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第70話 邪が笑う

「……あ、あの、オトシマエってなんのことで……ぐぅっ!?」


 しらばっくれるオリビエに、私は容赦なく魔導銃を叩き込む。


「なっ……うぐぅ! あっ、がっ、ああっ……ぐぅっ!」


 2発、3発……次々と打ち出される魔弾。

 オリビエの腕、足、肩、急所を外して撃ち抜いていく。


「……忠告よ。自分に酔うのはやめなさい。芝居がかった行動、振る舞いは、隙だらけだから」


 空になったマガジンを抜きながら、オリビエに話す。


「う……ぐ……あ、ああ……」

「新型の弾丸、良さそうね。弾速を上げて貫通力に特化したおかげで障壁も貫けるわ。まあ、威力は随分減ってしまうけど……」


 そう言いながら、私はオリビエに近づき銃口を向ける。


「……魔物ならともかく、人間相手ならこれで十分ね」

「くっ……ああぁああ~!!」


 引き金を2回引き、正確に左右の膝を撃ち抜く。


「あ……あぁ……」

「それと伝えておくわ。貫通力特化したせいで、より肉体そのものに損傷が与えられるようになった。つまり、回復魔法が効きづらい。入院が3カ月は追加したと思いなさい」


 近くの椅子に座り、足を組む。


「……さて、何から話そうかしら?」

「な、なんで……」

「あら、まだ『オリビエ・スーソン』のつもり? じゃあ、話しておきましょうか」


 魔導銃に、新しいマガジンを入れながら応える。


「まず、貴女が生きていたのは気づいていたわ。精霊の矢による床の抉れが途中で消えていたもの。魔王の武具がバラバラになったところをみると、あれを盾にして転移魔法で逃げたってところかしら?」


 ……そして、バラバラになった魔王の武具から力が解き放たれたせいで、大事になった。

 あの子にグリムがベッタリになったのも、このせ……いけないわね。

 まだ、私の心には邪念があるようだ。


「……魔王候補と断定した理由は、山ほどあるけど聞きたいかしら?」


 苦痛に歪むオリビエに、言葉をぶつける。


「あの場所に居た人間という時点で、容疑者最有力候補……あの遺跡に入り口の転移陣を繋げられるのは、幽鎧帝と魔王候補だけ。そしてあの時点で幽鎧帝グリムは中でレムリアと勇者を監視していたから、あのタイミングで繋げられるのは現場を『見ていた』者のみ、つまり、貴女よ」

「わ、私……知らない……魔王候補って……なに……?」


 動かない体を震わせながら、懸命に話すオリビエ。


「……分からないなら、教えてあげるわ」


 私は立ち上がり、オリビエの前にたち、思いっきり病衣の胸元を引き裂く。


「魔王候補は、私が使った兵器の直撃を受け、爆裂魔法とも違う怪我を負った、貴女のことよ」


 露わになったオリビエの傷。

 それはまるで、『目の前で何かが爆発した』かのようなものだった。


「あの兵装は、かなり特殊なものよ。傷口を調べれば確実にそれだと分かるわ」

「知らない……私、知らない……」


 体は震え、涙を流すオリビエ。

『庇護欲を誘う少女そのもの』となるオリビエを、心底軽蔑しながら私は言葉を続ける。


「それでは聞くけど、貴女はその怪我をどこで負ったのかしら? 私……仮面をした魔王に与する者たちと行動したとき、貴女は無傷だったはずよ」

「信じて……信じて…………」


 絞り出すような声で懇願し、涙を流すオリビエ。

 ここまで醜悪な涙は、見たことがない。


「……私の仲間は、迷宮が消滅した瞬間に、魔王候補を崇拝する者たちに襲われ、足止めされた。捕らえた者たちは、貴族、傭兵、野盗と纏まりがなかったけど、吸血鬼の固有まで記憶を探ったら、共通点があることが分かったわ」

「違う……違う……」

「貴族はスーソン家と関係があり、傭兵はスーソン家と関わりのあるギルドに所属する高ランク冒険者、スーソン家に上納金を入れることで見逃されている野盗……」

「う、あ……あぁ……」

「……そして全員、とある人物と『関係』を持っていたわ」

「あ……あぁ……あぁあ……」

「その人物は、身分の証明という理由で、複製ができないように作られている魔法学校の制服を着ていた……」

「あ……あぁ…………」

「――小柄で、肩まで伸び、切り揃えられた黒い髪。そう、貴女よ、オリビエ・スーソン」

「あ……あ……ああぁあははははハハハハ!」


 誤魔化すことを諦めたのか、狂ったように笑いだすオリビエ。


「アハハ! アハハハハハハハハッハハ~!」


 激しく動いたせいで、開いた傷口から血が流れはじめる。

 血はその顔を、体を、紅く彩っていく。


「アーハハハッ! アハッ! アハハハハハハ~~!!」


 だが、そんなことはどうでもいいとばかりに、狂ったように笑う。


「……ふぅ、ちょっと落ち着きましたぁ」


 そして、気が済んだのか、私の方に顔を向けるオリビエ。


「それでぇ、私に何を聞きたいんですかぁ?」


 ――闇そのものともいうべき、邪悪な笑みを浮かべながら。

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