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たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~  作者: Aldith
蘇る思い出と溢れる想い
15/52

〔4〕

「たしかにね。でも、お兄さんか。ちょっとそれって複雑だよ。だって、まだ僕のことを婚約者だと思って見てくれるつもりないんだっていうことだよね。でも、おじさん扱いされなかったのは嬉しいよ。だって、僕と亜紀ちゃん、一回り違うんだからね。高校生の亜紀ちゃんからみれば、僕はおじさんってこと」




自分を茶化すような惟の発言に亜紀は思わず笑い出している。先ほどまでの甘い雰囲気はそこにはない。しかし、彼女にすればこの状況の方が安心できる。そんなことを思うのか、今の亜紀の顔には柔らかな笑みが浮かぶ。そんな彼女の姿に惟は目を細めて満足そうな表情をみせている。そして、確認するように改めて声をかけていた。




「じゃあ、明日は僕とデート。場所は任せてくれるよね」



「あ、はい。なんだか申し訳ないんですけど、お願いします」



「そこでそう返してくれるの? 亜紀ちゃんって本当に可愛らしいね。でも、明日は期待しといてね。そろそろ、僕のことをちゃんと見て欲しいからね。わかってくれるよね、あーちゃん」




最後になんだか呼ばれたような気がする。そんな気がした亜紀は首を傾げるが、惟は『なんでもないよ』と言いながら車の運転を続ける。そのまま、彼女を一條邸に送り届けた惟の顔には、明日のことを楽しみにしている表情しか浮かんでいなかった。




◇◆◇◆◇




その日の夜――



柔らかな羽根布団にくるまれた亜紀は、久しぶりにいつもの夢をみていた。だが、そこに浮かぶ光景が微妙に違う。そのことを疑問に思いつつも、夢の中で景色はどんどんと移っていく。


そして、いつもと同じバラのアーチの下で誰かにギュッと抱きしめられる。そこまで夢が進んだ時、彼女の耳には今まで思い出せなかった声がハッキリと響いてきていた。




「泣いていいんだよ。泣かないと壊れちゃう」



「うん……でも、さびしいの……ぱぱもままももういないなんて、しんじられない……」



「大丈夫。僕が一緒にいてあげるから。あーちゃんを一人になんてしないから」



「ほんと?」



「うん、本当。でも、今すぐは無理かな? あーちゃんが大きくなって、素敵なレディーになった時に迎えにいくよ。だから、それまで僕のこと忘れないで」




バラの甘い香りに負けないような甘い言葉が彼女の耳に届いてくる。この時の亜紀はまだ5歳。それでも、言葉に含まれる意味はわかるのだろう。コクリと小さく頷いている。




「うん、わすれない。だから、ぜったいにむかえにきてね。やくそく」



「約束するよ。だから、あーちゃんは僕のこと忘れないで。絶対に迎えに行くから」



「うん、まってる。ぜったいに、わすれずにまってるから」




そう言うと亜紀は相手の顔をじっとみつめている。そんな彼女の体がもう一度ギュッと抱きしめられる。次の瞬間、その体が解放されたかと思うと、優しいまなざしが亜紀の顔をじっとみつめていた。




「約束するよ。絶対にあーちゃんのこと、迎えに行く。だから、それまでは寂しいだろうけど我慢していて。でも、その時がきたら飛んでいく。そして、二度とあーちゃんを一人にしないから」




その声に亜紀はスッと小指を差し出している。彼女のその姿に相手はニッコリと笑いながら自分の小指を絡めてきていた。




「ゆびきり。ぜったいに、むかえにきてくれるってやくそく。わたしもわすれない。ちゃんといいこにしてまってる。だから、ぜったいにむかえにきて」




その声に大きく頷く相手はしっかりと指切りをする。そして、お約束ともいえる『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます』という言葉。それを耳にした時、ようやく亜紀の顔から涙が消えようとしている。そのまま、相手の胸に頭をうずめた彼女は、このことを脳裏に刻み込むかのようにじっとしているだけだった……



そして、翌朝――



亜紀はどこか複雑な表情で目を覚ましていた。その理由が昨夜の夢であることは間違いない。今まで、どうしてこんな大事なことを忘れていたのだろう。そんな思いが彼女の中にはある。


あの時、彼女のことを『あーちゃん』と呼んだ相手。この相手のことはどういうわけか思い出すことができない。それでも、なぜか分からないが惟と会った後には間違いなくこの夢をみている。


そして、今までとは違っていた夢の内容。だが、そのことが実際にあったのだということを彼女は否定しようとはしない。


夢の中で呼ばれていた『あーちゃん』という声。昨日、アンジーが彼女のことをそう呼んだ時、激しく反発したのは、きっとこのことを体の奥が覚えていたからだ。


約束したことを忘れていたのも同じだが、それでもあの時の相手以外に『あーちゃん』とは呼ばれたくない。そんなことを無意識のうちに思っていたのだろう。だからこその反発。だとしたら、と亜紀はふと思い出すことがある。


昨日、惟に送られた車の中で彼が口にした言葉。その中で『あーちゃん』という響きを耳にしたのではなかったか。たしかに、あの時の彼は『なんでもないよ』と言っていた。だが、かすかに届いた響きは間違いなく彼女を呼ぶ声だったはず。


だとしたら、なぜそれには反発しなかったのだろう。そんな思いが彼女の中で大きくなっていく。しかし、考えれば考えるほど理由というものが思いつかない。いや、理由として一つのことを思いついているのは間違いない。だが、そのことを真実だと彼女が受け入れることができないだけ。


なにしろ、それは『あの時の相手が惟だったのではないか』ということだからだ。


しかし、それは違うと彼女は思いたい。たしかに友人である由紀子は彼が亜紀のことを本気で思っていると告げた。だが、それを彼女は信じることができない。だとしたら、そんな相手のことを『忘れずに待っている』と約束したのだと思いたくない。


だが、そう思ってはいても亜紀自身が惟のことを意識し始めているのは事実。だからこそ、彼の言葉や態度が気になって仕方がないのだ。もっとも、恋愛経験値0の彼女にそのことが分かるはずもない。ただ、彼女は自分の気持ちが分からずにどうすればいいのか悩むだけ。




「ほんとに、どうすればいいんだろう?」




今の彼女はそうやって呟くことしかできない。だが、今日が惟と約束したデートの日だということは覚えているのだろう。正直、気が進まない部分があるのだが、不思議と気持ちが浮き立つ部分もある。そのことに首を傾げながら、亜紀は出かけるための準備を始めるしかないのだった。




◇◆◇◆◇




「亜紀ちゃん、美味しい?」



「は、はい。どれもとっても」



「喜んでくれて嬉しいな。本当に亜紀ちゃんって幸せそうに食べるよね」



「馬鹿にしてるんですか?」



「そんなことないよ。だって、そんな顔をして食べる姿を見ているのは楽しいもの。つまらない顔して食べても美味しくないでしょう?」




惟の言葉に亜紀はコクリと頷いている。彼女自身、悩んでいる部分はあるが、今日は楽しい時間を過ごさせてもらっていた。その仕上げとばかりに連れてこられたのが今いるホテル。


地上15階にあるレストランは展望がいいことでも知られている。この場所に興味があった亜紀にすれば、これは願ってもないチャンス。おまけに、美味しい料理までごちそうになっている。すっかり表情が緩んだ彼女がニコニコしているのは当然のことだった。




「ここって、実は前から来てみたかったんです」



「そうなの? だったら、拓実君に頼めばよかったのに。ここ、一條のグループ企業だよ」



「え? 知らなかった。で、中学の頃、友人とここでお食事とかできたらいいだろうなって、話していたことあるんです」



「そうなんだ。じゃあ、夢が叶った?」



「はい。おまけに惟さんみたいな素敵な人と一緒だし。もう、言うことないです」



「嬉しいこと言ってくれるね。あ、ちょっとじっとしてて」


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