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たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~  作者: Aldith
たとえ、これが恋だとしても
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〔2〕

容赦のない拓実の言葉に、アンジーは何も言い返すことができなくなっている。今の彼は俯き、肩を震わせることしかできないのだろう。そんな彼の心を表すように、持っている花束が揺れる。


もっとも、そんなことで拓実の怒りが治まるはずもない。彼は冷ややかな視線を向けながら言葉を続けていくだけ。




「何も言えないの? そうだろうね。でも、僕の気持ちも分かるんじゃないの? 何しろ大切な妹と従兄を傷つけられたんだよ。本来なら、出るところに出るべきなんだろうけどね。でも、ファエロアは惟さんが関係している。下手に大ごとにするのも大人げないと思ったんだよね」




拓実のその声にアンジーの肩がピクリと揺れる。そして、大きく息を吐いたかと思うと、彼が絞り出すかのようにして言葉を口にしていた。




「今回は本当に申し訳ありませんでした。僕がもっとしっかりしていれば、惟や亜紀ちゃんをこんな目にあわせなくても済んだのに……」



「本当にそう思ってるの? だったら、ここにのこのこ来れるはずないっていうことも分かってるんじゃないの? 惟さんのところに顔を出すまで止めないよ。でもね。亜紀ちゃんのところに来るのは筋違いじゃない?」




拓実の言葉はアンジーを責める調子しか含んでいない。そのことに気がついた彼は顔色を失っている。だが、これだけは言わないといけないと思っているのだろう。俯いていた視線を上げると、しっかりと拓実に反論していく。




「おっしゃりたいことはよく分かります。でも、僕は亜紀ちゃんに会いたい。会って、今回のことをちゃんと謝りたい」



「何に対して謝るの?」



「千影さん、いや、うちの南原がやったことに対しての謝罪。本当に申し訳なかったと思っています」




その声に拓実の眉がピクリと跳ね上がる。今の彼の顔には、それだけではないだろうという非難の色が浮かんでいる。




「それだけ? 他に言うことないの? 君ってアンジー・グラントでしょう? 惟さんの友人でファエロアのメインデザイナー。でも、それだけ惟さんに近い人だったら、亜紀ちゃんにちょっかいかけないでよ。ま、彼女が魅力的だってことは否定しないけどね」




拓実の言葉にアンジーは返事をすることができなくなっている。そんな彼に、拓実は容赦なく言葉をぶつけていく。




「そうでしょう? 亜紀ちゃんと惟さんがギクシャクしちゃった原因の一つは君でしょう? 僕、そう思ってるんだけど。そんな君と亜紀ちゃんを会わせると思ってるの? そのあたりは常識っていう言葉が必要だと思うんだけど?」



「たしかにそうですね。でも、惟もこのことは知っているし、認めてくれている。だから……」



「だから、何? 惟さんはあの通りの性格だから気にしないって言ったんだろうけどね。でも、僕は気にするわけ。ということで、帰ってくれない? 亜紀ちゃんには会わせないよ」




そう言い切ると、拓実はアンジーの目の前で扉を閉めようとする。その時、「拓実様、院長がお目にかかりたいとおっしゃっておられます」という声が響く。それを耳にしたとたん、一気に嫌そうな顔をみせる拓実。




「ねえ、雅弥。会わないといけないの? 面倒だから会いたくないんだけどな」



「拓実様、そのようなことはおっしゃらずに。今回のことで無理をいったということをお忘れではないでしょう」




雅弥のその言葉に、拓実はますます嫌そうな表情しか浮かべない。その姿に雅弥も呆れたような顔を向けるだけ。




「拓実様、そのような顔をなさっても無駄ですよ。とにかく、院長に挨拶だけはしてください。それくらいは常識だということ、お分かりでしょう」



「わかったよ。雅弥には負けた。そのかわり、挨拶だけだよ。それでもいいよね」




そう言い切る拓実に対して、雅弥は仕方がないというような表情になっていく。しかし、そのことを口にすると間違いなく拓実が拗ねる。そう思っている彼は微かに頷くと、拓実の気が変わらぬうちにと彼の背中を押している。




「雅弥、押すんじゃないって。ちゃんと院長のところには行くから。え、ひょっとして信用していない?」



「そうですね、拓実様ですから。ですので、私もご一緒させていただきます。お嬢様のご入院に関しての手続きなどを拓実様に任せていては、どうなることか分かったものではないですからね」



「それって思いっきり、僕のことを馬鹿にしてるの? 本当に雅弥ったら遠慮がないね」




どこか拗ねた調子で拓実はそう告げている。そのまま、彼はアンジーがその場にいるのも忘れたように院長室へと向かおうとしていた。その彼の腕を思わず掴んでいるアンジー。そうされることで彼がまだいることに気がついたのだろう。拓実は大きく息を吐きながら彼に声をかけていた。




「グラントさん、分かりましたよ。本当は嫌なんですけどね。でも、君と惟さんの関係も知ってるし。その顔じゃ会うまで諦める感じじゃないし……」



「拓実様、院長もお忙しい方です。あまりお時間は取れないのですし、待たせるのは失礼にあたります」



「分かってるよ、雅弥。なので、グラントさん。仕方がないから、僕が帰ってくるまで亜紀ちゃんの様子見ておいてください」



「一條さん……」




拓実の言葉が信じられないのか、アンジーは思わず間の抜けた表情を浮かべることしかできない。そんな彼の顔を見た拓実はクスリと笑って言葉を続けている。




「あ、でも亜紀ちゃんに変なことしないでくださいよ。それから、僕はサッサと帰ってきますからね。だから、それまでの留守番です。勘違いしないでくださいよ」



「分かっています。でも、彼女に会うことを許してくれて、本当にありがとうございます」




今の亜紀が眠っていることをアンジーは知らない。だからこそ、彼女と話すことができるのではないかという期待を込めた声で拓実に感謝の言葉を告げる。そんな彼に意地悪そうな視線を向けた拓実は「亜紀ちゃん、眠っているからね」と告げる。


その声に微かな落胆の色を見せるアンジー。だが、これが拓実からすれば最大限の譲歩だということも分かっているのだろう。雅弥を引き連れ、院長室へと向かう姿に深々と頭を下げることしかできない。そのまま、アンジーは静かに亜紀が眠っている病室へと足を踏み入れていた。




「亜紀……眠っているの? 目を覚ましてくれないかな?」




亜紀が眠るベッドのかたわらに静かに腰掛けたアンジーはそう囁いている。だが、彼の望みが叶う気配はまるでない。


亜紀にかけられている軽い布団は規則正しく上下し、彼女がぐっすりと眠っていることだけを知らせている。その腕の片方が布団から出ている。そう思ったアンジーが布団をかけ直そうとした時、彼の視線は細い点滴の管に縫いとめられていた。


怪我はなかったときいている。だが、惟が刺されたということが精神的に大きな痛手になったのは間違いない。伝え聞いた話では、現場で半狂乱になっていたという。


それだけのショックを受けた彼女の精神を安定させるためにも点滴が処方されているのだろう。そう思ったアンジーの顔色が一気に悪くなっていく。


その時、目覚めないだろうと思っていた亜紀が微かに身じろぎをすると、ゆっくりと瞼が開いていく。その姿を見たアンジーはどう言葉をかければいいのか分からなくなっていた。


それでも、黙っていることはできない。そう思ったアンジーは、亜紀の髪に手を伸ばしながらゆっくりと声をかけていく。




「亜紀、気がついたんだね。体は大丈夫?」



「グラントさん……どうして、ここに?」




まだ意識がはっきりと戻ってきていないのだろう。どこかボンヤリとした表情で亜紀はそう呟いている。その声が呼ぶのはアンジーという彼の名ではない。


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