第10話
修正等完了しましたので投稿します。楽しんでいってね。
「はぁ、真面目にやってるのが馬鹿らしくなってきた」
今日思わぬところで知ってしまった事について大輔と共有できたので早めの昼食タイムである。
本日のメニューは行きつけのコンビニから買って来たオニギリとエナジードリンク、商品棚がガラガラのコンビニで何とか生き残っていたエナジードリンク、水すらないのに生き残ったと言う事は相当人気が無いのだろうか。
「まぁそれが社会なんじゃねぇの?」
「今回のこの騒動が終わったらどうしようかな」
これが社会の常識なら早めに星ごと滅んでほしい所だ。そうじゃない場合俺はこの大変な世の中で生きて行くための方法を考えないといけなくなる。まぁ十中八九そうなる運命ではあるんだろうけども。
「何が?」
「会社は無理だろ?」
「まぁ、そうだなぁ……」
どう考えてももう会社に勤め続けるなんて無理、偉くて頭の良い人が居たら心機一転して新しい事業でも始める事が出来るのだろうが、この会社に残ているのは俺と目の前の大介だけ、どう足掻いてもなんともならん。会社の不正が出て来た時点で最悪警察のお世話になりそうだ。
「何かまた就職とかする気にならないよ」
かと言ってこの会社を無事出れたとしてまた就職とか、考えただけで鬱になりそう。
「でも働かねぇと食ってけねぇだろ?」
「んー……生活保護でもいいかなと」
「あれも中々難しいって言うじゃん?」
難しいってよく聞く。家族がいたり、金持ってたり、頼る伝手が存在すると駄目だとか、その割には海外から来た人間はすぐに受給されたりわけがわからない制度が生活保護だ。良く調べてないが、家の家庭環境的には貰えないだろうとは思う。
「空港勢はみんなもらえてるらしいよ?」
「あーあれな、ずるいよなぁ? いくら着の身着のままとは言えよ、俺らの手取りより高いのは納得いかねぇ」
一方で空港に現れた人々は申請したらみんな貰えるらしい、それでも全員が貰わない辺り国民性なのか、世間体を気にする人が多い様だ。ただ、なんで俺の手取りよりも多く貰えるのか、その辺のからくりを教えてエロい、じゃなかった偉い人。
暗い事ばかり考えているとお腹が減ってくる。まだ12時にはなってないんだけど、ここの所真面なもの食ってないせいだろうか? 3個目のおにぎりはおかかだが、コンビニのラインナップも寂しくなってきた気がする。
「ほんと……え」
あまりの驚きに手に持ったおかかおにぎりを落としてしまう所だった。最近はもう四六時中つけっぱなしのテレビから速報が流れてきたのだが、国立天文台とか言うところが記者会見を開いたそうだ。
「ん? ……おいおい、ほんとかよ」
「そう言えば、月を最近見てないな」
地上からの天体観測の結果、月が存在しないと言う結論に至ったと壇上の男の人が言った瞬間、眩しいくらいにカメラのフラッシュが瞬く。確かにここのところ空を見上げる余裕がなくなったとは言え、まったく月を見ないと言うのもおかしな話かもしれない。
テレビから聴こえてくる研究者の話によると、自衛隊の航空機による大規模な地上調査の時にも確認出来なかったようだ。
「あー確かに?」
「そう言えば、陰謀論系のまとめで月が無くなったとか言ってた様な」
Tを使って色々調べていた時に見た陰謀論系リンクで月が消えたと言う話を見たような気もしたけど、本当に消えたとは誰も思わないだろ。確かレスに自然環境が何も変わってないから無くなっていないとか、潮の満ち引きに異常が出て無いから、はい論破とか書かれてたから気にもしてなかったな。
「未知の巨大惑星」
いやいや、ビッグニュースが多過ぎる。太陽系に無数の巨大惑星を発見とか、物理的に可笑しな軌道を描いているとか、地球を包む謎の膜とか、いやいや……もうわけがわからない。
「理科の教科書がまた変わるな」
「え?」
理科の教科書が何で今出てくるんだ? 大輔がおかしいのは何時もの事だけど、いや俺も頭がおかしくなってるのかもしれない。さっきからテレビで訳の分からない事ばかり言ってるし、質問されてる研究者の人もわからないしか言ってないし、どうなってるんだ。
「……これがジェネレーションギャップ!?」
ん? 良く分からないけど、ちょっと寝よう。応接用のソファーとか寝心地良いんじゃないだろうか。
「ああぁぁぁ、疲れた。最近電話のコールが怖い通り越して聞こえなくなってきた気がする」
「そうか、俺は何も鳴ってないのに電話のコール音が聞こえる気がする」
勤務時間が終わった瞬間大輔が机に倒れ伏す。普段ならここから残業タイムだが、誰もいない今じゃ自由時間だ。
最初に比べれば減ったとは言え電話が掛かってこない日は無い、異常事態の政府発表からずいぶん経つけど、みんな仕入れなどの不安を感じるタイミングにズレがある様で、連日同じ様な会話を続けている。最近じゃ家に帰ってもどこからか電話のコール音がしてくる気すらする。
「早めに医者行った方が良いな」
「今の状況で行けると?」
「むり」
音が聞こえなくなってる方が難聴の疑いがあるんじゃないかとも思うが、自分でも精神的に病んでるとは感じているのだ。一度病院にでも言った方が良いと思う反面、今の状況で病院に行く余裕なんてない。と言うか、病院も閉まってるんじゃないか? 調べてないけど急に不安になって来たな。
「帰ったらもう疲れ切って何もする気にならないよ」
「それなー」
大体帰る頃にはクタクタ、土日だって疲れが抜けないから何もやる気はしない。
あ、病院はやってるみたいだな。どうやら国からの優先的支援で大きな病院は維持できているみたいで、小さなところも支援が受けられ細々とだが続けられているらしい。実験的試みとか何か色々記事が書いてあるけど、病院食に対する不満とかぜいたくな悩みである。
「でも飯食わないと辛いし、外食は高いし」
「俺は、帰ったら飯があるからその辺わからん」
「くっ、子供部屋おじさんめ」
「こどおじ言うなや、間違ってないけど」
帰ったらご飯がある生活か、そんなの小学校までで終わったよ。こういう会話をしていると家の家庭環境が一般から著しくかけ離れている事を痛感する。家に帰っても誰もいないなんて普通だったからな、中学まではまだ姉ちゃんもいたけど、すぐに大学行くからと一人暮らし始めたから、それからもうずっと会ってない。
家のかーちゃんとーちゃんは一体今頃どこで何をしているのか、最期に連絡来たのはピラミッドの発掘チームと一緒に写真撮った絵ハガキ一枚、元気にしているかとか当たり障りない内容に、今年も帰れないと定型文。普通の子供なら道を踏み外しているところだ。
「俺はこどおじになっても結局は自炊だからなぁ」
「おめーも大変だな……」
「慣れたけどな」
本当に慣れたのだ。自分の不幸を嘆いたり非行に走ったり、そんな余裕がないので慣れるしかなかった。実家を出たのもよかったんだろう、今じゃ無人で偶に誰か帰って来てまた出て行くだけの実家でも思い出は残るから、あの家で生活していたら今みたいに達観できなかったと思う。
「俺には無理だな、家を追ん出されたら秒で死ぬ」
「実験用のラットかな?」
俺の正反対の様なのが大輔だ。家族仲もとても良く、大卒ニートになっても手厚く養ってもらっていたらしい。まぁ流石にそろそろ働かないと親じゃなくて兄弟姉妹に追い出されそうになったから就職したらしいけど、確かに世の荒波で生きて行けるような野性味は、無いな。
「ある意味、ぬるま湯ではあるな」
たまに寂しそうな表情をするが、こういう時は大体何も考えてないのが大輔だ。気にしてもしょうがないが気になるのはお腹の空腹感、あとはもう帰るだけだがどうしてもこの時間帯はお腹が空いてくる。お昼もおにぎりじゃ物足りなかったし、エナドリのドーピング効果も限界の様だ。こういう時は買い置きのカップラーメンに限る。
「ところで、ポットのお湯がぬるま湯なんだけど?」
「へ? ……あ!? すまねぇさっき資料落っことした時だ」
だと言うのに、ポットから注いだお湯がぬるま湯な件について、カップ麺は大輔と共同購入で箱買いしてあるからいいけど、だからと言っても無駄にしたくないが……ぬるま湯でほぐれるのかな。
「ぬるま湯でもカップヌードル出来るのかな?」
「しばらく置いとけばいけるんじゃね?」
「テレビ見ながら待つか」
置いとけば何とかなるのか、テレビは国立天文台の件ばかりやっていて代り映えはしないが、繰り返し聞いていれば大して良くない俺の頭にも理解出来るかもしれない。こんな時でもアニメをやってる某テレビ局はぶれないよな。
「帰らんの?」
「このまま帰ったら腹減って死ぬ」
「わかる、この時間腹減るんだよな……俺も何か食うか」
なんでこの時間はこんなにお腹空くんだろうな? この状態でスーパーとか言ったら最期、いらないお惣菜を買いすぎて後悔すること請け合いだ。小腹を鎮めてから買い物に行くのは節約の基本である。
尚、今立ち上がった大輔がカップラーメンの入れられた俺らのロッカーに向かっているが、そこにお前が求めるものはない。奴はこの時間必ずあれを食べるのだ。
「カレーはもうないぞ?」
「え!? 嘘だろこの間買い足したばかりだろ」
そう、カップラーメンのカレー味である。昼に食べると高確率でお局や課長部長にカレー臭いと怒鳴られることとなるから、自然とカレー味を食べるのは奴らが居なくなるこの時間になって行ったと言う悲しい習性だ。
ただ課長や部長、それにお局達は平気でカレーを外で食べてきてカレー臭をきつくして帰ってくるんだけどな、歳をとるとああなるのだろうか、俺はあれらを反面教師にして生きようと常々思っている。
「ついでにさっき総務と人事にカレー味が置いてあった」
「…………死ねばいいのに」
尚、俺と大輔の共同購入である備蓄ラーメンが無くなる原因は部長や課長だ。あいつら総務とか人事に何かお願いする時に手土産を持って行くんだが、その手土産で喜ばれるのが俺達のカップ麺である。さっき書類探しに行ったとき大量のカレー味のカップ麺を見つけたのだが、どれも俺達が購入してマークを描いたカップ麺だった。
「泥棒が増えてるのか……気を付けないとな」
テレビでは異常事態以降増え続ける泥棒について話しているが、社内にも大量に泥棒が居るのだから世の中ほぼ全て泥棒なのでは無いかとすら思えてくる。
ついでにお局やら女性社員もカップ麺泥棒をしているのだが、一部の女性社員はお詫びを置いて行くので許している辺り自分も男子だなと再認識してしまう。まぁ、お局は一度激辛ラーメントラップを仕掛けてから食べた形跡がないけどな。
「まぁ物がねぇからな……へぇ人工衛星結局不明のままかぁ」
「資源不足かぁ……」
大輔はシーフードにしたようで、ポットのお湯を沸かし始めた。
テレビでは人工衛星の存在が確認できないと言う政府の発表を繰り返し流し、コメンテーターは政府の対応の遅さを批判しているが、こんな状態でまだ機能維持出来てるだけマシじゃないだろうか? なんでも国会議員もごっそり行方不明らしく、その議員がいなくても成り立ってるなら元から要らないのではとも思える。まぁ問題が出てはいる様だが、そう言う事はニュースでは見ない。
それよりも連日問題視されているのは資源不足、日本は輸入大国だから外国が無くなればそうなるのは当たり前で、うちの会社もその所為であっと言う間に機能不全なわけだ。何をどうしたら良いか分からないが、とりあえず今は腹を満たしたい。
「もう食えるだろ……固い」
「……そりゃそうだ」
やはりぬるま湯ではそう簡単に麺はほぐれない様だ。これもそれも全ては異常の所為だな、いやこれは大輔の所為だったか、もうなんでもいいや疲れた。
いかがでしたでしょうか?
異常事態は思った以上に異常事態の様で、そんな状況でも彼らのお腹は勝手に空く。
目指せ書籍化、応援してもらえたら幸いです。それでは次回もお楽しみに!さようならー