第34話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「ぐぬぬ、どうするか……」
悩ましい、実に悩ましい……。
「いや大体にしてお金が無いんだよな」
ガソリンを3000円で売却したのは良いんだけど、あの店長その何倍もする高価なブツを勧めてきやがった。しかもその性能は話を信じるならかなり魅力的で、これまでの人生であの店以外では見たことが無い品だ。それは、別の場所で同じようなものを買える可能性は低いと言う事である。中古とは言えほぼ新古のそれは今の俺にとって必要なものであった。
だが高い。俺は今までに10万を超える物をかったことがあるだろうか……あ、命買ったわ。
「命はまぁ論外として、輸送能力の確保は大事」
命を金で買った今一番俺に必要なのは輸送力、これが手に入れば今より稼げる。先行投資の重要性は理解しているがしかし、高い。20万より安いが高い、諭吉が十数人必要とかあまりに高い買い物だ。
「何唸ってんだい」
「ふぁ!? ……なんだねーちゃんか」
びっくりした。気が付いたらもう家の目の前じゃないか、何時から俺は門の前で唸ってたんだろう。やばいな、気を付けないと事故ってててててて!!?
「なんだー?」
「いたたた!?」
のう! そこはヘッドロック! ヘッドロックしておむねがぽよんならっきーすけべべべ!? なんでアイアンクローなの!? いたいいたいしぬ。
「まったく、それでどうしたんだい?」
「……えっと」
まったくはこっちのセリフなんだが、耳から脳みそ出るかと思った。まぁなんか心配してる顔だし、許すけど、どうしたと言われたらまぁ、言っても問題ないか。
「外でぶつぶつ独り言を言うくらいには悩んでるんだろ?」
「……うん、それがさ」
とりあえず何があったか説明する。
異界でお金になるもんが狩れるようになった事、でも嵩張るので輸送能力を何とかしたいとサステナブルマーケットの店長に話した事、すると店長が良いものがあると言って見せてくれた奇抜な自転車の話。
そんで今買っておかないとすぐに売れてしまうから買うなら急いだ方が良いと言われて、しかしお金もそんなにないのでと言うと借金したらいいじゃないかと、すぐ稼げば問題ないと言われたことなど、駐輪場で立ち話をした。
この時間帯はまだ風が通るので、日陰で話す分には良いのだが、ねーちゃんの首筋には汗が流れている。ずいぶんラフな格好だから、たぶんランニングの帰りなんだろう。早く風呂に入りたいだろうに、親身になって話しを聞いてくれる姿には頭が上がらない。
「なるほど、確かに金になる物を狩れても売りに行く手間の方に時間が掛かっちゃ意味ないね」
「うん」
ねーちゃんも頷いているが、そこが本当にネックである。公営買取り所という手もあるのだが、安いから売りたくないし、あの謎の男の所為で余計に近寄りたくない。なんだったらゲート出たら全力で自転車漕いで逃げたいくらいだ。……逃げたな。
思い出したらまた腹が立ってきた……いや、この感覚は怒りより鬱だな。
「にしてもあいつ、一度締めとくか」
「ん?」
締める? それは俺も賛成だ。一度あの偉そうなスーツ男を締めたいところだが、やったら確実にこっちが悪くなる。あの手のひょろ野郎は陰湿な手が得意に違いない。
「いや、それで? 何を狩れるようになったんだい?」
ん? なんかねーちゃんが一瞬目を泳がせたが、俺変な顔してたかな? まぁそんな事より狩れるものの話題だ。ふふふ、ねーちゃんも聞いて驚くだろうな、なんてったってガソリンだ、きっと喜んでくれるだろう。
「ふふ、ガソリンだよ!」
「……あんたまさか、無理して」
あ、これ喜ぶとかじゃなくって心配して怒るやつ! きゅっと眉間に皺が寄って目がつり上がってるけど心配そうな表情、僕知ってる、弁明しないと説教食らうパターンだ。
「してないよ!? ちょっとは参考にしたけど、丁度考察動画を見たんだよ」
「考察?」
よし、ガード成功だ。開幕拳骨もあり得たからこれはナイスガード、実際にねーちゃんがガソリンに困ってるという話を聞く前からガソリンは狙ってたから嘘は言ってない。ちょっとそう願いはしたけども。
「うん、異界の化物とドロップの傾向とか言うの」
Tに上がっていた考察動画には異界のドロップ品は奥に進むと浅い場所の上位互換が出るのが一般的とされている。青山地下大墳墓であれば、一番浅い場所に出るのは小型のアニマルスケルトン、これは出た瞬間に踏みつぶして狩れる程度に弱く、ドロップは骨キューブ、その奥がスケルトンで骨キューブを複数落とす可能性があり、たぶんその奥が武装の充実したスケルトンで骨キューブを確実に複数出す。
ほかの異界でも傾向は違えど奥に進むほどドロップが良くなる。化物も強くなるけど、その傾向を当て嵌めると江戸川大地下道は、骨キューブの上位、判明していないスライムキューブの上位、それからアルミとスチールキューブの上位が考えられると言う事だ。
「……それでガソリンが手に入る可能性にかけたわけだね?」
「……ねーちゃんも困ってそうだったし」
ガソリンを一番願ったのはまぁそう言う事もある。
ただ俺の考えだと、江戸川の異界は他の平均的とされる異界と少し違う気がする。何と言うか、ドロップの種類が多い気がするのだ、特に割れメタルだけどあれは出る場所が極端に少ない。と言っても異界が発生してまだ数か月、分ってない事の方が多いので何とも言えないんだけどね。
「あんたねぇ……」
頭を撫でられる。というより掻き混ぜるみたいに頭が揺れる、気持ち悪くなるからやめてほしい。呆れやら困り顔やら笑みやら、ねーちゃんの複雑な表情を見る限りこれは照れ隠しなのだろうが、力強いので首がもげそう。
あと少し恥ずかしい。
「他にも結構多いんじゃない? 困ってる人」
需要は大事、求められて無い物を売れるからと言って集めてもしょうがない。別に骨キューブが一気に値下がりして不味くなった事に対する反発ではない。尚、骨キューブは200円から20円に値下がりしたそうだ。それでも楽に狩れると言う事で狩り続けている人はまだそれなりにいる。
「まぁねぇ? 今日入れに行ったら215円だよ、まったく足下見やがって」
おや? ガソリン価格の値上がり速度おかしく無いか? さっき210円とか言ってたのにさらに5円上がったのか、ねーちゃんと前に話した時は200円とか言ってな、これはかなり不味い状況なのではないだろうか。
「一本5ℓ入りのタンクでドロップするんだ」
「おいおい最高じゃないか、原付なら一本あったら満タンだよ……。そうだね、ちょっと待ってな」
あ、めっちゃ喜んでる。いつもクールな表情のねーちゃんがこんなに顔の筋肉を崩すのも珍しい、満面の笑みである。それにしても原付なら一本で満タンなのか、これもなんだか作為的なものを感じるけど偶然なのかな。
「ん?」
あれ? さっきまでの上機嫌どこ行った? めっちゃ眉間に皺が寄ってますよ? お姉さま、俺なんかやっちゃいました。
「よう志郎、うちの弟分に随分阿漕なことしくさってくれるじゃねぇか」
「わぁ、ガチギレボイスだ」
おこなの? おこですよね? 眉間に皺が寄っても美人ですねお姉さま、ドスの効いた声を素敵です。び、ビビってなんかいないですよ? このガチギレ状態を以前お見かけしたのはいつの頃でしょうか? 学生の頃に家の前で不良に絡まれた時だったかな? いやぁあの時は血飛沫が舞い散って大変だった。ねーちゃん無傷だし、不良ぼっこぼこだし、なんか後日不良の人たちに菓子折り貰うし、訳が分からなかったけどとりあえず怖かったことは覚えている。
「あ? 売れねぇ商品売りつけるつもりだろ、あのチャリは特殊過ぎて売れねぇ言ってたじゃねぇか」
え? 売れ筋商品じゃなかったの? 売れ残り? ちょっと気になります。あと志郎って誰? もしかして店長かな。
「知らなかっただ? メモ見ただろ、分んねぇなら連絡寄こせよ。別にタダで寄こせって言ってるわけじゃねぇよ、分割とかいくらでも何とでもなるだろ? ああ、そっちだってガソリン欲しいんだろ?」
「…………」
ただかぁ、ただは何か怖いから遠慮したいなぁ。俺の懐事情的にはありがたいけど、分割ならまぁ何とか買えると思う。
「先行投資だ。どの道燃料の入手は国が持って行ってるだろ、志郎が買わないならこっちでやっても良いんだ。ああ……それでいいさ、別に無理させたいわけじゃねぇ。あと羅糸は一等だ。扱いに気を付けな」
こっちってどっち? 一等って何? 羅糸怖くて聞けないんですが、お姉さまがウィンクを投げかけてくるんですが、え? 俺も共犯な感じですか? 犯罪はダメゼッタイですよ? てかねーちゃんもガソリン扱えるの? それならそっちの方が、いやなんでも無いです。
「……よし、分割で良いってよ、詳しくは実際に交渉しな」
「あ、ありがとう?」
何が起きた? ねーちゃんが昔からおかしいのは知ってるけど、いったいどういう繋がりなんだろう。てか本格的にねーちゃん何してる人なんだ? 聞いたら駄目な感じがひしひしと、こう、知ってしまったら東京湾に沈められそうな、出来ればきれいな海が良いです僕。
「怯えんなって、私達も燃料には困ってるからね。楽しみにしてるよ」
「正直助かったよ、会社がつぶれて無職だろ? 家賃もギリギリなんだよね」
怯えてないよ? ちょうたすかってるよ、実際無職でお金もカツカツだからほんと助かる。家賃と光熱費はまだ何とかなるけど、それ引いちゃうと日々の食費にも困る状況だし、治療費稼がないといけないし、流石に自転車は無理だと思っていたのだ。
「上手くいくように祈ってるよ、なんかあったらちゃんと相談しな? いいね」
「……善処します」
うーーん、でもなんだか頼りすぎるのは、男の子としては遠慮したいところである。これでも一応かっこつけたい年頃なのだ。近所の美人なお姉さんに対する淡い恋心なんてすぐに吹っ飛ばされたけど、それでも情けないとこはあまり見られたくない。
「政治家みたいなこと言ってんじゃないよ」
「あいた!?」
あともう少しラッキースケベを所望したいところ、貴女のデコピンは割と痛いのでそこは優しくヘッドロックが良いです。アイアンクローにデコピンに、今日は脳細胞が結構お亡くなりになったんじゃないだろうか? なんだか濃密な一日で疲れたし、さっさと寝る事にしようと思う。
明日も大変そうだし、交渉か? 財布が軽くなるなぁ……とほほでござる。
いかがでしたでしょうか?
ねーちゃんの巣所が気になるところですが、羅糸の懐は皿に寒くなるようですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




