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〔2〕

「ほら、白状しなさい。いつから付き合ってるのよ」



「それって言わなきゃいけないこと? 由紀子の横暴!」



「そんなことないって。あんたは私にホウレンソウする義務があるってこと、忘れたの?」




ドヤ顔でそう告げる由紀子に、亜紀は『信じられない』とぼやくことしかできない。もっとも、彼女の嫌味が由紀子に効果があるわけもない。彼女は当然だろうというような顔で亜紀の頬を突いてくる。




「前にも言ったでしょう? 報告、連絡、相談。この三つを合わせるとホウレンソウじゃない。あれだけのイケメンに溺愛されてるのよ。あんたは私にちゃんと報告しないといけないの」



「さっきも言ったじゃない。恥ずかしいんだってば!」




由紀子の言葉に反発するように亜紀が大声で叫ぶ。だが、このラ・メールの店内はクラシックが静かに流れる穏やかなもの。そこで大声を出すということが、どれほど目立つことか。


そのことに気がついた亜紀が先ほどとは別の意味で顔を赤くする。そんな彼女の反応を由紀子は楽しそうに眺めていた。




「亜紀。ここは素直に白状しないと。ね、そうじゃない。私たちは幼なじみよね。その幼なじみにも教えられないっていうの?」



「わ、わかったわよ……そこまで言われて、黙ってられるはずないじゃない。正直に言うから、勘弁してよ」




この場ではこういうことしかできない。そのことをようやく悟った亜紀がちょっと膨れながらそう応えている。そんな彼女の様子に満足したような由紀子が目を三日月のように細くする。そのまま、楽しそうな調子で口を開いていた。




「やっと、観念したんだ。じゃあ、キリキリと白状しなさい。言っておくけど、嘘はダメよ。正直にあったことを全部、教えるのよ」




友人のこの迫力はなによりも恐ろしい。そう思う亜紀は「わ、わかった」と呟くことしかできない。その返事に納得した由紀子は『早く話しなさい』というような視線を彼女に向ける。この態度に亜紀は逃げることはできないのだと悟ったのだろう。諦めたような口調で話し始めていた。




「あ、あのね……この前、由紀子と会った次の日から付き合ってる……」




このことを口にすると照れる。そう思う亜紀の声がだんだんと小さくなるのは仕方がないだろう。それに比例するかのように赤くなっていく顔。今の彼女はポッポと湯気を吹きそうなほど顔を赤くしている。友人のそんな姿に由紀子は自分の頬を挟むと『キャー』と楽しそうな声を出す。


それがますます亜紀の羞恥心を煽るのだろう。今の彼女は、なんとかしてこの場から逃れたいという思いしかない。しかし、由紀子がそれを許すはずがない。すっかり目をキラキラさせた彼女は、己の好奇心を満足させる言葉だけを口にしている。




「ええ! じゃあ、あの次の日からなの? 惟さん、たしかに積極的だと思ったけど、展開が早いんじゃないの? 何かあったんでしょう。ひょっとして、美味しくいただかれちゃったの?」



「な、何を言い出すのよ! そんなことあって付き合うってことになると思うの? 私、そこまで変態じゃないわよ」




由紀子の言葉に亜紀は猛然と反発をしている。まるで、それがきっかけとなったかのように、亜紀はその日にあったことを話し始めている。




「由紀子と会った次の日、惟さんとデートしたの」



「そうなんだ。あの人のことだし、絶対に完璧なデートコース、選んでくれたんでしょうね。うん、見てなくても分かるわ」




亜紀の言葉に由紀子は一人でふんふんと頷いている。そんな友人の反応は亜紀にとって居心地の悪いもの。だが、ここで話を止めるわけにはいかない。そんなことをすれば、今よりももっと恥ずかしいことを叫ばれる。そう思う彼女は、言葉を選ぶようにして話を続けていた。




「で、レストランでお食事している時にいろいろ話したの。その時、惟さんがいつもの夢に出てくる人だってわかったの」



「それって、あんたが前から言ってたあの夢? ほんとにいるのかどうか分からないけど、忘れられないって言ってた人のことよね?」




その言葉に、亜紀はコクリと頷くことしかできない。彼女のそんな姿に、由紀子は納得したような表情を見せている。そして、ニッコリと笑うと亜紀の額を軽く小突いていた。




「だったら、あんたにすれば付き合うっていう選択肢しかないわよね。前から何度もその話は聞かせてもらってたけど、ほんとにその人がいるなら会いたいっていつも言ってたもんね」



「う、うん……」




由紀子の声に亜紀は顔を真っ赤にしてしまっている。その姿からは、今の彼女が幸せなのだということが間違いなく分かる。そう思った由紀子は優しい表情を浮かべて、亜紀に語りかけていた。




「よかったじゃない。ほんとに王子様がいたのね。あの人なら、絶対にあんたのこと幸せにしてくれるって。で、付き合い始めたってわけね。じゃあ、もうすぐ1か月よね。今が一番ラブラブなんじゃないの?」



「ら、ラブラブって……そんなこと、ないと思う……そ、そりゃ、毎日迎えに来てくれたりはするけど……」




ポツリとそう呟く亜紀の声を由紀子が聞き逃しているはずがない。その顔がいいことを聞いたというような表情になっている。それを目にしたとたん、『しまった』というような顔をする亜紀だがもう遅い。亜紀の言葉に完全に食いついた由紀子は楽しそうな顔を浮かべるだけ。




「なによ、その美味しい生活は。あんなイケメンに毎日、迎えに来てもらうってホントに贅沢なことよ。女冥利に尽きるってこのことかしらね~」



「ゆ、由紀子……そんなことないって……」



「いまさら反論しないの。だって、仕事もある人が毎日でしょう? 愛されてるとは思ってたけど想像以上。溺愛ってこのことよね。もう、熱すぎて言葉が出ないって?」




由紀子のその言葉に亜紀は何も言い返すことができない。今の彼女は真っ赤になって突っ伏してしまっている。そんな彼女の頭をチョンとつついた由紀子は、ニコニコと笑いながら話し続けていた。




「ほんと、御馳走さま。そりゃ、あんたと会う時には、惚気の一つや二つ聞かされるとは思ってたわよ。でも、それ以上じゃない。もう、熱々すぎてそばにいるのも照れるくらいだわ。でも、美味しい話、ありがとう」



「由紀子。それって、あなたが無理矢理に話させたんじゃない」



「そう? でも、あんただって黙っていられるとは思ってなかったでしょう? 白状させるのに時間はかかったけど、その分、美味しい話が聞けたからいいことにしとくわ」




由紀子のドヤ顔が元に戻る気配がない。そのことに思わずため息をついた亜紀。そんな彼女に投げかけられる声。




「それはそうと、もうすぐあんたの誕生日じゃない。たしか、今月の14日だったわよね」



「う、うん……今度の金曜日」



「だったわよね。あ、お祝いはするからね。一日遅くなるけど、土曜日に会える?」



「ゴメン。その日は無理。なんか、お父さんがどうしてもあけておけって煩いのよ。ついでにお兄ちゃんも絶対に予定入れるなって。だから、ゴメン。日曜日なら大丈夫だと思うんだけど」




せっかくの友人の誘いを断らないといけない。そのことにすまなそうな顔をする亜紀。そんな彼女に由紀子はクスリと笑うと、気にしてないというような顔で応えていた。




「ま、あんたの家だし、何かイベントでも考えてるんじゃないの? たしか、16歳の誕生日に正式な養子縁組するっていってなかった? そのあたりで何かあるんでしょう。そのこと考えなかった私も悪いんだし、あんたが気にすることないって」



「でも……」


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