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〔4〕

「ねえ、亜紀。惟さん、あんたが婚約拒否った時、その契約云々以外に何か言ってた?」



「そういえば、婚約とか考えずに付き合って、とは言われた。うん、結婚を前提にした付き合いとも言われたっけ」




彼女のその答えを耳にした瞬間、由紀子の雷が落ちた。




「亜紀、あんた、それを聞いても分からないの? 恋愛経験ない無自覚の鈍感だとは思ってたけど、最悪じゃない」



「だから、どうしてよ」



「あのね。パートナーとしてビジネスライクな結びつきでもいいと思ってるのなら、あんたの意思なんて関係なしに話を進めてるでしょう? だって、さっきの話じゃあんたのお父さんが乗り気なんでしょう?」



「う、うん……惟さんもお父さんからこの話を打診されたって言ってた」



「でしょう? じゃあ、ビジネスとして考えるなら、あんたの気持ちは二の次でしょう? あんたが今いる家って、ドラマに出てくるような大層な家じゃない」




半ば強引に亜紀と引き離されてからの時間で、一條という家のことを調べたのだろう。由紀子は確信したような口調でそう告げている。それに対して、当事者ともいえる亜紀がどこかオロオロした雰囲気。そのことにまたため息を一つついた由紀子は、亜紀の頭をコツンと突く。




「こういうのって、当事者よりも外から見ている方が分かるっていうのもあるんだと思う。とにかく、惟さんは亜紀のことが本気で好きなんでしょうね。結婚前提にして付き合いたいっていうあたりから、そのこと分かって上げなさいよ」



「でも、惟さんって私よりもかなり年上よ。多分、お兄ちゃんよりも上だと思う」



「いいじゃない、年の差って。そういえば、あんたとお兄さんって10歳ほど離れてたわよね。それよりも上ってことは完全に大人よね。そんないい男に溺愛されるってある意味で理想じゃないの? 同級生と恋愛するより、よっぽど刺激的で甘い時間過ごせると思うし」



「どうして、そんな話になるのよ~」




由紀子の飽くなき妄想はとどまるところを知らない。そんなことを思い知らされた亜紀は、そう呟くことしかできない。たしか、今日は自分が彼女に思いっきり愚痴をこぼしたかったはずだ。だというのに、話の方向性はまるっきり違うものになっている。


いや、たしかに話題の中に惟がいることは間違いない。だが、由紀子の中では彼が亜紀に恋愛感情をもっているという認識になっている。これは認識のズレという問題ではない。そう思いたい亜紀だが、己の世界に浸りかかっている由紀子には言うだけムダということも感じている。




「ねえ、由紀子。あなたはどうして、惟さんが私のことを好きなんだって思うの? 私の話も聞いてくれたんでしょう? それでも、そんなこと言うの?」



「言うわよ。だって、さっきあんたが教えてもらってた携帯番号。あれってプライベートだって言ってたじゃない。あの人が社会人なのは当然だろうし、だとしたら仕事用と個人用の両方持っていたっておかしくないわよね。で、ここで私から質問。そういう人が誰かに番号教える時って、個人用の番号を教えると思う?」




由紀子のその問いかけに亜紀はちょっと小首を傾げると「思わない」と呟く。その返事に満面の笑みを浮かべた由紀子は亜紀の鼻先をチョンと突いていた。




「あ、そのあたりはちゃんと分かってるんだ。じゃあ、あんたがプライベートの番号を教えてもらったっていうことの意味も分かるでしょう?」



「分かるわよ。だから、さっきも断ろうとしたんじゃない」



「だったわよね。あの時のあんたって、横からみても分かるくらい焦りまくってたもん。もっとも、あの人もそのことに気がついてたとは思うわよ。あっさりと拒否してたしね」




その声に亜紀は思わずうなり声をあげると、頭を抱えてしまっている。そんな彼女を見ている由紀子には、この事態を楽しんでいる表情しかみることができない。どうやら、その気配を感じることはできたのだろう。ガバっと頭を上げた亜紀の顔には、怒っています、という色しかない。




「由紀子、絶対に楽しんでいるんでしょう」



「そんなことないわよ。幼なじみがあんなイケメンに溺愛されているって知って、喜んでるだけ」



「そこって喜ぶとこ?」



「私としてはそうよね。ほら、亜紀って美人さんなのに、今まで男っ気がなかったでしょう? 勿体ないって思ってたのよね。でも、あんないい男がつくんなら、問題ないって」




友人のそんな言葉に、亜紀は返す言葉がみつからない。そんな彼女の背中を軽く叩いた由紀子は、話を続けていた。




「ねえ、亜紀。頭っから拒否するっていうのもあんたらしくないじゃない」



「由紀子はそう言うけど……」



「ま、あんたの気持ちが分からない訳じゃないけどね。高校入る前と今じゃ、あんたの環境って信じられないくらい変わってるし。うん、幼なじみのあんたが一條コーポレーションなんて化け物企業のお嬢様だ、なんてこと普通じゃ考えられないもん」




由紀子のその声に亜紀も「そうよね〜」と切り返す。そんな彼女に由紀子はビシッと指をさす。その姿に、思わず背筋をピンと伸ばす亜紀。それを見た由紀子は唇をニンマリと上げると、楽しそうな調子で言葉を紡ぐ。




「だからね。せっかくだし、あのイケメンのこと、いろいろと教えてもらいなさい」



「だから、どうしてそうなるのよ!」



「そうなるわよ。だって、あんたがどう思っていようとも話は進みそうじゃない。惟さんはパートナーとして契約しようとまでいってるんでしょう? だったら、あんたに逃げ道はないって」




その事態は亜紀もうすうす感じていたのだろう。ガックリと肩を落としながら「そうなのよね」と呟いている。そんな彼女に由紀子は追い打ちをかけるように話しかける。




「でしょう? じゃあ、その惟さんが何をしているのかってあんたは知ってるの?」




由紀子の問いかけに、亜紀は間髪をいれずに「知らない」と応える。その姿に、呆れたような調子で由紀子の声が被さる。




「じゃあ、知っていかなきゃ。あちらはあんたのことを知ってるだろうけど、あんたはそうじゃない。それって失礼だし、困ることでしょう? 仮にもパートナーとなるなら、それくらいは知っておかなきゃ」



「それはそうかもしれないけど……」



「だったら、善は急げってね。いろいろ教えてもらって、それであんた自身も気持ちが変わってくるだろうし。今は頭っから拒否してるけど、ひょっとしたら恋愛感情も生まれてくるかもよ?」



「ねえ、由紀子。私が困ってるの分かってるのに、楽しんでいるでしょう」



「そんなことないわよ。亜紀がちゃんと恋愛できるように協力してあげてるんじゃない。それに、あの人だったら間違いないと思うんだけどな」




由紀子のそんな声に、亜紀は膨れたような表情で横を向く。友人のその反応は分かっていたことなのか、由紀子が気にする様子もない。それどころか、彼女は扉を開けて出て行こうとする。




「由紀子、どうかしたの?」



「多分、外で待ってくれてるんじゃない? 私も惟さんがどんな仕事してるのか興味あるし、一緒にききたいなって思って」



「由紀子、勝手に決めないで。それに、惟さんにだって都合があるだろうし」



「いいじゃない。こういうことって、気になった時に解決するのが一番なのよ」



「それって、由紀子が気になるからでしょう? 私は関係ないもん」




とはいっても、由紀子が扉を開けたことに間違いはない。そして、そのせいで亜紀の声が外に流れていく。それを耳にしたのだろう。惟がゆっくりと二人のそばに近づいてきていた。




「亜紀ちゃん、話は終わったの?」



「あ……は、はい……」




あの状況で終わったと言えるのだろうか。そんな疑問が亜紀の中には生まれている。しかし、ここで反論すると説明がややこしい。そう思った彼女は曖昧に頷くことしかできない。そんな彼女に、惟は穏やかに微笑みかけている。


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