プロローグ
グスッ、グスッ――
誰かが泣いている気配がその場には漂っている。だが、人の背丈ほどもあるようなバラのアーチが邪魔をして、姿をみつけることはできない。それでも、間違いなく泣いている誰かがいる。
グスッ、グスッ――
感情を押し殺すことがそろそろ限界に達しているのだろう。しゃくりあげるような声も混じり始めている。
その時、フワリと風が動く。そこに運ばれるのは、バラの甘い香り。それと同時にアーチが揺らされ、泣いていた人物の影が露わになる。
そこにいたのは、まだ幼い少女。だが、彼女が着ているものは幼い少女には不似合いにもみえる黒いワンピース。そして、髪につけられているリボンも黒い。彼女は、葬儀の場にいたのだろう。そして、それを裏付けるかのように彼女は目を真っ赤に泣き腫らしている。
「ぱぱ……まま……どうして、いなくなったの?」
少女はグスグスと鼻を鳴らしながら地面にうずくまっている。そんな中、ポケットから取り出されているハンカチも黒い。それを目に押し当て、チーンと鼻をかみながら、彼女は泣くことを止めようとはしていない。
「ぱぱ……まま……」
少女には受け入れることのできない現実。だからこそ、彼女は人にみつからないような場所で泣いている。フワリと動いた風がバラの花びらを散らし、少女の肩に舞い落ちる。そのことにも気がついていないのか、少女は嗚咽の声を押し殺している。
「あいたいよ……ぱぱとままにあいたいよ……」
人前で泣くことを辛抱していたのだろう。誰もいないこの場所で彼女は涙を流し続けている。その時、彼女のそばに近づく気配。その気配の主は躊躇うことなく、少女をギュッと抱きしめていた。
「やっぱり、ここにいたんだ。探したよ」
「ふ、ふぇ……」
突然、かけられた声に少女は驚いたような表情を浮かべている。そんな彼女の体をもう一度ギュッと抱きしめた相手。少年ともいえる相手はそのままの姿勢で少女に優しく声をかけていく。
「泣いていいんだよ。泣くことを辛抱しなくてもいいんだよ」
「でも……」
「こんなに小さいのに辛抱しなくてもいいの。泣きやむまでいてあげるから。だから、思いっきり泣けばいいんだよ。それに、泣かないと壊れちゃうからね」
そう言うなり、少年は少女の頭をポンポンと叩いている。どこか愛情深いその仕草に彼女の涙腺は完全に崩壊してしまったのだろう。しゃくりあげていた声が一気に大きくなると、相手の胸に顔をうずめている。
「ひぃっく……ひぃっく……ぱぱ……まま……」
少女の盛大な泣き声が止むことはない。そんな彼女の背中を優しくトントンと叩いている少年。その目に浮かんでいるのは愛おしげともいえそうな光。それにも気がつかないのか少女はいつまでも泣いているだけだった……
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