第12話 反撃開始
「飛行!」
ロックビーストの腕による一撃を空に飛んで避ける。さっきの攻撃を防がれたことに腹を立てているのか、ロックビーストはかなり怒ってるみたいだ。
ちょうどいい。これなら攻撃は俺に集中するからシルヴィアは安全だ。
「こっちこっち!」
『グルルルルァッ!』
自由自在に空を飛びながら、ロックビーストを誘導する。
よし、シルヴィアからこれだけ離れれば安全だな。次はこっちのターンだ。
俺は出来たてほやほやの魔短剣『グラムナイフ』を右手で握り、構える。すると柄の部分がカチャカチャと動き、グラムが喋る。
「おいアル、この刀身は確かに良い出来だが魔法の力は何もないぞ。魔剣自体はただの器、それに何の魔法を入れるかが大事なんだ」
「分かってるってそんなこと」
俺は空を飛びながら左手の指を刀身に添える。そして、
「術式纏刃、反射能力付与」
グラムナイフの刀身に術式を埋め込む。
時間にして二秒、少々荒削りだが術式の付与は成功する。
「は!? い、今やったのか!? 戦ってる最中に魔剣を加工するなんて聞いたことねえぞ!? 馬鹿かお前!!???!?」
「うるさいな。黙って見てろよ舌噛むぞ」
うるさいグラムを無視し、術式を付与した魔剣を構える。黒い刀身に青白い字が浮かび上がっててかっこいい。
そんな俺に対してロックビーストは太い腕を振るってくる。今度は逃げず、その一撃を真正面から迎え撃つ。見せてやるぜ、俺とビスケの力の結晶を!
「秘技、反射斬り!」
斬りつけた敵の前足が跳ね返る。
結果ロックビーストは自分で自分の顔を殴る形となり、痛そうに顔を歪める。
「まだまだ! 術式付与、切断力強化!」
反射強化を消し、違う術式を付与する。
いくら魔剣といえど複数の強力な術式を同時には付与出来ない。だったら付け替えればいい。
その時その時に応じて魔剣の能力を変えればどんな敵にだって対応出来る。
剣王のガーランが持ってるようなデカい剣なら容量も多いので一度に複数の術式を付けることも可能かもしれないけど、あんなデカい剣、俺には合ってないからな。
「くらえっ!」
ロックビーストの胴体をグラムナイフで斬りつける。
切断力強化を付与したその魔剣はロックビーストの硬い皮膚をまるでバターのように易々と斬り裂いてしまう。
『グオオオオオオオオッッ!!』
苦悶の声を上げるロックビースト。
今までの人生でこんな傷を負ったことないだろう。
「おお、思ったよりも斬れたな。さすが魔剣、術式の効果が効率よく反映されてるな」
「……ありえねえ。戦闘中に加工するだけに飽き足らず効果を変える、だと!? そんな魔剣士俺は聞いたことねえぞ!!」
俺が魔剣の斬れ味に感動しているとグラムが騒ぎ出す。うるさい奴だ。
「そりゃ聞いたことないだろ、俺は今までいなかったんだからな」
「いやそういう問題じゃ……って、これ以上お前に驚くのは無駄か……」
なんか知らんが達観してしまった。少しムカつくが静かになったし放っとくか。
「さて、ロックビースト。悪いがお前はここで倒させてもらうぞ。逃げることも出来るだろうが、ビスケの村を襲われては困るからな」
『グルル……!』
ロックビーストは低く唸り声を上げながら俺を睨みつける。
警戒はしてるようだが闘志は消えていない。
「いいね。お前の肉体と俺の魔法、どっちが強いか決めようぜ」
『グアアアアアッ!』
咆哮と共にロックビーストの口の中が赤く光り出す。マジかよ、遠距離攻撃まで持ってるのか?
俺は急ぎ術式を完成させて発動する。
「巨大土壁」
目の前に大きな土の壁を生み出す。すると次の瞬間ロックビーストの口から大量のマグマが噴き出され土壁に激突する。
「はは! 溶岩のブレスとは派手だな! こりゃ土壁も長くは持たないな」
「何笑ってんだよ! 今のうちに逃げようぜアルっ! あんなの食らったらお前なんて一瞬で蒸発しちまうぞ!?」
「まあ慌てるなよ。出てこい守護者!」
半透明の盾、守護者を一枚出し素早くロックガーディアンの足元に飛ばす。そして溶岩のブレスを吐くその口元、めがけ守護者を急発進させる。
「食らいな、守護者の鉄槌ォ!」
高速の弾丸と化した守護者がロックビーストの顎にアッパーカットを食らわせる。普段なら効果は薄いだろうが、今のあいつはブレスを吐いているので口を大きく開けている。そこにアッパーを食らわせたんだから効果は抜群だ!
おまけに口が急に閉じたことで噴出していたマグマが体の中で暴れ回り、ボグン! と体内で爆発する。その衝撃にロックビーストは前脚の膝を地面につけてしまう。
「今がチャンス。行くぞグラム!」
「お、おう! ……って何するんだ!?」
「まあジッとしてろって。術式展開、天舞う光刃!」
宙に浮く光の刃を一本出した俺は、その先端にグラムナイフを装着する。そして刀身には『切断力強化』を付与する。
「お、おい! 何してんだお前!?」
「何って……こうでもしないとあいつの硬い皮膚を貫けないだろ? ちょいと痛いかもしれないけど我慢してな」
「お前なに勝手なこと言っておい聞いてるのか!?」
ごちゃごちゃ喋るグラムを無視してロックビーストを見る。俺が何かしようとしているのを察したのか、大きな口を開けて襲いかかってくる。
良い判断だが……少し遅かったな。もう勝利の術式は完成している。
「強かったよお前は。だが終わりだ、『天舞う光刃with GRAM knife』発射っ!」
超高速で発射されたグラムナイフはロックビーストの口内に入ると、そのまま体内を一気に貫通して背中から抜ける。
『グ……ア……ッ!』
次の瞬間、大きな音を立ててロックビーストは崩れ落ちる。その目にもう生気はない。
俺は戻ってきたグラムナイフをキャッチして刀身を確認する。うむ、傷一つないな。
「感謝するぜロックビースト。お前のおかげで俺はもっと賢くなれた」
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