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〔3〕

「いいの、いいの。それよりも、惟さんから何かもらえるんじゃないの? あれだけ溺愛されてるんだし、あんたとの婚約話も乗り気だったんでしょう? 案外、指輪とか貰っちゃうかも?」




由紀子の言葉は亜紀には刺激が強すぎたのだろうか。一気に顔が赤くなると金魚のように口をパクパクさせている。そんな友人の姿は見ていて楽しいものでしかない。そんなことを言いたげな顔をした由紀子が店の外に目をやっている。そこに映る人影に気づいた彼女は、目を三日月のように細くすると口元を半円に持ちあげて亜紀の顔をじっとみていた。




「もう、亜紀ったら愛されてるのね~」



「ゆ、由紀子……何を言いたいの?」




由紀子が何を言いたいのかは分からない。だが、この状況はすこぶる不利としか言いようがない。そんなことを感じている亜紀がビクビクした調子で問いかける。それに対して、由紀子はニンマリと笑いながら応えてくる。




「だって~。外で待ってるのよ。あんたからの連絡待ってるんでしょうね。しょっちゅう、携帯眺めてるもの。なんだか、邪魔するのも悪いような気がしてきた。さっさとお邪魔虫は帰ろうか?」



「どうして、そんなこと言うのよ。由紀子がお邪魔虫ってどういうこと?」



「認めたくないけど、そうじゃない。ホント、私の知らない間にくっついて、すっかりラブラブ状態なんだから。今日のところは大目に見てあげるけど、今度からはちゃんと報告するのよ」




由紀子のそんな声に、亜紀は返事をしようとはしない。それは彼女なりの抗議の姿勢というものだろう。もっとも、それが由紀子に効果があるはずもない。彼女は笑いながら亜紀から携帯を取り上げると、遠慮なく電話帳を開いた。




「あ、これね。あんまり待たせるのも悪いし、私から連絡してあげる」



「由紀子、それこそ余計なお世話よ。私、あなたと話したいって思ってるのに」



「いいじゃない。またゆっくり話せる時もあるでしょう? ほら、今度の日曜日には会えるんだし。あ、その時はあんたの恋バナ聞かせてもらうから」




そう言うと、由紀子は惟の番号をみつけると電話を繋いでいる。友人のその行動を今の亜紀に止めることができるはずもない。そして、彼女が楽しそうな声で『話、終わりましたよ』と告げるのを聞いて頭を抱えるだけ。




「由紀子、勝手に何してくれるのよ」




亜紀としては精一杯の目力で睨んでいるつもりなのだろう。だが、上目遣いで顔を赤くしている状態で迫力も何もあったものではない。そのことを知っている由紀子は亜紀の鼻先をチョンと突いている。




「亜紀、その顔って危険よ。惟さんの理性をふっ飛ばすんじゃないの? もっとも、そうなった方が話としては美味しいのが聞けるかもだけど」



「だ・か・ら。どうして、そんなことを言うのよ」



「だって、今の亜紀の顔って、絶対に誘っているように見られるって。大抵の男が、あんたのその上目遣いに勝てるはずないんだから」




本人は無意識なのだろうが、今の亜紀からは間違いなく色気しか出ていない。そのことを感じる由紀子の顔もどこか赤くなっている。


まさか、幼なじみの上目遣いにやられる日がくるとは。


今の彼女の思いがそうなのは間違いないだろう。そして、それと同時に店内に入ってきた惟が亜紀のことをギュッと抱きしめる。その姿に、由紀子はまた嬉しそうにキャッキャッと叫び声を上げているのだった。




「た、惟さん……離してください。人が見てる……」



「ダメ。僕としては今の亜紀の顔を他の男に見せる方が我慢できない。そうでしょう?」




そう囁きかける惟の視線が由紀子に向けられる。その彼女の顔が心なしか赤くなっている。そのことに気がついた惟の口からは、大きなため息しかもれてこなかった。




「ホントに亜紀は油断できないよね。まさか、女の子にまで威力があるとは思わなかった」



「惟さん、誤解しないでくださいよ。そりゃ、亜紀は幼なじみだし大好きな相手ですよ。でも、惟さんの邪魔しようなんて思ってませんから!」



「そう? だったらいいんだけど」




そう言いながら由紀子に向ける視線からは、フェロモンしか感じられない。すっかりそれにあてられた状態の彼女は顔を赤くすることしかできなかった。



この二人、お互いに無意識だと思うけど、歩く核兵器と同じだ。



そんなことを由紀子は思うが、そのことを口にすることなどできるはずもない。それでも、このことは言っておこうと思うのか、惟の耳元に口を寄せている。




「知っていると思いますけど、亜紀って今度の金曜日が誕生日ですよ」



「うん、知ってるよ。でも、教えてくれてありがとう。由紀子ちゃんも本当に可愛らしいよね」



「亜紀の前でそんなこと言っていいんですか? この鈍感、誤解しますよ?」




その声に惟はフッと笑みを浮かべるだけ。その顔を見た由紀子は、『この確信犯』と心の中で呟くことしかできない。間違いなく、彼は亜紀の嫉妬心を煽っているのだ。そのことが分かったのだろう。由紀子はわざと大きくため息をつきながらその場を離れようとしている。




「これ以上、ここにいるのって目の毒ですよね。だから、今日は帰りますね。でも、今度の日曜日はちゃんと亜紀を貸してくださいよ」



「わかったよ。送っていけないけど、構わない?」



「もちろんです。この前も言いましたけど、公共交通機関っていうものがあるんです。普通の女子高生の私は、それを使うのが当然なんです」




そう言うと、由紀子は亜紀に『また日曜日ね』と告げるとその場を去った。それを見送った惟は亜紀に『今日は帰る?』と囁きかけている。さっきまで由紀子に弄られていたという感のある亜紀にすれば、それは願ってもない言葉。コクコクと頷く彼女の額にそっとキスを落とした惟は、そのまま彼女を連れてラ・メールを後にしているのだった。




◇◆◇◆◇




その次の金曜日の夜。つまり、亜紀にとっては16歳の誕生日当日。その日、彼女はどこか居心地の悪い表情でレストランの席に腰かけていた。


そこは前に惟に連れてきてもらったことのあるホテル。ここって一條の系列ホテルだったな。そんなことを亜紀がぼんやりと考えている時、目の前に銀の蓋がされたトレーが置かれていた。


先ほどまで、惟と一緒にフルコースを堪能していた彼女にすれば、これの意味が分からない。たしか、デザートは終わったはず。そんなことを思う彼女に惟が甘い声で囁きかけてきた。




「亜紀、蓋をとって」



「う、うん……」




甘い響きではあるが、彼の声に逆らうということがどうにもできない。そう思う亜紀は、不思議そうな顔で目の前にあるトレーの蓋に手を伸ばしている。




「え!? これって?」




言われるままに蓋を取った亜紀の口から出る驚きの声。なにしろ、そこにあったのは、彼女が思ってもいないものだったからだ。そんな彼女に惟は「気に入ってくれた?」と囁きかける。それに対して、彼女はどう返事をすればいいのか分からないように口をパクパクさせるだけ。




「あ、あの……こ、これって……」



「見たまま。亜紀は今日が誕生日でしょう? 16歳おめでとうのケーキ」



「そ、それは分かります。でも、ケーキの上にあるものって……」




亜紀が言葉を失っているのも当然かもしれない。目の前にあるのは綺麗にデコレーションされたホールケーキ。それは、誕生日を意識しているのか一人用の小さなもの。だが、きらびやかに飾られたそれはパティシエの腕の良さが分かるだろう。


そんな中、なによりも亜紀を驚かせたものが、ケーキの中央に配置された本物のバラの花。そこに置かれている指輪は、レストランの柔らかな間接照明を浴びてキラキラと輝いている。


その輝きが花の色にも負けないようなピンクだ。そのことに気がついた亜紀は、惟の顔をマジマジと見ることしかできなかった。


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