第29話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「うむ、なかなか良い感じじゃないか」
目の前には立派なバックパックが後部両サイドに取り付けられた自転車、さらにスタンドは折り畳みのひ弱スタンドではなくワイドタイプのスタンドに変更、劣化していたブレーキパッドも交換してある。これ全部無料でやって貰えた。
「それにしても、ねーちゃんなにしたんだろう?」
ねーちゃんのメモを渡してから対応がころりと変わり、俺の身の上話を聞くと先行投資だと言って店員に自転車の改造を指示したのだ。どういう関係か分からないが、たぶんねーちゃんが怖がられている事は分かった。詳しく聞こうとしたら話をはぐらかされたから当たっているだろう。
「スロープはありがたいな……でもこの構造、元々車両も出入りさせる想定の作りだよな」
なんだか昨日より快適に漕げている気すらする自転車、今日は異界の中まで持って行く。もうあのぼったくり駐輪場は使わない。あつらえた様な階段と滑り止め加工されたスロープ、乗って行った方が圧倒的に楽だ。
「異界って何なんだろうな」
ほんと不思議な場所だ。まるで人工的に作られたみたいな、人の手によるもの、人間臭さを所々に感じるんだよな。
「ちょっと君」
「はい?」
急に呼び止められたので自転車を押すのを止めてブレーキを掛ける。いやもう少しで下だからそこまで降りよう、声がしたのも下からのようだし。
「その自転車どうするの?」
見たことない警備員だな、よく合う女性よりもう少し若そうな女性だ。でも口にしない、女性相手に年齢的な話をしたら最期、コロサレル。おっと、いかんいかん、トラウマを呼び起こしてしまった。
「途中までこれに乗っていくだけですけど」
普通に話していれば問題ないのだ。彼女達はちょっと繊細なだけで敵ではない。対応を間違わなければ心強い味方なのだよ明智君。明智って誰だよ本能寺されるのか? こわいな。
「いや、邪魔になるでしょ」
「え? でも自転車持ち込み良いんですよね?」
邪魔とはこれ如何に? 俺は警備員に確認して問題ないと言われているんだが、これは人によって回答が変わるパターンかな? よくクレームで○○さんはやってくれたのにとか言われて対応に時間がかかる面倒な奴、大体部長と課長が安請け合いした結果生まれるクレームだ。
「それはそうだけど、今はスケルトン狩りで人が多いから変なところに停められると困るのよ」
あぁスケ狩りやっぱ増えてるのか、真ん中通るから気が付かなかったけど、邪魔になるくらいには増えているわけだ。恐るべき骨特需、でも俺には関係ない話だよ、なんせ奥は本当に人がいないからな。
「いえ、その先に行く予定なので、流石に歩いて行くと時間が掛かって」
「え!? ちょっと待って、タグ見せてもらって良い?」
「あぁ、Cですよ」
タグ確認ね、ちゃんとつけてますよ。
「え、それは危ないわよ!」
目を見開いてタグと俺の顔を見比べる女性、帽子被ってちょっと薄暗いから分かりづらいけど、結構美人さんじゃないか、やめてよね! そんなに顔近づけられたら動悸が激しくなっちゃうじゃない! 童貞は繊細なのよ。
だから俺はもう行かせてもらう!
「ちゃんと倒せてるから大丈夫です」
「でも奥はB級以上推奨で」
ぐぬぬ、お姉さんが食い下がってくる。そんなめちゃ心配してますみたいな顔されたら俺の覚悟が揺らいでしまうのでやめてください。おれには帰りを待つ、人は誰もいないけどお金を稼がないといけないんです。
それに、推奨はしょせん推奨、やれるんなら問題ない。少なくとも俺とジュース缶シリーズは相性がいいんだ。たまに灯油がひっかかったり、ガソリンが降ってきたりはするけど、あいつら手足ばたつかせる所為でたまに変な方向に燃料吹き出すんだよな。
「推奨なだけでしょ? 禁止はされてない筈です」
「それはまぁそうだけど」
お、正論に美人警備員が怯んだぞ? 今だ! 走れトロンベ! 強化されたその足を見せつけるのだ。
「ご心配ありがとうございます。それでは」
「あ、ちょ……」
ふはははは! 付いてこれまい! 困ったような声が聞こえてちょっと振り返りたくもあるけど、今振り返ったらこけるから無理なんだぜ! 足元石だらけだからな。
ここまで来れば、問題ないな。
「ああいう仕事も大変そうだよな」
真面目そうな人だったから少し罪悪感があるけど、諦めてほしい。警備業務と言うのも結構大変な仕事だよ。
「うむ、快適である」
それにしても快適だ。重量は増えてるはずなのに妙に足回りが軽い、あの従業員さんの整備力は本物だな、俺もそのくらいの整備技能を身に着けるべきかもしれない。帰ったらTの動画で自転車の整備系が無いか探してみよう。
「……むぅ色々考えても、視線が気になるな」
あちこちから視線を感じる。自意識過剰とかではなく、普通に苦情まで聴こえてくるんだから間違いないだろう。時折違反とか通報だとか聴こえてくるが、もう少し調べてから言ってもらいたいものだ。
「よし、ここだな」
そんな気分の悪い骨エリアを抜けてジュース缶エリアへ、今日は中央にまで出て来ている化物が居なかったので昨日の目印まであっと言う間であった。自転車はマジで正解だよ、QOL爆上がりだな……この使い方合ってるのかな? 微妙に違う気がしてきた。
「それにしても途中で絡んできた骨が多かったな」
たぶん俺に悪意のある視線を向けていた理由の一つが骨、スケルトンが俺に向かって移動していた事だ。中央を走っているにも拘らず何故かターゲットされていたことで、場を荒らしてしまったのが、時折聴こえて来た苦情の主な原因だろう。
「自転車うるさいのかな?」
自転車から降りて自転車をぐるりと見まわしてみる。ちょっと重くてガタガタ音がする以外は普通の自転車である。ちゃんとライトも付けているので夜間無灯火で警察から怒られることもない。まぁそんな遅くまで活動してはいないのだが、綺麗に掃除して新品みたいになったライトは暗いと勝手に点灯するのだ。
一応切り替えも出来るタイプの品であるが……ん? 何か変な音がする。
「ん?」
チラリと、ライトで明るくなった場所の端に何か見えた。
「なんだあれっ!?」
何かが飛んできて慌ててその場に倒れ込む、かなり高い場所を勢いよく何かが!? あああああああ!! 壊れた。
「うそだろ?」
ハンドルに取り付けていたライトに何かがぶつかってバラバラに砕け散ったのだ。
「かん? ばっとぅあ!?」
バラバラに砕け散って飛んで行くライトの部品と一緒に何かが地面に着地したので、確認しようとした瞬間また変な音と共に跳んでくる。一瞬見えた姿は缶、だがジュース缶じゃなくて蓋の開いた缶詰の様なシルエット。
「こいつぅ!?」
その空き缶に生えた足から弓でも引き絞る様な音が聴こえ飛び掛かってくる。
こいつさっきから頭だろうか? 上半身ばかり狙ってくるんだけど、何とかしないとあの速度で頭にぶつかったら空き缶とは言え命がやばい。石を拾え、構えろ俺。
「こんにゃろが!」
小さいのじゃ心許ないからと持ち上げたのは片手では扱えそうにない大きさの石、これでガードすれば相手の姿もしっかり見えるはず。
「ふぉう!?」
速いって!? なんだその速度、砲弾か!? 砲弾ならもう死んでるか、でも何か飛ぶとき弾けるような音がしてるけど、音速越えてない? 大丈夫? 俺死なない? いやでも何もしなきゃ死ぬだけだ。
「こいやこら!! ぐぅっ!」
受け止めたけど重!? なんだこの衝撃、あ? でも跳ね返って上に吹っ飛んで行った。角度が良かったのかすぐ目の前に墜落、すぐ殴れ! 起き上がる暇を与えるな。
「しね! しね!」
膝立ちになって何度も両手で持った石を振り下ろす。何度も何度も何度も。
「……あれ?」
あ? 黒い塵だ……死んだ。
「意外と脆い、いてて……」
胸が痛い、受け止めきれなかった一部が胸に当たったのか、自転車の整備中に見繕ってもらって選別だと貰った薄いボディアーマーが上着の下から見えてる。服が少し裂けたみたいだ……。
「餞別に貰ったボディーアーマーが無かったらやばかった」
ぞっとする。樹脂製の簡易的なボディアーマーだけど、これが無かったら今頃胸から血を流す羽目になっていただろう事は、上着の裂け具合で想像ができる。よく見るとボディアーマーにも小さく凹んだような跡が付いていた。
「これは何か考えないと無理だぞ……ん? これがドロップか」
良く分からない化物だった、なんせ暗い場所でアホみたいな速さで突進してくるんだから姿をちゃんと確認できていない。でも何となくだが昆虫の様な足だった気がする。
恐ろしい化物だったが、ドロップはずいぶんと小さな凸凹の、金属だろうか? 暗いからどんな金属かは良く分からない。
「んー……これは持って帰ろう」
特に光って居たり臭かったりもしないから、これはとりあえずコレクションにするか……その前に買取所で見てもらえば良いか……。
「帰るか」
今日はもう帰ろう。新しい化物が見つかっただけでも良しとしておいた方が良い、怪我していないと思うが用心に越したことはない。
「照明が死んでる……」
うそだろ、取り付け金具が行っただけだと思ったのに、照明がバラバラになってる。昨日綺麗にしてもらったばかりなのにどうして、どうして俺より先にライトを狙うんだ。
「まてよ? もしかして……」
そう言う事か? もしかして化物って光に反応してるのか? もしかして骨も音だけじゃなくて光に反応してたのか。確かに石を避けるからあちこちにライトの光を向けることになってたけど、いやでも他にもヘッドライト付けてるハンターも居るからなぁ? 複合要素なんだろうか、わからん。
大体ヘッドライトとか高くて買えないから今まで使ってなかったし、もしかしたらライト有った方が骨狩りやすかったのかな。でも今更……ん? こんな部品有ったかな? んん? 何か色々落ちてる、目が暗いのに慣れて来たからか良く見える。
「ドローンだ……」
ドローンの残骸だ。砕けてる。
アルミフレームのやつだ。グニャグニャに曲がってるしプラ部分は粉々、レンズも砕けてるし、この焦げ跡はバッテリーが炎上したのか……。
「検証は後だ!」
カサカサ音が聞こえた。これだけうるさくして新しい化物が来ないと言う事は音には寄ってこない筈、今のうちに帰ろう。
心臓がバクバク言ってる。あとなんか警備員から妙な視線を向けられているけど知らん。大方すぐに帰って来たからざまぁとでも思ってるんだろう。俺はそう言う視線に敏感なんだ。良く上司がそんな顔こっちに向けてきてうざかったからな。
「でも、何とかなりそうだな」
あのドローン、一個や二個じゃなかった。よく見たら大小様々色んな機種が転がっていたのだ。その共通点はアルミフレームが曲がりプラパーツもバラバラ、でも無傷のパーツもあった。たぶん固い鉄のパーツだと思う、石も砕けなかったし樹脂も貫通してないから、ある程度固い物なら受け止められるはずだ。
たぶん、やれる。一匹狩れたわけだし。
いかがでしたでしょうか?
新しい化物との遭遇にした羅糸はライトをやられたようですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




