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第3話 術式

「えー、魔導暦2741年に第一次勇魔大戦があったのは坊ちゃんもご存知だとは思いますが、大事なのはその十一年後に起きた第二次勇魔大戦で……」


 デス爺の退屈な話を聞き流しながら、俺は頭の中で魔導言語を組み立てる。

 今のところは現存する魔法を言語式に起こしているだけだけど、俺専用のオリジナル魔法も作るつもりだ。いやー、わくわくするね。みんなの驚くところが目に浮かぶぜ。


「坊ちゃん! ちゃんと話を聞いてますか!?」

「んえっ!? も、もちろん聞いてるよ!」


 デス爺は「本当ですか?」と疑いの眼差しを向けてくる。

 ま、まずい。デス爺のお説教は長いんだ。研究の時間がこれ以上減るのは嫌だ、なんとか気を逸させないと……。


「え、ええと……あ! デス爺の服、切れちゃってるじゃん! 直してあげるよ!」

「ちょ、坊ちゃん何して!?」


 デス爺は黄色い大きな布をすっぽりと被り、ゾンビの体を隠している。その布の端っこが大きく切れてしまっていた。

 これはデス爺のお気に入りの服のはず。直してあげればきっと機嫌を直すだろう。


「ちょっと貸してね……っと」


 指先から魔力の糸を出し、布を縫い付けていく。かなり繊細な作業だけど、術式を書く時も魔力の糸で文字を作っているのでそれに比べたら裁縫ぐらい簡単だ。

 ものの数秒でほつれなく、布を縫いつけた俺は笑顔でそれを見せつける。


「ほら、直った」

「お、おお! さすが坊ちゃん!」


 ゾンビの顔を嬉しそうに歪ませ、デス爺は喜ぶ。

 ほっ、これでお説教は回避できたな。


「ところでその服、かなり頑丈そうだけど何で切れたの?」


 デス爺の服は明らかに普通の布ではない手触りだった。

 これなら剣でもそう簡単には切れないと思うのだけど、いったい何があったんだろう。


「ああ……実はこの前、勇者と戦いましてな。その時に聖剣で切れてしまったのです」

「へ!? デス爺は大丈夫だったの!?」

「ほっほ、儂はこの通りピンピンしてますよ。肉体はとうの昔に死んでますがね」

「いや笑えないってそのゾンビジョーク……」


 現在俺がいる『魔王国アスガルディア』は、人間の国『ミズガリア王国』と戦争中だ。

 ミズガリア王国には何人もの勇者がいて、頻繁に魔族の国を襲ってくる。デス爺を含めた八人の魔王を筆頭になんとか撃退してはいるようだけど、戦況は悪いらしい。

 この国の人たちには良くして貰っているから俺も力になりたいのだけど、まだ子どもだからかあまり手伝わせてくれない。


 なので俺は大きくなるまでに出来るだけ力をつけようと日々魔導言語と術式の開発に勤しんでいるのだ。


 それにしてもその『聖剣』というのは気になるな。出来ることなら触って分析したい。


「その聖剣ってそんなに切れ味いいの? 何か特殊な効果とかあるの?」

「聖剣は儂ら魔族に特効があるのです。どんなに硬い皮膚を持った魔族はもちろん、魔族の作った防具も聖剣は易々と斬り裂いてしまいます」

「ふうん……」


 面白い。

 その聖剣を調べたら面白い術式が出来そうだ。


「でもその前にその聖剣に対応できるようにするのが先かな……ちょっと貸して」


 デス爺の服の端っこを左手でつかみ、右の人差し指を乗せる。

 聖剣は布に含まれた魔族の何かしらに反応し、攻撃力を高めている。だったらそれを誤認させる術式を考えればいいはず。


「認識阻害の術式はこの前組んだ。それを種族単位で発動して……聖剣の魔力を利用して瞬間的に防御力を上げるのもいいか……」

「あの、坊ちゃん?」

「ちょっと静かにして」

「はい……」


 集中。

 頭の中に組み上げた術式を脳内シミュレートする。

 うん……うん……。これならいけそうだ。

 指先から魔力の糸を出し、布に文字を書く。間違えないようにしっかりと正確に、脳内に出来上がった術式を再現する。


「ふぅー……!」


 指先から出た魔力が布に吸収されていく。この魔力自体に特別な効果はない。

 重要なのは文字列。この布に文字列が命令を出すのだ。お前は魔族とは関係ない、聖剣の力を吸い取り自身の防御力に変換しろ……ってね。

 術式の発動には魔力がいる。

 今回の術式は複雑になりそうだけど魔族は魔力をたくさん持ってるから多少長めの術式にしてもいいでしょ。その方が命令が正確になるからね、消費魔力は多くなるけど。


「……ふう、出来た」


 術式が完成し、一息つく。

 うん、我ながらいい出来栄えだ。


「……何か変わりましたか?」

「えー、分からないの?」


 しょうがないのでどんな術式を仕込んだのかを教えてあげる。

 残念ながら聖剣も聖属性の魔法が使える人もいないので実演は出来なかったけど。


「ほ、本当にそんなスゴい効果を付与したのですか!? し、信じられない……」

「疑ってるの?」

「い、いえ違うんですよ坊ちゃん! 信じてますとも! ただ……儂の中では坊ちゃんはまだ赤子だった頃のイメージが強いので……こんな立派になって……ううっ、ぐず」


 どこでスイッチを踏んだのかデス爺はおいおいと泣き出してしまう。

 最近はちょっとした事ですぐ泣き出しちゃうんだよな。年だろうか。


「はいはい、もういい時間だから俺は部屋に戻るよ。じゃあね」

「う゛う……っ、わ゛がりました……」


 泣いてるどさくさに紛れてデス爺の部屋から脱出する。

 ふう、なんとか早めに解放された。


 今日も術式の開発を頑張るぞ!

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