ。もしかしたらマーケ部も……」


「ひぇ」


 総務部の電話線無い無い事件は本当に恐ろしい事件だった。庶務課の女性社員が電話が多過ぎると言って電話線をハサミで切ったあの事件、普段から電話が多い庶務故に電話が通じないと業務に多大な支障が出てくる。さらにその対応方法に感銘を受けた総務部の方々で社員がデスクの電話線を抜いたのだ。結果は電話の氾濫、関係ない部署への鬼電である。


「少しでも早く俺たちはフリーな状況にならないといけない……でなければ」


「でなければ?」


「……しぬ」


 割と洒落にならない、人間はストレスで死ぬ生き物なのだ。終わらぬ仕事、鳴りやまぬ電話のコール、電話に出たら突き刺さる不平不満の罵声、心は死ぬ。


「オーケーボス! こっちの資料は任せろ! あとは全部任せた!」


「しね!」


「ひどい!?」


 冗談を言えているうちはまだ大丈夫、なるべくこの状態を維持できるようにしておこう。先ずはそっと大輔の仕事の資料を増やしておこうかな、滅多に出ない在庫とお客リストの確認もしておいてもらおうかな。





「はい、お疲れ様です。そうですねとりあえず今電話しても警察がすぐ動いてくれるかわからないので様子見します。と言っても俺に決定権はないので、こっちで出来るのは新しい見積もりは断るくらいで、はいそれじゃ失礼します」


「おわったな」


 最後の電話が終わった。倉庫管理部の人から今後について相談の電話であるが、なんで販売部に電話が来るのか問い質したいところだが答えはすでに出ている。どうやら今日休みの総務課長とは連絡が取れたらしいが、仕事じゃないからと切られて着拒された様だ。


「業務時間がな」


「ざんぎょうはいやでござる」


 俺も残業は嫌だがまだ少し仕事が残っている。かと言ってこんなもの片手間で終わるので大輔は帰ってもらって構わない。と言うか居ても何もすることが無いので帰ってもらって構わないのだが、目の前のデスクの上で上半身を溶かしている大輔は手だけ挙げてテレビのリモコンを弄っている。


「特に何も無いから帰っていいよ?」


「体が動かぬ、ちょっと休んでから帰る」


「それはわかる」


 疲れすぎると帰るのも怠くなるのはわかるんだが、テレビのチャンネルを変えて遊ぶんじゃない。どこのニュースもやってることは変わらないから、ちょこちょこ変えても意外と内容は伝わって来るんだけどね。


「うわ、結局海外産のSNS全滅らしいな」


「なんで?」


 今日出す必要があるメールをコピペで作って送信していると大輔が小さく叫び起き上がる。どうやらSNSが使えなくなっている様で、海外産のSNSと言うが日本で使われる大半のSNSは海外産であり純日本産は淘汰されているのが現実だ。


「サーバーが日本にないからとかなんとか、不人気国産SNSは使えるからそっちに人が集まってるらしい」


 なるほど、確かに日本に本体が無いのなら使えるわけがないか、どうやらサーバーを日本には置いてなかったようだ。地震が多い国だとリスクが高いのだろうか、まぁそんな事は良いのだが、そうなると俺が使ってるSNSも多分使えなくなってるんだろうな。


「今どこが人気なの?」


「去年できたSNSの【T】とか言うパクリSNSが一番人気だってさ」


 てぃー……どう考えても某SNSを意識した様なアルファベット一文字のSNS、スマホを手に取って調べてみればすぐに出てくる。アプリのSNSランキングで1位になっているな、ん? アプリのダウンロードは出来るのか、これは助かるけどこの内容って……。


「……これか、文字と動画だけ? なんで画像じゃないんだ。ほぼ劣化版じゃないか、でもサブスクとか無いし動きも快適だな」


「そうそう、その快適さで人気らしい。今もサーバー強化してるんだと」


 俺が使ってるSNSとあまり使い方が変わらないな、使いやすくはあるんだけど何で文字と動画の二つに限定した? そこは画像や写真があってしかるべきでは? でも意外とサクサク動いて快適だな、ダウンロードもえらく早かったし悪くは無いな。


「なんでティーなの?」


 へぇ、認証もサクサクですぐにアカウント作成終わったな、ちょっと不気味にすら感じるけど楽で助かるは助かるか、結構異常事態関連の動画が出てる。陥没にドローン入れてみた、恩恵試してみた、緑色のタワーをぬるぬるにしてみた……最後のはなんだ? ローション? わけがわからないよ。


「社長の名字が田中らしい」


「……金持ちの考えることはわからん」


 いや、SNSの名前を社長の名字の頭文字にするお茶目感覚的には、ローションぐらいはっちゃけた使い方された方が本望なのかもしれない。しらんけど。


 でも、割と悪くないのかな、ごちゃごちゃ機能が増えて最近のSNS使い辛かったし、乗り換えるにはちょうどいいのかもしれない。ん? 異常事態を命名してみた? あー確かにみんながみんな好き勝手名前つけるのもあれか、おや、SNSの公式アカウントが高評価してバズってる。


「なぁ大輔……寝てる!?」



 いかがでしたでしょうか?


 じわじわと異変が目に付き始める。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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