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第6話 邪悪なる英雄

 城塞都市グラズル、深夜。


 人気の無い路地を一人の魔族の男が走っていた。


「はあ……はあ……!」


 酷く焦った様子の男は、時折後ろを振り返っている。どうやら何かから逃げているようだ。


「ここまで来れば……」


 この路地を抜ければ住宅が密集した地区に出ることが出来る。

 そうすれば助けを求めることが出来る、と男は思ったがその希望は容易く摘まれてしまう。


「はい、そこまで」


 上空から一人の男が落下してきて、逃げる男の行く手を塞ぐ。

 顔に余裕の笑みを浮かべるその男は、魔族特有の身体的特徴が一切見られない。それが意味することは一つ。


「クソ、なんで人間がこんな所に……!」

「決まっているだろ? 貴様ら魔族がいちゅうを駆除するためだよ……!」


 そう言って人間の男は腰から白銀の剣を抜き放つ。

 月光に照らされ美しく輝くその剣は、『勇者』のみが帯刀を許された『聖剣』。

 女神より賜った彼らの『牙』だ。


「貴様、魔族の中でも希少種だろう? その赤い角の希少価値が高いことは知っている。私のコレクションの一つになって貰うぞ」

「ふざけるな! 我が一族は存亡の瀬戸際にある! 貴様の私欲のために狩られてたまるか!」



 激昂した男は、道を逆走して逃走を試みる。

 しかし彼は怒りのあまり気がついていなかった。勇者が自分のことを『俺ら』と言っていたことに。


「はい残念。こっちも通行止めでぇす」


 今度は眼鏡をかけた人間が現れ、行く手を遮る。

 その腰には先ほどの勇者と同じ聖剣がぶら下がっている。どうやらこの男も勇者であるようだ。


「クソ! そこをどけ!」


 挟み撃ちにあった魔族の男は、全魔力を右手に集める。

 逃げられないなら戦うしかない。男は溜めた全魔力で「雷撃サンダー」を発動させ、眼鏡の勇者めがけ放つ。


「うおっ」


 路地が閃光で包まれる。

 恐ろしい威力の雷撃が炸裂し、勝利を確信する魔族の男だが、それで倒せていれば戦争は長引いていない。


「残念でっしたー! 俺にはそんな攻撃、効っきませーん!」


 舌を出し、魔族を嘲笑う眼鏡の勇者。

 彼の周りには円球状の障壁バリアが張られていた。この障壁が雷撃をいとも容易く受け止めたのだ。


「これってチートですかぁ? お前の攻撃なんか聞かねえんだよブァーカ!」


 眼鏡の勇者は高笑いしながら魔族の男を聖剣で斬り伏せる。

 魔族特効を持ったその一撃は、魔王ですら死に至らしめる攻撃力を秘めている。魔王ですらない一般魔族の男が耐えられるわけもない。


「く、そ……」


 無念の中、魔族の男は絶命する。

 男を殺した勇者は、その魔族の角を聖剣で切り落とすと、残った体を魔法で焼き払う。


「おい、私にも一本よこせ」

「分かってるって、ほい」


 最初に現れた勇者はそれを受け取ると、満足そうに笑みを浮かべる。


「くく、いいドロップアイテムを手に入れたな。私は前の世界でも宝石などを集めるのが好きだったんだ」

「それ分かるー。ゲームでいう逆鱗とかだろ? 俺も意味もなくたくさん集めてたわ」


 二人の勇者はたわいない話でで盛り上がる。とても人ひとり殺した後だとは思えない。


「にしても潜入任務ってのも退屈だぁな。たまにこうやって狩りをするくらいしか楽しみがねえ」

「前線で何度も殺されるよりはマシだろう。それよりコウキ、面白い話を聞いたんだが……」

「え、なになに?」


 コウキ、と呼ばれた障壁バリア使いの勇者は目を輝かせる。

 その反応に満足したのか、もう一人の長髪が特徴的な勇者は得意げに答える。


「この都市に『魔眼』持ちのガキがいるらしい。次はそいつをターゲットにしないか?」

「いいねぇ……! 最っ高にクールだぜそれ!」


 夜闇に包まれる都市の片隅で、二つの悪意が動き出した。

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