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第13話 強制支配

 地響きを立てながら、ゴーレムは駆ける。

 二メートルを超える巨体。無機質な目。大きな体に見合わぬ速度。今までそれを使う側の立場であった勇者は初めてゴーレムに襲われるという経験をする。それは彼が想像する以上に『怖い』体験だった。


「く、そが……っ!」


 死んでも復活出来るので問題はない。

 しかし今ここで死ねば、謎の少年に女神より賜った貴重な能力をコピーされたままになってしまう。

 ――――もしそれが女神にバレたら。勇者は考えただけで恐ろしかった。


 女神に愛想を尽かされることは、勇者たちにとって何より恐ろしいことなのだ。


「お前だけは、死んでも殺す!」


 異能チート人形操作マリオネット』を発動。

 再びゴーレムを起動した勇者は、石の兵隊をアルデウスのもとに差し向ける。


「いいね。ゴーレム同士のバトルと行こうか」


 アルデウスと勇者。

 両者の間でゴーレム同士は激しくぶつかり合う。


「いけぇ! そんな裏切り物、ぶっ壊せえっ!」

「こう動かしたら、こう。こっちを動かしたら……こうか。うん、だいぶ操作が分かってきたぞ」


 アルデウスは短時間でゴーレムの操作をマスターしつつあった。

 そうなればゴーレム同士の戦いは拮抗する。お互いその剛腕で殴り合うが、ゴーレムの硬い体はそう簡単には砕けない。その太い腕では関節を狙うという行為も難しいため泥試合になりつつあった。


「さて、どうしたものか」


 アルデウスは頭を捻る。

 一番簡単なのはゴーレムの動きを止めて、別の術式でゴーレムを倒すこと。

 しかしそれでは次々と別のゴーレムが起動するだけで時間がかかってしまう。ただ殺すだけなのであれば隙をついてやれるが、勇者を倒すには術式を付与する時間を稼がなくてはいけない。

「……そうだ。あれならいけるか」


 あれこれと思案したアルデウスは一つの方法にたどり着く。

 成功するかは分からない博打だが、自分の腕なら出来る。そう思った。


「さて、ぶっつけ本番だ。上手くいってくれよ……!」


 集中。

 ゴーレムの体内に張り巡らされる魔力の糸。各部を動かすそれらを邪魔しないように新たな回路を作る。

 それらを体外に出し……相手のゴーレムに突き刺す(・・・・)


「ヒット」


 そしてその糸を敵ゴーレムの体内にスルスルと侵入させる。

 気付かれぬよう、慎重に、かつスピーディに。ゴーレムの中心部へと侵入したその糸は勇者の手から伸びている糸と接触する。


「くく、やはりセキュリティが甘い。これじゃあ入って来てくださいと言っているようなもんだ」


 悪い笑みを浮かべながらアルデウスは最後の仕上げにかかる。

 自分の糸と相手の糸の魔力波長を同期。そして相手ゴーレムの体に張り巡らされた回路を全て掌握。


「最後の仕上げに奴の糸を切り落とせば……と」


 アルデウスが最後の工程を完了させた瞬間、勇者の操っていたゴーレムは動きを止める。

 そして再び動き出した瞬間、仲間であるはずの他の勇者のゴーレムを攻撃し始める。


「お、おい! 何やってんだ! てか何で俺の支配が解けてるんだ!? クソ! 言うこと聞け!!」


 勇者は再びゴーレムに糸を接続しようとするが、なぜかそれは弾かれてしまう。

 そうこうしている間に他のゴーレムたちも次々と操作不能になり、自分の方にその無機質な目を向けてくるようになってしまう。


「くく、どうやらゴーレムたちは俺の言うことを聞きたいみたいだな。これが技術テクの差だよ、お前の女神ママから教わった力任せの技術テクじゃ感じないってよ」

「貴様! 女神様を愚弄する気か……って、うおぁっ!?」


 アルデウスはうるさい勇者に岩の拳を食らわせる。

 残念ながら外れてしまったが、岩の兵隊はまだまだいる。勇者が操っていたゴーレムは既に全て強制掌握ハッキングされてしまっていた。


 手持ちの兵を失った勇者は、まだ起動していないゴーレムを操作しようとするがゴーレムの猛攻のせいでそれをする時間がなかった。今まで安全な場所でしか準備したことなかった彼に、攻撃を避けながら新たなゴーレムを起動する技術はなかった。


「こいつらはお前には過ぎた玩具おもちゃだよ。俺が上手く使ってやるから安心して……くたばれ!」


 ゴーレムの拳が勇者の腹部に深々と突き刺さる。

 勢いよくふき飛んだ勇者は木に激突し、その根本に倒れ込む。


「が、あ……!」


 苦しそうに呻く勇者。

 しかしまだ彼の目は死んでいなかった。信奉する女神のために、彼はまだ折れるわけにはいかなかった。


「まだ、これがある……!」


 彼が取り出したのは小さな水晶。

 それを握りつぶした勇者は、にやりと笑みを浮かべる。


「俺、の、人形操作マリオネットには、二つの能力がある。一つは人形を手動で操作する力。もう一つは人形を自動で操作する力だ」


 アルデウスは少し前に戦ったゴーレムを思い出す。

 確かにアレは人が動かしているというよりも、単純な指示に従がって動いているように見えた。


「近くに汚い犬の村があるだろ? いざという時の為に、あそこの近くにもゴーレムを多数置いてある。そいつらを今、遠隔で起動した! 命令は『皆殺し』! さあどうする!? 時間は残されてないぞ!」


 醜悪な笑みを浮かべる勇者。

 このまま勇者の相手をしていれば確実に村は滅ぶ、村に急げば勇者には逃げられる。

 この二択をすぐには選べないだろう。そう勇者は確信していた。


 しかし、アルデウスには第三の選択肢があった。


「クロエ、頼めるか?」


 その言葉にクロエは一切迷うことなく答える。


「お任せ下さい」


 他に言葉はいらない。クロエは一言で主人の名を全て理解した。

 全て倒し全て守れ。欲張りな主人らしい命令にクロエは駆けながら少し思わず笑ってしまった。


「……いいのか? あの女に任せて。俺にはあれ一人でゴーレムの軍団をどうこう出来るとは思えないが」

「問題ない。確かにクロエはがさつだしうるさいし、無駄にベタベタしてくるうざい奴だが……」


 アルデウスはまっすぐに勇者を見据え、迷いなく言い放つ。


「俺との約束を破ったことはない」

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