第16話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「今日は人が少ないんですね?」
あっと言う間に水曜日、最近は定型文となった休業予定と言う電話対応のおかげで仕事も落ち着いてきたが、清掃員が居ないのでトイレ掃除や床の清掃なんかも業務に追加されている。
トイレとか使ってないのにいつの間にか汚れて行くのが不思議だ。
「ええ……」
不思議と言えば今日の人数、前回の様にぞろぞろと人を連れて来ていないのは、まぁ持って行くものもないし報告だけだろうから少なくても仕方ないとは思うが、こう言う人達はそれでも単独行動はしない筈だ。いくら高橋さんが居るとは言え、所属違いで合わせて二人と言うのは違和感がある。
「すまねぇな、ちょっとこの話はあまり広めてほしくなくてよ」
「出来れば私も辞退したいのですが……」
うん、これは厄介ごとの臭いがプンプンしますね? 高橋さんは帰りたそうにしているし、俺も是非その帰宅にご一緒させてもらいたい。エスコートしますよ? 途中で胃にやさしいものでも食べて帰りませんか? ものすごく顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか高橋さん。
「嬢ちゃんは駄目だ。担当だからな、腹ぁ括ってくれ」
「はぃ……」
あ、ダメらしい……。しかし担当って事はこの会社についてであって、俺個人には何の関係もない。それはすなわち帰って良いと言う事にはならないか? いやなる。
「……俺も聞きたくないなぁって」
「おいおい、それこそ無理ってもんだろ? お前さんの会社の話だぞ?」
ダメでした。でもいやいや、お前の会社だろと言われても俺この会社の経営者でも無ければ役職持ちでもないんです。本当ですただの下っ端なんです帰らせてください。
あの、高橋さん? なんで俺をじっと見つめているんですか? 先ほどまでの嫌そうな表情が嘘のように慈愛に満ちてますが、え? そんなにやべぇ話なの? なにか知ってらっしゃ……目を逸らさんでもろて。
「いやぁ私は下っ端ですし?」
「あほ、現状この会社のトップはおめぇさんだ」
「いやいやそんな馬鹿な」
はははご冗談を、総務と人事にちゃんと役職持ちが居るんですからそちらに行ってください。何時から俺がこの会社のトップになったんですか? そんな理論は通りませんよ? 退職届出してもあいつらぎりぎりまで有休使う様に書いてあったからまだ辞めてません! 俺じゃないんです! 信じてください! 俺は何もやっちゃいない。
「事実だ。お前より役職が上の連中はもうしょっぴいた」
「え?」
は? しょっぺぇた? しょっぱいの? いやしょっぴいたか、それって逮捕したって事か、山本さんの言い回しは分かりづらいんだけど、え? いやマジでなんでだ。
あ、この件は高橋さんも把握済みなんですね? そんな沈痛な面持ちで見詰めないでください照れて……お腹痛くなってきた。
「ああ、行方不明の親玉連中じゃなくて総務課長と人事部の女だ」
「ええ?」
その人たちはこちらも所在を確認してますが、親玉? 行方不明って事はまぁ社長を筆頭に上層部の人達だろう。山本さん? 何かものすごく悔しそうな顔してますけど? 捕まえたかったのは社長だったのかな。
「まぁ大人しく聞け、おめぇさんが白なのは確定だ。もう一人の同僚も白だ」
「はぁ?」
「……」
これが落ちついてられるわけがないけど、なんだか怖いので落ち着きます。なんかここで無駄な抵抗したら白も黒にされそうな顔なんだよねこの人、高橋さんそう思いません? なんで少しほっとしてらっしゃるのですか。
「あとはもう辞める連中だろ? 辞めるんだから会社の方針決定には関係ねぇ、ならお前さんがトップだ。いいな?」
「ッスゥー……」
あのまだ大輔が……ええ、そうですね、一度もこの場に現れない大輔は除外されますね。うん、もう逃げ場が無いんですが? 俺が会社のトップ、男の子なら一度は夢見る一国一城の主的な? まぁ最近の子は責任とか面倒だと誰もやりたがりませんけど、それは俺もそうなんですよ? 若いんです俺も。
「んで、お前の上二人はまぁ脱税に加担してたし個人的にも脱税していた」
「あー」
あー……やってましたか、個人的にも脱税ってどうやるんですかね? あれ? 副業ですか? うち副業禁止でやったらクビだと聞いてたんですが、なるほど……会社も個人も真っ黒だな、白ってのは脱税の事か。
「あとこっちが俺の領分だが秘密保護法違反で真っ黒だ」
「ひみつ?」
ん? どっかでその昔聞いたことがある様な、コンプライアンス的な問題が発生したときに誰かが話していた様な気もしますがそれって何ですか? おしえて高橋さん。
また目を逸らされたんですが。
「ん? わからねぇか、要はスパイだスパイ、最近アニメで人気だろ?」
「すぱい……」
「……」
おー……? すぱい、何かそんな話題が少し前にもあった様な、それにしても山本さんアニメ見るんですね、意外です。スパイ、スパイかぁ……高橋さんがめっちゃ耳塞いでるんですけど、手遅れですよね? 総務課長と人事部の人がスパイ? まぁ色々知ることができるポジションでしょうけど、この会社でスパイするの? わからん。
「この会社はな? 前から俺がマークしてた会社でよ、だが中々上手くいかなくてな、それがいきなりこれだよ」
「はぁ?」
会社? 総務課長じゃなくて? 人事部の女性でも無くて? 会社、これはちょっと話が大きくなりそうな予感がするぞ? 帰りたいなーかえりたいなー……あ、ちゃんと話を聞けと、了解です。
「行方不明の連中は全員が黒だ。と言うよりこの会社自体が多国籍諜報会社みたいなもんでな、色々な所から集めた情報をあちこちに流して金稼ぎしてたのさ」
「…………おぉ?」
なんだそのアニメの中に出てきそうな悪の巣窟、え? うちの部署の面々もスパイだったって事? てか何だその多国籍諜報会社って、欲張りすぎだろってことは、俺の知らないお金がこの会社にはたんまり、とは言えこの会社のお金事情なんて何も知らないわけですが。
「流す相手は海外にも国内にも居てよ、大企業や政治家がお得意さまだ。そんな会社をしょっ引けると思うか?」
「……無理かなぁ」
無理だねぇ、そんなの複数の権力者にプチっと握りつぶされるだけ、俺なんて秘密を知った瞬間行方不明からの変死体か、もしくは東京湾に沈められてお魚の餌エンド間違いなしだ。その時は大輔も道連れにしようと思う。
「だろ? それが今回の異変でうるせぇ奴らが消えてよ、バラす事が出来たんだ。だが親玉が神隠しじゃ締まらねぇよなぁ‥‥‥」
「見つからないんですか?」
消えたってことは、権力者も行方不明が出てるのか、それにしてもやっぱり見つかってないんだな行方不明者。ほんとどこに行ったのやら、集団催眠だなんだとテレビでは言っているが、そんなちゃちな何かじゃないだろ、恩恵とか化物とか訳の分からないことが起きてるのに……あー背中に変な汗掻いて気持ち悪い。
「……これはまだ秘密にしてほしいんだが」
「なら聞かないです」
「まぁ聞いとけ」
「……」
秘密なら喋んなよ! 拒否権行使させろやおっさん! てか高橋さん全力で耳塞いでるけど絶対聴こえてるよね? 人が居ないからって山本のおっさん声がでかいんだもん。いやいや、首を横に振られても俺には何もできませんよ高橋さん、その涙目は正直ぐっと来ますが泣きたいのはこっちなんですよ。
「今回の行方不明者には色々共通するところが多くてな、そこは無視するとして、たぶんだが居なくなった連中は国元に送還された可能性が高い。あの異変でな」
「送還?」
「ああ、空港の件は知ってるだろ?」
「突然現れた人ですね……彼らも?」
送還、送り返す事? 空港に現れた人がここで話題に上がるって事は、海外で行方不明者が発生して日本の空港に現れた。そうなると、日本での行方不明者は外国の空港に現れていると、いやでもそれじゃその外国はどこに行ったんだ。と言うか国元に送還って、うちの社員はほとんど日本人じゃなかったってこと? 確かに外国人多かったけど、こんな居なくなるほどじゃなかったと思う。
「ああ、該当範囲がだいぶ広く、国元と言う定義も緩くなるんだが、日本から他国に送っていた優秀なスパイはみんな空港に居たんだ。逆もしかりって事さ」
「あー……なるほど? でも何でもそんなことに」
あ、日本もスパイって他国に送り込んでるんですね。え? それって普通の一般常識? 俺が知っても大丈夫な事? 高橋さん高橋さん? 俺が聞いてだいじょうぶで……は無い感じですね解ります。
困ったような微笑みを浮かべても美人ですね。
「それは知らねぇ、異変の調査は俺の仕事じゃないからな」
「たしかに」
あんたの仕事じゃないなら俺にも教えないでくれ、なんでこの人楽しそうに笑ってんだ。会社の闇に日本の闇まで聞いちゃってもう、勘弁してください。
「この会社はだいぶ特殊だが、似たような会社や組織は多い。そしてどこも似たような状況だ」
「はぁ」
あ、そう言う会社割とあるんですか、知りたくなかった。
「解体すりゃ色々と国は潤うんだ。協力してくれるなら色々得するぞ?」
あー確かに溜め込んだお金が国に流れ込んで来ればそりゃ潤うだろうけど、どうせ偉い人の懐に入るだけで俺には関係ないと思う。強請ったところできっと、お前は知り過ぎたんだエンドのフラグが立って、そこから地獄まで選択肢無しのストレートコースに入るんだ。俺、詳しくないけどそんな気がする。
大体協力も何も、俺に出来ることは全部やったんだが? 全部やる課は仕事納めです。
「協力と言われても、もうこれ以上は手伝いようがないので?」
「なに、色々とサインしてくれたらいいさ? おめぇさんがトップだからな」
「ああ」
なるほど、日本は9割が手続きの社会とか聞いたことがある。あれ? 8割だったか? まぁでも手続き好きが多いことは確かで、その手続きを完了させるにはサインが必要となるわけで、俺はただただ判子を押す機械になればいいんですね解ります。
「はぁ‥‥‥」
高橋さんが不憫そうにこちらを見ている。仲間にはなりたくない様だ。そら仲間にはなりたくなかろう、俺は絶対嫌だ。ポジションのチェンジをお願いします。
「それなら好きにしてください」
まぁ断ることもチェンジも聞かないなら好きにしてほしい、少しでも大輔が役に立てばとも思うが、奴に言ったら確実に次の日から来なくなる。俺は詳しいんだ。
「よし! お前さんの事はしっかり守ってやる安心しとけ!」
「なら大輔、残ってる同僚もお願いします」
「おう!」
まぁ公安のベテランっぽい人に守ってもらえると言うなら、うん、まぁ少しだけ安心かな、ついでに大輔の事もよろしくしておこう。これ言っとかないと奴は逃げる。何も悪いことをしていなくても、何か怖いとか言って逃げ出すに違いない。俺は詳(略。
「……私も微力ながら助力しますので氣を強く持ってください」
「あ、はい……」
優しい、凶暴な笑みの山本さんの後に見る高橋さんは目に優しいし心にも優しい、きっとこれで病気も治る。あとでSNSに宣伝しておきますね? 美人のやる気に満ちた表情は癌に効くって、特にぎゅっと握り締めたおててがとてもGoodデス。
いかがでしたでしょうか?
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー