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第2話

楽しんでもらえたら幸いです。



「おい! おきろ羅糸!」


 すごく聞き慣れた鬱陶しい声が耳元で聞こえる。うるさい、殴っていいかな。


「ん……あれ?」


「しっかりしろ!」


 目の前に大輔の顔があるんだが、どういう状況だろう? ここは、会社の中だ。肩を揺すられている所為で背凭れに寄りかかった背中が痛い。寄りかかって? 寝てた? いや……あの白い空間は夢だったのか。


「……真っ白な世界にいた様な」


「お前も見たのか! それじゃあれは現実か……」


「大輔も?」


 どうやらただの夢と言うわけではなさそうだ。しかし、大輔と同じ夢を見るとか普通に気持ち悪い。それに外が白く輝いていたけどいつもと変わらない夜だな、いや少し騒がしいけどまた馬鹿な連中が事故でも起こしたんだろう。つい最近も近所のコンビニに高級車が突き刺さってたしな。


「ああ、これ見てくれ」


「え? ……中継が、選手が倒れてる。あ、起きたぞ」


 マウンド? だったかを引きから撮影している野球の中継だが、選手が全員倒れている。今一人起き上がったけど何だこの異常な状況は、しかも誰一人として助け起こしに行ってない、雷でも落ちたのだろうか。


「なに!? 本当だ! 良かった、フグちゃん死んだかと思ったぜ」


 どうやら大輔の推し選手だったらしいが、フグちゃんか……美味しそうな名前だな。


「外は暗いな……なんだかいつもより静かなような騒がしい様な?」


 さっきまで騒がしく思えた外の音が妙に静かに感じる。原因はわからないけどなんだか正月みたいな静けさを感じた。


「なぁ? もう帰らね? ちょっと家族が心配なんだよ」


「あ、あぁ……そうだな、家族が気になるならすぐ帰った方が良いよ、念の為にタクシーで帰ったら?」


 その妙な静けさに言いし得ぬ不安を感じ、それは大輔も同じなのか早く帰ろうと言い出す。家族は大事だ、気になるなら帰った方が良いだろう、虫の知らせなんてものも割と馬鹿にできないからな。


「いや、金がもったいないって」


 何だったらタクシーで帰った方が良いとも思うが、まぁうちの安月給でタクシーはしんどいだろう。だがやり方なんていくらでもあるんだよな、うちの会社なら。


「部長のキャバクラ代に混ぜとけば気が付かれないだろ」


「……確かに、おま天才だな!」


「はは……」


 そんな事で天才と言われるのも微妙な気分だ。実際やってる社員は多いし、部長らの出す経費は何のチェックもされないまま通るのは大体みんな知ってる事である。こっちの経費は正当な理由でも一万超えたら通らないんだから、その辺上手くやってないとやってられない。


「それじゃ先に帰る! お前もちゃんと帰れよ!」


「……仕事は、いいや帰ろう」


 あいつ、帰る時はアホほど早いんだよな……。ところで仕事はどうするつもりなんだろうか、しかもパソコン点けっぱなしで机もゴチャゴチャ、また課長に怒られるんじゃねぇかな? いや、まぁキャバクラの翌日は午後出社だから大丈夫か。





<昨夜起きた全国的な集団昏倒事件について、関係各所に話しを聞いていますが一向に全貌が見えません>


「…………」


 職場で気を失ったのは昨日の夜、どうやら俺や大輔、野球の試合以外の場所に居た人たちも同時に気を失っていたようだ。全国の人間が全く同じタイミングで気を失った事で外国からの特殊な兵器による攻撃なんて話もあるけど、大体の人間があの白い空間にヒントがあると言っている。


「滅びの未来と救済か……」


 会社で目が覚めてからしばらくは頭がボケていたけど、少しずつあの白い空間で聞いた声を思い出してきた。男の声で滅びが決定したと言っていたはずだが、女の声で救済だのと言っていたはずだ。ならあの白い空間は救済のためのなにかだったんだろう。


「あとこれだよな」


 今回の事は絶対に人の手によって引き起こされたものじゃない、そう断言できる理由が白い空間以外にもある。それが今も目の前に出ている緑色の壁、透けているので視界不良になることは無いが邪魔で、邪魔だと思えば消えるのだが、定期的に表れるのだ。


「唯々緑色なんだよな……触れば変わるらしいけど、もうちょっと様子見ようかな」


 スマホでこういう病気があるのか調べたけど、白内障や緑内障やら出て来ても症状が全然違うし、その代わりに同じような症状が書き込まれたSNSや掲示板が急増している。これもきっと昨日の白い空間と同じ超常現象みたいなもんだんだろ。触れば理解出来るという書き込みもあったし、理解したという書き込みもあるので触ってみても良いんだが、落ち着いた場所でやれってのもあってまだ躊躇している。


 それより今日も行きたくない職場に行かないといけない。ネットも今日は繋がりにくいし、立って寝るわけにもいかない満員電車が憂鬱である。


「と思っていたんだけど、なんだこの人の少なさ……あれ? 今日は祝日、じゃないよな」


 スマホでカレンダーを確認しても今日は平日、平日のこの時間に人が少ないなんてありえない。いつもなら止めどなく改札から人が入ってホームに列を作って、開いた電車のドアからは人があふれ出てきて、その溢れる人間を押しやって我先にと乗り込もうとするババアが、今日はいないな……。


「あのいつものやべぇババアどころか人が半分くらいだぞ?」


 よく見れば電車に乗っている人間はみんな不安そうにしている。一部は全然気にした様子も無くヘッドホン付けてスマホ見てたりするみたいだけど、そうだスマホで情報収集は必要だな、これはあまりに異常過ぎる。


「もうすぐ着くか」


 何時もならつらい満員電車の片道45分、毎日ぎゅうぎゅうで変な乗客もいるし早く出してほしいと思う檻の中がこれほど快適な事とか、休日と祝日、あと正月の出勤ぐらいだがあれは別の意味でつらい。


「うぅん……」


 それにしてもなんだかすごいことになってるな、午後辺りに政府からの正式な発表があるとか書いてるけど、恩恵に陥没、突然現れた奇妙なタワーにEマネー……やっぱりこの緑の壁を早く触った方が良いのか、でもなぁ妙な圧を感じるんだよなぁ。


「ん?」


 やっぱり人が少ない、休日の早朝くらいの人だろうか? いつもなら地下鉄から出る時の階段なんて長蛇の列が出来るのに、それになんだか妙に静かな気もする。


「やべえよな!」


「マジやべえって!」


「「あはははは!」」


 うん、学生の笑い声が良く響くほどに静かだ。それは元からか? 俺にもあんな若い頃があったな……あっただろうか? あったような気もするんだが、あそこまで興奮しながら学校に行けていた気はしない。


「東京都とそれ以外の違いかな?」


 まぁ、引っ越しも多かったし、引っ越し先も大抵が田舎の方だったからな、環境が違うんだからそんなもんなのかもしれない。それにしても何か良いことがあったのか、えらく興奮している様だ、原因はやっぱり昨日の異常現象か、それとも彼女でも出来たのか……やめよう辛くなってきた。





 はぁ涼しい、エントランスに入っただけでこの気温の違いは助かる。最近は朝の時点で馬鹿みたいに暑い日もあるし、本格的に暑くなってもまだ気温が上がってるらしいからなぁ……これが異常気象か、そう言えば環境破壊とかなんとか昨日の白い空間も言ってたな。


「あ、おはようございます」


「おはようござます」


 挨拶して来たのは警備さんだ、いつもこの時間はエントランスに立っている。不審な人間が入ってこないようにとかその為なんだろう、実際朝から痴情の縺れで乱闘騒ぎもあったからな、どっかの部長とキャバ嬢の取っ組み合いとか、よくあれでクビにならなかったよ。


「あの、ちょっといいですか?」


「え?」


 普段は挨拶しかしない警備の人が話しかけてきた。名前も知らないから普段接点もほとんどないんだけど、なんだろう、俺何かしたかな?


「その、今日は会社休みだったりするのでしょうか? 社員の方がほとんど出社してない様なので……」


「え、いやそんな……今日は特に休みというわけじゃない筈ですが」


 人が来ていない? だいぶ年が上の人だけど、ボケる年齢じゃなさそうだし、スマホ見てもスケジュールに変更は無いな、なんだったら昨日の夜から社内共有のスケジュールに変更が入ってない。おかしいな、部長と課長ならキャバの次の日は外回りに変えてサボると思ってたんだけど……。


「ですよね、こちらで把握しているスケジュールにも何も書かれていなくて、でも人が来てないんですよ」


「ちょっと俺じゃわからないですね、特にこっちのスケジュールも変更が入ってないので」


「そうですか、分りました」


 本当にわからない、あの白い空間の夢を見てから全てがおかしい……これはファンタジー系の漫画やアニメにある様な異世界転生、いや転移と言うものなのでは? そのくらい可笑しなことが無いと信じられないようなことが起きている気がする。うん、俺の中二病もまだまだ健在のようだ。


「何かあったら言ってください」


「ありがとうございます」


「……いつもと違う会社も気味悪いな、正月も異常に静かだったけど」


 人が来てないってのは本当っぽいな、全然いつもの騒がしい感じがしない。うちの会社は日本人の割合が少ないとかで朝来ると騒がしい外国語が飛び交っているものだが、出勤者実質一名だった正月並みに静かだぞ。


 とりあえず出勤者の確認して、うるさいのが居なかったらテレビつけてニュースでも見るか、政府発表だか何だかの前にニュースで何かやるだろ、最近のニュースはつまらないからテレビ捨てたのがここにきて問題になるとは、朝はスマホでしっかりニュース見とくんだった、出先だとすぐに通信制限食らうのマジで糞だわ。


「おはようございまー……マジで誰も居ねぇ。お局も来てないぞ、ありえないだろ」


 誰よりも早く来て掃除して朝来る人間に嫌味を吐く機械のお局が来てないとなると、これは俺に黙って会社を休日にしたか? 流石にそんな馬鹿みたいなことはしないと思うけど、なんで誰もいないんだ。


 大輔は、まぁいつも遅刻ギリギリだし来ているわけないとして、朝とは言え照明一つ点いてないと暗いな。


「こういう時はブラインド一つないうちの会社の窓は優秀だよな」


 昔は有ったらしいが、壊れて新しくするのが無駄だからと壁から引きはがしてそのままの窓、大通り挟んで向かい正面のビルに反射した朝日が良く入るのだ。まぁそれでも照明つけないと暗いんだけどな。うーん、照明を点けて見渡しても昨日帰った時と変化がない、ってことは朝の清掃も入ってないって事か……。


「清掃のおばちゃんも出勤してないのか、あの人たち5時くらいには来てるはずなのに」


 正直そんな早朝から会社来たくない、マジ感謝なんだけど来てないみたいだ。ん? 足音が聞こえるな。


「お、おはようございます!!」


「うるさ」


 大輔か、今日は少し早いな。


「…………な」


「どうした?」


 課長が居たら怒鳴ってネチネチ愚痴を言いそうな騒音を上げて入って来たかと思えば、今度は周囲を見渡し始める大輔、気持ちはわかるがきょろきょろと辺りを見渡す仕草が絶妙に気持ち悪い。


「お、おお、おおお! 羅糸! 生きていたか!」


「うわきも」


 うん、ガチで気持ちわるい。俺は男に両肩を掴まれて潤んだ瞳で見詰められて喜ぶような性癖は持ち合わせていない。美少女に生まれ変わって……それでも大輔は嫌だな。


「ひでぇ!? そして何かもっと失礼なこと考えてない!?」


「ソナコトナイヨー……で? どうしたんだよ暑苦しい」


 こいつ偶に勘が良いのなんだろう、そんなに顔に出ていただろうか。


「大変なんだよ! と、とりあえずテレビ、テレビをつけよう!」


「お、そうだな」


 やっぱり今日は何かおかしい事になってるんだろな、何が起きてるのか、とりあえずテレビをつけるのは賛成である。俺の肩を放した大輔は会議室の方に向かっているって事は、大きい方のテレビを使うつもりか、まぁ今日はまだ誰も来てないからいいのかな? 課長かお局が居たらぶちぎれてると思う。


「おもい、手伝ってくれ!」


「はぁ……」


 何が起きてるんだろうなぁ。

いかがでしたでしょうか?


おかしなことが起きているようですが、何が起きているのか、次回もお楽しみに!


評価感想など頂けたら幸いです。

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