第17話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「……」
「燃え尽きちまいやがって……」
いつもより重力が重く感じる。なんか大輔が言ってるが原因の半分はお前だすっとこどっこい。面倒な対応全部俺に丸投げしやがって、でもこいつが全部担当したらどうなってたかな、想像もしたくない大変なことになってそうだ。
「お前が担当したら俺はこんなことにならずに済んだんだ」
「へへぇっ! これは感謝の印でございます」
「うむくるしゅうない‥‥‥なんでお汁粉?」
それでも愚痴らずにいられない……なんでお汁粉? この暑い時期になんでお汁粉? どこに売ってたのさ、しかも冷たいと言うかぬるいと言うか常温だし、嫌がらせかな? お? やんのか?
「自販機の撤去の時にもらったんだよ、どうせ回収しても捨てるだけだからって」
あー自販機も到頭回収されたか、社員が居なくなって売れないからと自販機を回収することになったのだ。と言うか、お汁粉と入れてる場所あったの? うちの会社は妙に自販機が多いから商品把握できてないんだよな。
「まぁこの時期は売れないわな、冷やしても美味しいのかな?」
「不味くはならんだろ?」
まぁ、不味くはならないか……。
今日の予定はこれと言って無い。と言うか山本さん聞きたくないお話事件からすでに一週間以上過ぎた。その間もあちこちから届く書類に判子を押す機械となって毎日を過ごし、その度に新しい聞きたくない話を山本のおっさんに聞かされ、その都度同行している警察官やどっかの役人から不憫そうに見詰められ、日に日にやつれる俺は高橋さんから心配されると言う日々を過ごした。
ちなみに今日唯一の予定は、会社の倉庫整理で出て来た家庭用のペンギンカキ氷機でカキ氷を作る予定だ。
「あとで凍らせてこれもカキ氷にしようぜー」
「お、いいな……それにしてもなんだ」
「ん?」
何か気になる事でもあるのか? とりあえず大輔の机に山となっているお汁粉をボールに開けて凍らせよう。砕けば何とかカキ氷にもなるだろ、知らんけど。
「羅糸、良い感じになったな」
「んん?」
急に何を言い出すんだ? なんかその上から目線の表情がむかつくので、その伸びてきた顎鬚抜いていいかな。
「こう、吹っ切れた感で良い感じにワイルドだぞ」
「……やさぐれただけだろ?」
「そうとも言う」
言うのかよ。
「言うのかよ……もう色々気にしてもしょうがないじゃん?」
高校卒業して初めて入社し勤め続けた会社の実情を知れば知るほどに後悔しかない。ほぼ毎日来る山本のおっさんは、タバコをふかしながら嬉々として裏話とか、知ってると不味そうな話をしてくるのだ。真面目に生きる意味を見出せなくなっても仕方ないと思う、その度に高橋さんが正道に誘導してくれるが、時すでに遅く世は常に理不尽である。
「まぁなぁ? 俺は聞いてないがすごい事になってたんだろ?」
「まぁ知ったところで、今更使いように無いことが多いけどな」
「そうなの?」
そうなの。
知っていると不味そうな話と言うが、山本のおっさんもその辺は理性は残っているらしく、該当する権力者はほぼみんな行方不明や豚箱直行らしい。それでもあまり闇の深い話は聞きたくないんですが、おっさんは実に楽しそうに話すのだ。
「ボス特攻武器持ってても、使うべきボスが居なけりゃ意味ないだろ?」
「それはそうだ、なるほどなぁ」
「まぁでも、会社が溜め込んでた物品は多少持って行っても構わないってのはありがたい話だけどね」
善意とストレス発散が半々と言った様子の山本さん率いる公安の人や警察の人には妙に気に居られているのは俺でもわかる。その理由までは分からないけど、高橋さんは理解しているのか俺の疑問に何時も苦笑いで返すのだ。
そんな無駄話のついでと言った感じで会社の所有する物品に関して緩い許可をくれた。現在所有者が居ない会社の財産を一部融通してくれるらしく、国が本格的に資金回収に入る前までなら持って帰っても構わないそうだ。
「いいのかそれ?」
「グレーだな、口止め料みたいなもんらしいよ」
だいぶ濃いめのグレーだけど、口止め料と言えば構わないと言っていた。どうやらその為にいろいろ吹き込んでいる節がある山本さん、内部的にも調査の一環である程度の情報開示は必要だとか言いくるめてるらしい。不良公安である。
「なるほどな、それじゃ社長室の酒とかも良いのか?」
「良いんじゃない? ちゃんと持って行くって書類出さないと横領だけど」
「きをつける」
無駄にキリリとした表情で社長室の酒とか言い出すがすぐに目を泳がせる大輔。そのくらいの書類はちゃんと出せよ、出さないと警察のお世話になるぞ? ここまで来てそんな事で捕まるとか阿保らしすぎる。
それにしても暑い、古い空調設備の調子が悪いのか、単純に異常気象なのか室内にいるのにじんわりと汗ばむ。
「しかし今日も暑いなぁ」
「カキ氷日和だろ?」
まぁだからこそカキ氷を作ろうとか言いだしたわけだけど、近所のコンビニもスーパーも閉店しているので、現在は冷凍庫で氷を作っているところだ。本当なら大きなブロックの氷を買ってきて削りたかった。何故なら業務用のカキ氷機まで倉庫から出て来たのだ。
「なんでこの会社カキ氷機置いてんだろな」
「知らね」
ビニールに入れてたからか錆一つ手垢一つない新品の手動式カキ氷機、車輪の様なハンドルが横に付いたそれは海の家とかに置いてありそうな物だ、是非とも使ってみたいと思ったが大きな氷が無いと使えないので、一緒に置いてあったペンギンで我慢することにしたのだ。残念。
「失礼します」
ん? この声は、やっぱり高橋さんだ。最近はもう警備さん達もスルーしていてここまで顔パスである。
「おや? こりゃ高橋女史! ささどうぞむさ苦しい部屋ですが」
「あはは」
あと毎回大輔はこんな感じで、オーバーアクションで高橋さんをソファーに誘導するし、すぐに冷たいお茶を用意し始める。ところで毎回思うけど、じょしってなに?どうでもいいから聞かないけどさ。
「今日はどうしたんです? 予定は入ってなかったと思うんですけど」
「はい、もう手続き関係は全て終わったので、あとの作業は私の手を離れました」
「そりゃ目出度い!」
どうやら会社の解散に関わる手続きは全部終わったらしい、もうあの大量の書類に目を通して判子とサインを書く作業が終わり……いや、山本書類がまだ来そうな気もするから変なフラグは建てないようにしておこう。
しかしそれなら高橋さんは何をしに来たのか、まぁ美人が来てくれたら花があって良いので全然かまわないのだが、大輔が気持ち悪くなるのでその分は少しマイナスだけど。
「はい、なので今度はお二人の人生相談に来ました」
「人生相談?」
「んんん?」
人生相談、二者面談とか三者面談とかそんな感じ? え? そんなに心配されてるのか、まぁ今後の事は漠然としていて何も考えていないから助かるけど、人生相談ねぇ? 大輔もキョトンとしてるけどとりあえずこっち見んな。
「実は今度こう言うのが始まるんですよ」
「官民連携ハンター支援事業?」
なんぞそれ? いやだから俺を見ても知らんて、高橋さんに聞きなさいよ、それでその手に取った書類を俺にも見せろ。
「独立行政法人化物対策協会?」
おん? なんだか急にキナ臭くなったぞ? あれかな、山本のおっさんの話を色々聞いて来たからか文字だけでキナ臭さがわかるようになったのかもしれない。いや普通にキナ臭いな、国がハンターを推奨してるってことか? あやしいな。
「はい、国と各企業が連携して大々的にハンターを支援することになりまして、私の方でも推薦枠を貰いましたのでどうかなと」
「どうって‥‥‥どうよ?」
「どうよと言われても、俺の恩恵未だに開花せずなんだけど」
いやまぁ、俺も面白そうだなと思った事はあるけど、推薦枠? 恩恵ありきのハンター業なんて今の俺には不可能だぞ? 未だに交換とか言う謎の空間魔法が使えないんだから、まぁ忙しかったり疲れたりで詳しく調べようともしてなかったけどさ。
「俺は毎日活用してるけど、急速睡眠だからな?」
それは普通に羨ましい。そう言えば異変からこっち、大輔の目の下にあった隈が見当たらなくなったな、今気が付いたが良く眠れているのだろう羨ましい。
「私からある程度の優遇措置をお願いする事も出来ますし、恩恵を使わないハンターも増えていますよ」
「俺はパスだな、やるにしても今じゃねぇや」
「そうですか……」
大輔はパスか、恩恵は便利だがハンターとしてやっていけるようなものかと言えばなんとも、どんなに過酷なハンター活動を繰り返しても毎日快眠はある意味武器だが、そもそも大輔は働く気が無いから意味が無い。
それにしても、そんなにハンターになってほしいのか……いや、あの顔には覚えがある。そう、俺達が突然部長からの思い付きノルマを熟さないといけない時と同じ顔、きっとこの推薦枠ってのは貰えたんじゃなくて押し付けられたものだろう。そうなると、高橋さんの所属しているところも……この対策協会もあまり当てには出来ないな。
「……とりあえずハンター資格とるだけやってみようかな」
「ほんとですか!」
まぁだからと言って資格自体はあって損はしないだろうし、優遇が受けられるならその方が良い。あと何だかんだ会社と俺らの為に色々やってもらったからな、不都合が無い範囲ならお返しくらいしておこう。別に嫌いなわけでもないし、美人なお姉さんとの縁は大事である。
「なんかあるんでしょ? 増やしたい理由が」
「……ええ、まぁ、そうですね」
やっぱり、めちゃ目が泳いでますよ高橋さん。大輔もそんな顔するなら資格ぐらい受けて見りゃいいのに、いや……話を聞く限りだと資格なんて取ったら親に無理やり働きに出されるのか、普通に家族がいるなら実家暮らしが良いのはわかる。
「羅糸は優しいねぇ‥‥‥そこに付け込むの無しだぜ?」
「そんなことしませんよ」
少し高橋さんがむっとした表情を浮かべ、大輔が肩を竦めて笑う。
まぁ、散々会社に騙されて来たわけで、ここで騙される可能性も無くはないのかもしれない。大輔の考えていそうな懸念もわかるが、まぁこのくらいの事なら変な事にはならないんじゃないかな、流石にこの先からは有料ですとか資格取得に大金が必要になったら俺も諦めるし、問題ないだろう。
「資格はあって困るものじゃないし」
そう、資格はあって困ることは無い。無いのだが取得する気も大してないので、高橋さんに背中を押してもらえれば多少はやる気も出るだろう。それにこれはまったく新しい事だ。今までずっと同じような毎日を繰り返していた俺が変わるには、新しい世界に踏み込むのが手っ取り早い気がするんだよね。
いかがでしたでしょうか?
社会はハンターに興味を示したようです。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー