第21話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「交換‥‥‥異界でもダメか」
歩きながら何度もつぶやく。
俺の恩恵は今日も覚醒しないな、異界の中なら何か変化がとも思ったけど、まったく変化が無い。まぁ恩恵無しでやって行けるか試すために来てるから良いと言えば良いのだが……。
「はぁ……ん?」
念のために心の中でも念じてみていると何か聴こえる。もしや使えるようになった? わけがなかった!
「うお!? びっくりした。いつの間に‥‥‥」
真っ白で健康的な肌、肌? 骨しかないけど特に欠損とかも無いスケルトンがこちらに向かってゆっくりと歩いて来ていた。すぐに対処しないと殺されるような距離ではないが、薄暗い中を歩いてくる姿は心臓に悪い。しかも服は何も身に着けていない割に、固い骨と地面の間で足音がしないのが不思議でもあった。
「誰も居ないな、戦える人は奥に行くのかな?」
割と壁側に近い所にいるがすぐ近くに人の気配はしない、もしかしたら奥の方がたくさん化物が居て効率が良いのかもしれない。今後上手く狩れるようなら俺も奥に行く方が良いのかもな。
「まぁいいか、よし行くぞ」
ゆっくりとだが近付いてくるスケルトン、だらりと下ろした手には一歩の刃物を持っている。パッと見ボロボロの刃物だが、あれでも十分こっちにとっては脅威だし、汚いから感染症も気になるところだ。
「スライムよりかは、ねらいやすいっ!!」
距離は4メートルちょっと、スケルトンは人の背格好と変わらないから十分当てやすいのだが、まさか投げた石を切り払うとか聞いてない。割と大きな石なのだが……器用にぼろい刃物で切り払うスケルトン、こいつ思っていたより強い。
「もういっちょ!」
でも切り払った腕は大きく後ろに跳ね跳び体勢が崩れ、攻撃するにはもってこいのチャンスが生まれる。
「こわ!」
いくら投げても怯むことなく歩いてくるスケルトンは普通に怖いが手を止めるわけにはいかない。下手に逃げれば他人の迷惑になり、それはそのまま俺の許可証剥奪に繋がるからだ。
へたくそが遠距離攻撃をする時は致命傷より当てることを優先しろと大輔が昔言っていた。あれはFPSゲームの話だがまさか役に立つ日が来るとは思わなかった。その時は確か、大ダメージ狙いで頭を狙うのは一流だけに許された戦い方なので、下手糞は多少ズレてもダメージになる胸を狙えと言っていた気がする。
「っふぅ……スライムが5発、スケルトンが13発」
運良く頭に当たった一撃で黒い塵となって崩れ去るスケルトン。スライムは5回当たれば倒せたみたいだが、スケルトンは13回当てないと倒せなかった。赤い光が目の奥に灯った頭が弱点の様なので、どうにか頭に一撃入れたいところだが、大輔の言う通り胸を狙って数を投げれば動きの遅延にもなって倒しやすくはある。
「ってうわ!?」
なんで近くに突然現れるんだよ!?
「だからいつの間に! くそっ!」
慌てて逃げるがすでに手に持った刃物を振り上げているスケルトン、片手で持ち上げた刃物は真っ直ぐ俺に向かって振り下ろされる。今の服を掠った! 掠りましたよね!? 破けてないか、いや身体はダイジョブだろうか。
「あっぶね!」
痛くない、痛くないけど服が少し切れてる。厚手だから穴は開いてないけど糸が何本もほつれた感じだ。
それより早く逃げないと……。
「ん?」
ん? 攻撃が来ない。あれ? 刃物、あれは脇差なのか……地面に突き立てたまま動かない。あ、動いた。
「まさか」
こいつ、振り下ろした刃物を持ち上げるのに時間が掛かっている。これなら焦らずとも十分に態勢を整えられるぞ? おお、また構えた。でもよく見ればなんだかスローモーションみたいな動きだな、腕の振りは速かったけどそれ以外はすごく遅い。
足元の大き目な石と手のひらサイズの石を拾う。また脇差を片手で振り上げ始めるスケルトン、反対の腕は使わないみたいだ。
「良く見ろ、相手は一人‥‥‥一人で良いのかな?」
右手をだらりとぶら下げ、反対の腕を振り上げその手に持った脇差の刃を俺に向け、
「うお!?」
速い!? あれ? おお!すごい俺! やれば出来る子! 早いけどそんなに重くない。両手で持ち上げた大きめの石がしっかりとスケルトンの刃を受け止めてる。これなら、いけるかも!
「軽いってわけじゃないけど、うら!」
手を切られないように注意しながら脇差を左に跳ね除けられた。ボロボロの脇差は良く見ると包帯で左手に固定されている。もしかしたら握力とか全体の力があまりないのかもしれない。だから持ち上げる時も遅いのか、でもこの距離、この状態ならいける。
ほぼゼロ距離、伽藍洞のはず頭蓋骨の奥は真っ暗で、しかし赤い光が一つぼんやりと灯っていて気味が悪い。
その頭に向かって両手を振りかぶって大きめ石を叩き込む。
「ふん!」
思っていた感触と違って随分と脆い、いや、緊張で力が入り過ぎていたのか、叩き込んだ両手は頭で止まることなくそのまま鎖骨を砕いて胸の骨の一部を削りとった。偶然か、手は痛くなかった。
「ふぅぅぅ‥‥‥‥‥‥」
何秒? 何分、少し放心しながら目の前で黒い塵になるスケルトンを見下ろす。一撃、頭に一撃を加えれば倒せる。スライムより脆いかもしれない。でもこの距離で無傷は運が良かっただけだろう、でも何となく光明が見えた気がした。
「帰ろう」
でも今日は帰ろう。手が震えてるし、今日の予定は十分すぎるほど達成できたから。
「あ、これが骨キューブ」
歩きだそうと足を動かすと何かを蹴った。軽い音を鳴らし転がった其れは真っ白な立方体、スケルトンが必ずドロップする骨キューブ、材質はカルシウムといくつかの元素、要は骨を砕いて固めたような何かである。
「2円か……」
尚、買い取り価格は2円。一応利用価値があるとか、研究するからとかで値段が付いたようだが、2円である。リサイクルタワーに入れた方がまだマシな値段であるが、こっちも優遇ポイントが付くらしいので、きっと普通の人は買取カウンターに持って行くのだろう。
「いてて……軍手が必要だな」
手に持っていた石と交換で地面に落ちていた骨キューブを拾う、少し離れた場所にも落ちていたのでそっちも拾うが手が痛い。
「でも、何とかなりそう」
石を扱うなら軍手は必須だった。人の手は弱い、弱いけど何とかなったので、軍手を買えばもっと何とかなりそうだ。
「何事も練習と経験だからな」
スライムは近付くと危ないけど、スケルトンは近付いた方が戦いやすいと思う。あとは繰り返していけば問題なくやれそうだ。
動画だけじゃ分からない。実際の動きを体験したことで確実に自信が持てた気がする。
「稼げるまで行けるかわからんが」
だからと言って現状を見て稼げるとは思えない。でも前には進んでいる気がするので少し気が楽である。
「化物狩ると強くなるって噂もあるしがんばろ」
あとTによると、異界で戦っていると筋力の付きが違うと言う話もあったのでそっちも期待したい。単純に実践的な体の動きが全身運動になっているので、筋力が付きやすいと言う話もあるが、どっちみち楽になるならそれでいいと思う。
帰りの足取りは軽い、バックパックの中にはスライムキューブが二つに骨キューブが二つ、初日にしては良い戦果ではないだろうか、何せ俺はC級なのだ。何も得られませんでしたと言う状況を覚悟はしていた。
階段を上ってゲートを潜れば眩しいくらいの太陽、外の空気がうまい。
「ん? 君は一人か?」
「え? はいそうですね」
軽い足取りでリサイクルタワーに向かおうとしたら声を掛けられた。スーツにネクタイに眼鏡、どこか神経質そうな顔つき、どっかの課長みたいでいやな感じだ。
「タグを確認したい。私はこの異界の管理をやっている対策協会の人間だ」
対策協会、確かに胸のピンバッヂは知っているものではある。ここで断っても良いんだろうけど、タグなら別にあちこちで見せることになるらしいからいいか。
「はぁ? どうぞ」
「……Cだと?」
「……ええ」
あ、こいつ糞上司と同じタイプ、気に喰わないことがあるとすぐに顔に出るタイプのめんどくさい奴だよ、俺は詳しいんだ。
「はっ! 期待外れだな、死なないうちに諦めろ」
「……」
課長もそうやって頭ごなしにマウント取って来てたよ。あいつは学歴マウントだったけど、高卒は糞、何の役にも立たない社会の底辺、大学に行かないのは唯の怠け者、そう何かある度に言っていたアレと一緒の臭いがするぞこのおっさん。
「Cなんて階級は落第の階級だ。要は止めとけって言われているのを理解するんだな」
「……はぁ」
いきなり話しかけてきて、勝手に期待して、勝手に落胆して忙しいおっさんだな。そう言う糞みたいな流れはもう前の会社で慣れてんだよ、なんなのこいつ鼻息うぜーな。
「おい! 返事はどうした!」
返事? なんで? 喧嘩売られてるのに、大丈夫かこいつ頭悪いのか? 病気かな、病気は早めに診断してもらった方が良いと思う。
「おまえ、頭大丈夫か?」
「なっ!?」
おっと、ついつい感情のままに呟いてしまった。まぁいいや、俺には関係ない人種みたいだし、何かギャーギャー叫んでるけど知らね、さっさとリサイクルタワーで換金してしまおう。おにぎりも買えないだろうけどな、折角良い気分だったのに台無しだよ。
いかがでしたでしょうか?
どこにでも居ますよねマウント取って来る人、え? そうでもない? ……そうかぁ。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに! さようならー