表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一瞬  作者: 芽衣
1/1

一瞬

「けい!夏合宿のメンバーに入れといたから。」

大学のコンビニで通りすがりにスキースノーボードサークルの冬香に声を掛けられた。ドイツ留学から帰国したばかりだった私は、夏合宿に対するモチベーションが低かった。だが、3年生の私は執行代だ。ドイツ留学に行っていた為、まともに新入生歓迎会にも参加しておらず、飲み会にも参加していなかった私は、同じ代のサークルのメンバーに合わせる顔が無かった。私達のサークル「カホス」は都内の某有名大学と女子大で構成された、どこにでもあるインカレサークルである。スキースノーボードサークルの為、冬がメインの活動になるが、夏も執行代である3年生が後輩を引っ張っていく必要があった。

「わかった。多分行く。」

1年生のときから欠かさず合宿に参加していたのにもかかわらず、夏合宿だけは参加する意欲が低いのだ。そもそも、スキースノーボードサークルに夏合宿は必要なのだろうか。そんな風に考えてしまう私は、もちろん飲み会の盛り上げ役ってタイプでも無ければ、冬香のようにリーダーシップをとれるようなタイプでも無い。私は夏合宿に必要なのだろうか。そんなことを考えながら、コンビニで購入したチョコレートを片手に、毎週の礼拝をしに協会へ向かう。


ーーーーー夏合宿当日


自慢の栗色の髪の毛と白い肌をさすような太陽の日差しの中、私たちは千葉県のレンタル体育館で班対抗運動会をしている。バレーボールもバスケットボールもドッジボールもただただ暑かった。最後の種目はリレーである。走ることには少し自信があったため、全力で走ってみた。私のことをアッカンベーってしながら走りぬく男が一人。汗を流しながら必死に走る姿が光っていた。眩しかった。

「意外と足速いね」

そう言う彼の名は、よう。1つ学年が下の2年生である。お酒癖、ギャンブル、煙草と悪評ばかり聞いていたが、わたしには悪い人には見えなかった。結局、運動会は私の班は負けてしまったけど、面白い男を見つけたな、と心の中が少し高揚した。そんなこともつかの間、執行代である私たち3年生は体育館の後片付けで大忙し。のんびりしている2年生の男が視界に映った。

「片づけて。」

ように言ってみた。かったるそうに空き缶を拾い始めた。ほら、悪い男じゃない。


執行代の仕事は予想以上にたくさんあった。食事会場の準備、レクリエーションの準備、宴会の準備、旅館の方々との打ち合わせ、せわしなく時間が過ぎていった。やっと落ち着けたのは、夜の22時が過ぎて宴会が盛り上がってきた頃。

「酒飲んでますか」

ようのこのいたずらな一言で宴会ゲームが始まった。炙りカルビゲーム、山手線ゲーム…。疲れるまでゲームで遊び倒した。たくさん飲んで笑って楽しかった。旅館のロビーで寝てる人、宴会会場で寝てる人、トイレで寝てる人、暴れてる人、久しぶりの光景でとても楽しかった。

ドンッ

鈍い音がした。音がする方に駆け寄ってみると、10cmほどの穴が壁に開いていた。

「けいちゃんの代の人達にバラしたら連帯責任だから。」

ようが面白そうにつぶやいた。

「なんで」

「なんででも」

わたしは執行代である。後輩のミスは直ちに連絡しなければならない。

だけど、なんとなくそうしてみたかった。秘密にしてみたいという気持ちを抱いた。その場をそっと離れる私の行動が、私の気持ちを反映していた。缶ビール片手に冬香やぽみ子がいる場所へ戻り、再びお酒を飲み始める。つい、居心地が良く飲みすぎてしまい、気付いた時には夢の中。

「酔っぱらってるんですか。」

ようの一言で夢から覚める。

「風邪ひきますよ。」

優しい声が響く。半分寝ぼけたままようを見つめていた。すると、身体が宙に浮いた。無言でようが体重40キロのわたしを持ち上げた。恥ずかしさと心地よさで一杯だった。階段の軋む音が聞こえた。数秒後、荷物が散乱する3女部屋が目にうつる。

「3女部屋きたねえ」

つぶやくようの声とともに、敷布団の上に降ろされた。心の中で、忙しくて片づける暇が無かったのだと自分に言い聞かせる。暖かい羽根布団をかぶされる。ふいに「おやすみ」と声が出た。

「おやすみ~」

陽気な声にのせられたぬくもりが好きになった。きっと、誰にでも優しいたくさんいる男の中の一人。そうに違いない。高まる気持ちを抑えながら、眠りについた。


翌朝、きちんと3女の部屋で寝ていることに安心した。朝食をとり、観光バスに乗り込む。なんだかんだ楽しい合宿だったなと振り返る。代の皆には会えるけど、ようには会えなくなってしまうなと少し寂しい気持ちを覚えた。渋谷に観光バスが到着したのは夜の7時頃。飲みにでも誘おうかと迷ったが、柄にもないなと止めてしまう私は彼氏いない歴=年齢である。結局、臆病者の私は連絡先も聞けないまま帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ