第19話 強き思いが悪しきを挫く
「――――!」
声を発することなく斬りかかる宝石騎士団・青耀剣魔騎士たち。
彼らの持つ青い宝石剣の切れ味は鋭く、頑強なバグベアたちの肉を容易く引き裂いた。
バグベアたちも負けじと反撃するが、宝石騎士団たちの宝石鎧は硬く、簡単には倒すことが出来なかった。
「押せ! こんなチビに負けてたまるかッ!」
その巨体を活かし、宝石騎士団を押しつぶそうとする。
しかし宝石騎士団の力は強く、バグベアの怪力に負けていなかった。
「この小さな体のどこにそんな力が……ッ!?」
じりじりと押し返されるバグベアたち。宝石騎士団の想像以上の力に彼らの顔に焦りが生まれる。
その力の源は彼らの核となる魔宝石にある。
かつて戦い命を落とした宝石騎士、その想いが残された魔宝石にアルデウスは目をつけた。
仮初のものと言えど、再び生を受け故郷と仲間を守る機会を得た彼らの力は、強い。
「――――!!」
煌めく剣閃が走り、バグベアたちは次々と斬り伏せられていく。
その様を見て彼らの族長ムハンバは顔を醜く歪める。
「あ、アりえないィ……我らがあんな石ころ共にやられるなど……!」
「そろそろ負けを認めたらどうだ? 外ももうすぐ制圧されている頃合いだ。お前らに勝ち目はない」
アルデウスはムハンバに近づきながら降伏を促す。
しかし彼はその言葉に耳を貸すことはなかった。
「ナめるなよ魔族風情が、まだ我らには神の御業が残っている……!」
再び転移門を起動するムハンバ。
彼の後方に現れたそれは、先程のものよりずっと大きな物だった。
そしてそこから現れた者もまた、巨大であった。
「ルル……!」
「ロロロ……ッ」
現れたのは二体のホブ・バグベア。
知性を失った代わりに巨体と怪力を手に入れた最凶の怪物だ。
その二体が、凶悪な眼でアルデウスのことを睨んでいた。
「ヤれ! あの魔族を喰い殺せッ!」
族長の命に従い駆け出す二体のホブ・バグベア。
その大きな手で握られれば小柄なアルデウスなどすぐに潰れてしまうだろう。
しかしそんな危機的状況にあっても彼は少しも慌てていなかった。
「力を貸してもらうぞ、マーカス」
そう言って取り出したのは、サファイアが埋め込まれた金の指輪。
アルデウスはそれを指に嵌め込むと、魔力を流しその内に込められた力を解き放つ。
「術式発動、宝石騎士・黄金宮蟹」
瞬間、指輪は眩い光を放つ。
そしてその光とともに現れたのは、黄金の甲殻を持った巨大な蟹であった。
その蟹は黄金のハサミを振りかざすと、巨体に似合わぬ速度でそれを振り抜き、ホブ・バグベアの一体を吹き飛ばしてしまう。
「な、ナニィ!?」
その規格外の速度と力にムハンバは驚愕し大きく口を開ける。
その間にも黄金の蟹はその鋭いハサミを相手の体に突き刺し、戦闘不能に追い込んでいた。
「何なのだあの蟹は……!?」
「あれは俺の友達から借りた力だ。そいつは自分が戦えない代わりに自分の分け身を俺に託してくれた」
父を戦争で亡くした蟹の少年マーカス。
力になりたかった彼は、何よりも大事なその分け身をためらうことなくアルデウスに託した。
想いが強ければ強いほど、魔宝石の力は強くなる。
マーカスがアルデウスに託した強い思いは、強力な魔法に変化したのだ。
「――――ッ!!」
鋭いハサミの先端がホブ・バグベアの腹部を貫く。
そしてそのまま持ち上げると……思い切り地面に叩きつける。
『ガァ……ッ!』
声にならない声を上げながら、ホブ・バグベアはその場に力なく倒れる。
それほどまでに黄金宮蟹の力は凄まじかった。
「ば、馬鹿な……!?」
次々とやられていく味方を見て、ムハンバは後退りする。
なぜだ、ありえない。計画は完璧だったのに――――と。
「き、貴様のせいだ! 貴様さえいなければ……!」
怒りに満ちた眼でアルデウスをにらみつける。
しかし当の彼はまったくそれを意に介していなかった。
「くく、俺はあくまで手助けしただけさ。お前らはこの国に負けたんだよ。お前らが弱いと見下していた魔宝石獣にな」
「黙れ! 我らがあんな奴らに負けるわけがないのだッ!」
手にした棍棒を振り上げ、アルデウスめがけ振り下ろそうとする。
しかしそれよりも速くアルデウスは術式を完成させる。
「術式発動、天舞う光剣」
現れた五本の光剣がムハンバの体に突き刺さる。
突然の攻撃に怯む彼に、アルデウスはとどめの一撃を加えんと魔法を放つ。
「この戦いも長引きすぎた、終わりにするぞ。氷結Ver5.00」
かざした手の先から放たれた氷点下の吹雪。それは一瞬でムハンバの肉体を凍らせ、動きを止めてしまう。
範囲こそ広くないがその効果は絶大、意識が残っていたムハンバは体を動かそうとするが……動かそうとした場所にヒビが入り体が崩れてしまう。
「女神……ざま……」
そう言い残し、彼の体は完全に崩れ去る。
アルデウスは彼の体から落ちた転移門の起動装置を拾い、呟く。
「こんな所でもお前の名前を聞くなんてな。つくづく俺とお前は縁が深いみたいだな」
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なんと本作がカクヨムweb小説コンテストにて「CW漫画賞」を受賞し、漫画化することが決まりました!
詳細は追ってご連絡いたしますので、ぜひお楽しみに!
 




