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たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~  作者: Aldith
高嶺の花だと分かっていても
28/52

〔2〕

そのことに思わず大きく頭を振った彼は、この場は気持ちを切り替えないといけないのだとも思っている。だからこそ、彼は千影が示すメニューに目を落とし、彼女が勧めるものを機械的に注文するしかないようだった。




◇◆◇◆◇




あの時、千影の誘いを受けるべきではなかったのだ。今のアンジーはそんなことを考えている。なにしろ、あの日から彼女が彼に向ける視線があまりにも意味ありげだからだ。あのことは考えてはいけない。そう思ってはいても、気がつけば彼女の言葉が頭によぎる。




「どうしろっていうんだよ……」




思わずぼやく声が彼の口から漏れる。


その視線の先にあるのは繊細に織り上げられたレースと光沢のあるシルク。これらが実際に形になるのはまだ先。それでも、最上の物を望む惟の為には手配する時間も十二分に欲しい。


そう思い、準備を始めていたはずなのに、なかなかその手が先に進まない。その理由が先日の千影の囁きにある。そのことに気がついた彼は、大きくため息をつくしかないようだった。




「ほんと、彼女にこんな思いを持っていたなんてね。惟に知られたら殺されるかな?」




自嘲気味な声がその場に響いていく。たしかに彼の婚約者である亜紀に対して好感は持っていた。


大学の時、偶然知り合った惟がそれこそ何年も思いを寄せていた相手。何枚か写真を見せてもらううちに、その笑顔に温かいものを感じるようになっていた。


そして、彼のデザインセンスを見込んだ惟がデザイナーとして一緒にやってくれないか、と声をかけてきた。そういう世界に興味を持っていたアンジーにとってこの提案は何よりの物。


その日以来、二人で同じものを目指してきていたはずだった。惟がとことん惚れ込んでいる相手の為にと立ちあげたブランド。そのメイン・デザイナーとしての地位を確固たるものとしている自分。この関係は崩れることがないと思っていた。だが、あの日——


想い人が16歳になるから日本に帰る。それを機に本社も移転するので、一緒に来てほしい。そう告げられ、活動の拠点を日本にしてすぐの頃。


惟がまだその時は名前だけの婚約者の亜紀を連れてきた。その時、彼は間違いなく亜紀本人に好意以上の感情を持ってしまった。だが、その場では気がついていなかった。しかし——


先日、千影と食事をしたリヴィード。その店内で彼女に囁きかけられた言葉。それが甘い毒となって彼の全身を駆け巡っている。


そして、その毒は彼に無意識のうちに抱いていた思いを気づかせたのだ。しかし、それは認めたくない思い。なんといっても、彼が思いを寄せる相手は惟の婚約者。


彼が婚約者を大事にしていることをアンジーはよく知っている。いや、大事にしているというより、彼女が歩いた地面さえ拝みかねない。それほど、彼は婚約者である亜紀に夢中になっている。


そんな相手に恋をする。それが親友である惟を裏切る行為であることは分かっている。だが、気がついたこの思いは消すことができない。ただ、その中でも救い は惟がアンジーの思いに気がついていないことだろう。いや、彼が亜紀に好感をもっていることは知っている。だが、それはあくまでも好意であり恋愛感情であるとは思っていない。


もっとも、アンジーの思いが惟に気づかれた時の反応が怖い。それが今の彼の正直な気持ちだろう。なにしろ、惟は独占欲が強く嫉妬心もそれなり以上にある。


となれば、大切な婚約者にちょっかいをかける相手を簡単に許すはずがない。そのことを知っているからこそ、アンジーの苦悩は大きくなっていく。




「ほんとにどうすればいいんだろうね。彼女のこと好きなのは間違いない、でも、そのことを惟に知られたら、僕たちの関係ってどうなるんだろうね」




もっとも、口ではどうなるだろうと言ってみても、どうなるかは明白。恐らく彼らの関係は最悪なものになるだろう。そのことをアンジーは勘付いている。なにしろ、執着心の強い惟がようやく手に入れた相手なのだ。彼が離れるはずもないし、相手も彼の思いに応えている。


だとしたら、自分が入り込む隙間があるはずもない。それなのに、いつの間にか彼女に対して抱いている恋愛感情は日を追うごとに大きくなっていく。



千影にこの気持ちを気づかされる前に戻りたい。



そう思ってみても、自覚した思いが消えるはずもない。ただ、風船のように思いは膨らんでいくだけ。



これがこのまま大きくなったらどうなるのだろう。



いっそのこと、膨れすぎた風船と同じように破裂してしまった方がいいのではないだろうか。



その方が、亜紀に対する思いを引きずらなくても済むのではないだろうか。



今のアンジーの中ではそんな思いだけが渦巻いている。それでも、諦めた方がいいと分かっていても感情がそれを受け入れるはずがない。惟との話のなかで亜紀の様子を耳にするたび、思いが強くなっていくのを感じている。




「ほんとに千影さんにも困ったものだよね。もっとも、彼女は惟が振り返ってくれるって思っているみたいだけど。でも、それって絶対にあり得ないんだからね。それなのに、よく頑張るよね」




もっとも、この言葉は自分に対してもあてはまる。そんなことを思うアンジーは、ため息をつくことしかできない。


なにしろ、この頃の千影の態度ときたら、あまりにもあからさま。惟のことを狙っているのだと公言するかのように彼の近くにすり寄っていく。


もっとも、それが逆効果になっているのだということを千影は認識していない。だからといって、そのことを教えようというつもりがアンジーにはない。今の彼は、彼女の行動を眺めるだけ。


そんな中、彼の心の中で囁かれ続ける声がある。だが、それに耳を傾けることはあってはならない。そんな頑なな思いが彼の中にはある。しかし、その声はあまりにも魅惑的でアンジーの理性を段々と麻痺させていく。




「一度だけ……一度だけなら、許してもらえる? だよね。きっと、許してもらえる、よね」




彼の中で大きくなっていく声を止めることはできない。そして、それが甘ければ甘いほど、毒を孕んでいることも間違いない。だというのに、今のアンジーはその言葉を拒否できない。


いや、拒否しようと思っていたが、ついに飲み込まれた。そういう方が正しいのだろう。そして、そのまま壁の時計を見上げた彼は、今の時刻を確認している。




「もう、こんな時間なんだ。今から、惟は彼女を迎えに行くんだろうな……もし、それに僕が一緒に行くと言ったら? そうすれば、惟はどうすんだろう」




これは一つの賭けだ。そんなことをアンジーは思っている。



惟が亜紀を迎えに行く時は邪魔をしない。



それは特に言葉にされたわけではないが、二人の間で交わされた約束でもある。そこに自分が割り込む。今までならば考えもしなかったこと。だが、今のアンジーはそうしたいという思いが大きくなっている。


もし、その場に自分が割り込むことを許されたら。あり得ないことだが、ふとそんな願望が彼の中に生まれている。


惟が了承しなければいい。そうすれば、自分は亜紀のことを諦めることができる。


だが、彼が承諾した時は——


その時は自分の気持ちを抑えることはできないだろう。そんなことをアンジーは考えている。


断ってほしい。いや、断って欲しくない。そんな相反する思いが渦巻く中、彼は運命の言葉を惟に向かって投げかける。




「惟、そろそろお姫様を迎えに行くんだろう? 今日、僕も一緒に行っていい? ちょっとこの頃スランプで。お姫様の顔見たら、何かイメージが湧いてきそうな気がするんだよね」




さり気ない調子で問いかけられた言葉。だが、アンジーは惟の答えを知っていると思っている。間違いなく彼は断るだろう。


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