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帰って来た播州公書記  作者: 神前成潔
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ホナミのマホウ

「……畏まりました、然らばこの案件はきちんと殿の方には伝えておきまする。して、問題の巫女としての修行先で御座いますが……」

「はい」

「姫がどの技能を伸ばしたいかによっていずこに修行に向かうか異なります。例えば、いくさの能力を鍛えるのならば八幡宮や諏訪大社、剣術に能力を付与する場合は熱田神宮などといったことになります」

  あー、そういうこと。だったら、想定している神社の場合は縁結びか?よほどこじつけなきゃ役には立たないような……。とりあえず、伊勢神宮の場合聞いてみましょうか。

「すると、伊勢神宮にいった場合は?」

「おおむね、全体的な能力をある程度底上げすることになります。しかし、あまり多くは期待できないでしょうな」

  うん?伊勢神宮って天照大御神だから、それなりに期待してたんだけど。

「なんで。皇族じゃないから?」

  子孫以外には能力あげないよーん、的なアレだったとしたら、太陽神と矛盾するような気もするが、確かそもそも垣屋家は平家だから、強弁すれば皇族と言えんことも……ごめん、さすがにそれは強弁だ。

「いえ、伊勢神宮の主神は天照大御神にございますが、天照大御神を知らぬ者が果たして本朝にいらっしゃるとお思いで?」

  割と強い口調で否定する斎藤さん。そりゃまあ、そうだよね。いかに皇族の権威が薄れたといえど、お伊勢参りとかはよく行われている以上、天照大御神の信者=日本国民みたいなもんだし、某東方流れの神様たちと違ってお高く留まっていても支障はない、と。

「……ああ、なるほど。でも、それだったら無名すぎる神の場合は……」

「はい、その場合は逆の意味でご利益が期待できませぬ」

  これ、どういう意味かというと、神の力は基本的に信者の数で決まるというのは古典派の意見ではあるのだけど、だいたい数式で書くと神の力=神そのものの力×信者の数×その信者の信心の深さが古典派がいうところの基本方程式なんだけど、一神教とかいう面倒くさいものが流行りだしたことによってある程度方程式に修正を加える必要が出てきているわけで。

「……したら、ちょっと考えさせてね……」

「ご随意に」

  ……つったって、もう修行先は決めてある。あくまでも、たとえどんなに輪廻転生を流転したとしても、俺にとって聖書ってのはあるシリーズしか存在しない。そして、ヒロインと同じ名前の神様、それは……。



  そして、考えるふりをして呟いてみた。

「……白山」

「は?」

「白山菊理媛なんて、どうかな」

  白山菊理媛。それが、答えだ。普通に読んでしまう場合、「ハクザンキクリヒメ」と読んでしまいがちだが、これは「シラヤマククリヒメ」と読むのだ。ククリ。それは、聖書のヒロインと同一視しうる、それだけと言われても十全に、俺にとっては信心に値する理由である。それは、勝利の神であるサモトラケのニケもまた、同様に。

「おお、よきところに目を付けましたな。確かに、加賀一向一揆によって信心が低下している現状、信者にあえいでおるはずです。しかし……」

  何か、悪い都合でもあるのか押し黙る斎藤さん。まあ確かに北陸地方は但馬に比べて、決して近いとは言い難いし、そもそも北陸地方である以上、寒かろう。

「……まあ、遠いですし、寒いでしょうね」

「いえ、そのあたりはどうとでもなり申す。……白山菊理媛が、何と一緒に祭られておるかはご存じですか」

「……いや、全然」

  ? どうにでもなるのか? ……てーか、白山菊理媛って単独で祭られてんじゃないのか。え? やっぱマイナーだからか?いや、だが、うーん。

「竜神、瀬織津姫にございます。……となると、少々厄介ですな……」

  ほう、竜神。そいつぁ僥倖。龍つったら王朝の代名詞でもあるし、それだったら菊理媛だけでなくそっちも同時に取れそうか。しかし、なんで厄介なんだ?力使いこなせないとか?

「何が?」

「……竜神の常として、術の行使とともに蛇のごとき肉体になるのです」

「え゛っ」

  えっ、えー……。蛇娘(いわゆる「人頭蛇娘」、わかりやすく書くと人面蛇美少女版)とか萌え対象ではあるけど、さすがに、うーむ。……ああ、だから「厄介」なんか。

「まあさすがに、手足がなくなったりするわけではございませぬが、竜神に関連する術を行使する巫女は割と一発で分かります。……何せ、術を行使する際に首が蛇のごとく延びるわけですから」

「ああ、そういうこと」

  あ、なーんだ。そういうことか。だったらいいや、別に。要するに、術を行使する際にろくろ首状態になるんだろ?じゃあいいじゃん。だってろくろ首とか、だいぶ前から性癖としてねじくれちゃったし。

「……菊理媛の表の術だけならば、そう問題はありませぬが……」

「決めました」

  なーるべく、リスクを受け入れるという恰好で受け止めよう。「はいよろこんでー!」だったらナメられる。

「は?」

「その程度ならば、甘んじて受け入れます」

  三つ指ついて頷いてみた。どうだ萌えるだろう。

「正気ですか!?」

  ……って、斎藤さん、萌えるどころか動揺してる。上司の娘だから萌えるわけにもいかんってか。

「首が延びるのでしょう? それを我慢するだけで竜神の術を使えるのであれば、やむを得ない代償だと思いますが」

  だってさ、ろくろ首とか、しかも萌え萌えしい容姿の美少女で(いや、美幼女か)そうなるとか、ぶっちゃけ大好物のオカズです。

「し、しかし……」

  なおも戸惑う斎藤さん。……まあ、リスク面で何を危惧しているかはわかるよ、わかるとも。この時代「それ」は実在すると思われているうえに、この世界ではおそらくそれは実在する可能性があるし。

「妖怪変化と間違われますか?」

  まあ、つまり、そーいうこったろ?妖怪変化側のろくろ首と間違われるか、あるいは竜神に飲まれた場合ろくろ首になってしまう可能性は高い。だが、むしろバッチコイである。妖怪になった場合、おそらく長久命になるだろうし、それを差っ引いたとしてもまあ、不老不死が呪いだとしても不老長寿は祝いだしな。

「それもございます! それもございます、が……」

「……ああもう、煮え切りませんね」

  それ以外のリスク、あるとしたら一応聞いておかねば。想定外だと嘆くのは勘弁して欲しいしな。

「……首が延びるだけならまだよろしいのですが……」

「ですが?」

「……最悪の場合、結果的に実家との勘当という想定も考えられまする」

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