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〔1〕

「う~ん、分かっていたけど凄い。亜紀ってこんなところに通っているんだ」




白綾の校門前でそんなことを呟きながら立っている女生徒がいる。その生徒が着ているのは、近くの公立校である上洛高校の制服。セーラー服であるその制服も、たしかに可愛らしい。だが、目の前を通り過ぎる白綾の生徒たちが着ているものとは雲泥の差がある。そんなことを考えながら、彼女は人待ち顔で佇んでいる。


この女生徒、亜紀の幼なじみで中学まで同級生だった佐藤由紀子。本来であれば、一緒に上洛に通うはずだった亜紀が白綾という金持ち学校に進学したことに最初は納得していなかった。しかし、いろいろと事情があるということを理解してからは、今までと同じ付き合いを続けている。


もっとも、その理由の一つにセレブ校のイケメンと知り合いになりたい、というものが含まれているのも間違いない。そのためだろう。亜紀が出てくるのを待っている間、由紀子は他の生徒たちをチラチラと値踏みするように眺めているのだった。




「う~ん、やっぱり、レベル高い。声かけたいけど、ちょっと気遅れしちゃうわよね。うん、ここはやっぱり亜紀が来てからにしようっと」




同じ高校生のはずなのに、彼らから感じる雰囲気に圧倒される。そんなことを思う由紀子は、今は目の保養だと気持ちを切り替えていた。そんな時、校門近くの雰囲気が微妙に変わっていく。




「どうかしたのかな?」




先ほどまで、ざわついた空気はしていなかったはずだ。それなのに、今は違う。おまけに、女生徒たちがヒソヒソと囁く声が嫌に耳につく。そのことが気になって仕方がない由紀子は、彼女たちの視線の先に目をやっている。そこにいた相手の姿に、彼女の目は釘付けになっていた。




「わ、カッコいい!」




思わず、そんな言葉が口から飛び出してくる。しかし、それも無理なことではないだろう。


先ほどまでなかったはずの車が停まっている。それにもたれるようにして立っている男性。彼に白綾のお嬢様方が反応しているのだということは、由紀子にはよく分かる。なにしろ、彼女も同じようにその相手にみとれているからだ。




「イケメンってあんな人のこと言うんだろうな……でも、誰か待ってる? そんな感じよね」




その相手はたまに腕時計に目を落とすと、校門の中へと視線をやっている。特に焦っているという様子ではないが、その姿は間違いなく人を待っている。そんな思いを由紀子は抱いている。


しかし、見れば見るほど見惚れるほどの極上の相手。仕立てのいいスーツを着こなしている姿からは、タキシードを着てバラの花束を持っていてもおかしくないと思えるほどのもの。


そんな、映画にでも出てきそうなシーンを想像する由紀子の顔が一気に赤くなっていく。その時、「お待たせ」という明るい声と一緒に、亜紀が由紀子に向かって飛びついてきていた。




「あ、亜紀!?」

「亜紀ちゃん!」




自分が亜紀を呼ぶ声と同時に彼女にかけられる甘いテノール。一体、誰なのだろうと思う由紀子の耳に「ゲッ」という亜紀の嫌そうな声も響いてくる。この状況の意味が分からない彼女だが、甘い声に逆らうこともできない。亜紀にしがみつかれたままで首を後ろに向けている。


そんな彼女の目の前には、先ほどまで車のそばで佇んでいたイケメンが満面の笑みを浮かべている。これは夢ではないのだろうか。そう思う由紀子の耳に、どこか引きつった亜紀の声が響く。




「た、惟さん。どうして、ここに?」



「どうしてって、分からない? 亜紀ちゃんに会いに来たんだけど。よければ、デートしない?」




よもやこんなところで誘われるとは思ってもいなかったのだろう。亜紀は顔を真っ赤にすると金魚のように口をパクパクさせるしかない。そんな彼女に、惟は極上の笑顔を向けると「ダメかな?」と囁きかける。それに対して、亜紀は間髪をいれずに反応を返している。




「ダメです! だって、今日は友だちと約束しているんです!」



「そうなんだ。たしかに、急に誘っても都合があるよね。じゃあ、友だちと楽しんでおいで」




そう言いながらも、惟がそばから離れようとしない。そのことに、亜紀は不思議そうな表情を浮かべている。彼女のそんな様子に気がついたのだろう。惟は彼女の頬に手を伸ばしながら問いかけていた。




「ちょっと気になったんだけどね。亜紀ちゃんは友だちとどこに行く約束してるの?」



「え、えっと……近くのファミレス? ゆっくり話したいと思ってるし」




惟の声に亜紀は視線を泳がせながらそう応えている。なにしろ、目の前にいる惟はイケメンとしかいいようがない。そんな相手に見つめられて、平気でいられるはずがない。今の亜紀の心境は間違いなくそうだろう。そして、彼女と一緒にいる由紀子も顔を赤くしながら、惟の顔をじっと見ている。


もっとも、彼女にすれば亜紀と惟の関係というのも気になるのだろう。目立たないように亜紀の袖を引きながら、「どうなってるのよ」と問いかけるのも忘れてはいない。それに対して、どう返事をしようと悩む亜紀の耳に、ちょっと焦ったような惟の声が届いていた。




「亜紀ちゃん、ファミレスはやめて。君のことを知っている人はいないと思うけど、白綾の制服を着た美人さんなんて、盗撮する連中の格好の餌になる。そんな危険なこと、できるはずもない」



「そ、そんなことないと思う。それに、ファミレスだと周りを気にせずにゆっくり話せるもの」



「ダメ! 絶対に、ファミレスだけはダメ。亜紀ちゃんが周りを気にしないのはわかってる。でも、あそこは危険なんだって。もし、友だちと話をしたいだけなら、僕がいい場所を教えてあげる」




そう言うと、惟は亜紀の肩をガシッと掴まえている。そんな彼の姿に、遠巻きにしていた女子生徒たちの黄色い悲鳴が上がっている。その声にここが校門前だということを思い出した亜紀は、どこか引きつったような表情を浮かべることしかできなかった。




「惟さん、ここ、どこか分かってます?」



「うん? 校門でしょう? それがどうかしたの?」



「分かっているなら、離してください。なんだか、周りの視線が痛い」




亜紀のその声に、惟も周囲の雰囲気に気がついたのだろう。「ああ、そうだね」と呟くとスッと肩を掴んでいた手を離している。それでも亜紀に向けている笑顔は甘いものとしかいいようがない。そのままの顔で、彼はさらりと言葉を口にしている。




「そうした方がいいよ。その店は会員制だから、誰でも簡単に入れるわけじゃないし。亜紀ちゃんの写真撮ろうなんて馬鹿なことを考える連中を寄せ付けたりしないからね」



「でも……そんなお店、高校生じゃ入れないでしょう?」



「大丈夫。だから、僕が案内してあげるって言ってるの。僕がいれば問題なく入ることできるよ。それに、落ちついて話せるのも間違いない。ね、そうしない?」




惟のその提案に、亜紀はなかなか返事をすることができない。しかし、彼女の横にいる由紀子は、さっさとそれを受け入れている。その理由の大半が、惟がイケメンだということからだろう。


間違いなく、彼女は今の状況を楽しんでいる。そんな思いが亜紀の中にはある。そして、それを証明するように、由紀子が亜紀の耳元で「連れて行ってもらおうよ」と囁きかける。


こうなったら、抵抗するだけ無駄だ。そんなことを思った亜紀はガクリと肩を落とすと、「お願いします」と返すことしかできない。そんな二人の姿にフッと笑みを浮かべた惟は「ちょっと歩くよ」と告げると亜紀の手を取るようにして歩きはじめる。


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