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たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~  作者: Aldith
高嶺の花だと分かっていても
29/52

〔3〕

あの時間は溺愛している亜紀との逢瀬の時なのだ。それを他人に邪魔されたくない。


惟のその思いが強いことは、誰よりもアンジーが知っている。だというのに、相手はそんな彼の思いを裏切るような言葉を口にしていた。




「そうなんだ。そういえば、このところデザインも何も手についていないようだったね。気分転換になるかもしれないし、一緒に行こうか。亜紀もアンジーのことは好きだって言ってたし」



「そ、そう……嬉しいな」




亜紀が自分のことを『好き』だと言っていた。この言葉はアンジーにとって何よりも嬉しいこと。しかし、それが恋愛感情を含んだ物なのか、友人としての物であるのか。


もっとも、訊ねるまでもなく後者であることは間違いない。それでも、ひょっとしたら、という期待が彼の中に生まれている。そして、そんなアンジーの様子に気がついたのだろう。千影が書類の束を抱えて惟のそばに近寄っていた。




「惟様。ちょっとご相談したいことがあるのですが……」




千影のその声に、惟は傍目でみても分かるくらい嫌な表情を浮かべている。その顔には、この時間は用があるといっているだろう、と告げているかのよう。しかし、千影が諦めるはずもない。彼女はアンジーに意味ありげな視線を送ると、惟に書類を突き付けている。




「これらの書類を片付けないといけないことはお分かりだと思います。できるだけ早く処理をしたいと思っているのですが、いけませんでしょうか」



「南原、何も全部僕がタッチしないといけないことじゃないだろう。ある程度は君の裁量に任せているんだ。そうじゃなかったかい?」



「それはそうですが……それでも、最終的にはご相談した方がいいと思いまして」




いつもならばあっさりと引き下がる千影が、今日に限ってしつこく言葉を重ねる。そのことにため息をつく惟。それをみていたアンジーが口を挟んでいる。




「ねえ、惟。僕がお姫様を迎えに行っちゃダメ? もちろん、送るなんてこと言わないよ。それは惟の役目だから。でも、お姫様は一人なんだろう? 危ないし、どこか安心できる場所まで連れて行ってあげる。それならいいんじゃない?」



「アンジーがそう言ってくれるのなら、頼もうかな。ラ・メールは知ってるよね?」



「前に惟に連れて行ってもらった紅茶の美味しい店だよね。うん、知ってるよ。あそこのマスターとも仲良くなったしね。そこでいいの?」




ちょっと首を傾げながら問いかけるアンジーに、惟は頷くことしかできない。その姿に、「わかったよ」と呟いた彼は、車のキーを手に取っている。




「できるだけ早くおいで。お姫様も惟がいないと寂しいって思うだろうしね」



「わかってる。南原、話は手短に。時間も勿体ないし、歩きながらでいいかい?」




惟の言葉に、千影は満面の笑みを浮かべて「はい」と応えている。そのまま、アンジーの隣を通り過ぎる時、『ありがとう』と声にならない声を出す。そんな彼女と惟の後姿を見送ったアンジーはグッと拳を握ると、亜紀を迎えにその場を離れようとしているのだった。




◇◆◇◆◇




「亜紀ちゃん、待たせたよね」




いつもと同じように惟を待つ白綾の校門。そこで亜紀の耳に飛び込んできたのは、いつものテノールではない。


いや、同じような柔らかい声だが、気持ち明るい雰囲気。そして、何よりの違和感は彼女を『亜紀ちゃん』と呼ぶこと。


惟が彼女のことをそのように呼ぶことはない。一体、誰なのだろうといぶかしげな表情を見せる亜紀の前にニコニコと笑うハニーブロンドの髪の主が立っていた。




「グラントさんじゃないですか。どうして? 惟は一緒じゃないの?」




今までアンジーがこうやって来たことはない。そのせいだろう。亜紀の頭にはハテナマークしか浮かんでこない。


その彼女の顔が微かに落胆の色を浮かべている。そのことに気がついたアンジーはふっと眉を下げるだけ。


だが、これは覚悟していたことのはず。そう思って気を取り直したのだろう。彼はいつものように明るい声で亜紀に話しかけていた。




「亜紀ちゃん、ビックリした? 惟はちょっと忙しくてね。亜紀ちゃんが待ちぼうけしていたら可哀想だからと思って、僕が迎えに来たんだ」



「そうだったんですか。わざわざありがとうございます」




そう言うと、亜紀はペコリと頭を下げた。そんな彼女にアンジーは誘いの声をかけていた。




「ね、惟とラ・メールで約束しているんだ。亜紀ちゃんもそこに来ない?」



「いいんですか? だったら、お願いします」




アンジーの誘いは亜紀にとって願ってもないもの。だからだろう。パッと顔を明るくした彼女は、ニコニコ笑いながらアンジーの顔をみつめている。


その顔をどこか眩しそうな顔で見た彼は、スッと腕を差し出していた。その態度の意味がわからない、と不思議そうな顔をする亜紀。そんな彼女に、アンジーの穏やかな声がかけられる。




「ラ・メールまでなら歩いて行けるだろう? 僕と一緒じゃ不満があるかもだけど、そこまで惟の代わりにエスコートさせて」




アンジーの声がちょっと不安気なものになっている。そんな彼の腕に、亜紀は彼女の腕を絡めている。まさか、彼女がそのような行動をとるとは。そう思ったアンジーの顔が一気に赤くなる。だが、そんな彼の様子にも気がつかないように、彼女は俯いてポツリと言葉を口にしていた。




「不満じゃないです。よ、よろしくお願いします」




今、彼女が俯いてしまった理由。それは、自分の行動が恥ずかしいと思ったから。なにしろ、彼女には婚約者がいる。それなのに、その相手以外の男性の腕に絡みつく。これが褒められたことではないことは、彼女自身がよく知っている。


それでも、今のアンジーを拒絶してはいけない。そんな思いを彼女は抱いてしまった。


だからこそ、彼女は彼の差し出す腕を受け入れる。だが、そのことを気恥かしいと思う気持ちは間違いなくある。だからこそ、俯いてしまったのだが、そのために彼の表情が見えていない。


もっとも、見てしまったら逆に困惑したかもしれない。なにしろ、今のアンジーが彼女に向ける表情は、惟が彼女に向けるものとほとんど変わらないのだから。


だが、それもほんの一瞬。次の瞬間には、アンジーはいつもと同じ調子で彼女に声をかけていた。




「よかった。じゃあ行こうか。ここで立ち話するのも目立ってしまうだろう? 惟にはちゃんと了解とっているけど、お互いに嫌な気持ちはしたくない。そうでしょう?」




ニッコリ笑って告げられる言葉に、亜紀も思わず笑い出している。そのままラ・メールへと歩き始めた時、アンジーがさり気なく車道側を歩いている。こういう心遣いは、惟と同じ部分がある。


そう思った亜紀の頬が微かに赤くなっていく。もっとも、これは彼の行動から惟のことを思い出したからに他ならない。


それでも、彼女はどこか照れたような顔をする。そんな顔を見ることができたことで、アンジーの頬もどこか緩んでいく。そうやって歩く二人の間には、恋人同士ではないがどこか甘い雰囲気が漂っている。それは、彼の容姿がフワフワとしたものであるということが大きいのだろう。


そして、辿りついたラ・メール。そこで、亜紀は躊躇うことなく外が見える窓際の席に腰かけようとしていた。そんな彼女を慌ててアンジーが止めている。




「亜紀ちゃん、そこはダメ。惟に怒られるよ」



「どうして?」




たしかに前から窓際の席は気をつけろと言われ続けてきた。その理由がなんとなくは分かってきている。だからこそ、普段であればそのようなことはしない。だが、今日はどうしてもこの席に座りたい。


◆読んでいただいてありがとうございます!




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