第24話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「今までの治験ではどれも優秀な結果が出ていますが絶対ではありません」
「なるほど」
なるほどわからん。
分からないわけでは無いが、いったいなぜこんなことになったのか……。何か走馬灯の様な、過去を振り返るようなそんな夢を見たかと思えば知らない天井、可愛いナースさんに嬉し恥ずかし緊張しながら返事したら頭の不調とされるし。
「今回の治療も治験扱いとなりますので治療費は1割負担となります」
あの日、俺は背中に恩恵の火球で撃たれて転倒、そこに江戸川大地下道でもトップクラスに厄介な化物の自爆攻撃を食らって火だるまになった。普通なら死んでそうな全身の七割に及ぶ重度の火傷も、たった三日寝ただけで治った。それもこれも世界が変わった事で手に入るようになった特殊な薬のおかげらしい。
いわゆるゲームのポーションとかエリクサーとか緑の硝子瓶的な薬で、どんな怪我も劇的に改善するらしい薬、しかしそんな便利なものがあるからとほいほい流通させられないのが日本と言う国の面倒な所、現在はその有用性からハンター限定で治験と言う人体実験を行っているんだとか。
「いくらなんです?」
そのおかげで1割負担で完全回復らしいが、果たしていくら払えばいいのやら、ただでさえお金が無いのになるべく安くしてほしい。
「詳しくは退院時となりますが、100は越えないと思います」
「…………」
安くなかった。
「分割も出来ますので気を強く持ってください」
「はぁ……」
どうやら俺の顔色はやばいレベルで急変したらしく、美人ナースどころか医者まで狼狽えている。大丈夫だ問題ない……。
「うーむ、やっぱり国はC級ハンターに死んでほしいのかもしれない」
一通り俺の怪我のとてもグロい話を聞かせて居なくなった医者と看護婦、危険だからとC級を追い出す国であるが容赦がない。尚、C級は一割負担だがB級はさらに半分以下まで補助されるらしく、A級に至っては無料だとか、ちょっとイラっとした。
「よお」
「げぇっ」
げぇっ、関羽! じゃなかった。山本のおっさんだからげぇっ山本!? にしないと、いやいやなんで? 山本なんで?
「……気持ちはわかるがよ、失礼じゃねぇか?」
「いやいや、入院してたら突然公安が来るとか心臓に悪すぎる」
気持ちがわかるならせめて事前に連絡してから来てほしい、山本のおっさんはもっと自分の職業が周囲に与える恐怖と言うか畏怖と言うものを考えるべきだと羅糸は思うの。
「まぁ悪い話じゃねぇんだ」
「ほんとかなぁ」
信用できない。
「おめぇさんらの疑いは全部晴れた」
疑い? 疑いとは、あ……。
「あー……そんなこともありました」
そう言えばスパイ容疑(笑)がかけられていたんだったか、身に覚えも何も無いからすっかり忘れていたけど、うちの会社は完全に黒認定されてたわ。
「共犯は増えた。退職届の中の何人かだ」
「スパイの?」
え、マジで? ガチで退職逃走してたのか、でも増えたって事は捕まったって事かな? 誰だろ、顔も思い出せないけどちょっと気になる。
「そうだな、テロ計画も出て来たから随分でかい話になった。首謀者もいないし国もどこかに行っちまったがな」
「きこえなーい」
はいはいきこえませーん。こうやって毎回良い話とか言って一般人が知る必要が無い事を聞かせる山本マジおっさん、勘弁してくれ、俺は普通の一般人なんだ、平穏に暮らさせてくれ……最近は一般から外れ始めている気もするけど。
「ただ、お前さんらに渡せる金は無くなるだろう」
「ええ……」
え、お金がもらえない? 給料? 退職金? いやまてよ、なんか迷惑料とか協力料だかそんな話が出てたけど、そう言うやつかな? 運が良ければ割とまとまった金額が出るとか言っていたような気もする。貰えないのか、残念。
「だから今のうちに会社の資産持って行っとけ、同僚は大量に持って行ったらしいぞ」
「何時までとかあります?」
大輔は色々持って行くために書類を大量生産していた気がするな、たぶん社長室の酒もいくつか持って行ってるんだろう。
「本社にあるやつなら今年中には回収してくれ、それ以外のもんから回収して行くからよ」
「ずいぶんと猶予がありますね」
あれ? 思ったほど急ぎでもなかった、まぁもう半年も無いと言えば短くも聞こえるけど、それだけ猶予があれば今からゆっくり選んでも全然問題は無いかな? リストは貰ってるし。
「今はどこも手が足りねぇからな、あとおめえさんとこは色々と隠してるものが全国にあるんだ。一々調べねぇといけねぇから骨が折れる」
あー、俺らの知らない資産が全国にあるんだ。流石多国籍スパイ企業こまねる、半端ねぇぜ、だからそれ以上の話はしなくていいよ? 知ってたら知ってるだけ危険な気がしてならないんだから。
「俺はリアルに骨が折れましたけどね」
ぽっきりと言わずバキバキに折れていたらしい。霧状に散布されるガソリンの爆発は思って以上に威力があるらしく、俺の体は枯葉のように宙を舞って落下、肩と腕と腰の骨が複数折れていたそうだ。その上全身の火傷なんで、特別な薬が無ければほぼ死んでたらしい。
「そういや、殺されかけたんだってな?」
「ころされ?」
殺されかけた? まぁ確かに背中に火球を食らったらしいけど、故意ではないっという話だったんだが、苦し言い訳とも言えるが良く聞く殺すつもりはなかったと言うやつで、過失はあっても殺人未遂にはならないと聞いてるんだが。
「あ? 聞いてねぇのか、いや伏せたか……まぁ任せとけ、悪いようにはしねぇよ」
「おれのしらないところでなにやるきですか?」
やめてよね、おっさんのそのニヤリ顔は全然かわいくないよ? 不穏しかないよ? ほら今も部屋に入ってこようとした看護婦さん逃げて行ったじゃないか、この病院での数少ない癒しを僕から奪うなこんちきちー。
「ちゃんと説明してもらうだけだ」
「はぁ?」
殺されかけたねぇ? 俺そんな恨まれる様なことしてないと思うだけどな? まぁ恨みなんて他人が勝手に持つものだから俺にはどうこうする事も出来ないけどさ。
「ふむ、あの医者嘘ついたな? 慰謝料で半額貰って80万て、どんだけ高額なんだよ」
無事? 退院できたけど、なにやら山本のおっさんが色々暗躍したらしく、当初払う金額の半分を払うだけで済んだ五日間の入院費、そのほとんどは謎の薬の代金である。しかも半額になった理由が慰謝料と言う事だ。
「あー金が吹っ飛んだな」
それでも80万とか嘘つきやがったなあの医者。しかもあの医者の説明全然違ってたんだけど、何が不幸な事故だよ、山本のおっさんが何も教えてくれなければ俺は何も知らないまま160万請求されて借金地獄だぞ。
……どうやら俺は本当に殺されかけたらしい。俺の入院を聞いて高橋さんやら山本のおっさんが伝手を使って色々調べたらしく、結果あの事故は故意に起こされたもので、俺に火球をぶつけた男子学生が俺を殺すために行った計画的犯行だったらしい。まったくもって訳が分からない。まぁ全部聞いたんだけど、それより先に金を稼がないと治療費が払えない。
「うん、そうしよう」
そうだな、先ずは金策の事を考えよう。
例えあの男子学生が女の子に良い格好をするつもりが警備員に注意されて逆効果、しかも何故か偶然その場に居合わせた俺が原因だと思い込んだらしく、俺を殺すために計画を立て実行。さらに化物誘因を俺になすりつける画策まで行っていたとしても、すでに終わった事、今は金が必要だ。復讐は俺より先に外野がやったので何の実感も無いが、山本のおっさんと、顔見知りになった刑事さんの黒い表情を見れば相当えげつない事をしたのだろう。
「とりあえず自転車を会社から貰ってこよう。どこの異界に行くにしても足が欲しい」
せめて全額慰謝料で払ってもらえたらこんな苦労はしてないんだけどな。何でも裏取引とか色々あって全額負担には出来なかったとか言ってたけど、そんなドロドロしてそうな世界の話なんて聞きとうない。
「あと、服だな……」
せっかくフリマで買った厚手の服も丸焦げで使えなくなったから買わないといけない。貴重品に関しては爆発空中大回転の際に吹っ飛んで行って無事だったらしく、若干焦げただけで無事、寧ろあの無駄に高性能な防弾バックパックが無ければ、火球を背中に受けた時点で即死の可能性もあったそうだ。
持っててよかった防弾……おや?
「ん?」
ドアが殴られている音がする。気の早い借金取りかな? まだ借金してないですよー。
「居るんだろ! 開けな!」
「おん? どうしたのねーちゃん」
ねーちゃんだった。こんなに荒ぶるねーちゃんは珍し……くも無いな、たまにやんちゃんな格好をしている男達を怒鳴っている姿を見るし、ただこんなに睨まれたのは久しぶりな気がする。
「あんた入院したって聞いたから、大丈夫なのかい?」
あ、今度はものすごくしょんぼりした顔になった。
とりあえず大丈夫なので顔やら身体やら撫で繰り回すのをやめてほしい、心配性なのか何なのか、良くこうやってスキンシップ? して来るけど健康な成人男性には刺激が強すぎるのでおやめくださいお客様。
「それがさ」
身を引けばそれ以上はやってこないからとりあえず逃げて何があったか説明する。玄関先で話す内容かどうか悩むところだが、早めに説明しないと落ち着いてくれそうにない。
でも改めて説明すると、とんでもない目に遭ったと思う。やっぱお祓いとか言った方が良いのだろうか、近所の神社とかで良いのかもっと大きなところに聞くべきか……あ、金がねぇや、あはははは……はぁ。
「何と言うか、災難続きだね……無茶するんじゃないよ? さっきも言ったけどお祓いする気が合ったら探してあげるから」
最近の異界での活動内容を話し、問題の少年Aとの初遭遇について語り、そんな少年が謎の恨みを俺に募らせたと言う話の辺りで怒り出したねーちゃんであるが、そのあとの話を聞くにつれて心配そうに顔を顰めて俺を見詰めると、神妙な声でお祓いを進めて来た。
大体みんな俺の話を聞くと、呪いとか変なのが憑いてるんじゃないかと心配してくるの日本人らしいと言うかなんと言うか、入院先の病院に居た看護婦さんがそっち系の気配はしないから、単純に運が悪い時期なんじゃないかと言っていて、その日は寝れなくなったのはいい思い出だ。
……いいのか?
「と言われてもなぁ、まぁ問題の子は資格剥奪になったから大丈夫じゃない?」
ちなみに俺を殺そうとした少年は未成年と言う事で逮捕されることは無いとか、なにやら裏取引だか司法取引がうんたらとかでそうなったらしいのだが、それでもハンターとしての資質は無いとされ、化物を狩る資格も異界を調査する資格も永久剥奪だそうだ。
俺への接近禁止も言い渡されているらしいので、多分もう狙われることは無いと思うけど、どうなる事やら。あとジト目で見詰めるねーちゃんをどう宥めたものか、問題が多くて眩暈がしてくる。
いかがでしたでしょうか?
冒頭に起きた事件は殺人未遂だったようで、人から恨みなんて買いたくないですね。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー




