三話 『奇跡と偶然』
結婚生活二日目(後)
菜月のいる病室に着いた。
扉を開けて入ると、菜月の体に色々な管が繋がれていた。
頭には包帯が巻いてある。
菜月の方に目をやるとまだ意識が戻っていないらしく、目を閉じたままだった。
――もしかしたら普段通りの生活ができないかもしれません
医者から言われたことをふと思い出した。
まだ一緒に生活してから二日しかたっていない。
本当はもっと一緒に暮らしたいし、少しでもいいから話したり、出かけたりしたかった。
俺は菜月のそばでただ、意識が戻るのを待っているしかなかった。
あれから、二時間が経過した。
それでも、まだ菜月は意識が戻らないままだった。
もしかしたら、ずっと戻らないんじゃないのかとも思った。
そう考えていると、菜月の瞼あたりが動いたような気がした。
「菜月!」
「....ひ、ろ、と」
弱々しい声で彼女は言った。
「なんで、ないてるの?」
彼女のその言葉で気付いた。
俺はどいう感情で泣いているかなんてよくわからない。
でも、なぜかとてもほっとしたような感じになった。
「このまま意識が戻らないのかって心配したよ」
俺は泣きながら彼女にそういった。
それからしばらくして、医者の人たちが容態を確認しにこちらにやってきた。
そして、医者の人に「ちょっといいですか」と言われて診察室に行った。
「菜月さんの容態ですが、偶然にも骨折していた個所がくっついてきていますし、脳の異常も見られなかったので、リハビリをすれば普段通りの生活ができるようになるでしょう。」
そう医者の人に言われた。
なんだか心が少し落ち着いたような気がする。
医者の人から、退院するのは、あと四カ月後らしい。
医者の人が言うにはとても速い退院なんだとか。
でも、四カ月も家に一人だと少し寂しい気がする。
たった一日しか一緒に生活していないが、どれだけ菜月を頼りにしていたかがわかるような気がした。
結婚生活一ヶ月目
菜月はリハビリを開始した。
今は、とても順調だと聞いている。
菜月はやっと、少しづつ歩けるようになっきた。
このままのペースで行く、と二カ月早く退院できるかもしれないと医者の人から言われた。
そう聞いて俺はとても嬉しく思った。
菜月自身も早く退院できるように頑張っているんだなと思った。
でも、やはりあと一カ月はとても短いようで長いような気もする。
そして、浩人は菜月のリハビリが早く終わってほしいなと思っている。