表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~  作者: Aldith
蘇る思い出と溢れる想い
12/52

〔1〕

「ねえ、ここって、あそこよね?」



「うん……間違いない。お店のロゴもそうだし……」




ラ・メールから惟に連れ出された場所。そこが思ってもいなかったところだったのだろう。亜紀と由紀子はお互いに顔を見合わせることしかできない。



『何をしているのか教えてください』



そう強請ったことに惟が頷いた。そのことは二人とも理解している。それからが驚きの連続。


まず、「今から案内する」という言葉とともに、外で待ち構えるようにしている車に押し込められた。その後、これといった説明もなく、車が走り続ける。


このあたりのことは強引だと抗議したくもなることだが、こちらが無理を言ったことも承知している。そして、亜紀はともかくとして由紀子は好奇心で一杯になっている。そのことに気がついた亜紀が大きくため息をついた時、車が静かに停まり、惟が「着いたよ」と声をかける。


その声に、車から降りた二人が口にしたのが先ほどの言葉。つまり、それほどこの場所は二人にとって驚きでしかないということがいえるのだった。




「てっきり、どこかのオフィスビルに連れて行かれると思ってた」



「由紀子も思った? それは私もよ。あ、ひょっとしてこの上? たしか、この上って普通のオフィスだったはずだし……」




二人は同じことを何度も繰り返すことしかできない。しかし、それも当然だろう。なにしろ、今いる場所はお洒落なブティックやブランド物の公式ショップが並ぶ一画。ここが、ある意味での憧れの場所なのは間違いない。


そんな中、女子高生のお小遣いでもちょっと頑張れば手が出せそうな価格設定の店もある。『ファエロア』というそのブランド、お財布に優しいだけでなく、デザインも秀逸。そんなブランドに憧れない女子高生がいるはずもない。


亜紀も由紀子も中学を卒業したら、一度は行こうと約束していた店。そこが目の前にある。この事実に、二人はポカンと口を開けることしかできないようだった。


そんな彼女たちの様子を不思議に思ったのだろう。惟が首を傾げながら亜紀の顔を覗きこむ。




「亜紀ちゃん、どうかしたの?」



「べ、別に何もないです……それより、案内してくれる場所ってどこですか?」



「分からない? ここだけど?」




そう言いながら惟が指差したのは、ファエロアの店先。この事実に亜紀はまた何も言うことができなくなっている。そのまま信じられないというように由紀子と互いに頬を抓り合う姿を見た惟はクスリと笑うと彼女に腕を差し出している。




「お姫様、こちらにどうぞ」




そう言うなり、彼は亜紀と腕を絡ませると店内へと導いていく。さすがにこれは気恥ずかしい。そう思った亜紀だが、惟の腕を振り払うことができず、そのまま歩きだすしかない。そんな二人の姿を見た由紀子は頬を紅潮させ、目をキラキラとさせている。


間違いなく、今の彼女は憧れのブランドに来たことと、惟の行動に興奮している。そのことを感じた亜紀は、うなだれることしかできない。そんな見事な温度差のある三人が店内に入ったとたん、明るい女性の声がかけられていた。




「惟様。突然、どうなさったのですか?」



「何か不都合でも? でしたら、今すぐにマネージャーを呼んで参りますわ」



「立たせたままだなんて失礼なことを。今すぐ、お席とお茶をご用意いたしますわ。それまで、店内をごゆっくりご覧ください」




静かな雰囲気だった店内が一気に騒がしくなってくる。何人かいたはずの客も騒ぎ立てる店員の姿を呆れたような顔でみつめている。もっとも、その時、惟の姿に気がついたのだろう。彼らの顔も間違いなく真っ赤になっている。


そんなことをボンヤリと考えていた亜紀は、惟に群がるように寄ってくる店員に弾き飛ばされていた。このことに、惟の顔色が一気に険しくなっていく。




「ずい分と行儀の悪い面々を揃えたものだね。南原(ナンバラ)は何してるの?」




その声は、それまで亜紀や由紀子に向けていたものとはまるで違う。そのことに気がついた亜紀はマジマジと惟の顔をみつめている。その時、店の奥から慌ただしく出てきた女性。ファエロアのデザインを着こなしたその相手に向けて、惟はますます冷たい声をかけていく。




「南原、君のことを見損なっていたのかな? きちんと教育できていると思っていたんだけどね」



「誠に申し訳ございません。ただいま、奥にご案内いたします。もう少々、お待ちいただけますでしょうか」



「そんなことする必要ないよ。それより、アンジーがいるでしょう? 会えるよね」



「は、はい……アンジー様は工房にいらっしゃいます。こちらにお呼びいたしましょうか? あちらはただ今、取り込んでおりまして……」




惟に南原と呼ばれた相手は、どこか必死になって彼の言葉に応えている。その顔がどことなく赤くなっていることも間違いない。そして、彼女は亜紀や由紀子のことは完全に無視している。その事実に気がついた時、惟は先ほどよりも冷たい声を彼女にぶつけていた。




「南原、君は礼儀というものをどこかにおいてきたようだね。さっきから見ているけど、僕の連れに対して、言うべきことがあるんじゃないの? 君のお行儀の悪い部下たちに、ないがしろにされていたんだけどね」



「た、惟さん……そんな風に言わないで。私と由紀子だったら気にしてないし……それより、お話があるみたいだし、お店の中、見ていてもいい?」




今、この場にはいたくない。それが亜紀と由紀子の本心であるのは間違いない。事実、由紀子も亜紀の言葉にコクコクと頷いている。そんな二人に惟が先ほどまでとは違う柔らかい笑みを浮かべていた。




「亜紀ちゃんが気にすることはないの。僕が連れてきているんだから。それに、亜紀ちゃんに会わせたい人もいるからね」



「あ、あの……惟様、そちらの方は?」



「南原に教える必要ある? 教えなくても分かると思うんだけどね。それより、アンジーに会うから、奥のオフィスにコーヒー持ってきて」



「私がですか?」



「聞こえなかった? 君が、南原が、持ってくるの。当然、ここにいるお姫様たちの分もだよ。さ、亜紀ちゃんこっちだよ。由紀子ちゃんもおいで」




そう言うと、惟は亜紀たちを連れて、店の奥に入っていこうとする。そんな彼に「私はお茶汲みじゃありません!」と叫ぶ声。それを耳にした彼は、冷ややかとしか表現できない顔をする。




「南原、僕の言ったこと聞こえなかった? できるだけ早く持ってきて。ただし、手抜きは許さないよ」




そう告げる惟の姿は、それまで亜紀に見せていたものとはまるで違う。そのことを感じたのだろう。彼女は彼の顔を見上げるようにして「惟さん?」と呼びかけている。


その声に対して返ってくる表情は、先ほどまでとは違う甘くて柔らかいもの。こんなにいろいろな表情を見せられると戸惑ってしまう。そう言いたげに、彼女の顔が伏せられている。そんな亜紀にかけられるのは、蕩けそうなほど甘い声。




「亜紀ちゃん、どうかした? どこか具合でも悪いの?」



「そ、そんなこと、ありません……」



「よかった。あ、由紀子ちゃん、そっちの扉は開けないで。信用してないわけじゃないけど、そこには入れる人を選んでいるから」




由紀子が好奇心のままにあちこちの扉を開けようとしている。そのことに気がついた惟が笑いながら止めている。もっとも、その表情の奥にある黒いものを感じたのだろう。由紀子は軽く身震いをしながら、彼の言葉に頷いている。


そんな彼女に「物分かりのいい子って感じがいいよね」と笑う惟。そんな彼の姿に、亜紀はどこか複雑な表情を浮かべている。その姿に由紀子はピンとくるものがあったのだろう。亜紀のそばにスッと近付くと、「妬かないの」とだけ告げている。


◆読んでいただいてありがとうございます!




もし、少しでも【面白かった】【続きが気になる】などと思っていただけましたら




↓にある広告下の【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】をタップまたはクリックして【評価】をしていただけると嬉しいです!


もちろん、合わなかったという方も【☆☆☆☆★】とか【☆☆☆★★】とかゲーム感覚で採点していただければなーっと(^_^;)




評価やブックマークは本当に力になります!


今後のモチベーションにも関わりますので、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ