第10話 蟹座の少年
「そこだ! やれ!」
「はい! うおおおおっ!」
俺の号令に元気よく返事をした宝石騎士の一人が、俺のお手製ゴーレムに斬りかかる。
青く輝くその剣はゴーレムの硬い体をいとも容易く両断し、切り伏せてしまう。
「うん、いい感じだな」
「ありがとうございますアルデウス殿! この剣、今までのそれとは切れ味が全然違います!」
興奮気味に語る騎士。嬉しそうで何よりだ。
俺が今いるのは宝石騎士の練兵場。
彼らの宝石剣に術式を施したのでその試し切りをさせていたのだが、これが中々上手くいった。
その切れ味は術式を施す前とは段違い。魔力を込めれば魔法攻撃力も上がるので、防御力の高いバグベアにも効果が高いはずだ。
「お前は氷の魔法が得意そうだから氷結効果も付けとくか。不用意に振ったら氷の刃が飛んでくから気をつけろよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
騎士たちは貴重な戦力なので、一人ひとり魔法適正を見極めて術式を付与していく。結構骨の折れる作業だけどこれも戦いに勝つため。俺は手を抜かずに百二十人ほどいる騎士全員の武器に術式を施した。
「つ、疲れた……」
「お疲れ様ですアルデウス殿! こちら冷たい水です!」
「あ! 俺肩を揉みますよ!」
「ご飯食べに行きましょう! 私奢るんで!」
それが終わる頃にはなぜかすっかり騎士たちに懐かれていた。
「ええいむさ苦しい! 野郎どもが引っ付くんじゃねえ! とっとと訓練に戻れ!」
鎧が当たって痛えんだよ!
シッシと追い払うと騎士たちはわざとらしくしょんぼりしながら訓練に戻っていく。元が動物だからか懐くとペットみたいだな。
見た目も動物の状態なら囲まれても微笑ましいが、人間状態だと言い寄られてるみたいでなんとも不気味だ。やめて欲しい。
そんなことを考えていると、練兵場にラビィが姿を見せる。
そして俺の姿を見つけるとこちらにトコトコと小さい足を動かしながら近づいてくる。
「ここにいましたのねアルさん。探しましたわ」
「おお、どうしたんだ?」
「実はアルさんにお会いしたいという方を連れてきましたの。お話を聞いて頂いてもよろしいですか?」
「ん? 別に構わないけど」
「ありがとうございます。ではお願い致します」
そう言って彼女は後ろについて来ていた一人……いや一匹を俺の前に出す。
それは一言で言えば『蟹』だった。体長は一メートルほどの蟹。普通の蟹と比べたら大きいけど、他の魔宝石族と比べたら小さいので子どもなんだと思う。
その蟹の甲殻は光り輝く『黄金』で出来ていて背中からは様々な色に輝く魔宝石が生えている。とても豪勢で金持ちが好きそうな見た目だ。
「初めましてアルデウス様。僕は宝石蟹のキノスって言います」
「お、おお。よろしく」
蟹に挨拶されるのは初めての経験だ。
動物って感じの魔宝石族には慣れたけど、甲殻類は初めてで戸惑うな。
「キノス君のお父上はとってもお強い騎士でしたのよ! きっとキノス君も強い騎士になりますわ!」
「へえ、じゃあここにいるのか?」
何気なくそう尋ねると、辺りに重い雰囲気が漂ってしまう。
これは何か地雷を踏んでしまったか? そう焦っているとキノスがゆっくり口を開く。
「……お父さんはこの前の戦いで命を落としました」
「……そうだったのか。つらい事を思い出させて悪かったな」
今戦える宝石騎士はバグベア侵攻前の半分以下だと言う。それだけ彼らはつらい戦いを強いられてきたのだ。
……なんとかしてやらないとな。
「だからえと……僕も力になりたいんです! まだ小さいから戦えないですけど、何かお役に立てませんか!?」
七色の泡をぶくぶくと立てながらキノスは俺に頭? を下げる。
どうやら本気みたいだな。
「といっても役に立つ方法なんてな…………あ、ひとつだけあるかもしれん」
「ほ、本当ですか!?」
「うーん、まあ、あるっちゃあるが。これは嫌かもなあ」
「聞かせて下さい! 僕なんでもします!」
そこまで言われちゃ断るわけにもいかない。
俺はキノスの耳元で思いついたことを話す。
「ごにょごにょ……」
「ふむふむ、なるほど……分かりました。それ、やってみます!」
「え。いいの?」
結構抵抗ありそうなことを提案したんだけど意外なことに即答OKを貰えた。
これがやれるとなると俺も嬉しいぞ。
「本当にいいんだな?」
「はい。どうせ負けたら死ぬんです。だったら後悔しない道を選びます。父さんのように」
そう語るキノスの目には強い決意の炎が燃えていた。
いいね、これだけ思いが強けりゃいいのが出来そうだな。
「それじゃあ早速取り掛かろう。俺は詳しくないから教えてくれると助かる」
「は、はい! 頑張ります!」
「何をしますの!? 私も仲間に入れて欲しいですわーっ!」
騒ぐラビィを無視し俺たちは作業に集中する。
決戦は明日。
俺の知識を総動員してぶっ飛ばしてやるぜ。




