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泡となり浮かぶ世界 ~押し付けられた善意~  作者: Hekuto


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第27話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。



「一週間ぶりだけど……人減ったな」


 青山霊園の異界で稼げなくなって、ねーちゃんからの情報を元に計画を練り直した俺は一週間ぶりとなる江戸川大地下道にやって来ていた。が、人が少ない。


 あの混雑霊園を体験したからと言うのもあるだろうけど、明らかに人が少なく、特に高そうな装備を身に着けた人間の姿が極端に少ないようだ。一方で買取り所はそれなりに賑わっていて、特に若い子の姿が多いようにも感じる。


「動画の推測が正しければいいが」


 そんな久しぶりの河川敷の光景を見渡した俺は真っ直ぐ異界に入るゲートに向かう。タグを通せばゲートが開き、一歩足を踏み入れればひんやりとした空気が足元から広がる。


 少し埃臭い感じのする大地下道の空気が懐かしく感じながら昨日の夜に再確認した動画を思い出す。その動画の内容は異界が持つ共通の特性についての話であり、その特性の一つに化物の分布がある。


「よし行くぞ」


 まるでゲームの様に、初心者でも成長出来るようにと用意されたような弱い化物が現れる浅い場所、そこから奥に入れば入るほど少しずつ強く厄介になる化物。そのパターンに共通するところがあると言うのが動画の内容で、そのパターンに当て嵌めると俺が欲しいものも奥にあると思うのだ。


「交換! くらえ!」


 今まで離れていたスケルトンに近付きながら交換魔法を使う。手の中にあった大きな石は細くボロボロな短刀に変わり、突然重い石を握らされたスケルトンはバランスを崩す。そこに加える攻撃に技術なんていらない、ただただ鉄の塊である鈍器の様な短刀を頭に向かって振り下ろすだけでいい。


「……楽だ。すごく楽だ」


 いままでの石攻撃が何だったのか、あまりにあっけなく終わる戦いには物足りなさも感じる。実際物足りないかもしれない。


 その理由は人の多さ、結構奥に入って来たと思うのにスケルトンを探してうろうろしている人が多く、俺がスケルトンに向かって走り出す時も割り込みそうな勢いで走ってくる人影を見ている。まぁその前に倒したからいいけど、舌打ちが聞こえてきたあたり随分と治安が悪くなっているようだ。


「でもスライムはいつも通り、何とかしたいな」


 たまにスライムがぬるぬると横切っていく。手を出さなければ問題ないけど、いつか好戦的なスライムが出てくるかもしれないし、こいつらの倒し方も何か考えておかないといけないな。


「確かこの辺でアレが出た筈だから……気を引き締めよう」


 目的の場所に来た。スライム狩りの人間はまだちらほら見かけるが、彼等から離れて中央を奥へ向かって歩く。壁際ですぐ狩られてしまうスケルトンはこの辺りまで歩いてくることは無く、たまにスライムを見かけるくらいで、目的の化物を探すには都合がいい。


「一気に人の気配が無くなるな、ここの人もみんなスケルトン狙いか」


 なにせあの化物はこの江戸川大地下道でも嫌われ者で、それ故に奥の探索が進んでいないのだ。奥に行けば行くほど化物の種類は変わり、この辺りではもうスケルトンが現れることが無く、さらに進めば人の気配も無くなる。


「……」


 静かに耳を澄ませながら両手に石を持って歩く。傍から見れば完全に不審者だがここは異界、さらに人も居ないのだからいくらでも慎重に進める。


 自分が歩いて土の地面を削る音、小石を踏んだ音、時々吹き抜ける少しだけ強い風、この風のおかげで空気は埃っぽくもあるが、息苦しさなどは感じない。自分以外の気配を感じないのでもう少し歩く速度を上げる。少し危険な気もするが、進まなければ何も変わらないので腹をくくって進むと足音が聴こえ始めた。


 靴の足音ではない、子供が歩く様な、関節で衝撃を吸収できていない地面を踏みしめる様な音が聴こえ、目を凝らせば離れた場所に僅かな光沢を持つ小さな影が見え始める。


「来た!」


 向こうも気が付いたのだろう、急に方向を変えてこちらに向き直ると、大きく腕を振って走り始めた。艶めかしい素足と剥き出しの腕は青白く日に焼けておらず、小さな体に見合わぬ速さで走り込むその化物の手には石と棒が握られている。


「それだ!」


 Tで見つけた情報通り、まだ分かりやすい動画こそ無いが名前が付けられた確認済みの化物、そいつは両手に小さな石と鉄の棒を持っていて、人を見つけると止まらず真っ直ぐ走り込んでくるそうだ。


「おちつけ、おちつけ……」


 俺が見つけた化物も全く同じ行動、そして更に近ずくと手に持った石と鉄の棒を打ち鳴らし始め火花が暗い地下道で怪しく飛び散り点滅する。もうすぐ奴は飛び上がる。俺の膝よりまだ低い体格のくせに2メートル以上の高さまで飛び上がり体当たりしてくる可能性が高い。


 そのタイミングがベストタイミング、俺が恩恵を使う時だ。


「……っ! 交換!!」


 手の中に小さな石と鉄の棒が現れ、化物の手に大きめの石が両手それぞれに現れるとバランスを崩して明後日の方向に飛んで行き地面に墜落。そしてすぐに鼻を突く灯油臭さ、その臭いを我慢して化物に近付けばその体はひしゃげ両手両足は痙攣していて絶妙に気持ち悪い。


 そして黒い塵となって消える。


「よし、よし! よし!!」


 倒せた! この地下道でも特に厄介な化物を無傷で汚れ一つ付けることなく倒せたのだ。喜ばずにはいられない、足元に転がっているドロップを拾い上げるとその重みで更に実感する事が出来た。


 とても呆気ない終わり方だが、それでいいのだ。安全に倒せればそれに越したことはない。


「アルミ缶も倒せる!」


 化物の名前はアルミ缶と言う安直な名前、その割に凶悪で、人を見つけると一直線に走って来て体当たり、体が柔らかくその体当たりで缶が破け中から勢いよく灯油が噴出する。それだけならまだしも、こいつら両手に火打石を持っていて、それを打ち鳴らしながら体当たりするものだから吹き出した霧状の灯油に引火して爆発するのだ。


「灯油臭い……」


 動画でも怪我人を出していたアルミ缶は、その見た目以上に厄介であり、そのくせドロップはあまりにしょぼくて誰からも相手にされない。その所為でこの江戸川大地下道は東京異界でも特に人気が無い異界となってしまったらしい。


「これなら俺を丸焼きにしたアイツも行けるはずだ」


 だが俺の今日の目的はこいつではない、俺の目的はリベンジ、お金に困る原因である大怪我を俺に負わせたトップクラスに厄介な化物だ。そいつのドロップも大したものではなく、手の中で弄んでいるアルミキューブ同様に売っても駄菓子一つ買えない。


「アルミ缶しか出ないな、感知範囲もそんなに広くないのかな?」


 最初の接敵からもう小一時間くらいか? アルミ缶は同じ戦法で問題なく倒せているが、ドロップを入れために持ってきた手提げ袋が重くなってくる。中に入ってるのは骨キューブとアルミキューブ、初めて手に入れたアルミキューブは、綺麗な立方体のアルミ容器の中に灯油が詰まっているそうで、思い切り壁や床に投げつけると、アルミ缶の化物ののように破れて灯油が飛び散る危険物。扱いには注意が必要だ。


 そしてこの先に居るはずの俺の敵はスチール缶、アルミ缶の強化型とか別種だとか言う話だが、固いスチール缶の中身はパンパンに詰まったガソリンである。吹き出して引火したら一瞬で周囲に爆炎が広がり火の付いたガソリンが降り注ぐ悪辣な化物。


「予想だとスチールのその先に行かないといけないんだけど」


 でも俺が求めているのはそいつではない。


 小目標としてスチール缶を倒すのは決まっているが、もっと手強いであろう目的の化物はまだ何もわかっていない未知の化物、その分ドロップが良いものになっている。それが動画から期待できる予想なのだが、第一関門? 第二関門? のスチール缶が見当たらない。


「ん?」


 音が聞こえる。アルミ缶と同じ足音、でも少し違和感がある足音、足音の聴こえる感覚が微妙に違う。これは来たかもしれない。俺はそっと手に持った手提げ袋を地面に下ろし、足元から石を拾い上げて前に忍ぶように歩く。


「あれだ……」


 思わず叫ぶところだった。化物がいったい何に反応して向かってくるのか分からないので声を押し殺し、アルミ缶より少し小さく見えるスチール缶の姿を見定める。


 シルエットはアルミ缶と同じ、コーヒーが入っていそうなスチール缶の底から生えるひょろりとした生足、缶の側面からはひょろりとした腕が生えており、左右に揺れながら歩く缶は顔も何もなく灰色、その色が余計に恐ろしくすら感じられた。


「来た、来たぞ。おちつけ、大丈夫、問題ない」


 だが、アルミ缶とは少し違う所があり、それは急に向きを変えて走って来たことでより良く見えるようになる。


 焦る、何も変わってないと思っていたが、俺の心にも多少のトラウマが残っている様で、必勝の方法を組み立てていても身体が少し震えているようだ。それでもこれを越えないと前に進めない、さあ来い! お前の弱点は分かっている! アルミ缶みたいにチカチカ光らないお前の弱点。


「交換! うわっぷ!?」


 くっさ!? あぶな!? 間に合った! 予想外の動きしやがってマジかよ肝が冷えたぞ。


「近すぎた……でも、よし! よし! 来た!」


 少しガソリンを浴びた所為か鼻が痛いくらいに臭い。だが引火しない、何故なら床に落ちてふるえながら立ち上がるアイツの手から武器を奪ったからだ。それは小さなライター、手を広げてみれば見た事もない構造であるが、明らかにライターと言った物が出てきて黒い塵となって消える。どうやらスチール缶が死んだようだ。


「これがガソリン入りキューブ」


 ドロップはガソリンキューブ、正確にはスチールキューブと言う滑らかな立方体と言う鋼の密閉容器だ。中身はガソリン、ただこのスチールキューブはアルミキューブみたいに柔らかくはなく、銃弾でも当たり所が悪いと貫通しない。燃料として使おうにもスチールに穴をあけるのが大変で加工費用の方が高く買取り所でも取引価格が10円以下である。


 要はいらない子、リサイクルタワー行きかポイントにするかで悩む間もなくリサイクルタワーに放り込むしかない。


「臭いな、ガソリンも塵になってるはずなんだけど、鼻に匂いが残ってるのかな?」


 鼻がおかしくなっているのか、こいつらが吹き出すガソリンは本体と同じくすぐに黒い塵となって消える。しかし火傷を負えばその傷はそのまま、俺が助かった理由は短時間だけ燃やされたことで窒息はしなかったためで、もし消えないガソリンなら生きていない。


 もしこれが異界では無くて外に出る化物であれば、今頃周囲は気化したガソリンで危険な状況で、あの時燃やされた俺は完全に黒焦げの死体に変わっていただろう。そう考えると俺の息子が縮み上がる気がした。でも、へへへ、倒せたんだな。


「へへ、へへへ……行けるぞ」


 頬が緩む。言いし得ぬ喜びが内から湧き上がる様に声が洩れる。正直B級でも逃げるような相手だ、幸いこいつらは足がそこまで早くないので全力で逃げれば逃げ切るか、途中で自爆してくれるらしい。だから危険は冒さずB級も逃げる。それを俺は倒せた、C級の俺が倒せた、恩恵の相性が良かったことは否めない、それでも確かな自信が付いた気がした。


「とりあえず今日はここまでだな、場所はわかったし……次は自転車で来てみるか」


 今は高揚感が増してるが、アドレナリンが切れたらどっと疲れそうだ。今のうちに帰った方が良いだろう。大事の前の小事、次からは完全に未開の場所である。準備は万全に、ここまで来るのにも結構遠かったから当初の予定通り自転車を会社から拝借しようと思う。高橋さんからも許可書を添付したメールが届いているのだ。





「あれ? 石投げのお兄さん?」


 外に出てリサイクルタワーに手提げ袋の中身を全部入れていたら声を掛けられる。


「ん? お、薙刀の人にバールの人」


 振り向くと地下道で知り合った長刀美女が居た。その横には赤と青のカラーリングがされたバールを持った陽キャイケメン男子、何が嬉しいのか妙にニコニコ顔である、眩しい。


「その呼ばれ方は、なんか嫌だな……そう言えば自己紹介とかしてなかったか」


 しかし俺の呼び方が気に喰わなかったのか急に萎れるが、俺はこの陽キャ二人の名前を知らないのだから仕方ない。大体にして好んで近付こうとも思ってなかったのだ、何せ相手は陽キャキラキラ大学生コンビ、下手に近付けば太陽の光に焼かれるイカロスも目を覆うような焼かれ具合で灰になってしまうだろう。


「私は薙刀の人でもいいわよ? バールのひと?」


「やめろよ、便利なんだぞバール」


 確かに便利そうだ。殴って良し、引っ掛けて良し、刺して良し、さらには工具としても使えると言う便利武器……いや元々バールは工具だった。ゲームでは普通に武器として出てくるから間違う所だった。


「ふふ、私は高橋円香たかはしまどかです。こっちは瀬戸陽太郎せとようたろう、馬鹿です」


「おい!」


 あ、自己紹介するターンなんですか? 仕事以外で自己紹介とかあまり慣れないんですよね。それにしても微笑みながら自己紹介してボケとツッコミまで展開して来るとは、これはかなり陽キャレベルが高いぞ? 気を付けないと妙な勘違いを起こしてしまいそうだ。


「私は望月羅糸もちづきらいとと言います。この間はありがとうございました」


 緊張してるわけでは無いですよ? 気を引き締めてるだけで、仕事だと思えばこのくらいの自己紹介なんともないんだから、なんで困った様に眉を寄せてらっしゃるのでしょうか高橋殿、むむ高橋? 気のせいかな? 外務省の方の高橋さんに似ているような? いやいや、化粧した女性の区別なんて陰キャに出来るわけないか。


「敬語なんてやめてくださいよ、それより大丈夫でしたか、凄く燃えてましたけど」


「聞き方ぁ!? ……いや、あの時近くにいてさ、搬送されるのも見てたから」


 やだ恥ずかしい、あんな醜態を見られてしまうとは、それにしてもこの二人距離の詰め方が早いぞ、自然と距離を放したつもりが容赦なく踏み込んでくる。瀬戸さんもそんな申し訳なさそうな顔されたら絆されそうで困る。


「あー、それはお目汚しを」


「そんな事言っちゃだめですよ」


 注意されてしまった。何だろう、高橋さんと言う名前の女性はみんなお姉さん気質なのだろうか? ちょっとドキドキして、おっといけない騙されては駄目だ。陽キャと言う人類は距離が妙に近くて特別親身になってくれているように見せて来るが、彼ら彼女らにとっては特別でもない普通の距離なんだ。ステイ羅糸、普通に振る舞うのだ。


「とりあえず全身の7割が重度の火傷でした。なんかハンター治験とか言う謎の薬品で治ったみたいです。」


 普通に近況報告、地味にグロい事言ってる気がするけど、まぁええやろ。これで離れて行ってくれたら俺はいつも通りだ。


「あれですか……」


「マジか……お金大丈夫なん?」


 おや? もっと心配そうな顔になったぞ? もしかしてあの高額薬品の事をご存じで? 大学生は情報通なんですね。え? 大学の講義でも話題に出るくらい有名? ……俺が無知って事か、もっと色々調べておかないといけないな。


「半額は俺に火の玉ぶつけた子の親が慰謝料として負担してくれたんですけどね、貯金崩しても20万たりないので頑張ってます」


「「うわぁ……」」


 改めて高額な薬品だよな、異界で手に入る薬品らしいが自衛隊が率先してドロップ回収を行うくらいには重要物資扱いと言ってもあまりに高すぎる。いや、そのくらい危険な化物と言う事かもしれないから何とも言えないけど。


 めっちゃ深刻な表情を浮かべてこちらに目を向ける大学生コンビ、確かに彼らにとって20万は高額だろうが、働いていれば何とかなる金額だ。問題は現在無職で会社からの退職に伴う諸々の支給を受けた上で20万足りないと言う現実である。何とか稼がない事には最悪借金だ。


 でもなんとかなるので二人ともそんなに心配しないでほしい、何でも言ってくださいねとか相談のるからなとか、あと連絡先を押し付けようとしないでください。困ってしまいます。陰キャに過剰な優しさは毒なのである。



 いかがでしたでしょうか?


 陰キャが陽キャの光に当てられこんがり焼かれそうですね。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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