第12話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
キナ臭い書類を高橋さんに見てもらって数日、連日の電話対応の仕事も休業についての話をするとそれ以降は電話が掛かってくることも無くなり、詳しい話を聞いたお客さんから励まされることまであった。
電話対応で荒んだ心も多少救われるような激励をちらほら受けていた10時過ぎ、事前に高橋さんから聞いていた来館時間を少し過ぎた辺りで電話がかかって来ていた。
「はい……はい……わかった。え? いやいや……マジ?」
「ん?」
大輔が最初だけ丁寧な応対なので相手は警備さんだろう、でも何やら雲行きが怪しいな……今のうちに逃げた方が良いだろうか? むむむ? 俺が無言で立ち上がると大輔が慌て始める。ジェスチャーで座れと促すが、どうやら俺が逃げ出すと察したらしい。
……勘の良い奴め。
「えっと、高橋さん到着したって」
受話器のマイクを押さえながら神妙な声で話す大輔、この部屋には二人しかいないのだから別にいつもみたいに声を抑える必要もないだろうに、これが社畜の悲しき習性と言う……到着したのか。
「来たかぁ……それじゃ案内するか」
「それと」
「ん?」
正直まだ緊張するから覚悟が必要なんだが、どうにも高橋さんに対する覚悟だけでは足りない様で、百面相をしている大輔はとても言い辛そうに、それも先ほどより小さなひそひそ声で話し始めた。
「他にも税務署と警察と……あと公安が来てるって、どうする?」
うん、税務署は前回俺が提出した書類に関する事だと思う、それはある程度覚悟したうえで出したし、俺は何も知らない話なので良いけど……公安? 警察じゃなくて公安? いやまぁ警察が来ているのも嫌だけど、公安なんて一般人が遭遇する確率的にSSRな相手ですけど、何かの間違いじゃ……なさそうだ。
大輔も顔が蒼い。
「…………おや? これは思った以上にうちの会社やらかしてた?」
「ど、どうする?」
俺が思っていた以上に何か不味い事が進行しているのか、もしくはこの会社が公安のお世話になる様な事をやって来たのか、訳が分からない。わけが分からないが、とりあえず俺のお腹がストレスでクライマックスを迎えるかもしれない。いやまて、俺は何もやってない俺は無罪、よって開き直るべき、そうすべき。
あと大輔、そんな悲壮な顔で見られたら俺も怖くなるからやめてほしい。
「案内するしかないだろ?」
「俺は?」
「一緒に来る?」
お前いっしょに来る気ないだろ、一緒に来る気があるやつは椅子に座ったままデスクにしがみ付いたりしないんだよ。
「いや、うん……俺は電話番してるわ」
「知ってた」
うん、知ってた。お前がそう言うやつだって知ってたけど……今、会社に二人しかいないんだよ? たぶんだけど今逃げても後から回り込まれると思うし、ガチで逃げたら最悪指名手配なんかも……はぁやだ。お腹痛くなってきた。
「今日もよろしくお願いします」
「はい、えっと……あまり緊張しないでと言うのは難しいですよね?」
無理です。何ですかその後ろに引き連れた男達は、女ボスなんですかね? 美人だからいかつい男達を連れてても絵になりますね高橋さん。まぁ彼女も表情が引き攣っているので美人女ボスって感じには見えないんですけけどね。
「すまんな、私は公安から来た山本だ。ちょっと調べたいことがあってね」
「公安ですか」
牽制もジャブもなしに開幕ストレートですかそうですか、山本さんと言うダンディーさん、お顔の皺に歴史が詰まってそうで普通に怖いです。あと後ろの制服着た警察の方もすごく体格が良いですね。通勤中によく見る交番のおじさんとは全然違いますよ、なんですかその肩? メロンでも入れてるんですか? 正直怖いです。
「ああ、まぁ何となくこの会社が普通じゃないことはわかるんじゃないか?」
「ええー……脱税してるなってくらいしか」
「……そうか、そうなるか。うーん」
え、なんですか? 脱税以外に何かあるのでしょうか、高橋さん目を逸らさないでください、今の私には貴女しか味方は居ないと思っていたんですが、もしかして孤立無援ですかそうですか……。
山本さんが何か、部下の人かな? 男の人と何か話している。これ必要最低限の人以外は自己紹介しないやつだ。それってあれですよね? 俺何かの疑い受けてるやつですよね? そうなんでしょ高橋さん、その困ったような微笑みはそうだと言っていますね。
帰りたい。
「それでですね、先にこちらの皆さんの用事を済ませてから詳しい話をしようかと、税務署もそれでいいですよね」
「あ、はい」
あ、そちらの眼鏡かけたスーツの人は税務署に人ですか、なんかものすごく顔色悪いみたいだけど何かあったのか、それとも単純に具合が悪いのか返事をする声にも元気が感じられないな。
「……急に決まった感じなんですか?」
「お、良い勘してるじゃないか」
山本さんの方はとても楽しそうですね、なんで俺のことそんなキラッキラした目で見るんですか? キラキラしててもどす黒い何かが見えそうな目がちょっと怖いです。いえ、かなり怖いんですが、笑てても怖いとかなんなんですかね。
「そうですかね? まぁこの会社には私ともう一人同僚の二人以外居ないので好きに見てもらって構わないですよ?」
「色々持って行っても?」
営業スマイルだ羅糸、頑張れ羅糸、色々持って行くってなんだ? 書類だよな? 身柄とかじゃないよな? 俺明日には川で冷たくなっていたりしないよな。
「あー……まぁ後は任せたと現状の最高責任者にも言われたので、いんじゃないですかね?」
「君は、えーと望月さんだったね、役職は?」
「ヒラです」
平ですが何か?役職って何ですか美味しいんですか、役職持ちはもう退職届出して連絡もつかないよ、なんでそんな疑いの眼差しを向けてくるんですかね? 比較的役職ある人間はいの一番に逃げたか行方不明だよ、なんせ俺の机に置かれていた退職届の山の一番下に総務課長の届けが置いてあったからな。
「そうか、その割には色々知っている様だが?」
「色々?」
色々? なんだ色々って俺は何も知らんぞ? どんな人員がいるかも知らないし、上層部が変な人達と付き合いがありそうな書類もあの日始めて見たし、二重三重に金額の変更がされた書類なんかもそうだ。そんな俺が何を知っていると言いたいんだろうか。
「PCのパスとか」
…………あー。
「あー、それはうちの会社がガバガバだからですよ」
「そうか、少し案内してもらえるかな?」
おめぇ信じてねぇなその顔? ほんとだぞ? うちの会社の人間のコンプラ意識舐めんなよ? 今のご時世に平気でディスプレイに付箋でパスワード張るんだぞ? まだ引き出しの中にパスワード手帳入れてるの良い方だからな? 比較的真面な部類でそれだ、底辺なんてパスすら入れてねーんだぞ? 詳しくなくても何とかなるわ。
おいなんだ、その無言の頷き……はぁ、もう早く見るもの見てもらって何でも持って行ってくれ。何ですか高橋さん? 男の子が精神的にダメージ受けてる時に背中をぽんぽんしないでください、軽率ですよ? 惚れてしまいます。
「……」
「うお!? どうだった?」
…………。うるさい奴だな。
「昼休憩」
「お、おう」
ツカレタ、マジで疲れた。社内の半分は練り歩いたんじゃなかろうか? 企画に人事に総務に戦略室に社長室、あとは言ったことない倉庫も鍵を開けて回った。しかも警備は一声かけただけで鍵束渡して来るし、ものすごく準備が良くて鍵一つ一つに真新しいラベルまで付けてくれていたよ。
「何故か公安からめっちゃ疑われてる件について」
「え!? どうして?」
こっちが聞きたい。
移動中は常に俺の両脇に警察が居るし、室内に入ったら俺が何も出来ないように四方をガタイの良い警察に囲まれるんだ。なんだこのインペリアルク〇ス、俺は皇帝か? 守ると言うか逃亡防止感がひしひしと伝わって来たけどな。
でもまぁパスの事だろうな、実際に社員のPCパス開いて見せてから何か山本のおじさんがめっちゃ目を細めてたけど、怖いんだよなあの目。
「いや、うーん……たぶんみんなのPCパス開けまくったからかな?」
「あー……お前得意だもんな」
「得意じゃなくてみんなガバガバなんだよ」
ガバガバなだけなんだよ、探せばどこかにパスワード書いてあるんだから誰だって開こうと思えば開けるんだって、何故大輔までそんな顔をする。付いて来ていた高橋さんと税務署の人もなんか似たような、呆れたと言うか若干引いたような顔してたんだがどういう事だ。
「それでもそう言う勘? 目敏さ? は才能じゃないか?」
「それでスパイ容疑かけられても……」
……まぁ大体そんなところだろうとは思っている。目を背けていただけだ、今までにも似たような事は言われたことがあるが、その辺自分では分からない。その所為で何か要らぬ容疑を掛けられたんじゃ割に合わん。
「スパイかぁ……かっこいいな」
「リアルと漫画を一緒にせんでもろて……あ、あと大輔からも話聞きたいって」
「え!!?」
良かったな? お前も疑われてるぞ? 何をどう疑われているかなんてさっぱりわからんが、少なくともスパイとかそんな事じゃない事を祈る。と言うか、この場合企業スパイになるのか? 俺はどこの企業の回し者なんだよ、こんな輸入業者をスパイして何が出てくるんだか。
「良かったな、疑われてるぞ?」
「俺は無実だ!」
「疑ってるのは俺じゃないから知らんよ」
そんな身を乗り出して俺に叫ばれても知らん。あー椅子の冷たさが体に染み渡る。さっさと飯食って寝ないと午後の対応に支障が出るな、Eマーケットのおにぎりで良いか、匂いが出そうなやつは控えておこう。
納豆は臭い、キムチも臭い、くさや……なんでそんなおにぎりが出るんだ。シーチキン! おかか! うめ! これで良し。
「おにぎりおにぎり……外れかな?」
「割とランダムと言うか良く分からない出方する時があるんだよな」
形が崩れたおにぎり、おかかが少しはみ出したおにぎり、普通のおにぎり……あたりではないよな。この辺の当たり判定に関しては大輔の方が詳しそうだが、大輔は今日も天むすみたいだ。
「完全ランダムなんだろうか……化物増えたな」
もうずっと点けっぱなしのテレビに化物被害のニュースが流れる。今度は関東の山奥で機械タイプの化物だそうだ。車が事故ったらしくボコボコになった車が映っているが、死者は出なかったらしい。
「人がいないところに多いらしいな、まぁ俺らは関係ねーよ」
「都会なら大丈夫かね? 人も少なくなってるけど」
この化物と言う謎の生き物? は、どうにも人が居ないところでいつの間にか発生しているらしく、種類としては何かの機械が元になっている機械タイプ、畑に突然現れたり花壇にいつの間にか存在する植物タイプ、森の中で発生していると思われる動物タイプなどが良くニュースに出ている
「どうだろ、行方不明者が多くてゴーストタウンになってる場所もあるみたいだからな?」
あと人が居なくなった村とか街ではアンデットタイプと言われる歩く人骨やら幽霊が現れたりするらしいが、その手の者はスライムなんかとひっくるめられてファンタジータイプとか呼ばれているらしい。ちなみにこれらの名前は全部ネットスラングをメディアが流用してるだけだ。
国から公式な呼称は出て無いが、唯一化物と書いてけものと呼ぶことは決まっているらしい。
「へー、でもすぐ埋まるだろ? 空港勢で……羨ましいね」
「どうだろな? まぁまだこの辺で化物目撃情報はないけど、田舎とか街の端とかだと結構あるらしいぞ」
都会は人が多いからどうにも化物の目撃情報は少ないらしく、そう言ったことも考えて今後は人が少なくなった地域の空き家が空港に突然あらわれた人たち、ネットでは帰還者なんて呼ばれてらしいが、そんな人たちに提供されると言う事だ。
正直羨ましい、運が良ければ一軒家を貰えるんだからな、こちとらやっすい集合住宅だと言うのに、この間も二つ隣の部屋のおっさんがドアノブ外れたとかで大家と喧嘩してたな、あれどうなったんだろう。
「そんなところいかないからな……見れる場所と言えば、異界かね?」
まぁおっさんの事はどうでもいいけど、ちょっと化物は見てみたい気もする。
今もニュースでやっているが、今回は冷蔵庫に足が生えて動いていたとかでまるでCGのような光景が映し出されていた。そんな化物を都内で見るなら、陥没とか崩落と呼ばれ今では異界と言う名前が定着した場所に行くのが早いだろう。何せそこには必ず化物が居るらしいのだから。
いかがでしたでしょうか?
突然の公安出現に胃がクライマックスな羅糸、果たして彼の心は耐えられるのか……。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー