第37話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「俺はあまりお勧めしないなぁ」
「なんでだ? 何か知ってるのか?」
「ちょっと、マナー違反よ」
この二人は良い人だと思う。お勧めしないなんて言われたら普通気になるだろうし、所詮ハンターと言う身内の中の暗黙のルールでしかないことも律義に守っている。それは自分たちを守る方法でもあるが、本来守らなくてもいいルールだ。それでも注意されたら申し訳なさそうな表情を見せるのだから根が良い子なのだろう……陽キャだけど。
「あいや、そう言うんじゃなくて」
「二人は砲弾みたいに突撃してくる空き缶に対処できる?」
慌てる瀬戸……陽太郎の事を気にしないで話し始める。
こう言うのは一気に話して相手の言葉を押し流してしまった方がサクサク進む。相手の言葉を一つ一つ汲んでいたらまったく進まないものだ。俺は詳しいよ? 話の脱線好き上司で学んだからね。
「ぅえ? 距離があれば避けられなくわぁ?」
ほら、何か言うつもりの口が俺の問いかけに対する答えを探すのに使われ始めた。謝罪とかいらないよ、ほれほれお主の恩恵がどのくらいまで対処できるか吐いてしまえ、それ次第では俺の庭に入れても良いが無理そうなら諦めろ、命大事にだ。
「飛んでるドローンを確実に撃ち落とすぐらいだけど」
「厳しいですね、恩恵を使えば防ぐことはできると思いますけど、反応できるかは別なので……陽太郎は無理だと思います」
「おい! どういう意味だ」
ふむ、高橋……円香さんは対処可能な恩恵か、反応自体は音をよく聞いていれば問題ないと思うけど、陽太郎が対処できないとなると負担が偏ってしまうので危険が増すか、一体ずつ相手にしていれば問題ないかもしれないが、今回は集団での調査だからな、乱戦や複数の襲撃もあり得る。人って増えると慢心する生き物だからな、二人が真面でも絶対馬鹿が一人二人出て来るもんだ。
そしてその馬鹿を起点に集団は瓦解してゲームオーバーなんて良くある話である。ゲームの話ではあるんだが、異界は現実、失敗なんて許されない。俺が生きてたのは運が良かっただけだ。かわりに金がごっそり無くなるのもとてもリアルだと思う。
空き缶バッタは二人だけなら割といけるんじゃないだろうか、俺だってフライパンで対処できるんだから、盾を持つように教えて、音に注意して、ライトを使用しないよう伝えれば問題ないだろう。
「んーと、それじゃでっかいスチール缶を相手にしたい?だいたい18ℓくらいの」
問題は一斗缶である。あれって恩恵無しだとどう対処したらいいのかわからん。遠距離攻撃一択になるんじゃねぇかな? 自衛隊ならライフルで倒せるだろうけど、爆発するから結構離れとかないと危ないし、ボウガンとかでも最悪火花で引火しそう。
「……いやいやいや!? こわ! なにそれこわ!?」
「火が付いたら大爆発ですね」
驚きの声を上げる陽太郎と、何かを察して顔色が悪くなる円香さん。二人ともスチール缶の攻撃方法は知ってるみたいだな、その大型版だと考えればすぐにその脅威は想像できるだろう。俺も生きてはいるけどガソリンの雨を浴びた時は生きた心地がしなかった。
「対処方法が確立してないならやめた方が良いと思う」
空き缶バッタに関しては教えられるけど、恩恵無しで一斗缶を相手にする方法なんて俺が知りたいくらいだ。まぁ二人が銃器に匹敵する遠距離攻撃手段を持っているなら良いんだけど、そんな感じでもなさそうだし、知り合いを死地に追いやりたくもない。知らない人はどうでもいいけどね。
「もしかして?」
「お一人で?」
二人の顔色が悪い、なんだろう心が痛くなってくる。
「あぁ恩恵が良い感じにマッチしたから何とか、一回火の海になったけど」
「いやいや、この間火だるまにされたばかりじゃん! 怖くないのかよ」
「……確かに、まぁ何とかなってるよ。ちなみにこのタンクがドロップ」
そう言われるとそうなんだよな? 平気ではないけどPTSDみたいなことにもなっていない。一般的に死にかけるような経験をした人は、大なり小なりPTSDを発症するものだと医者に言われ、その診断もしてもらったが特に問題は無かった。医者も首をかしげていたが、俺のカルテに大量の文字を入力していた。
最近は電子だから楽になったと笑って入力する医者の目は少し怖かった。
「……ガソリンですか」
「あとこれが砲弾みたいに飛んでくる化物のドロップ、割れメタルって言うんだって」
やっぱ臭いがするのかすぐにガソリンだと言い当てる円香さんだが、それより陽太郎が目を見開いているのがちょっと怖い。
「ガチャメタルだ、すげえ! ここで採れるんだ。これもしかして金? 金ですか?」
ガチャメタル、言い得て妙だが確かにガチャみたいなものだろう。今回は全部リサイクルタワー行きだが、自分で狩ってたらサステナブルマーケットで鑑定して持ち帰るところだ。しかし彼は単純に高額なレア金属狙いのようだな。
「真鍮じゃないかな?」
「真鍮かぁ……でも夢があるなぁ」
目に見えて落胆するじゃん。でも目に輝きが残っている辺り君もガチャ沼に沈む素質がありそうだね? ガチャは良いぞ? 最近お金なくて回せてないけどな。
「もっと恩恵使いこなせるようになってからよ」
「そうだな……」
空き缶バッタに関してはそんなに恩恵が必要と言うわけでは無いのだが、折角やる気を出してるのに水を差すのは良くないので、敢えて攻略法は教えないでおこう。固定概念をつけるのも良くないし、もっと楽な狩り方を発想する邪魔になりたくない。
「でも化物ランクアップ理論は当たってると言う事ね」
「俺もその理論の動画を見て奥に入った口だな……そう言えば青山で見た骨も盾持ちとか服装違いが居たな、もしかしてあれもか」
よく考えれば青山霊園の地下墳墓もあれはランクアップ理論通りの化物だったのかもしれない。二人もあの動画を見たのか、それともほかでも同じような話がされているのか分からないが、自分だけの結論ではないと分かると安心できる。
どうした二人とも、変な顔して、イケメンと美女が台無し……になってないのが妬ましい。
「……羅糸、無茶すんなよ?」
「陽太郎もな」
そんなに無茶したことは無いと思うが、正直お前の悩みは無茶な方向に行ってると思うから帰っておいで、俺みたいに死にかけてからじゃ遅いんだから。
「そうよ、今回は見送りましょ」
「そうだな、缶シリーズも安全に倒せるわけじゃないからな」
そうそう、無茶は良くない。安全第一、命大事に、慢心ダメゼッタイ、これは異界を歩くうえで最も大事な事だよ。忘れないようにどこかに書いておこうかな、俺も調子に乗ると危ない方に歩いて行くことがあるからな。
二人に見せた真鍮もリサイクルタワーに入れる。陽太郎がそれを目で追っていたのが少し面白い。その姿を見て円香さんは溜息を洩らしていたが、日頃からそんな感じなのだろうか、仲が良いようでおじさんの心はささくれてるよ……いや、年齢そんなに変わらないから! 私は若い! アイアムヤングマン。
「それじゃ、俺は行くよ」
ちょっと心にダメージを負ったのでそろそろ陽キャから離れようと思う。そもそも陰キャの俺が彼らと一緒にいても継続ダメージを食らうだけなので良い事は無い。でも彼らが良い子であることは理解したので、今後は少し気にかけておこうと思う。C級のハンターが何を言ってるんだと言われそうではあるけど。
「おう、ありがとうな!」
「お気をつけて」
良い子たちである。でも年はそんなに変わらない筈なのになんであんなに若々しく見えるのか、全ては社会が駄目なのか、それとも大輔と一緒に仕事をしていた所為で俺も老け込んだのか、いや絶対に会社がだめなんだ。社畜なんてやってたから心が枯れてしまったに違いない、だって最近は少し元気だし、これからもっと若さを取り戻す。
一番若かったころは、やっぱ学生のころか、あの頃は両親に振り回されてもそこまで疲れていなかった気がする。あの頃みたいに、キラキラした日常……ってうるさいな? なんか聞き取れないけど、うわまたあのおっさん睨んで来てるじゃん。
「そんなにC級が気に喰わないのか……いやあれは単に自分以外を下に見てるタイプかな」
何がどう気に喰わないのか知らないけど、知ったところで理解出来そうには無いんだよな? どっかの偉い人も言ってたじゃん? 天は人の上にも下にも人を造らないって、だから見下すのはあまり良くないと思う、誰が言ったか知らないけど。
まぁどっかの馬鹿は人は人の上にも下にも人を置くんだからその事をしっかり理解して尽くせ底辺とか言ってたけどな。
「部長と課長も似たタイプだけど、あれは上にはコメツキバッタだからな」
だからこそ自分たちが下だと理解出来たらコメツキバッタになれるんだろうな、言いたい事は分かるが、とてもあれが上とは思えないな、犯罪者だったわけだし、犯罪者にならないと上に行けないなら俺は上にはいきたくない。どうせなら横に、どこまでも遠くに行きたいものだ。
いかがでしたでしょうか?
社会の重い闇によって行き場を失っていた彼の心は、重石が無くなった事で自由を手に入れられた様です。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




