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第11話

 修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。





「到頭ここも閉まったか」


 平日、いつもの朝、いつもの電車、いつものコンビニ……が到頭閉店してしまった。昨日の品揃えを見れば仕方ないとも思うが、張り紙も無く電気が消えている。夜逃げだろうか? 今日はEマーケットに頼るしかないな。


「おはようございます」


「おはよう。毎日大変だね」


 いつものとは言うが、普段の光景と比べて明らかに人の姿が少ない。そんな状況でも出社すると必ず立哨している警備さんは偉いと思う。毎日大変だと言われるがそれはそのまま貴方にお返ししたいところだ。


「そうですね、警備会社の方は大丈夫なんですか?」


「大混乱でこっちに指示も来ないみたいだよ」


「それはまた」


 どうやら警備会社も大変なようだ。ある意味、警備さんの本社が混乱しているからこそ今日も立哨しているだけで、真面な会社ならもう撤退命令が出ていたかもしれない。そう考えると、申し訳ないが警備会社の本社が混乱していて良かったと思う。正直警備員の仕事までやれとなると逃げている自信がある。


「まぁこの会社ほど大変じゃないさ、こっちはまだ会社が生きてるからね」


「それもそうですね、国の組織がお墨付きをつけるくらい危機的状況らしいですから」


 うちの会社はもう死んでいるのは事実だ。国の人間が思わず閉口するくらいにはどうしようもない状態であり、叩けば埃が舞い上がることも分かったし、このままでは給料も期待できないのではないかと言う不安もある。


 もう笑い飛ばすぐらいしておかないと心が先に死ぬ。


「いやなお墨付きだなぁ」


 警備員のおじさんは何故か表情が引き攣っているがどうしたのだろう? 確かに嫌なお墨付きだけど、問題はこれからだから気を引き締めておかないと、気を抜けばそのまま立てなくなりそうだ。





「お久しぶりです。正式にこちらの担当となりました。連絡先も書いてありますので何かありましたらいつでも連絡をください」


 美人である。


「これはご丁寧に、私の連絡先はこちらでお願いします」


 思わず見惚れそうになるのをぐっと我慢して笑みを浮かべた俺は、自分の名刺を渡した手で高橋さんの名刺を受け取りそこ書かれた電話番号を確認する。連絡先は携帯番号の様で少し安心した。


 行政との仕事だと担当者と連絡がつかない事なんて良くある話で、固定電話の番号しか書いてないこともある為、業務時間外に連絡がつかないことなどいつもの事である。まぁ、業務時間外にまで働かないといけないのが先ずにして間違っているというのもあるんだけどな。


「これは、個人の電話ですか?」


「会社提供の電話が使えないんですよ、異常があった日からみたいなんですけどね」


 ちなみに、うちの場合は名刺の裏に個人の携帯電話番号を手書きで書いて渡している。今もそうなのだが、なぜか会社支給のスマホは使えなくなることが多く、もしそんな時に客からの緊急の連絡に対応できなければ、悪いのは全て担当である俺になるのだ。何の補助もされないが、個人の携帯電話番号を教えておかないと後々面倒なのだ。


「そうですか……」


 何か気になる事でもあるのだろうか? 俺の返事に頷き名刺を仕舞う高橋さんは、少し考えるように俯くと笑みを浮かべる。美人は何をしても様になるものだと思うが、今はやらないといけないことが多いので気を入れ直す。


「あとこちらが集めた資料です。一応分けているんですけど……目を通したことが無い資料ばかりなので確認お願いします」


「ありがとうございます。少し確認させてもらいます」


「はい、お願いします」


 とりあえず揃えた資料の山、応接テーブルの一つを占領するその山の上に置かれたチェックリスト手に取った高橋さんはお礼を言うとすぐに書類の確認を始める。その手付きは慣れたものなのか手早く、やる気のない俺や大輔とは生きてる世界の違いを感じさせた。


 よく見ると高橋さんの所属、外務省なんですが? え? こういう仕事って外務省の仕事なの? いやまてよ? 確かTで愚痴っている人が居たな。異常事態で突然増えた仕事の人員をとりあえず揃えるのに、仕事が無くなって宙ぶらりんになった人が当てられるとか、やった事がない仕事なのに即戦力になれとか言われて悲鳴を上げてるT民も確か外務省関係だとか言ってた。


「はい、これだけあればとりあえず問題ないと思います」


「よかった。それとご相談したいことがありまして」


 外務省……色々思う所もあって、あまり無理難題を吹っ掛けたくはないんだけど、こっちも背に腹は代えられない状況なので、申し訳ないが相談に乗ってほしい。実はその書類以外にも見せたい書類が隠してあるのだ。


「何でしょう?」


「これなんですけど」


 取り出したるは、あの問題の書類である。何の問題があるかと言えば、色々な金額が俺の知っている値段と随分違ったり、部署を通過するたびに変わっていたりと何ともキナ臭いものが次々と、まだ調べていないところもあるが俺では判断が付かないので全て出してしまった方が良い。後々見つかって痛くない腹を探られても困るからな。


「?」


「……」


「…………」


 不思議そうな表情で紙ファイルの束を見詰める高橋さんは、何のラベルも張られていないファイルを手に取ると中身を確認して行く。中には機密や社外秘など書かれているファイルもあって少し戸惑った様子であったが、次第に表情が険しくなっていくのが見てとれる。


 どれくらいの時間書類を確認していたのか、気持ち悪い汗が背中や脇から溢れそうになる俺に、高橋さんが静かに目を向けるが、その視線からは何を考えているか全くわからない。


「ずいぶんと数字が違いますね」


「私が聞いてる数字とだいぶ違うんですよ」


「……よくあると言えば良くある話ですので、こちらも確認しておきます」


 よくあるのか、俺としてはあって欲しくないのだが、高橋さんは経験があるのか呆れを含んだ表情で良くある話だと言って苦笑を浮かべている。どうやらこの話しも引き受けてくれそうであるが、出来れば俺への被害は最小でお願いしたいところだ。


「お願いします」


「先ず、現在こちらの会社の所有者とは連絡が付きません。このまま連絡が付かない場合は国が資産を整理した後、残った資産に関しては国が回収する事となります」


「はい」


 やっぱり社長たちは行方不明の様だが、うちの会社がこのまま国に解体されるとして、お給料は貰えるのだろうか、心配だけど怖くて聞けない、聞いていいのだろうか? いや、ここでそんなことを聞けば心証が悪くなってしまうのでは? ここはなるべく穏便に安全第一だ。


「ただ、不信な部分も出て来ておりますので、対応が変更されるかもしれません」


「ですよね……」


 あれ? これは、もしかして今の書類出したのは逆効果だっただろうか、真剣な目でじっと見詰めてくる高橋さんは凛々しくて美人だが、思わず現実逃避してしまうほどに俺の中で不安が膨れ上がる。


 いやまて、落ち着くんだ、俺は何も悪い事なんてしてない。変に動揺したら誤解されてしまうかもしれないから先ずは落ち着くんだ。視線を落としてあのぱっちりおめめから逃げて一度落ち着くんだ頑張れ羅糸。


「……次回の話し合いに少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい……こちらもこれ以上は仕事が出来そうにないので、客先には会社を畳む方向で説明してしまってもいいでしょうか?」


 ん? なんだろう、少し高橋さんの眼力が優しくなったような、気のせいかな? まぁそんな事よりこれからの事だ。状況はどんなに頑張っても会社終了の知らせをお客さんにしないといけない状況の様だ。


 しかし素直にそう説明しても問題ないのだろうか? 俺の言葉に高橋さんはまた考え込んでいる。何度も面倒な質問して申し訳ないと思うが、俺らみたいな底辺平社員には会社がやるべき事なんて何一つ分からないんだ。


「そうですね……いえ、一時休業と言う対応でお願いします」


「あ、はい……?」


 一時休業か、まぁ最終的に潰れたとしても嘘は言ってないから問題ないか、と言うかすでに潰れる前提で考えているけど、俺が判断して本当にいいだろうか? 全て任せるとか言われてはいるけど……うーん、考えれば考えるほど胃が痛くなってきた。





「…………」


「どうだった?」


 ツカレタ。


「とりあえず全力で事に当たってくれるそうだ」


 疲れたけど、俺どれくらい話し合いをしてたんだ? え? もう終業時間間近じゃないか、緊張してたからかまったく時間に気が回ってなかった。高橋さんはこれから帰って今回の事を纏めるのだろうか? 申し訳ない事をしたかな。


「そっか……」


「あと、休業予定みたいな感じで客には説明してくれって」


「んー? 了解」


 それにしても疲れた。柔らかい応接室のソファーと違って自分の椅子は糞ほど固いけど、今はこの固さが身に染みる気がする。このしっかり支えてくれる感じが何とも言えず、それでいて冷房で冷えた椅子が体から余分な熱を奪ってくれる……だめだ、疲れて頭がおかしくなってるな。


「疲れた……」


「おつかれさん、まぁこれでも飲みねぇ」


 大輔にしては気が利くな、慣れないことをした所為かやっぱり熱が体に籠っている気がする。冷蔵庫から出したばかりの缶ジュースなら何でも美味く感じれる自信があるぞ。


「ありがとう、そうそうこのしゅわしゅわがってビールやないかい!」


 なんで冷蔵庫に入ってるんだよ、まぁ人事部も総務部も経営戦略室にも酒が並んでたし、社長室に至ってはワインセラーに高そうなワインが満載してあったけど、これが普通なのか? 世の中の会社ってのは酒を常に完備していないといけないのだろうか。


「おっと、こっちだった」


「仕事中に飲むなよ」


「仕事が終わったら飲むとするか、あと20分だし」


 まぁ仕事が終わればいいか、どうせ俺たち以外には誰もいないから咎める人間もいやしない。それにしてもあと20分で仕事が終わりか、今日はほとんど応接室にしかいなかったな。


「あっと言う間だよ」


「長時間、会議室で男女が二人っきり何も起きないわけが無く」


 何かが起きるわけがないんだよなぁ、いやあんなに美人なお姉さんと何かあればとも……考える余裕すらなかったな、こう何と言うか、美人が真剣な表情してると綺麗と言うか怖いというか、後半凄い顔してたし……。


「事件性のあるしかめっ面なら見たぞ」


「どういう顔だよ」


 額に青筋が見えた気がする。


「次の訪問で分かるんじゃね? ……航空機の長距離運用による大規模調査かぁ」


「あーそれな、燃料の無駄だって荒れてるやつが居たな」


 考えても分からないことはとりあえず放棄、それに比べて調べたらわかる調査の何と心にやさしい事か、いやでも外国が見当たらないとか心臓に悪いにもほどがあるか、燃料費も馬鹿にならないんだろうけど、是非とも良い報告を聞きたいものだ。


 でも待てよ?


「燃料って、外国無いなったんなら使わないんじゃないか?」


 利用する予定が無ければそもそも使わなくなるんだから、そこまで気にする必要は無いのでは? 大体にして飛行機が燃料を使わないからって一般市民には関係ないだろ。


「まぁ空港がまだ閉まってるからな」


「貧乏人には関係ない話だな」


 そう言えばまだ空港が全面閉鎖中だったな、飛んでるのは離島便とかだけだと何かに書いてあった。どの道飛行機が動いたところで利用する予定なんて無いから関係ない、長距離移動の予定なんてこれっぽっちもないし、こんなご時世に旅行なんて考えも浮かばん。それでも文句が出るって事は、金持ち様は良いもんだな。



 いかがでしたでしょうか?


 美人と二人きりの部屋で怯える陰キャの明日はどこへ……。


 目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー

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