第15話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「月曜日か……」
結局酒飲んでぐだぐだしてたら休日が終わった。どうして月曜日はこんなに憂鬱なのか、原因の一つは確実に電車の遅延なのだが、どうして月曜日は高確率で遅延して途中で止まるんだ地下鉄……あぁ月曜日だからか、QED? でいいのか? 頭が回らん。
「はぁ疲れた……遅延つら」
いつも早めに出てるから遅延があっても問題は無いんだけど、なんと言えば良いのか分からない重怠さで体の節々が痛くなる。
「この辺も人が少なくなったけど、遅延すると流石に満員になるんだなぁ」
特に今回はすっかすかの電車が異変前に戻ったかのようなすし詰め状態、お寿司は食べたいけどあんな密着は食らいたくなかった。なんかもうほんと疲れた、このまま自販機の前でエナドリ飲みながら一日終わらせたい。
…………はぁ。
「行くか」
こうして社畜は無駄な仕事に赴くのであった。マジで無駄な気がするけど、行かないとなぁ? いや行かなくても良いような気もするけど、一応高橋さんも気を使ってくれてるのか会社にしか電話してこないからな、それはそれで寂しい気もするけど仕方なし。
とりあえず今日は朝一でデスク周りの掃除でもするか、資料探しだなんだでゴチャゴチャして、ん? 急に暗くなったな。
「は?」
「うっ……」
……は? え? ん?? ……あ、人だわ、人なんだけど、人が上から落ちて来たんだけど、無傷っぽい? 血も出てない。今の一瞬、体が光ってたけどもしかして変身する魔法少女的な方ですか? 随分服装が乱れているけどOLさんかな? 魔法少女にしてはすこし歳が……。
「げふんげふん……あ、もしもし? 事故? 事件? 良く分からないんですけど今、目の前に人が降って来て」
とりあえず電話しよう。片膝立ちは結構痛いんだけど、落ちてきた女の人の容体を見ないといけないから仕方ない、これが血だらけとかトマトならこうも行かないだろうな、確実に混乱して吐いて大惨事になっているところだ。
「はい、たぶんビルからで、飛び降りなのかは分からないです。生きてます。触ってません。落ちた瞬間ぴかっと光って……はい」
多分落ちて来たのは目の前のビルの上からだろう、大きなビルの窓のどこかから落ちたのか、確かこのビルには外資系が入ってた様な気がする。
目の前の女の人は胸が上下に動いているので生きてると思う。どうして生きてるんだろうか? 目で追えない速さで、しかも頭から落ちて来たみたいだし普通なら血の池になっていてもおかしくないが傷一つ無い。
そう言う恩恵を持っているのだろうか、でもそれならなんで気絶? わざと落ちたわけじゃないのか、気絶が恩恵のトリガーなのか……。
「ぼうごまく? おんけいのひとつ? なるほど?」
ぼうご、防護か? 110番に電話しているわけだが、電話を受けてくれた女性はものすごく冷静に話してくれる。良く分からないが異変が起きてから人にはみな防護膜と言うものが標準装備されているらしい、初めて聞いた気がする。そんな話していただろうか? わからん。
「とりあえず、そうします」
どうやら防護膜が発動したなら大丈夫だろうとのことで、すぐに警察と救急車が来てくれるらしい。ついでに気絶したままの女性を路上に放置は不味いので見守っていてほしいとのことだが、まぁ別に何か処置が必要なわけじゃないし見てればいいか。
片足突いているのも辛いしもう地べたに座ってしまおう。こんなことしてても気にする人間なんていない、面倒事に首を突っ込むくらいなら会社に急ぐ。社畜が多い時間帯なんてこんなものだろうな、俺も関係なければ無視していたところだが、流石に目の前に落ちてこられたら無視のしようもない。
「調べよ」
とりあえず時間の有効活用をしよう。
見守ってくれと言われたからと、女性の体をジロジロ見ても面倒事しか起きない気がする。それに一通り怪我の有無は見たので問題ない、骨折はわからんが、頭から落ちたから気絶してるんだろうし、そうなると下手に動かすと不味い。
なら今はスマホで検索する時間としよう。警察が来たらまた面倒なんだし、防護膜、防護膜はそれなりにヒットするが、見落とし、あー……ゲームの攻略情報と混ざってたやつだ。
「おいアンタ何してんだ!」
ん? なにやら若々しい声が前から聞こえる。女性の声ではないが……おお、若く正義感に満ちた顔をした高校生かな? 美女を侍らしている辺り点数高いね。おじさんには眩しくて直視できないってちょっと何してるんだこの馬鹿。
「あ、触らないでください。今警察と救急車が来ますので」
「は?」
急に現れてOLさんを抱き起そうとするとか、さては変態さんだな? とりあえず伸ばしてきた手を叩いた俺は褒められて良いと思うが、めちゃくちゃ睨んで来たけど俺が警察と救急車の名前を出した瞬間動きを止めた。まぁ見るからにこっちを下に見てるような表情であるが、彼女の安全の為にも待ってほしい所だ。
俺が言い聞かせているとすぐに美女が駆け付ける。多勢に無勢は面倒だな、もうめんどくさいし警察に電話して会社に行こうかな。
「上から降って来たんですよ」
「は?」
とりあえず説明すれば男子高校生はきょとんとした表情で俺が指し示した上を見上げ、すぐにビルに目を向ける。そして男子高校生は美女に後頭部を叩かれた。どうやら女性達は状況を理解したようだ。まぁ落ちてきた女性が身に着けていたであろう物品があちこちに散らばってるしな、あとこんな白昼でナニをすると言うのか、そこまで東京は乱れた街だっただろうか。
「一緒に立ち会います? 警察来るから」
「え?」
女子高校生? に声を掛けると驚いた声が返ってくる。一方で男子高校生は当然だと言った様子で頷き、またOLを抱き起そうとするのでもう一度その手を叩いておくことにする。
「おはよう」
「んお? おー……遅刻か、珍しいな?」
大輔がスナック菓子を食べながら片手を上げて来た。奴の前にはすっかり大輔の机の隣が定位置となった大型テレビが遅めの朝ニュースを流している。
そう遅め、遅刻である。
「それが来る途中で人が空から降って来てさ」
「……は?」
あの後はとても面倒であった。
どうにかしてOLを抱き起したい男子高校生VS止めてほしい男性会社員。その戦いの火蓋は切られた直後に女子高生の強力な一撃で会社員の勝利となった。女子高生はそれなりに医療の知識があったのか、女子特有の高い声で男子高校生を叱りつけ、度々俺にそうですよね! とまるで怒っている様に確認してくるのだ。
怒られて無くても、そんな声をぶつけられたら疲れるのでやめ欲しい。
その後すぐに警察が到着、俺達の状況に説明を求める彼らに男子高校生がまたも突撃、自分を正当化する様な発言に女子高生が怒りだし、その女子高生をなだめるように他の美少女高校生が右往左往して俺にチラチラ視線を向けてくる。
まぁ男性警官が対応している間に婦警さん? 女性の警察官がOLさんの様子を確認しながら俺の話を聞き、少し呆れた様に溜息を洩らしていたが、俺は何もわるくねーだ。
「防護膜って恩恵知ってる?」
「あー知ってる。ってことは死んでないんだ」
勘が良いよな大輔、どうやら俺が道中調べて来たくらいの知識は知っていて当然の様だ。
「そそそ、初めて聞いたからびっくり。でも気絶してて警察呼んで救急車呼んで、ついでに女の人でさ、通りかかった正義感溢れる男子高校生に俺が襲ったと勘違いされて面倒だった」
「うわぁ……災難だな」
あー疲れた体に冷たく硬いデスクチェアが沁みる。
「まったくだよ、もう少しで俺が死ぬとこだった」
本当に災難だよ死ぬとこだった。
大輔なんか特に面倒くさがりだからだろう、男子高校生の下りでいろいろ想像したのか心底嫌そうに表情を歪めている。本当に面倒くさい、きっとあの男子高校生は世間一般で言われる陽キャと言うやつなのだろう。陰の者である俺とは相性が悪すぎる……でもどっちかと言うと大輔は陽の者だと思うのだが、苦手なんだろうか。
「あー防護膜のおかげで簡単には死ななくなったらしいから大丈夫じゃね?」
「でも絶対じゃないだろ?」
「そうみたいだな、実際実験して調子こいたやつが死んでるよ」
冷めた奴め、でもまぁ言いたいことはわかる。それぐらいにはこの防護膜と言う恩恵は反則なのだ。なぜこれまで知らなかったのかが不思議だけど、大体はゲーム攻略情報の所為である。みんなゲームみたいな言葉で説明したり議論するものだから、欲しい情報が埋もれて行くのだ。
「ニュースになってる奴か」
大輔の言う死人が出た話も埋もれたニュースページに書かれていた。
「とりあえず人が死に辛くなったって事らしいが、死ぬ時は死ぬし、どうにも即死する様な事故じゃなければ発生しないらしい」
「基準がわからん」
「それは誰もわからん」
誰も分からないらしい。一応死人が出た件も含めて調査が進められているらしい防護膜と言う恩恵、要は即死攻撃無効のバリアがみんなの体に張ってあり、自分の意思とは関係なく発動するらしい。ただ良く分からないのが死人が出た件の動画だと、自分の意思でバリアを出していた様なのだが、それもいまだ不明の様だ。
「電話はあった?」
「無いな、とりあえず一段落ってところか、そうなると一気に暇になるよな」
「昼間っからテレビ見てるとか信じられないな」
どうやら今日は楽な仕事になりそうだが、変な気分である。
「情報収集だよ情報収集」
「悪いとは言ってないから」
「そう?」
テレビを見ているのも悪いわけでは無い、何か会社の営業に関わる事件や問題があった場合、逸早く情報を入れる為にテレビをつけることは良くある。最近ではネットやSNSの方が早かったりするので、何かあった時は堂々と会社のパソコンで調べ物していたが、一度それで部長がウィルスを食らって以来調べものして良い人間が限定されたのはどうでもいい話だ。
「まったりしようかな、疲れたし」
「月曜は怠いよな……おーすげーな」
今日はテレビ鑑賞でもして過ごすとしよう。ほらテレビの画面も目に優しい緑色に染まってるし? ほんとこれ凄いよな、なんて言ったかなこの異常現象の名前。
「メガソーラーはほんと意味ねぇな」
「前は土砂崩れでおじゃん、今度は森林の浸蝕でおじゃん……踏んだり蹴ったりだな」
そうそう、森林浸蝕現象だった。メガソーラー発電所になっていた禿山があの異変の日以降どんどんと山の樹々に飲み込まれて、今ではソーラーの残骸があちこちに散見されるだけで綺麗な森が広がる山となっている。
少し前は禿山に大雨が降ってメガソーラーが流され麓の街が一部無くなる被害が出た場所らしく、大輔によると最近半分くらい直したばかりだとか、確かに踏んだり蹴ったりだろうが、この事件? 事故? に対しては好意的な人間の方が多い。ソーラー関係者以外で嫌がってるのは、ゴルフ場まで飲み込まれたことでゴルフが出来なくなった人達くらいだろう。
「まぁでも、電力は足りてないらしいから困ったもんだよなー」
「火力発電をフル稼働したくても燃料が入ってこないからなぁ……この樹を燃やせばいんじゃね?」
「あんな動く樹を? 誰が切って来るんだよ」
あの樹、動くんですよ。大輔の言う通り燃やせば確かに燃料になりそうではあるけれど、自分で根を動かし意外なほど速く動く巨大な樹、そんな危なっかしい物を誰が切り倒す、と言うか切れるのだろうか? 切ろうとしたら反撃されそうだ。
「そりゃお前、木こりしかいないだろ?」
「いやいや、メガソーラーぶっ壊して根付く樹を? どうやって?」
「斧? チェーンソー? ……爆薬?」
「一般人には無理だな」
もうそれは自衛隊の仕事なんだよ。でも自衛隊は日夜化物退治で走り回っているだろうし、余裕はないんじゃないか? 相手はロボットだぞ? 昨日見た動画だって色々調べたけど、あのバズーカ一発じゃ倒せなかったらしく、あのあと数発同じように撃ち込んでいるのだ。一体弾薬だけでいくらかかるのか……もしかしたらそれ以上に厄介なんじゃないかあの動く樹。
「それじゃハンターだな」
「木こりハンターか」
ハンターか、確かにハンターの中には樹を切るのに特化した恩恵持ちとか居そうではなるけど、どうなんだろう? あまりかっこよくないとかの理由でやらないとか言われそうだ。
それに、今のところ急いで切る必要は無いんじゃないかとも思う。
「まぁでも、自然破壊祭りの日本が嘘のように緑豊かになってるらしいから、良い事なんじゃねーか?」
「……確かに、これも救済ってやつか」
大輔の言う通りである。何を考えているのか知らないが、日本人は良く山を禿山にする人種なのだ。昔っから燃料欲しさに樹々を伐採し、無くなってから慌てて植樹する。その所為で東京は毎年花粉で大変なことになっているんだから、恨み言しか出てこないだろう。
「きっとそれだよ」
それに対してあの動く樹は広葉樹っぽいので、多少はマシなんじゃないだろ、ん? 電話だな、折角のまったりゆったりタイムが終わってしまう。
「はい、こまねる雑貨輸入です。……あぁどうも」
電話の向こうから聞こえてきた声は高橋さんだ。何度か会っているので声はある程度覚えているが、どうやら次の打ち合わせについての連絡の様である。
「水曜日? 10時、来られるんですね、公安からも? 色々報告が……詳細は不明。わかりました。お待ちしてます」
ジッと大輔が息を潜めているが、そんなことしても厄介ごとは向こうからくるんだぞ? ほら、次の水曜日の朝からまた会議だとよ、さらにそこには高橋さん以外にも公安の山本おじさんを着いてくるんだぜ? 厄介ごとの臭いしかしないよ、しかもいろいろお話だってさ、ハハッ! 休みてぇよ。
「だそうだ」
「水曜休む」
「駄目」
俺が休まないんだお前が休める道理はない、そんな捨てられた子犬……には見えないな、ただのしょぼくれたおっさんの顔だ。そんな顔をしても休ませないよ、たぶんだけどあの山本とか言うおっさんはお前にも話を聞きたいのだろうからな。
いかがでしたでしょうか?
山本襲来、果たして大輔は出社するのだろか、します。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー