社と術と修行と祝われし姫君
なんともやれやれ。
「どうせ大殿の交渉道具になるのでしょうけども、事前に嫁ぎ先くらい教えてくれますね?」
「は、そのことで御座いますが……」
「?」
急に言い淀む眼前の家臣。名は確か……斎藤又三郎とか言ったか。本来なら本家の家臣だろう、とか思ったけど、家臣が出向に出されるのはよくあることだよね。
「……姫には、今のうちに巫女になって頂きます」
「はい?」
又三郎さんの言うことにゃ、どうやら俺には非常に色濃い魔法の才能があるらしく、本来ならば姫武者として使いたい程であるが、さすがに姫武者として登用したとしても使い所が難しいため、ひとまずは巫女として神通力の修行に送り込む、とのことである。……まあ、幸いにして処女なのは間違いないし、神通力の修行であるのならば遊女まがいのことをする必要は無いだろう。
「ああ、そう。そういうこと」
「一生ではないとはいえ、女としての悦びを知らぬまま青春とも言える年を重ねさせることになって申し訳ない、と大殿様も仰っておりました。苦慮の末では御座いますが……何卒、お引き受け下さいますか?」
「それならば、構いませんよ?」
むしろ、男に抱かれなくて済むんだろ? ラッキーじゃん。
「まことにございますか!?」
「つまるところ、どこかの神社のお抱えになって数年過ごすのでしょう? それくらいであれば、甘んじて受け入れますが」
「おお! ……そう仰って頂き、この斎藤、感謝に堪えませぬ」
深々と頭を下げる又三郎さん。と、ここでいいことを思いつく。そうだよね、こっちだけにお願いするのは今後の駆け引きを考えれば拙いよね。……それに、様々な案件を片付けるいいチャンスかもしれんし。
「その代わり、と言っては何ですが……」
「は、此度の案件に頷いて頂いた以上、何なりとお申し付け下さいませ」
又三郎さんは頭を下げたまま、此方を見ずにいる。うんうん、どうやらやはり立場は俺の方が上のようだ。
「そうですか。それじゃ、いろいろワガママ言っちゃいましょうかね……」
俺が言った「ワガママ」の内容は、また後で話すとして、又三郎さんの顔が妙な表情になっていたのは見ていて面白かった。確かに、「ワガママ」とは言ったが、まあその辺りは後程、ね。