第18話 重装騎兵《ファランクス》
「行け! 重装騎兵!」
二対の剣と盾がレオナルドめがけ飛んでいく。
まず盾が先行し、その後ろを剣が追従している。まるで本当の兵士みたいな動きだ。
「面白いッ!」
レオナルドの正拳突き。
強烈なその一撃を盾が二枚がかりで受け止める。そしてその瞬間盾の後ろに隠れていた光剣がレオナルドに襲いかかる。
「ぬうっ!?」
体をよじり、なんとか回避するレオナルド。それと同時に反撃の回し蹴りを光剣に放つが、それは盾が受け止める。
「なんと見事なコンビネーション! 腕を上げたな息子よ!」
嬉しそうに笑うレオナルド。まだまだ余裕があるって感じだな。
「ま、これじゃ足止めにしかならないよな。分かってたよ」
相手は魔王。こんなんで倒せてたら魔王国はあっという間に滅んでいる。
だからもう一手。俺は攻撃を残していた。
「重装騎兵が時間を稼いでくれたおかげでこれが作れたぜ。食らえ、火炎Ver.4.0 墜落する恒星!」
火炎呼ぶにはあまりに巨きい火球が上空に出現しレオナルドめがけ落下してくる。
それを見たレオナルドは「ハッハ!」と笑い拳を構える。
だが俺はそれを許さない。
「させるかよ」
重装騎兵を手動操作に切り替え、ぶつける。
ダメージこそないがレオナルドは身動きが取れなくなる。剥がしても剥がしても剣と盾は纏わりつき反撃を許さない。
「ちょ、ま――――っ!」
「お望み通り見せてやるよ。俺の成長をな」
巨大な火の海はレオナルドごと中庭を焼き払った。
◇ ◇ ◇
「……やりすぎた」
俺の目の前には見事に焼き払われた中庭がある。
あんなに自然豊かだった中庭が一瞬にして焼け野原になってしまった。これはマズい。
「お、怒られる……!」
シルヴィアやデス爺に怒られるならまだいい。
だけどネムママに怒られたら……立ち直る自信がない。普段は優しいけど怒るとめちゃくちゃ怖いんだよなあ……。
そう悩んでいると、黒く焦げた地面の中からボコ! とレオナルドが生えてくる。
それを見たグラムは「うお!」と驚く。
「あれを食らって生きてるのかよ……」
「レオナルドの頑丈さは魔王内でもトップクラスだからな。おかげで手加減する必要なく思いっきりやれたぜ」
煤で真っ黒になったレオナルドは体を振ってそれを振り落とすと、俺の方に歩いてくる。
「見事だったぞ息子よ! 最後の一撃は我輩も少しだけ死を覚悟したぞ!」
そう語るレオナルドは凄い嬉しそうだった。俺が強くなったことが余程嬉しいんだな。
こっちも本気でやった甲斐があったな。
「手合わせはもう終わりでいいのか?」
「うむ。これ以上やったら中庭だけじゃなく城も壊しそうだからな!」
「確かに。ていうか中庭どうしよう……」
「案ずるな。これは我輩がどうにかしておこう」
自信満々に言うレオナルド。
はて。どんな策があるんだろうか。
「どうにかって……どうするんだ?」
「決まってる。謝ってゴリ押すのだ」
「……城の人が不憫でならないな」
まるで秘策のように言うから何かと思ったけどゴリ押しだった。
実にレオナルドらしい。
「さて、そろそろここから離れるといい。お前も疑われてしまうぞ」
「本当にいいのか? 俺も謝るぞ?」
「我が子を守るも父の務めよ。さっさと行くがよい」
「わ、わかった。ありがとな」
レオナルドに甘え、俺はその場を立ち去ることにする。
あ、そうだ。あれだけでも聞いとかないとな。
「ひとつ聞いときたいんだけどさ、誰か城塞都市グラズルに行く予定の人っていない?」
「グラズル? うーむ……たしか剣王のやつが行く予定があったとか言ってた気がするな」
「ガーランだね! おっけ、ありがと!」
有力な情報を手に入れた俺は、足早にその場を去るのだった。
◇ ◇ ◇
「行った……か」
愛息子のアルデウスが去ったのを確認したレオナルドはその場にガクッと膝をつく。
「ふふ、本当に強くなった。ここまで効かされるとはな」
彼の口元から赤い血が一筋流れる。
アルデウスの攻撃は彼に通用していたのだ。
「これは父を超える日も近いな。魔王国の未来は明るい!」
レオナルドは一人、息子の成長を喜び笑うのだった。




