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第10話 打つ

「グラム! 起きてるか!」

「……んあ? なんだなんだ、もう山に着いたのか?」


 眠っていたグラムを叩き起こし、話しかける。

 ビスケから見たら俺が独り言を言っているように見えるだろうが気にしない。


「もう着いてる! それよりもここら辺に魔鉄鉱はないか?」

「なんだよ魔剣使いの荒いやつだな、ちょっと待ってろ……」


 時間にして十秒ほど黙ってたあと、グラムはある場所を俺に教える。


「あの出っぱった岩。その下から何か感じるな。少し掘りゃ出ると思うぞ」

「よくやった!」


 グラムなら魔鉄鉱を探せるかもしれないという俺の推測は当たっていたようで、地面を掘ると黒い鉱石がすぐに顔を出した。

 もっと早く思いつけばよかったけど悔やんでいる時間はない。見つけ出した魔鉄鉱を持ってビスケのもとに近寄る。


「よく聞いてくれビスケ。力を貸して欲しいんだ」

「ちょ、いいから早く逃げようよ! 死んじゃうって!」


 涙を浮かべながら慌てるビスケの肩に手を置き、俺はゆっくりと語りかけるように言う。


「聞け、あのデカブツは俺が倒す。だからお前の力を貸してくれ。お前の鍛治士としての力を」

「僕の鍛治士としての力……?」

「ああ、俺は今から魔剣を直す。だがまだ俺は『魔導式鍛治術』をマスターしていない。だから力を貸して欲しい。俺たち二人で魔剣を直すんだ」

「で、でも、僕はただのゴブリンだし。そんなこと出来ないよ」

「いや、俺はお前を信じる。ずっとひとりで鉄を打ち続けたお前のマメだらけのこの手を信じる」


 ビスケの手は子どものそれとは思えないくらいゴツゴツしててマメだらけだ。こいつとは昨日会ったばかりだけど、この手が何より証明してくれる。こいつは信用に値する職人だということが。


「頼む、お前の腕を頼らせてくれ。そして俺の家族を救って欲しい」

「ほ、本当に僕でいいの……?」


 震える声でそう尋ねるビスケに、俺は堂々と答える。


「お前じゃなきゃ駄目だ」

「…………っ!!」


 ビスケは数秒目を瞑り、そして開く。その目にもう迷いは見られなかった。


「頭の中で図面を作る。剣を温めておいて!」

「よし来た任せろ!」


 まるで長年作業を共にしていたかのように迅速に、そして的確に俺たちは連携して作業を開始する。


「素材は多くない。等身を短くしてショートソードに……いや、いっそナイフの方がいいか……」

火炎ファイアver1.22ッ!」


通常のものより火力を上げた火炎ファイアで一気に折れた魔剣と魔鉄鉱に熱を入れる。

 準備ができた。そう言う前にビスケがやってくる。


「図面ができた! 紙に書くから確認して!」

「そんな時間はない、もう作るぞ!」


 俺はビスケの右手を左手でガシッと掴む。


「いつも金槌を振る時みたいに手に魔力を込めてくれ。そしたら俺がそれを読み込んで、打つ」

「わ、わかった!」


 魔鉄鉱は普通の鉄よりも加工が難しいと聞いた。魔力量が多い俺が打った方がいいだろう。

 だからビスケには術式だけを考えてもらう。


「い、いきます!」

「来い!」


 俺の手を握るビスケの手が青く光る。

 来た来た……! ビスケの手に宿る魔法を読み取り、脳内に術式としてまとめる。

 流石ビスケ、無駄のない美しい術式だ。後はこれを金槌に込める。そして、


「術式発動、怪力無双ゴブリン!」


 ゴブリンの体に流れる独自の肉体強化魔法。それを術式化したものを発動する。

 体に緑色の線が走り、筋力が急激に増加する。


「が、あ――――ッ!」


 鍛治魔法と肉体強化魔法の同時使用に脳がショートしそうになる、だがここで意識を失うわけにはいかない。

 途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め、俺は金槌を振り下ろした。


「これで……どうだ!」


 衝撃。そして閃光。

 そのあまりの光の強さに目を閉じる。

 しばらくしてゆっくりと目を開けると、そこには黒く光る美しい短剣ナイフがあった。


「す、すごいナイフだ……!」


 そのナイフを見たビスケは感嘆する。

 確かにとても美しく、人を魅了する短剣だ。


 俺はそれをゆっくりと手に取り、刀身に手を滑らす。

 いいね、手に馴染む。


「どうだグラム、いい感じじゃないか?」

「短くなって残念だが……悪くない。こりゃ俺様らしいスマートな剣だ」

「ま、俺たちが作ったんだ当然だな」


 俺はその魔剣、『グラム』改め『グラムナイフ』をしっかり握ると、シルヴィアの後を追い穴に入っていくのだった。

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