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〔3〕

もっとも、それはこの事態を招いたのが己の失態だということにも気がついているからだろう。そして、アンジーはこのことを口にしたからこそ、思っていることを隠さずに話し続けている。




「惟には悪いと思っている。でも、僕も亜紀ちゃんのことが好きなんだ。最初は黙っていようと思ってた。だって、亜紀ちゃんは惟と一緒にいて本当に幸せそうだったし」



「だったら、どうして?」



「惟がそう言うの? 千影さんと仲良く歩いていたくせに? あれって亜紀ちゃんにすればショックだよ? あれ見た時から彼女、落ちつかなくて半分ヒステリーの発作みたいなの起こして。あのままじゃいけないと思ったからここに連れてきた」




アンジーの声はどこか惟を責めるような響きも含まれている。それに反論しようと口を開きかける惟だが、それができない。それだけ、アンジーの勢いの方が今は勝っている。




「ここなら勝手に誰も入ってこれないからね。で、亜紀ちゃんも落ちついたんだろうね。思ってること話してくれた」



「亜紀はなんて言ってたの?」



「教えない。惟が自分で気がつかなくちゃ。でも、僕もこうやって自分の気持ちを言ったんだ。今までと同じように惟と一緒にいられるなんて思っていない。そうじゃない?」




アンジーのその言葉は惟にとって、驚くものだったのだろう。「どうして?」という微かな呟きとともに、彼は首を傾げている。そんな惟にアンジーの言葉がぶつけられていく。




「だって、そうでしょう? 今日は最後までいかなかったけど、僕は本気で亜紀ちゃん抱こうとしたよ。そんな僕が一緒にいて、惟は平気? そんなことないでしょう。内心、僕のこと殺したいって思ってるんじゃないの?」



「まさか。たしかに、他の男ならそう思う。でも、アンジーが相手なら思わない」




そう告げるなり惟は足を組み直すと、ソファーに深く座り直している。その姿は当然のことじゃないかというようにふんぞり返っているかのよう。彼のその反応がアンジーにはどうしても理解できない。


なにしろ、彼の一世一代ともいえる告白を惟は簡単にあしらったのだ。もっとも、この絶大ともいえそうな自信があるからこそ惟なのかもしれない。そんなことを思っているアンジーの耳に呆れたような声が飛び込んでくる。




「ねえ、アンジー。僕が気がついてないと思ってたの?」



「えっ!?」



「たしかに最初は亜紀のこと、そういう目で見てないって知ってたよ。でも、この頃のアンジーはそうじゃなかったから。たしかに僕としては複雑だよね。彼女のこと独占したいっていうのが本音」



「だったら……」



「でも、ファエロアは亜紀のために立ちあげたブランドだよ。そこのメインデザイナーでもある君が、ブランドのイメージの根底に恋するのは不思議じゃない。むしろ、そうならない方がおかしいだろう? だからだよ」




そう言い切った惟は、当然だろうというような顔をアンジーに向ける。そんな彼の態度に、アンジーはどう応えていいのか分からないのだろう。惟の顔を見ることもできず、床に視線を落とすことしかできない。そんな彼に追い打ちをかけるように惟が声をかけてくる。




「アンジー、僕は気にしていないよ。なにしろ、相手は亜紀なんだ。彼女が魅力的なのは誰でも認めていることだと思うよ。そんな彼女に恋する連中が山ほどいるっていうことも僕は知っているしね」



「でも、惟……」



「ねえ、アンジー。僕はある意味で優越感をもっているよ。だって、そうじゃないか。それだけ魅力的な亜紀は僕のことを愛してくれている。それは間違いない。だから、彼女のことを好きだっていう相手のことを気にする必要はないって思ってる」




惟のその声にアンジーはどう返事をすればいいのかと思っているのだろう。視線があちらこちらへと揺れている。それでも、これだけはハッキリしないといけない。そう思った彼がようやく、口を開いた。




「じゃあ、惟は僕が亜紀ちゃんのことを好きだっていうことを気にしないの?」



「当たり前。何度も言わせるんじゃないよ」



「だから、どうして。だって、惟にすれば亜紀ちゃんは誰よりも大事な相手だろう? その相手のことを好きだっていう相手のことが気にならないなんておかしいよ」



「たしかにそうかもしれない。でも、亜紀のことを一番に思っているのは僕だ。それは譲るつもりはない。でも、あれだけ魅力的な亜紀のことを好きになるな、なんてことも言えないよね」




惟の言葉はどこか矛盾しているような響きを含んでいる。それでも、その言葉を否定できないとアンジーは思っている。



なにしろ、間近で見る亜紀が魅力的すぎるのだ。



その彼女をもっとそばで見たい。できるならば手に入れたい。



男ならば、そんな思いを抱いてしまうだろう。だからこそ、アンジーは惟に問いかけの言葉を投げることしかできない。




「じゃあ、惟は僕が亜紀ちゃんのこと好きだっていうのを認めるの? 僕が亜紀ちゃんを口説いても気にならないの? 彼女のこと愛しているんでしょう? それなのに、気にならないの?」



「気にならないっていったら嘘になるだろうね。僕にとって、亜紀は何よりも大事な人だし誰よりも彼女のことを愛している。でも、だからといって他の男が彼女のことを愛しているというのを認めないなんてこと言いたくないよ。そんなこと言ったら、僕は自分の思いさえ否定することになる。そうだろう?」




はっきりとそう言い切る惟の姿には、どこか清々しいものさえ感じられる。そう思うアンジーは、彼の顔をみつめることしかできない。そんなアンジーに惟はニヤリと笑いながら言葉を続ける。




「だから、アンジーが本気だっていうなら、遠慮なく亜紀を口説いてよ。そして、僕から亜紀を奪ってごらん。もっとも、簡単にそうはさせないよ。アンジーが亜紀のことをどう思っているのかはっきり分かったんだ。だとしたら、僕だって全力で立ち向かう。それくらい当然でしょう」



「惟、本気で言ってるの? 本気で僕が亜紀ちゃん口説いてもいいって言ってるの?」



「本気だよ。そのことも分からないの?」




アンジーの問いかけを、惟は当然ではないかというようにあっさりと切り捨てる。そのまま、彼は口調を変えることなく話し続けていた。




「僕は亜紀のことを誰よりも愛している。だから、彼女がより美しくなるためになら、どんな努力も惜しまない。でしょう? 女性を美しくするためには男の甲斐性が必要ってね」



「ま、たしかに……女性の手を美しいままにするには、相手の経済力が重要な部分、あるよね。それと、惟が亜紀ちゃんのためにどれだけのことをしているかは知っているつもりだし」




ポツリと返されるアンジーの言葉。それに惟はクスリと笑いながら応えている。




「分かってるんじゃない。じゃあ、それだけ美しくて魅力のある女性に惹かれない男がいると思うの? 思わないでしょう。たしかに、本音は彼女を独占したいよ。うん、僕のことだけをみて、僕だけを愛してもらいたい。でも、そうしようと思ったら彼女のことを監禁しなきゃいけない。それは問題あるでしょう?」




惟の言葉に、アンジーはどう応えていいのか分からない。なにしろ、彼の言っていることがあまりにも極端なような感じがするからだ。しかし、これが惟の本音でもあるということを彼は感じている。だからこそ、反対の声を上げることなく、じっと耳を傾けるだけ。




「そうだ。アンジーに頼みたいことあるんだけど、いいかな?」



「なんだろう。僕にできること?」



「うん、アンジーじゃなきゃできない」




思わせぶりな惟の言葉。彼が何を言いたいのか、アンジーには分からない。だが、ここは無視してはいけない。そう思う彼は惟の言葉の続きを待つことしかできない。




「僕にしかできないこと? 何だろう」



「分かっているくせに。前から約束しているマリエ。できるだけ早く仕上げて」




惟の言葉に、アンジーは肩をピクリと震わせている。それも仕方がないだろう。なにしろ、彼が依頼しているマリエとは惟との結婚式で亜紀が纏うもの。それを仕上げればどうなるか。


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