第33話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「よし、これで6本だ」
中央を歩き回って一時間もかからずに5本手に入るのは美味しい。
「何往復かして頑張れば、一日1万くらい……いや無理はよそう、期日はまだある」
危ない危ない、テンションに乗せられて無理するところだった。無理は良くない、安全第一、もうすでに一度丸焼きになってるんだから肝に銘じないと次はどうなるか、さっきだってあれは割と危なかった。
「まさか交換タイミングで動きが変わるとは思わなかった」
一斗缶の行動パターンはスチール缶とほぼ同じで、敵を発見するとまっすぐ走って来て跳び上がり、最も高い位置で頭の栓を抜いて前方の広範囲にガソリンを噴出して引火爆発だと思う。しかも跳び上がる場所が少しだけ遠いので、長物武器でも手に持ったライターを排除する事が出来ないし、逃げるにしてもガソリンの噴出範囲が広すぎるので無理。普通に考えて危険すぎる化物だ。
それでも俺は交換の魔法があるから比較的楽に狩れるわけだけど、まさかジャンプするより先にライターを奪ったらパターン変わるとか、まぁ普通に考えればそりゃそうだと思うけど、いきなり頭を地面に擦り付けながら走って来るとか思わないだろ、火花散らして途中でガソリンが洩れて爆発炎上しながら転がって来るのだ。
「あと一歩遅ければ丸焦げコースだった」
何とか逃げ切って後ろを振り向けばそこには地獄の炎上ラインが出来ていて、その炎の中で四つん這いになりながらこちらににじり寄ってくる一斗缶の化物は恐怖でしかない。
「よくよく考えたら危険すぎる仕事だよな……そらC級ハンターの実働人口増えないよなぁ」
恩恵があるからやれてるだけで、恩恵無かったらこんなの人がどうこう出来る生き物じゃない。そりゃ自衛隊も毎日どこかで戦闘を繰り広げているわけだよ、あんなもん警察じゃどうしようもないし、一般人ならなおさらだ。
「さて帰るぞ! ……重いな!」
自転車が重い、ガソリンタンクを持って行くのが面倒だったから自転車を持ってきて回収したけど、全部載せたらペダルが重い重い。5リットルが6個で30キログラムか、自転車壊れないと良いな。
「はぁっはぁっ、予想外の難所だった」
地下道に降りる為のスロープが地獄だったんですが、降りるのは楽だけど重量増えた状態で登るのはきつい。しかも登れば登るほどに気温が上がるもんで汗が止まらない。次からはタオルを肩から掛けて登ろうと思う。自転車から手が離せない所為で汗がふけなくて気持ち悪い。
「電動自転車とかなら楽なんだろうけど」
やっぱ貰い物じゃなくてしっかり選ぶ……余裕が無いわ。筋肉、筋肉は全てを解決してくれるからそっちに頼るしかないか。
「でも気のせいか、少し体の動きが良くなった気がするんだよな」
少しだけど、仕事してた時より体が楽な気もしていて、今だって坂じゃなければそこまで自転車を漕ぐのも苦ではないし、一息入れた時の疲れの取れ方が早い気がしている。
「どれだけ座り仕事が多かったか、てことか……」
これも全てデスクに縛り付けられ続けた仕事が原因だろうな、学生の頃は毎日何かしら体を動かしてたけど、仕事始めてから丸一日パソコンで書類仕事なんて日も多かった。そりゃ身体も鈍るってもんだ。
は!? 感じる! めんどくさい気配を感じるぞ。
「やっぱりなんか来た。面倒くさいから逃げるか」
四時の方向からスーツ姿の神経質そうな眼鏡おっさんの接近を確認、第一種めんどくさい奴と断定! 回避行動に移る。
「おい待て! 貴様待たんか!!」
「待てと言われて待つ奴など居ない!!」
馬鹿め! そんなセリフ聞いて待つ奴など居ないのだ。貴様の様な明らかに机の前で仕事してそうな体格のやつが自転車様に勝てると思うなよ。
「貴様訴えるぞ!!」
「そんなもん知らん!」
いったい何でどうやって訴えるつもりなのか、そうやって脅せば言う事を聞くような人しか周りにいなかったのか、汚いし哀れだな、まるで部長や課長のようだ。あいつらも良くクビにするぞって脅してたな……なんだ同類か。
「と言う事があってな」
さっさと自転車を走らせて着いたのは民間買取所、店名はサステナブルマーケット、なんでも買い取って売りさばくが信条の店らしい。ちなみに売りさばくと言ったら聞こえが悪いと訂正を求められたが了承はしていない。あの顔はなんか悪い事やってる顔だと思うんだよな。
「だから役人は嫌いなんだ」
「嫌いっす!」
ちなみに俺が先ほど体験した事の愚痴を聞いた感想がこれである。どうやら役人が嫌いなのはここの店長も店員も同じらしく、冷たい麦茶を持って来てくれた若い店員さんと一緒に目を吊り上げている店長、心が洗われるようだ。顔は怖いけど。
「それよりこれ、いくらで買ってくれる?」
そんな愚痴より本題はこっちだ。俺はガソリンタンクを一本自転車のバックパックから引き抜くと丈夫なカウンターの上に置いて問いかけ、じっと店長を見詰める。
「……三千でどうだ?」
公営買取り所の2倍以上、売らないわけがない。危険な狩りに見合うか分からないが、働き口が枯渇している現状で数少ない収入源である。個人的には比較的楽な狩りなので何の問題もない。
「売った! ……でもそんな高く買って良いのか?」
「おま、今ガソリン210円だぞ? 十分元は取れる、それにドロップガソリンは質が良いからな」
「そうなの?」
質が良いと言われても、ガソリンを使う生活をしていない俺には良く分からない事だ。それにしてもガソリンがまた値上げしたのか、この間まで200円だったし、異変前160円くらいだったか、俺の小さい頃はもっと安い値段でも価格上昇で生活困窮とか言っていた気がする。
「ドロップガソリンはエンジンの汚れがすごく少ないって話でな、このタンクだって普通に使えるし、いらなきゃ潰して使えばいい」
「ほぉん」
良いガソリンはエンジンが汚れにくいのか、知らんかった。何がどう違うのか知らないけど、機械にやさしいって事でいいのかな? タンクも使えるのは丈夫そうだし分かる。持ち運んでみてわかるけど大きさも形も取り回しが良くて、自転車のバックパックに入れた時も容器の凹凸がかみ合って収まりがいいのだ。
「バイク乗りならこのタンクのまま欲しがるだろ」
「へぇ、でもガソリンとか勝手に売っていいの?」
ほう、ならバイク乗りに直接売り付ければもっと高値で買い取って貰えるかもしれないのか。それもありなのか? でもそれはそれで色々めんどくさそうではなるな。
「おめぇさんが個人販売するのは駄目だ。捕まる」
「おぉぅ」
僕悪いことしないよ? だからそのジト目は止めてほしい。
「だが俺らが買って売る分には許可取ってるから問題ねぇ」
「そうなんだ」
やっぱり世の中何でも許可が必要なんだな、知ってるぜ? 安全の為とか色々言うけどみんな利権の為なんだろ? 中間が入れば入るだけ製品は高くなるんだ。そう言えば俺の出した経費申請も部署を通るたびに値上がりしてたな、これが社会の闇か、つらい。
「まぁそれもドロップ品に限るがな、加工したり分離すると問題が出てきてグレーだ、まぁ問題はねぇな」
むむ、許可出ていても何でもいいってわけじゃないのか、ここにもなんだか闇を感じるが、危険物だからしょうがないのかな? ドロップ品は手を加えなければ安定した物体であるというのは国も認めてるし、そう言う意味でも加工販売が禁止されてるんだろう。
「だから高く買い取ってくれると?」
「わかってんじゃねぇか」
逆に無加工でも販売可能なドロップ品は、手間賃がほぼかからないのである程度高く買い取っても十分利益が出ると言うわけだ。何だったら給油した後のタンクも再度販売できるし、潰せば質の良い鉄として使えるので実にエコである。
「もっと高く交渉したらよかった」
「これ以上は勘弁してくれ……」
どうやら提示された金額は善良な金額の様で、俺の言葉に少し表情が引き攣っている店長の後ろに、ねーちゃんの影が見えるのは気のせいだろうか、脅してないよね? ねーちゃんは何をしている人なのか少し気になる。
「うーん、これで頑張っても往復とか考えてるとちょっと今月中は難しいかな」
とりあえず問題なくガソリン金策は出来そうである。あのTの動画を見てから閃いた計画はまぁまぁいい所に収まった感じだ。最良なのはもっと価値あるものが楽に手に入ればとも思ったが、これ以上は求め過ぎだ。
後の問題は輸送量、今の自転車で一回に3000円の収入、税金とか考えると頭痛くなるのでとりあえず横に置いて良いとして、一日に何往復かする前提でも今月中の支払いは厳しい。他にもお金はかかるからね。
「ふむ、輸送量が問題か……」
そう、一度に大量に運べたらもっと効率は上がると思う。でも俺だけじゃこれ以上増やすのは難しく……おや? 店長さんどうしたんですかそんな手招きして、何か悪い顔してますね。
なに? 良いものがあるからこっちこい? 何を買わせようというのだね君は、私は前回買ったフライパンでもカツカツの身であるぞ? やめろ、俺の背中を押すな店員君! 首を横に振って悲しそうな顔をしても無駄だ! どうせ押すなら美人店員で頼む! え? ここ男性店員しかいないの? むくつけき男の園だと?……やだ、臭そう。
いかがでしたでしょうか?
むくつけき男の園の奥へと連れていかれる羅糸、彼はそこで何を見るのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




