第16話 ホブ・バグベア
バグベアの変異種「ホブ・バグベア」。
背丈は五メートルを超し、全身を鋼の筋肉で覆っている生まれながらの狂戦士だ。
とある者の力によって生み出されたその怪物は、仲間であるはずのバグベアを掴み、宝石都市に向かって投げていた。
ただ物を投げるという行為だが、ホブ・バグベアの腕力が合わさるとそれは『投石機以上の威力』を持つ。頑丈な宝石都市の建物には穴が開き、しかも弾となっていたバグベアたちが都市内で暴れ出す。
もちろん投げられたバグベアも体にダメージを負い、中には衝撃で死んでしまう者もいたが、彼らは気にしていなかった。
――――死ぬことは怖くない。奪われる側に戻ることに比べれば。
「……ツイたか」
バグベア族長ムハンバは、宝石都市の中で呟く。
リーダーである彼もまた、他の者たちに紛れ都市の中に入り込んでいたのだ。
「ウゴける者はいるか! コレより王宮に攻め込む、勇ある者はついてこい!」
族長の呼びかけに応じ、数人のバグベアが彼のもとにやってくる。
着弾の衝撃で傷を負っている者もいるが、その目の闘志は少しも薄れていない。
「カン謝するぞ。ワガ勇敢な戦士たちよ」
彼らは武器を握り、王宮へ一直線に向かっていく。その道中で何人か魔宝石族に遭遇するが、障害にはならない。
邪魔をするなら切り捨て、逃げるなら放っておく。彼らの目標は王宮に座する人物ただ一人なのだから。
「……ヨウやく辿り着いた」
招かれざる客人たちは、ズカズカと王宮の中に足を踏み入れる。
その先で待ち構えるように座っていたのは宝石都市の女王マリィ・ゴールド。彼女は突然の乱入にも関わらず、冷静にバグベアたちを迎え入れた。
「……存外早かったな。私に何か用か? バグベアの長よ」
「フン。白々しい真似を。ワレらは奪いに来たのだよ、貴様らにとって最も大事なものをな」
「大事なもの、だと? であるならばもう十分奪ったはずだ。この都市に住まう住民ひとりひとりがこの都市の何よりの宝。これ以上我らから何を奪うつもりだ!」
怒気を孕ませ、女王マリィは大声を出す。
普段冷静な彼女の見たことのない表情に、近くで控えている近衛兵たちは驚く。
一方ムハンバはそんな彼女の咆哮を「ふん」と鼻で笑って一蹴する。
「イシ獣どもの命などどうでもいい。ワレらが欲するは力、それ即ち……」
ムハンバは真上を指差し、言い放つ。
「コノ都市の太陽。ソレを頂きに来た」
近衛兵たちはムハンバの言葉に首を傾げる。
太陽を奪うとは一体どういうことだ? と。
しかしそんな中マリィはただ一人額に汗を浮かべ、絶句していた。
「……どこでそれを知った」
「ガハハ、我らを侮っていたな。タシかに我らは武のみで智力に劣る種族であった。ダガ今の我らにはあのお方がいる! ニドと何者にも我らは脅かされない!」
マリィは内心焦る。
それほどまでにムハンバの口にしたことは『禁忌』なのだ。
「いかに貴様がそれを知っていようと、ここで倒せば全て丸く収まる。生きて帰れると思うなよ」
マリィは玉座から立ち上がると、大きな宝石のついた杖を構える。女王でありながら彼女は優れた魔法使いでもあった。
しかしそれを見てもムハンバの笑みは崩れなかった。
「アマり無理するな、『分け身』もないのだから」
「……っ! 近衛兵たちよ、侵入者を排除せよ!」
女王はそう命じると同時に、魔法の矢を発射する。
それが開戦の合図となり、王宮の中での戦闘が幕を開けるのだった。
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