第38話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「よ、よう……本日はお日柄も良く」
ガソリンを自転車に載せてサステナブルマーケットまでやって来たら日焼けした化物が居た。
「……きもちわる」
いや、よく見ると背中を丸めて両手の平を組み揉みながら、引き攣った様な笑みを浮かべた気持ち悪い店長だ。気持ち悪い、何がどうと言われたら困るがとりあえず気持ち悪くて怖い。この引き攣った笑み? を夜中に見たら確実に通報されるんじゃないかな……。
「んだとこら!!」
「アニキだめっす! 落ち着くっす!」
おお!? いつもの店長に変わった。いやちょっとタコっぽいかな、顔が真っ赤になってるし、いったい今日の店長はどうしたというのだ。夏の暑さにやられて頭おかしくなったのか? いつもの店員さんが後ろから羽交い絞めにしてるけど、それ絶対に離さないでね? 確実に飛び掛かられてフルボッコにされるから。
「お、おうそうだった。おまえな、姐さんの弟分ならそう言えよ!」
「何の事?」
アネサン? オトウトブン? 何の話ですか? 何となくねーちゃんの顔が脳裏をちらつくんですけど、もしかして関係ありますか? ありますよね、知ってた。
「昨日電話があったっす! アニキが売れない自転車売り付けようとしてたことがバレてクッソ怒られてたっす」
「あぁ、目の前で電話してたやつか、ねーちゃんのガチギレボイス久しぶりに聞いたよ」
うん、電話してたね俺の目の前で、と言うか売れない自転車を売り付けようとしていたんですね? そこんとこもっと詳しく聞きたいところだけど、ねーちゃんが怒ってくれたから水に流してあげよう。何と言うか、ねーちゃんのガチギレ声って心のもっと深い所にダメージ喰らうような気がするんだよな、ライフポイントへの直接攻撃効果とかあるんだろうか。
「どういう関係なんだよ、まぁ分割でも売れりゃいんだけどよ? 姐さんの知り合いなら支払いも安心だろうし」
「関係? 小さい頃からお世話になってるような、そんな感じ」
関係と言われても困る。何かと仕事が忙しい両親に、歳の少し離れた姉も学校に友達にと忙しく、俺の相手もしてくれる人はいなかった。そんな俺を心配してくれたのがねーちゃんであり、一番遊んでくれた記憶があるのもねーちゃんだと言うくらいの関係でしかない。
「あー……、一番ダメな奴じゃないっすか」
「うっ……」
どうやら彼らにとって一番駄目な関係らしい、何がどう駄目なのかは今一つ分からないけど、俺がぞんざいに扱われたらねーちゃんも多少は良い気分しないだろうなぁとは思う。
「ねーちゃんもガソリン困ってそうだから、しばらくは頑張るからさ、がんばれ」
親切には親切で返すのが普通だと思うので、俺もねーちゃんが困っているというのもあってちょっと頑張ってる部分もある。これを言うとまたしかめっ面をされるので言わないけど、なので店長もそんな落ち込まないで頑張ってほしい。きっとそうすればねーちゃんもそんなに怒らないんじゃないかな? しらんけど。
「あぁ……で? 今日持って行くか?」
「いいの?」
「整備はしてる。あとは登録して分割支払いしてもらうだけだ、12回払いで良いか?」
12回払い……それでも一回1万か、でもその効果は確実にあると思う。なんてったって電動自転車で楽々な上に積載量が今の自転車よりずっと多い。そうなれば一回の売却益が跳ね上がる……はずなのだ。
「そのくらいなら」
「あとその自転車も下取りしとくぞ、てか登録してねぇな」
「会社から貰ってきたやつだからね」
そう言えば自転車って何か防犯とかで登録するよね。会社の持ち物だし、会社がしてないなら貰って来ただけの俺がしているわけもなく、登録している事を示すシールだってどこにも張られていない。もしかして違反だったのか? でも警察に何も言われて無いから大丈夫だろう。
「いや、それでもちゃんとやれよ……ん? 灯りはどうした?」
「化物にやられたんだよ……すまぬ」
すまぬ、ちょっとカッコイイライト、自分と同じ名前だと余計に申し訳なくなる。普通なら暗い場所は危ないからと、照明は必須の装備になる物だが、こと異界に関してはその常識が通用しない、安全の為にも絶対に異界に照明機器は持って行かない。
「そんなこと気にすんな、命が大事だ。しかし……割といいモデルなんだが、損傷ありだとちと安くなるぞ」
「いいよ、無料だし」
結構良いものだったんだな、まぁ無料で貰ったものだから全然かまわない。少しでもお金になるならそれでいいのです。
「とりあえず一万な」
「うぅ、高い」
高い……一気に財布が軽くなる。
「んで、こっちがガソリン代」
「わーいふえたー」
3000円ゲットだぜ!急に財布が暖かくなった気がするよね、こう何と言うか諭吉一枚も良いけど、枚数が増えるとそれだけで強くなった気持ちになれると思うんだ。
そう思っておかないと辛いというのもある。なにせ今日の収支はマイナスなんだから……。
「ほんとギリギリなんだな、いいか? こいつの荷物積載量はなんと100キロだ。特注品だが買い手がいなくなっちまって流れてきたオフロード仕様の電動カーゴ自転車でな、三輪で安定性も良く公道を走っても問題はねぇ」
「結構デカいよね、始めて見たよこんな自転車」
正直頭のおかしい自転車だと思う。
荷運びを前提にした自転車だと言うカーゴ自転車を持ってくる店員さんがサムズアップしてくるが、人の重さを別にした積載量が100㎏とか頭おかしいとしか思えない。今まで使っていた貰い物自転車もそれなりに良い自転車のはずだが、30ℓのガソリンを積むと軋んでちょっと怖かった。
それに比べて新しい自転車の安定感と言ったらタイヤも太くフレームも太い、どこを見ても安心感しかない。前に突き出した荷物用の籠も大きく、三輪車と言う事もあって安定感を感じる。三輪車なんて乗るの幼稚園以来だろうか。
「日本は狭いからな、ニーズに合わねんだよ。企業向けには少し売れたんだがなぁ?」
「まぁ最近の流行りだと企業は喜びそうですね。それにしても色々ゴツイですね」
「特注品だからな、キャンプ用品をたくさん積んでも良い様にだとさ」
「なるほど……」
キャンプ用か、キャンプは流行っているからな……いや、流行っていただな。なにせ人がいないところには化物が良く出るので、今のご時世でキャンプなんてやる一般人はいない。A級のハンターなら狩りにキャンプしそうなものだけど、圧倒的に人が少ないからキャンプ需要もほぼ無いだろう。
街中で運搬に使う分にはありなんだろうけど、それだったら大きなリヤカー付けた方が輸送量は上がるし安全だろう。わざわざ自転車と一体化させる意味は薄い。
「だが、こいつには致命的な欠点がある」
「けってん?」
あるんだ欠点。
まぁ何でも一つにまとめる一体型は故障が多いというし、これもそう言う欠点があると言う事だろうか? 大輔が昔はテレビデオなる物があったと言う話をしていた時に言っていた事なんだけどね。ちなみにVHSってなんだと聞いたらショックを受けていたのは懐かしい話だ。
「それがっすね、100㎏も載せられるように作ったはいいすけど、前籠じゃないすか」
「前籠ですね」
そう、この自転車は前輪が二輪になっておりその間に大きな荷物入れが取り付けられた不思議な形をしている。海外の自転車でなら見たことある様な気もするが、日本ではあまり見ない構造なのだ。カーゴ自体も頑丈そうで、布製であるがしっかり閉められるファスナー付きの蓋まで付いている。
「キャンプ用品満載したら前が見え無くなったっす。てか乗り切らなくて溢れるっす」
「あー……?」
キャンプ用品を満載したら前が見えないとはこれ如何に。
「鉛とか石ならまだしも、嵩張る物を乗せたら最大積載が活かせねぇんだよ。無用の長物とまでは言わんがな」
あ、100キロ載せられるけど載せる物が軽くて大きな物なら重さの前に容積がオーバーしてしまうと? さらにキャンプ用品の中には長い物もあったりして、確かにそんなものが前籠に入っていたら邪魔で前が見えないかもしれない。
……どうして前籠にした? よく考えれば運送業の人が使うエコな自転車も後ろにリヤカー付けてるじゃないか、前に付けてる自転車なんて見たことない。あるのかもしれないけど、前方がちゃんと見えないんじゃ危なくて仕方ない。
なるほど、それが売れ残った原因か……まぁ俺の運ぶ物はガソリンタンク、元々籠から溢れさせてなんて運べるような代物じゃないからいいけど、そりゃほぼ新品でも半額以下になるわけだ。元はいくらで仕入れたんだろうな。
いかがでしたでしょうか?
新たな力(電動自転車)を体に入れた羅糸。その力は彼に富を与えるのであろうか。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




